あやめ
(城跡ほっつき歩記)より
農家から嫁にいった器量良しの娘が
五月の風とともに出戻ってきた
十里離れた地主の息子に見初められたのに
旧家の親の過剰な期待に疲れ果て
表情無しの仮面を一つ持たされて
元いた家にUターンしてきたのだ
母屋の端に離れがあり
出戻り娘は人目を避けて簾の中
五月の . . . 本文を読む
二十歳といえば、実りはじめた玉蜀黍のようなもの。
生のまま歯を立てればプチっと汁が飛び、口の中にも甘い汁と青っぽい匂いが充満する年頃だ。
「玉木さん、ぼく今度個展をやりますので見に来てください」
テレピン油の臭いが充満するアトリエで、二十歳の誕生日を祝ったばかりの日下五郎は顔を輝かせた。
アトリエといってもアパートの四畳半で、寝室にもなれば客間にもなる。
ビニー . . . 本文を読む
『歌をうたえば靴が生る』
アカバナトチノキ (花のかわりに靴が咲く)
二枚の画像のうち右側は、街路樹のアカバナトチノキに引っ掛けられた運動靴を大写ししたものである。
つま先とかかとの部分が赤いから、女の子のスポーツ・シューズ . . . 本文を読む
フキアゲニリンソウ
(皇居で発見された新種)
わたし とうとう見つかっちゃった
吹上御苑の雑木林で 仲間と遊んでいるところを
目立たないように 淑やかに咲いていたのに
気づく人は 気づいてくれたのね
ときどき散歩に訪れる老夫婦は
いつも慈しむように わたしを見つめてくれた
「ああ、みちこ 今年も . . . 本文を読む
バラ
五月の連休さなかに亡くなった義姉よ
あなたは最後まで自分を貫きましたね
世間が浮かれているときに
いたずらっぽい笑いを携えて逝ったのでしょうか
身体のあちこちに幾つもの病巣を抱え
アガリスクやフコイダンやプロポリスを飲みつづけ
霊力を持つという先生の教えを終生信じて
見事に術後十年を生き延びました
. . . 本文を読む