母が前触れもなく家出した日、一人娘の夏子が札幌の病院で無事に女児を出産した。 五月の連休を利用して妻と共に臨月の夏子を見舞ったあと、私は休みの最後の日に新千歳空港から東京に戻っていた。 しばらく札幌に残って娘の面倒をみることになった妻が、予想外の冷え込みで冬物のセーターを送ってほしいなどと言ってよこしてから、三日目のことだった。 家には八十歳を過ぎた私の母が居る。 軽度の白内障と不整脈は . . . 本文を読む
猫は偉大である
猫は死期を悟ると、いつの間にか姿を消す。
子供のころ飼っていたブチもそうだったし、人から聞く話でもやはり行方をくらましたまま探し当てるのは大変難しいようだ。
衣食住のすべてを世話になりながら、恩恵をこうむった飼い主には挨拶なしである。それどころか愛情まで独占していながら、なんら見返りなしにバイバイするのである。
わたしの最も好きな作家内田百は、「ノラ . . . 本文を読む
朝、居間のガラス戸を開けると、網戸との隙間にカマキリがひっかかっていた。 緑色をした小型のカマキリだが、すでに事切れている。夜のうちによほど足掻いたのか、右手の斧が歪んでいて、生き物の威厳はすでにない。不慮の死とあっては、それも致し方なかった。 手近の割箸ではじき出し、玄関から回ってつまみあげてみると、腹のあたりが微かに変色している。緑一色に見えた躯に忍び寄る赤紫の翳が、確実に訪れたものの痕 . . . 本文を読む
リョウちゃんの戸惑い
先日また雪の残る北軽井沢へ行ってきた。
二、三日滞在しただけだが、ご無沙汰していたリョウちゃんと交流できたのが大変うれしかった。
まず先に挨拶してくれたのは北海道犬のリョウちゃんだった。
山荘に着いたとたんに、ワン、ワンと呼びかけてくる。見知らぬ通行人などに吠えるときは間隔の詰まった甲高い声だが、挨拶のときにはどこか反応を探っている間合いが感じられる。 . . . 本文を読む
明けまして、おめでとうございます。
皆様にとって、本年が最良の年となりますようお祈り申し上げます。
また、昨年中に当ブログをお読み下さったたくさんの方々に心から御礼申し上げます。
あわせて本年も変わらぬ訪問を期待し、がんばるつもりですのでよろしくお願いいたします。
平成二十年 元旦 . . . 本文を読む