⑩ まとめ
公的機関がまとめた「関東大震災」の記録は、膨大なものである。
地震による被害と火災による被害を分けて、倒壊戸数や焼失面積などを記録している。
原因別の死傷者数を細かく記し、市区町村ごとに怪我が何人、死者が何人と、図表にして掲げている。
それはそれで役立つ資料であるが、ともすると災害の真の姿を見失う場合もある。
ここまで体験者の記録を取り上げてきたのは、当事者にしか語れない恐怖 . . . 本文を読む
⑨ 注目される被災例とエピソード
「浅草凌雲閣(十二階)」の場合
『正午二分前』(早川書房刊)=ノエル・F・ブッシュ著によれば、<東京のコニー・アイランドともいうべき浅草で、実に目立ったことが起こった。それは、当時の東京で一番背が高いので有名な十二階が崩れたことである。地震が起こると「十二階」は前後に揺れ動いたが、その間の数秒間というものは「ピサの斜塔」そっくりに見えた。やがて「それは丁寧にお . . . 本文を読む
⑧ 旋風の跳梁
この火災は三日間にわたって、処々に旋風を起こしている。その最も大きなものは本所被服廠跡に起こったもので、約四万の人命を奪った。
さらに「科学知識」第三巻所載の今村博士によれば、<本所被服廠跡に襲来した旋風をいち早く注目した位置は、東京高等工業学校前隅田川上であったが、時刻は午後四時ごろ、旋風の大きさは国技館ぐらい、高さ百米ないし二百米、時計の反対の向きに回りて、水上の小舟を一間 . . . 本文を読む
⑦ 火災の発生
地震に続いて各所に火の手があがった。
震災のため、多くの家屋が全壊、半壊し、そうでなくても激しい地震のためにあわてて戸外に飛び出した人々が多く、しかもちょうど昼食時で、使用中の竈、七輪、火鉢、ガス焜炉などの火が燃え移り、また薬品の容器の破損などによる発火、あるいは電気器具などによる発火もかなりあったようである。
火事は延焼を続け、九月二日午前六時に大体鎮火し、三日午前十時に至 . . . 本文を読む
⑥ 浅草から日本橋方面の記録
折から土曜日のこととて、浅草は人出でにぎわっていたが、凌雲閣(通称「十二階」)が半ばから折れ、そのほか倒壊家屋が続出し、火災が起こり、浅草は阿鼻叫喚の巷となったという。
東京の倒壊家屋は、山の手台地では全体の一割前後であったが、江東の本所、深川方面では全体の二割五分前後に達したという。
『大正震災志』(内務省社会局編)によると、
<地震につぐに火災を以てしたか . . . 本文を読む
⑤ 震害の記録
ここからは、『鷺亭金升日記』(演劇出版社刊)からの引用である。
<九月一日(土)晴れ、午前出社。十一時四十八分、支部弁当来たりしかば、少し早けれど食事をなす中、突然地響きして、人々アッと驚き起つ。先年の地震と同じような響きなれば、余は一番に駆けだしたるも、揺れ出して足を取られれんとす。辛くも社外に逃れ、広場の建築場へ走りつきし時は、はや大地震となりて歩行しがたく、地上を転倒し、 . . . 本文を読む
関東大震災の場合もそうだが、地震のさなかに身を置いていた者には、時がたってから後の、事実の記録は、決して経験そのものではなかった。
そこに、歴史の事実が、必ずしも個人の経験と一致しないという、「叙述された歴史の不真実性」というものがあることに気づくであろう。
④ 暴動の噂
「暴動」の噂は、昌造の経験としては、かなり早かった。すなわち、9月1日の夜には、町の一部の「暴動民」の噂は、早くも伝わっ . . . 本文を読む
歴史の叙述では、大正12年9月1日午前11時58分44秒、震源地は、東京から約80キロ離れた相模湾の北西部で、市内本郷台において88.6ミリメートル、下町(東京の)においてこの一倍半ないし二倍の振幅の激震が起こったと伝えている。
しかし、こうした科学的な数値が、地震の規模や恐怖をどれだけ伝えられるのかと問うと、やはり、個人の被災体験に勝るものはないと、この報告は述べている。
③ 地震の後
傾 . . . 本文を読む
たまたまかもしれないけれど、天変地異が起こる前の天候とか世情は、普段以上に穏やかだったりする。
(ちなみに、東日本大震災(2011年3月11日)が発生した東北地方(仙台)朝9時の天気は、晴れマークがついている。)
なんの意味もないことだが、昌造の手記を読みながら、天候のことが妙に印象に残った。
② 地震の前
待合の女性と共に助かった昌造は、つくづく運がよかったと振り返る。
<その前の晩は . . . 本文を読む
壊滅的な被害をもたらした関東大震災は、大正12年(1923年〉9月1日の正午近くに発生した。
来年、ちょうど100年目を迎えるのに合わせ、一足早く当時の体験記を掘り起こし、庶民の戦きに触れることも無駄ではないと思いこの稿を起こした。
日々どこかで大地の揺れが速報され、時には震度5強程度の地震が記録されるが、われわれは地震慣れしているせいか、さほど脅威と感じていないところもある。
学者や自治体 . . . 本文を読む