その道がどこへ続く道か、満男は地図で調べたことがある。 軽井沢を起点に、八風山、物見山、熊倉峠を経て、荒船山に至る長野県側『妙義荒船林道』が、活気ある描線で記されていた。 他に碓氷山中和美峠を経て松井田に至る群馬県ルートもあるが、いま係官が問いかけているのは、軽井沢からルート254に抜ける有料林道のことだ。 かつて林業盛んな頃は、長野県側のAルート、群馬県側のBルートとも健在で、それぞれの . . . 本文を読む
人気のない処置室のベッドに横たわっていた。
背中合わせの診察室も、いまのところ静かなものだった。当直医も看護師もそれぞれの任務に就いているのだろう。
満男が居るこの部屋は、淡い明かりが点けられたままだった。
入院病棟ではないから、九時の消灯といったアナウンスはない。
あわててカーテンを引きテレビの音を絞るといった、大部屋特有の雑然とした雰囲気もなかった。
点滴の輸液が、せせらぎのように . . . 本文を読む
我慢できなくなって、ソファーから立ち上がった。この日二度目の切羽詰った感覚だった。 朝香満男は、そのまま歩き出そうとして不覚にもよろめいた。かなり足元が不確かになっていた。 慣れないカクテルを飲んだせいか、膝から下が麻痺したように力を失っていた。 ビールなら、どれだけ飲んでもこんなもどかしい状態になったことはない。テキーラに限らず、ジンやウオッカをベースにする酒も飲まされたから、いつの間に . . . 本文を読む
(でも、なんだか妙だな) ビールを注文する破目になった流れに、性格由来のものだけではなく仕組まれた運命のようものを感じていた。 クルマの運転があるから飲むのはまずいなと考えている。その一方で、ビールぐらい何だという気持ちが強くなってきた。 運命といっても、この程度のことならば受けて立とうではないか。 アリバイを疑われた仕返しに、やつらをおちょくってやろうかという反発心が腹の辺りで熱を帯びた . . . 本文を読む