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正夫は、夕子にシャワーを浴びさせ、その間に片栗粉を溶いてテーブルの上に用意した。
具合の悪いときに、よく母親が作ってくれたことを思い出したのだ。
腹痛だけでなく、風邪でも、怪我のときでも、どんぶり鉢に六分目ほど入れた半透明のカタクリを用意してくれた。
不思議なことに、それを口にすると体が温かくなり、いつの間にか気持ちが静まるのだ。
傷んだ体を外側から包み込むように霧状の粒子が湧 . . . 本文を読む
(白根山にもクマ出没!)
先週末、二泊三日で山荘に出かけ、土曜日(16日)には、白根・万座方面をドライブしてきた。
紅葉を見るのが目的だが、白根はナナカマドが盛りを過ぎていて、時期がずれてしまったようだ。
お天気の具合もあったし、こちらの休みの都合もあって、なかなかドンピシャといかないこともある。
それでも、ひさびさの快晴とあって、紅葉狩りの . . . 本文を読む
正夫は、昼ごろアパートを出ると、久しぶりに杉山公園に立ち寄り、隅のベンチに腰掛けた。
梅や白木蓮など早春の花々が終わり、さくらの枝に紅のふくらみが纏わりついていた。
あと一週間もすれば、東京でも開花宣言が出そうな陽気であった。
近所の若い母親が二人、乳母車を押して通り過ぎていった。
少し離れた場所にあるスーパーマーケットまで買い物に行くのか、それとも幼稚園のお迎えにでも行くの . . . 本文を読む
三越裏にある民芸喫茶『青蛾』で夕子が漏らした一言は、こらえていたものが彼女の意思を無視してチョロリとこぼれ出た感じだった。
(やっぱり・・・・)
正夫は、心の中でうなずいた。
ときどき勝れない表情を見せる夕子の様子から、急には晴れない気がかりがあることに気づいていた。
ただ、重たい問題というのが何なのか、それに首を突っ込んだことでどんな状況に陥っているのか、迂闊に立ち入るのを躊 . . . 本文を読む
葬儀が済むと、親の居なくなった実家は、正夫にとってあまり長居をしたくない場所になった。
嫂はそれとなく気を遣ってくれたが、喪主であり戸主でもある長兄は、母という重石がなくなった親族を思うままに取り仕切っていた。
「正夫、一段落したら形見分けするから、そのときはハンコを持ってきてくれ」
真意がどこにあるのか、長兄は正夫に対してろくに説明もせずに、自分の予定を押し付けてきた。
他家へ . . . 本文を読む