狭い階段を襟首から吊るされるような形で引き上げられた。
コットン生地のブルゾンが、まるで拘束衣のように体の自由を奪っていた。
偶然そうなったのか、それとも喧嘩慣れした彼らの技の一つなのか、二本の腕が後ろにまわされて固定されたような束縛感だった。
隆也に恐怖心がないわけではない。
しかし、ブルゾンに自由を奪われている感覚が、間抜けと言おうか冷笑に値する出 . . . 本文を読む
隆也は向かいの10円麻雀と書いてある看板をぼんやり見ていた。
彼の年齢は六十二歳、いわゆる団塊の世代と呼ばれる年代に属していた。
長年勤めた国家公務員を定年退職し、その後ニ年間の外郭団体勤務も先月末で満了となったところだった。
(新宿へ行ってみよう)
何かと厳格さを問われる身分から解放されて、心が軽くなるのを感じていた。
緊張が緩んだこともあり、漠然とした期待 . . . 本文を読む
ぽっかり浮かぶ雲
(エキサイトブログ「幻に魅せられて」)より
おーい、雲よ・・・・と
空を見上げて呼びかけた詩人がいた
ゆうゆうと
馬鹿にのんきそうじゃないか
雲よ、お前のことをいっているんだよ
どこまでゆくんだ
ずっと磐城平の方までゆくんか
詩人の方ものんきそうだよね
. . . 本文を読む
梅花ウツギ
(城跡ほっつき歩記)より
梅花ウツギの白さに目を留めて
この花の白さはどこから来るのかと訝る
咲くというより消すためのグッズが
フェイドアウトのために用意されたのだろうか
青いインクで書き散らした日記の上に
梅花ウツギの花を敷き詰めてみようか
すれ違った青春の痛みも
手品のよ . . . 本文を読む
風の散歩道
吉祥寺と三鷹を結ぶこの道は
季節を問わず風が通り抜ける
晩い春にはサクラの花びらが舞い
ときには着物姿の山本有三が
道路際に建つ洋風の記念館に入っていく
風の散歩道と名付けられたこの道は
初夏には着流しの太宰治が懐に手を入れて
三鷹の方向から所在無げに歩いて来る
進行する病を慈しみ尽くしてくれる . . . 本文を読む
(桜花爛漫の井の頭池)
やっぱり来てよかった。
週明けの月曜日に井の頭公園に来てそう思った。
ウィークデイでもかなりの人出だから、土日はさぞやと想像するものの、水辺の桜は我関せずと悠々咲き誇っていた。
人の流れに乗って池をひと周りしようと決心した。
桜の木の間 . . . 本文を読む