晩秋の一日、夕子が日焼けした顔をほころばせて正夫のアパートを訪ねてきた。
正夫にとっては起きぬけの時刻で、夕子が手にするビニール袋の中身が気になった。
「うな丼よ」
正夫の視線のゆくえに気づいて、ちょっと持ち上げる仕種をした。
「おお、ありがたい」
飢えた動物のように反応し、渡された袋の中を覗き見た。
「あれ、自分の分は?」
「わたしは、電車の中で食べちゃった・・・・」
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正夫はショルダーバッグにジャック・ナイフを忍ばせ、出勤前に大男のフーテンを探した。
若者が集まる『穂高』やジャズ喫茶『びざーる』で時間を潰し、街の隅に首を突っ込んでいそうな連中をみつけては、目当ての男の所在を探り出そうとした。
探し当てたらどうするのか、具体的な手順も浮かばないまま、とにかく所在を突き止めたかったのだ。
「うーん、ガタイの大きな奴と言ったら、ラリタケとかウドカリあたり . . . 本文を読む
山野正夫は、モーリーとキャッシーを伴って新宿東口に降り立った。
通称グリーンハウスと呼ばれる芝生の近くには、立ったままの若者やプラボンドでトリップした少年たちがへたり込んでいた。
「じゃあね」
正夫は歩を緩めずにモーリーを振り返った。「・・・・ぼくは、ちょっと寄るところがあるから」
二人とは、ここで別れるつもりだった。
いつまでもアパートに居座られてはたまらないから、駅の立 . . . 本文を読む
正夫が週に一度の休日を自宅アパートで過ごしていると、深夜二時ごろドアをノックする音がした。
「だれ?」
久しぶりに夕子が訪れたのかと思い、パジャマのまま起き上がった。
こんな時刻に正夫が居ると知っているのは、夕子ぐらいものとの先入観があった。
どこをほっつき歩いていたのか、いよいよ行き場を失ってここへ舞い戻ってきたのだろうと、同胞を許すような気分で内鍵を回した。
ドアノブを掴 . . . 本文を読む