商店街の三日月
「旅」
ながいこと佇ちつづけていたので
一番列車の
暗緑のシートを得た
太古の海へ身をよこたえると
凝ってしまった肩と腰が
錘となった
果てしない落下の感覚
揺れる藻の
祈りの蔭で
「平和」に疲れて死んだ
クラゲたちの
淡い匂いを嗅いだ
窓ガラスに虚無を穿ち
海の寝所へ . . . 本文を読む
(飼われた男)
荏原伸二は、都心にある巨大企業の社員である。 東大を卒業し、入社まもなくから会社の開発部門の研究者として将来を嘱望されていた。 現在の住まいは、中央区勝どきに竣工したばかりの38階建高層ビルの17階。 入社五年目の2015年、独身者としては贅沢とも思える2LDKの一室に引っ越してきた。 朝は7時20分に起き、40分後に家を出る。 契約している大手のハイヤー会社から迎え . . . 本文を読む
蝉しぐれ
「雑感二題」
○ 蝉しぐれ
梅雨の晴れ間をぬって、森の家で2日間過ごした。
5月に蒔いたインゲンがかなり伸びてきたので、支柱を立ててサポートをする時期がきた。
篠竹や金属製のポールは大掛かりになるので、いつも簾をほぐして葦で代用している。
それでも80本近くを畑に差し込んでいると、途中で腰が痛くなってきた。
これはいかんと、背筋を . . . 本文を読む
(いのち一尺) 月極め駐車場のコンクリートの上に、それは白白と横たわっていた。 折からの雨に打たれ、輪郭をぼかし、もともと備えていただろう生き物の容を失っていた。 宮脇は駐車場の中央に立ち、その光景に見入った。 (なぜ、子猫が・・・・) 打ち捨てられた毛皮の首巻のように、生気を失くした骸が打ち捨てられている。 不自然に伸びた腹に、一筋の線が見えるのはなんだろう。 ぺしゃんこになってはいた . . . 本文を読む