(逆縁)
正孝は、空港ターミナルのタクシー乗り場に向かい、さてどうしたものかと迷いを感じていた。
艶子の実家をめざして来たものの、先に訪問の了解を得た方がいいか、近くまで行って様子を見た方がいいのか悩んでいたのだ。
ショルダーバッグを肩にかけ、一方の手に観光地図を持ったまま歩いていると、待機するタクシーの扉がいきなり開いた。
ハッとしたが、 . . . 本文を読む
(消えた風紋)
市民会館で目にした江戸手妻師の印象は、翌日になっても正孝の脳裏から離れなかった。
昨夜のネオザール社との電話では、堂島という男の風貌をしっかりと確認することはできなかったが、写真などでもう一度突き合わせる必要を感じていた。
そのためには、パンフレットで目にした手妻師一門の弟子の舞台姿を探すことだ。
調べてみると、 . . . 本文を読む
(風車の仕掛け)
正孝は閉館間際の市民会館に駆けつけ、広報担当の職員に過去の公演について情報を求めた。
「公演の全てですか」
職員はシャツの袖をたくしあげて、困惑したように正孝を見た。
「いや、何年か前に江戸手妻の出し物があったかどうか、それを知りたいのですが」
「ああ、それなら覚えていますよ。配布したパンフレットがファイルされて . . . 本文を読む
(手妻師)
翌朝、伊能正孝は、7時10分発のJAL便で、羽田から出雲縁結び空港へ向かった。
約1時間30分のフライトで、宍道湖に突き出た滑走路に着陸すると、到着ロビーの端に空港派出所と表示された一角を見つけそこに立ち寄った。
地元警察の管轄だろうから、ここで聞けばある程度の見当を付けられると思ったのだ。
「出雲署に山根さんという方はおられます . . . 本文を読む