不安を抱いたまま、アシスタント生活に戻った雄太のもとへ、長井勝一からもう一度青林堂までお出で頂きたいとの連絡が入った。
薄ら寒い曇り日の午後、雄太が神田猿楽町の事務所を訪れると、長井社長ともう一人痩身の男が彼を待っていた。
「編集部の庄野くんです」
長井が三十がらみの男を呼んで、雄太に紹介した。
「どうも、お忙しいところ時間を割いていただきまして・・・・」
二人に頭を下げながら、雄太 . . . 本文を読む
描き終わったときには傑作ができたと興奮したが、一晩過ぎて冷静に読み返してみると、内容にもタイトルにも不十分なところが見えてきて、膨らんだ夢が急速にしぼむような落胆を味わった。
こんなとき、歯に衣着せず批評してくれる友人がいたらどれほど助かるか。井岡のように心が通じ合える友がいたら・・・・。
その先輩は、彼が頼ろうとした矢先に、事故死という形で雄太を突き放した。
人を頼らず、自分が判断して . . . 本文を読む
警察の捜査に対し、雄太はいつまでも腑に落ちない気持ちを引きずっていた。
井岡との短い付き合いの中で、一人の男の内に秘めた強さと弱さを身近に感じ取り、その時の感覚を得がたいものとして受け止めていた。
言葉を変えていえば、井岡の体温が直に伝わってくるような悦びに満ちた経験だった。
それゆえに、得体の知れない力に押し潰された井岡の無念さが手に取るようにわかるのだ。
夢を抱き、夢を語り、生 . . . 本文を読む