〇 除夜の鐘 聞き入る 奈良の油塀
奈良の旧家の次男坊だった先輩がある年の年末に実家へ招待してくれた。
広い屋敷は油塀で囲まれ長男家族と酒を酌み交わしながら除夜の鐘をきいた。
遠近から届く鐘の音を油塀も聞いているのだなあと感慨深かった。 . . . 本文を読む
〇 「おい、年越しそばは食ったか?」「ご隠居はもう召し上がったんですか」
〇 「ああ、藪が混まないうちに行ってきた」「去年は更科だったように思いますが気に入らなかったんですか」
〇 「そんなことはない、たまたまだ」「今年はうんちくナシですか」
〇 「蕎麦は薄皮ごと石うすで挽くほうが腰があっていい」「グレーっぽいソバですね?」
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捩花〈ねじばな〉の好きな女性がいた
あの花は螺旋形に巻きながら小さな花をつける
どうして好きなのか聞いたことはないが
なんとなく似合っているように感じていた
その女性の小説集が大寒のさなかに送られてきた
送ってきたのはその女性が「気付」にしていた住所から
小説集とともにその女性が亡くなって
生前に発注していた小説集を代わりに送る挨拶状がついていた
あ . . . 本文を読む
〇 「クリスマスも今日で終わりだな」「ご隠居、ほんとは正月の話をしたいんでしょう」
〇 「一富士・ニ鷹・三茄子〈なすび〉は知ってるよな」「へいへい縁起の良い初夢のことですね」
〇 「だけど、それは江戸時代の話で今はまったく違うらしい」「どんな夢を見たらいいですか」
〇 「虹の夢がいいらしい。虹を見ると日頃の念願が成就する吉兆なんだとさ」「虹の橋 . . . 本文を読む
名月や 池をめぐりて 夜もすがら
この句は「古池や・・」とともに取り分け知られた一句である。
古池や蛙飛び込む水の音・・は春の季語であるのに対し、名月や・・は中秋の名月だから秋の季語である。
意味は名月の美しさに見とれて夜通し池をめぐり歩いていたら、いつの間にか東の空がほんのりと明けてきた・・ということだろう。
月そのものを愛でるほかに池の水 . . . 本文を読む
多羅尾伴内を知っている者はあまりいなくなった
片岡千恵蔵が演じる名探偵の名前だ
「ある時は〇〇ある時は××しかして実体は〈・・・・〉
最後に名乗りを上げる間の持たせ方が心憎い
子供も大人もみんなが真似した名セリフ
大映で4作東映で7作制作され
いずれも興行的に大ヒットしたシリーズで
荒唐無稽と酷評されたが片岡千恵蔵の代表作だ
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〇 行く秋や手をひろげたる栗の毬
今回は続・猿蓑からの一句である。
〈ウェブ画像からお借りしました〉
芭蕉は伊賀の里の出身だけに栗の毬と伊賀の忍者のしがらみを掛けて解釈する方もいるようだ。
確かに伊賀の人々の結束は固く、外部へ出ていくことは難しかったのではないかと想像できる。
ただ、芭蕉は少年のころから江戸の俳諧に憧れていて、機会を見て江戸に行 . . . 本文を読む
〇 どこもかしこも 柄本も光る 佑君〈きみ〉へ
〇 元禄も 顔色なしの 御簾〈みす〉の内
〇 吉高の 味〈演技〉は如何か 佑君〈きみ〉
〇 目くばせは SNSより すごいワザ
〇 平安の 顔ならずとも 烏帽子つけ〈馬子にも衣裳〉
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〇 「おい、前原誠司はいつ維新の代表になったんだ?」「なんだか、元大阪市長の吉村さんと共同代表になったらしいですよ・・」
〇 「けったいな話だな、昔の銀行再編を思い出すな」「富士とか第一勧銀の名前が消えて別の銀行になっています」
〇 「吉村は国政の経験がないから代表質問に立たないのか?」「たぶん、議員にならないと無理なんじゃないですか」
〇 「 . . . 本文を読む
京都清水寺の偉いお坊さんが墨滴る筆で「金」と書いた。
キンともカネとも読めるがパリ五輪の金メダルラッシュが念頭にあるのは言うまでもないだろう。
そこで当方は今年の「四文字熟語」を作ってみた。
便乗発表だからノンと思う方は文句を滴らせてほしい。
「輝度eye楽」
すでに存在する「喜怒哀楽」のもじりである。
意味はパソコン画面の明るさが眩しいので輝度を落とし . . . 本文を読む
〇 「おい、韓国の尹錫悦〈 ユンソンニョル〉 大統領が発した戒厳令の顛末はどうなった?」「民衆が街へ出て暴動になりそうで軍隊の出動を命じたようですね」
〇 「最初は国会で多数派を占める<共に民主党>が大統領の弾劾裁判を決議し、否決されたが再度弾劾を訴えたんだろう?」「そこで窮地に陥った尹錫悦 〈ユンソンニョル 〉大統領が大統領特権の戒厳令を行使したんですね」
〇 . . . 本文を読む
雲の峰いくつ崩れて月の山
「奥の細道」の中でも芭蕉が一番行きたかった場所が月山ではなかったか。
歌枕でもあり憧れの地だったと思う。
出羽三山の最も奥に位置し、湯殿山などを経たのちに到達できる霊峰である。
季節は夏で険しい道をたどる芭蕉の目の前には次々と入道雲が湧き視界を遮る。
月山はどこにあるのか。
不安の思いで登っていくと、雲の峰がいくつもいくつも崩れ . . . 本文を読む
鎌倉時代は戦が多かった
名のある武将は墓を持てるが
関東各地から集まった雑兵は
死んでもその場で野ざらしにされた
月日が経って白骨は一カ所に集められた
海からそう遠くない湿地帯だ
そのころからあたりには鬼火が出た
青白い蝋燭の炎に似た発光体だ
鬼火の正体は人間の怨念だという
人魂だと信じる人もいる
深夜そうした怪火を見たら
怪し火の正体は怨念に . . . 本文を読む
梅が香にのっと日の出る山路哉
今日の名句は厳しい冬を旅の中で過ごした芭蕉が春を感じた瞬間の喜びを表した作品である。
山吹の句の「ほろほろ」もそうだがこの句の「のっと」の俗っぽい表現は芭蕉の真骨頂である。
平明さを心掛ける軽ろみがいっそう梅の香りを引き立てている。
山吹の句の場合は「滝の音」が聴覚を強調していたが、今回は「梅の香」が嗅覚を刺激する。
山並みの上から「のっと . . . 本文を読む
ぼくが白の浴衣をひっかけて縁側に寝そべっていると、いきまり秋吉久美子に似た若い美形女子が現れて何やら本を注文したいという。
帯もしていないぼくは慌てて立ち上がり、浴衣の左右を引っ張って押さえて応対した。
美形女子は自分の要件をいうだけ言うといつの間にか姿を消した。
呆然としながらもぼくは今起こったことを思い出そうとした。
しかし思い出せない。
悩んでいるうちに再び人が現れた。
今度は6 . . . 本文を読む