北前船
「海」
うみが好きだから
岬の丘にのぼって海をみる
秋の 波は鋭く頭巾を鎧い
聡明なまなざしで
臨海線を洞察する
遊泳禁止の赤旗が
わすれられた色でなぶられ
補給の切れた空き缶は
きらきらと
飢餓にかがやく
かぜと砂と
波 波 波
決意した光の冷たさを
じっと耐える
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(こっちへおいでよ) 迂闊といえばうかつだった。 歩道で自転車にぶつかられて転倒するなんて、まったく考えてもいなかった。 高校生が人混みを縫うように飛んできて、避ける間もなくボクの腹めがけて突っ込んだのだ。 救急車で運ばれ、病院の手術室に横たわるボク。 倒れた拍子に頭を打ち、脳挫傷、硬膜下血腫をおこしたらしい。 もちろん昏倒以後のことは意識にないはずだが、どういうわけか知っているのだ。 . . . 本文を読む
海の記憶
「記憶の音」
たまに静かな夜がくると
ひとは虚空へむかって聞き耳をたてる
予言を待つほどの身構えはないが
窓を透かして
とおい電車のひびきや
仔犬の鳴き声を拾いあげると
ひどく満足そうに
想い出の中へ滑り込んでいくのだ
おこーろおり
おこーろおり
かぼそい女の声が
黄ばんだ時間の層 . . . 本文を読む
相馬藩にもゆかりの二宮金次郎像
「どうせなら東北お遍路を」
さんざん粘った末に、成果を残せず首領の座を降りた菅笠さん。
前回は坊主頭で四国54番札所の延命寺まで回り、今回はそこに預けてあった杖やタスキを受け取って遍路の旅を再開したんだって。
ライフワークとでもいうんでしょうか、本人としては何年かかっても八十八か所の巡礼を完結したい気持ちはわからないでも . . . 本文を読む
(出もどり狐) いつのことだったか、三陸の北から南にかけての入り組んだ海岸線を、それはそれは恐ろしい津波が襲ったげな。 赤子を身籠っていた母者人は、朝早く漁に出る亭主のために大好物の稲荷寿司を作り、昼飯用に持たせて家を送りだしたそうな。 残りの稲荷は、自分のために取っておいた。 昼時になると、母者人はワカメの味噌汁をつくり、稲荷寿司を存分に腹に詰め込んだらしい。 赤子の分まで、わき目も振 . . . 本文を読む