月に想う
9月25日は中秋の名月が見られるというので、外に出て月の出を待った。
夜の8時ごろには、唐松林の枝を透かして昇っていく月の姿が見られたが、ついに森の支配を抜けて虚無の空に漂い出た月のなんと冴え冴えとしていたことか。
地上には幾万の命が蠢き、この森だけでも幾百の種が犇めいているだろうに、孤高の月はただひとり白白とした光を放って中空に懸かる。
賛辞や感嘆の溜息を . . . 本文を読む
小枝になったナナフシ
昆虫の擬態にはいつも感心させられますが、自らの姿をランの花に似せて獲物を待つ花カマキリなどは、天才と呼んでも間違いないでしょう。
熱帯の森で木の枝にそっくりの姿になって鳥などの襲撃を避けているナナフシも、やはり天才の部類に入るのではないでしょうか。
テレビの映像で次々と登場する擬態昆虫を驚きをもって見詰めておりましたが、どれも東南アジアや南米アマゾンあた . . . 本文を読む
タマゴタケとの遭遇
自然が与えてくれる実りは、なかなか気紛れなものである。年初からの気温や雨量などの条件によって、山の恵みも違ってくる。
おまけに木々に固有のインターバルも加味されて、収穫にバラツキが出る。イノシシや熊、野ネズミも猿もカモシカも、みんな自然の出来次第で子孫を増やしたり減らしたりするのである。
一方、山の端っこに住まわせてもらっている人間にも、自然の恵みはおこぼ . . . 本文を読む
灯影に狂う蛾、陽に舞うスズメバチ
秋と夏との綱引きも、やや秋の優勢が感じられるようになりました。
虫の声を聴きながら、秋の夜長を庭で過ごすのも不思議な感覚を呼び覚ましてくれるものです。
焚き火をしていると、夜の蝶ならぬ蛾が飛んできます。蛾はより明るい傍の電燈に舞い移り、狂ったようにまつわりつきます。
素顔はあまり綺麗ではありませんが、スタンドの周辺を精根尽きるまで飛び回り、 . . . 本文を読む
もう十年も前のことだが、絵面吉男は伊豆半島の突端に近い白浜漁港の釣り宿に四人のグループで二夜滞在したことがある。 その折、近くにある公共の宿のスナックバーにみんなで繰り出したのだが、そこで出会った女主人の面影を突然思い出した。 使わなくなった腕時計や万年筆を放り込んである小引き出しを開けたとき、奥の方にピンク色の造花が張り付いているのを見つけたからだった。 その花は朝顔に似せて色紙を折った . . . 本文を読む
東経138度35分26秒
台風9号の残した爪あとは、思いのほか深刻だったようだ。
過去の大災害を経験した人から見ればさほどと思われるかもしれないが、身近な場所で起こった出来事は身にしみて怖さを感じるものである。
上信越道の富岡~下仁田間は最後まで通行止めが続いたし、横川に近い霧積温泉では宿泊客がヘリコプターで救助された。
一段落着いたと思ったら、今度は南牧村の最奥部で閉じ . . . 本文を読む
意外に手ごわい台風だった(軽井沢にて)
昨日、軽井沢まで行く用事があってルート146を走った。
前夜大雨を降らした台風だったが、わが家のあたりは大した風速を感じなかったので、太陽が顔を出した正午ごろ高を括って出発した。
ところが群馬と長野の県境を越えてしばらく行ったところで、片側一車線を塞ぐ風倒木に出合ってビックリさせられた。
軽井沢では、折れた木の枝に頭を直撃されて亡く . . . 本文を読む
身ごもったトカゲ
九月に入って一日だけ真夏が戻った日、日当たりの好い道路に見慣れないトカゲが姿を見せた。
茶色で胴が太く、動きの悪いトカゲだった。
いつも煉瓦の陰や草むらで見かけるのは、もっと小型で動作も俊敏だ。なにより陽光を受けて銀むらさき色に輝くタレントのような肢体だった。
もっとみたいと思っても、すぐに物陰に隠れてしまいなかなか姿を現さない。男を焦らす小娘のように感じて . . . 本文を読む
ステルス戦闘機不時着?
九月になったら、訪問客の顔ぶれが変わってきた。
先月の末、雨上がりの朝には、セミが相次いでテーブルや椅子にとまり疲れを癒していたが、この日は巨大な飛行機がテーブルに不時着していたので驚いた。
黄土色で翼の幅は約二十センチ、ご丁寧に両翼に一個ずつ目玉がついている。
上から、前から、後ろから撮影したが、形は見たこともない戦闘機のようだ。
尾翼の右側が破 . . . 本文を読む
夏の忘れ物(ムシヒキアブと青虫の写真)
今年の夏は、北軽井沢でも31度を記録した。
けっこう蒸し暑さを感じる日があった。いつまで残暑が続くのだろうと、心配になるほどだった。
ところが8月の最終週は一気に気温が下がって、日中でも22度といった日が多くなった。
秋の訪れは急であった。夏が戻ってきたとしても、おそらく居心地が悪いだろう。
空には秋の雲が刷毛の跡のようになびく . . . 本文を読む
志保は仁吉の帰りを待って針仕事に精を出していた。 夕食の時刻はとうに過ぎていたが、吉井駅近くの一杯飲み屋で小一時間は息抜きしてくるのが常だから、亭主の好きなおでんの鍋を火に掛けて、ごとごとという音を聴きながら頼まれものの訪問着を仕立て直しにかかっていた。 亭主は富岡製糸場の技師で、志保とは職場で上司と部下の関係だったが、三年前に結婚して吉井町で借家住まいをしていた。 「空っ風がきついわね・・ . . . 本文を読む