鵜飼
長良川のほとりに実家のある学友に誘われて
一人娘が下りの新幹線に乗った
「夏休みを楽しんで来いよ」と送り出しながら
おぼつかない娘から目を離す不安に心が揺らいだ
しっかりした顔立ちの岐阜のお嬢さんが
「ご心配なさらないで」で笑顔で引き取った
病気がちの母親が来られなかったことを懸念して
「それよりママ . . . 本文を読む
ムラサキシキブ
(城跡ほっつき歩記)より
そろそろ寒くなってきたねえ
ほんと そろそろね
風が冷たくなると あんたいい色に染まるねえ
ええありがとう 代々受け継いできた血筋ですから
十二単を連想させるなんて言われたことないかな
ジュウニヒトエって あの源氏物語の?
そうだよ 紫式部だよ
フフ 案外常識 . . . 本文を読む
貞夫は目覚めの不確かな感覚の中で、それを見た。
夜をしっかりと眠ったあとだったのか、それとも中途半端な昼寝の途中だったのか判然としないが、目覚めたその目でありありと見てしまったのだ。
場所は黒姫に近い山里の萱葺の家だった。
仰向けに目覚めた視線の先に、煤けた構造物がむき出しになっていた。
木の骨組みの上に、夥しい量の萱が編みこまれている。
貞夫にとっては見慣れ . . . 本文を読む
昼顔
(城跡ほっつき歩記)より
どこにそんな欲情を秘めているのだ
カトリーヌ・ドヌーヴよ
上流階級のマダムの生活に飽き足らず
春をひさぐなんて哀しすぎるではないか
いやいやあれは『昼顔』の話
映画の中のヒロインに定められたストーリー
男たちはつぎつぎと上品な隠微を買い
下劣な女に戒めを与える夢 . . . 本文を読む
トロロアオイ
(城跡ほっつき歩記)より
見え見えの監視カメラ
白昼堂々の覗き魔
和紙でつくった髪飾り
女スパイの隠しマイク
夕暮れに出勤する売れっ子ホステス
不幸を言い当てた占い師の唇
猛暑から脱出したパラシュート
キャンディーズの微笑み返し
育ちすぎた妖精
演歌が好きな童 . . . 本文を読む