(幻影・牛喰う沼)
「むかし、むかし、金龍寺というところに一人の小僧が居ったげな。毎日食事が済むと、何処へともなく姿を隠して少しも仏道の修行に勤めなかったんだと・・・・」
民話の語り部ふうにはじめると、牛久沼にまつわる伝説はいかにも東北的な色調を帯びてくる。
東京や千葉・埼玉に近い場所でありながら、郷土史家でもある安東五郎にとっては奥深い蝦夷南限の地といった印 . . . 本文を読む
(逢魔が時)
荒川源太の得意技は頭突きだった。
からだの大きな政二と喧嘩したときも、下から顎を突き上げてたちまち戦意喪失させた。
中学三年生になると急に成長し、早熟の桃子をカノジョにして繁華街の飲食店に出入りしたりした。
学校の先生たちは、校則に従わない源太にいろいろ注意をしていたが、半年も過ぎるとすっかり諦めてしまった。
町を支配する暴力団の下部 . . . 本文を読む
(六合村冬景色)
一週間ほど続いた寒波がやや途切れるとの天気予報を頼りに、半月ぶりの北軽井沢滞在となった。
積雪は十センチ程度でたいしたことはないが、畑が真っ白ではやることが限られる。
室内を片付けたり、焚き火で焼き芋をつくるぐらいのことで、あとは温泉に行くだけだ。
こっちへ来る目的の一つが湯治だったものだから、健康が回復した現在でも温泉に向かう気持ちは格別 . . . 本文を読む
(山彦の変調)
国道146号を中軽井沢へ向けて下っていくと、坂の途中で右手に遥かな山並が見える。
祐太は、その最奥に潜むのが長野県佐久穂町から十石峠を越えて群馬県神流町に至るルート299号沿いの山塊であることを知っていた。
(いつかは、そのあたりの林道を走ることになる)
仲間とともに休日ツーリングを楽しむ祐太は、幾重にも重なる山襞の奥に次のルートを夢想し . . . 本文を読む