そろそろ撤収の時期
お天気が崩れれば雪になる。そんな季節になってしまった。
疾うにタイヤは履き替えてある。そろそろ撤収の時期が来たようだ。
永住するのも悪くはないけれど、家を眠らせ、畑を眠らせ、再び春を待つほうが性に合っているのかもしれない。
六月から約半年間、この地を拠点に楽しませてもらった。
六合村の「尻焼温泉」、草津の立寄り湯「煮川の湯」、野沢温泉「大湯」、ダ . . . 本文を読む
木登りをする月
マイナス10度が何日かつづいたあと、12月とは思えないほど寒気が緩んだ夜があった。
戸外に据えたた寒暖計の目盛りを確かめようと玄関を出てみたら、庭や畑が霜を置いたように青白い。いぶかしく思って道路にまわってみると、すっかり葉の落ちた森の樹の間から大きな月が覗いていた。
家の屋根、薪小屋、クルマの曲線、椿や薔薇、ふだん見慣れた物がどれも月明かりの中で息を潜めてい . . . 本文を読む
明け方になって「白亜」は不思議な静寂の中に居た。 いつの間にか霧が樹間にただよい、下草を覆いはじめていた。 解放された悦びの一方、かすかな後ろめたさを感じていた。冷静になった記憶の中で、彼を呼ぶ主人の声が甦ったのだ。 はっきりとは分からないが、森の空気が重く沈みはじめた頃だから、それほど時間が経ってはいない。 主人の悲しげな呼びかけが、いまになって「白亜」の心を揺らした。 「猫って、何を . . . 本文を読む
「白亜」は、夢を見ていた。広い草原を全速力で走っている情景だった。 目の前には、草むらから飛び立ったばかりの鳥がいる。雉に似ているが、アフリカの野鳥としか説明できない逞しい鳥だ。 なぜ、夢を見たのか。 「白亜」には思い当たることがある。 主人と一緒にテレビを見ているとき、夢の場面とそっくりの映像が流れたのだ。画面の主役は「白亜」ではなく、ヤマネコだった。 広がった胸と前肢がクローズアッ . . . 本文を読む
黒猫の「白亜」は、東京から主人と一緒に軽井沢にきて、馴れない環境に戸惑っていた。 猫用のゲージを出たとたんに、どこから流れ込んでくるのか湿った木の香りを嗅いだ。その匂いは、これまでに嗅いだ人工的なものと違って魅惑的で、「白亜」の官能をうっとりとさせるものだった。 (この匂いには覚えがある・・・・) 早速、広いリビングルームを探検することにした。 フローリングの床は適度に冷えていて、肉球に心 . . . 本文を読む