どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

単発短編小説 『夢を見た』2

2025-01-24 03:16:00 | 短編小説
みなさんは日本のまいまい井戸をご存じだろうか。 地面をカタツムリのように左巻きに降りて行って、地底にある井戸から天秤棒に下げた桶で水をくみ上げていた地方があった。 つまり本来の地面の位置には水が出ないので、かなり深い場所の湧き水とか突き抜き井戸の水を天秤棒と二つの桶で担ぎ上げていたのである。   ところ変わってどうやらアメリカ合衆国の似たような場所に僕のクルマは止まっていた。 . . . 本文を読む
コメント

単発短編小説 『夢を見た』

2024-12-03 00:55:00 | 短編小説
ぼくが白の浴衣をひっかけて縁側に寝そべっていると、いきまり秋吉久美子に似た若い美形女子が現れて何やら本を注文したいという。 帯もしていないぼくは慌てて立ち上がり、浴衣の左右を引っ張って押さえて応対した。 美形女子は自分の要件をいうだけ言うといつの間にか姿を消した。 呆然としながらもぼくは今起こったことを思い出そうとした。 しかし思い出せない。 悩んでいるうちに再び人が現れた。 今度は6 . . . 本文を読む
コメント (2)

真夏の怪談 その10 『十日夜〈とうかんや〉の月』

2024-07-23 01:27:00 | 短編小説
月の満ち欠けを表す呼び名はほぼ一日ごとにある。 新月、三日月、十三夜、十五夜、十六夜などは誰でも知っているが、十日夜〈とうかんや〉の月はあまり知られていない。 稲の収穫を感謝し翌年の豊穣を祈って、 田の神 に餅やぼた餅を献じるほか、稲刈り後の 藁 を束ねて 藁づと や 藁鉄砲 を作り、子供達が地面を叩きながら唱えごとをする行事である。 田の神というとむかし「新日本紀行」で初めて見たときの驚き . . . 本文を読む
コメント

真夏の怪談 その9 『九条二題話』

2024-07-17 01:40:00 | 短編小説
今回の主役の一つは京都の伝統野菜に登録されている九条ネギである。 九条ネギは葉ネギの一種で根元から葉先までどの部分も甘みがあっておいしいという。 墓に九条太ネギと呼ばれる茎の太いネギがあって、こちらもネギそのものが主役になるほどトロ味があって京都にはなくてはならない野菜である。 いずれも主な産地は京都の九条地区で、九条ネギの呼び名もそこから出ている。 どちらも全体が青々とした葉ネギだから薬 . . . 本文を読む
コメント (2)

真夏の怪談 その8 『八艘飛びの義経伝説』

2024-07-07 00:02:00 | 短編小説
鞍馬の山で修行していた牛若丸が京の五条大橋で弁慶と出会い、大なぎなたで攻撃されるが欄干の上をヒラリひらりと飛び移り降参させた話は絵本で読んだことがある。 これは巌谷小波〈いわおやさざなみ〉という作家がまとめた日本昔話がもとになっている。 欄干を飛び移る術は鞍馬の天狗から授けられた秘術で、幼名牛若丸〈源義経〉が会得した得意技である。 実は弁慶は五条大橋では引き下がったが清水寺の舞台で二度目の闘 . . . 本文を読む
コメント (6)

真夏の怪談 その7 『七里ケ浜のサイクリング』

2024-07-01 00:29:00 | 短編小説
定年退職した友人が藤沢にログハウスを建てたというのでその夏仲間と冷やかしに行った。 玄関先に自転車が3台重なるように立てかけてあったので理由を聞くと、どこかに置いてあった放置自転車を拾ってきて整備したものらしい。 厳密にいえば放置してあっても他人の私有物で、鑑札も取ってないわけだから警察にとがめられないのかと心配になった。 「平気平気、捨てたやつが所有権を主張するわけないし、整備して有効活用 . . . 本文を読む
コメント (2)

真夏の怪談 その6 『六波羅探題』

2024-06-24 00:33:00 | 短編小説
承久3年〈1221年〉源頼朝が没した後にここをチャンスと見た後鳥羽上皇を中心にした朝廷勢力が執権北条義時率いる鎌倉幕府と戦ったのが承久の乱である。 結果は鎌倉方の大勝で終わったが鎌倉幕府の京における支配力が脆弱であることは誰の目にも明らかであった。 北条義時は幕府を13人の有力な武将の合議制で運営したが、もともと一国の主であった関東武者たちは我こそはの意識が強く譲らない場面が多かった。 三代 . . . 本文を読む
コメント (2)

真夏の怪談 その5 『五浦海岸』

2024-06-12 01:14:00 | 短編小説
茨城県に五浦海岸〈いづらかいがん〉という場所がある。 岡倉天心のもとに集まった横山大観、下村観山、菱田春草らが日本画の美を極めようと切磋琢磨した北茨城市の景勝地である。 海水浴場にもなる砂浜には海風にもめげず松が枝を伸ばし、岩場を望む六角堂にこもると打ち寄せる波の音が思索を深化させるようだ。 天心は後に六角堂を日本美術院の本拠地にした。 横山大観のいわゆる朦朧体などは五浦で生まれたものであ . . . 本文を読む
コメント (2)

真夏の怪談 その4 『四街道の竹藪』

2024-06-08 00:17:00 | 短編小説
海野太吉は千葉県内をよくドライブした。 勝浦や御宿が好きで、家族を乗せて行楽に引き回した。 自宅が都内にあったので、あるとき茂原から四街道を経由して家に帰ることにした。 自動車の道路ナビなどない時代に地図を頼りに近道を探して強行突破してきた。 すると四街道に近づいたと思われる頃いきなり目の前に竹襖が現れた。 「えーっ、なんじゃこれ?」 家族も身を乗り出して怖がった。 「おとうさん、引 . . . 本文を読む
コメント (4)

真夏の怪談 その3 『三保の松原浮気考』

2024-06-04 02:01:00 | 短編小説
「羽衣の松」という小説を書いた仲間がいた。 老境に入ってロマンスには無縁と感じ始めていた時、突然女性の方から思いを告げられたのだ。 彼は驚き、うれしくも感じた。 若い時は何度か恋愛をしたことがあったが、縁あって現在の女房と結婚し40年を共に過ごしてきた。 それだけに同じ同人誌に所属する女性に誘われて食事をし、その後一夜を共にしたことはそれとなく記録しておきたかった。 天女からふわりと羽衣 . . . 本文を読む
コメント (6)

真夏の怪談 その2 『にかほ市の哲学者』

2024-05-29 05:02:00 | 短編小説
現在はにかほ市になった秋田県の象潟町で重吉は炭焼きを生業にしている。 東京の大学を卒業したあと実家の山を預けられ、ナラ〈楢〉やクヌギ〈橡〉の木を切り倒しては木炭づくりを目指した。 ところが重吉は炭窯に火を入れた後持ち込んだ哲学書を読みふけるものだから、火を止めるタイミングを失い出来上がった木炭はほとんど灰に近い状態になってしまった。 「重吉さんなばダメなもんだ。炭つくってんだか灰つくってんだ . . . 本文を読む
コメント

真夏の怪談 その1 『市ヶ谷のすすり泣き』

2024-05-26 03:49:00 | 短編小説
市ヶ谷駅は僕がよく利用した駅である。 夏の深夜、大急ぎで改札口に降りていくと頭上から人のすすり泣く声が降ってきた。 声の主はたぶん女性だろうと気になったが、こちらも電車に乗り遅れる心配があったので確かめることなくホームへ走った。 何日か経って市ヶ谷駅のすすり泣きのことが週刊誌に載っているのを中吊り広告で知った。 早速買って読んでみると、僕が体験したよりも大分前から噂になっていたらしい。 . . . 本文を読む
コメント

思い出の短編小説 『壁の中』

2024-05-18 01:13:00 | 短編小説
 巣鴨プリズンが解体されたとき、ある独房の壁の中から奇妙な塊が転がり出てきた。 公には報道されなかったが、それは高温の熱によって溶かされたコンクリートが、冷えて固まった状態に見えた。 普通、ブルドーザーで破砕された壁は、捻じ曲がった鉄筋を除けば、セメントと砂、砂利による組成が一目瞭然だった。 それに対し、発見された塊は内部でガラス質の粒子が滾り、流れ出たような形跡が見られた。 飴を塗りつけたような . . . 本文を読む
コメント (2)

新作KAIDAN その10 『十辺舎一九』

2024-05-16 00:28:00 | 短編小説
『東海道中膝栗毛』〈とうかいどうちゅうひざくりげ〉は1802年~1814年にかけて初刷りされた滑稽本である。 「膝栗毛」とは、自分の膝を馬の代わりに使う徒歩旅行の意で人気作品となり刊行は『東海道中膝栗毛』と『続膝栗毛』あわせて20篇に及んだ。   後世に読みつがれ、主人公の弥次郎兵衛と喜多八コンビのキャラは歌舞伎や映画等で現在でも活躍が続いている。 文才とともに絵心のあった作者に . . . 本文を読む
コメント

新作KAIDAN その9 『九尾の狐』

2024-05-13 00:02:00 | 短編小説
那須野が原には「九尾の狐」が住んでいるといわれている。 最近、那須野が原を舞台にいやな事件が勃発しているが、ご当地の九尾の狐がどう思っているか世間の口端も喧しい。 「ぼくは九尾の狐はワルだから冷ややかな顔で見ていたんだと思う」 「いや、わたしは九尾の狐は憤慨していると思います。もともと伝説では神獣といわれて王朝を支えてきたのだから今回の事件はイメージダウンになると怒っているはずです」 「読 . . . 本文を読む
コメント (2)