どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

短期連載『ルリ色の石を探して』〈6〉最終回

2024-02-14 00:18:00 | 連載小説
タム・ソーヤたちはお兄さんの手伝いをした後ひたすら多磨川の土手を歩いていた。 すると広い河原の一角に臨時キャンプ場という看板がかかっているのを発見した。 「おおっ、どこの区か知らないけど夏休みの子供たちのためにキャンプ場を開いてくれたらしい。ラッキー、俺たちもここで一泊しよう」 タム・ソーヤが管理責任者らしいおじさんに近づき「すみません、4人ですけど今夜ここを使わせていただけますか」 「事 . . . 本文を読む
コメント (6)

短期連載『ルリ色の石を探して』〔5)

2024-02-12 03:55:20 | 連載小説
堤防の下で待っていた大学生のお兄さんが、「この前はありがとう」とタム・ソーヤたちを迎えた。 「実は君たちに採取してもらったウグイやオイカワは最近外来魚の餌食になって数を減らしているんだ。大分前からここはタマゾン川と呼ばれていて、熱帯魚のグッピーやブラックバスが定着している。下流域の川崎市近くで<おさかなポスト>を運営する方の発表ではペットショップで買い求めた珍しい熱帯魚を設置した生け簀に入れてい . . . 本文を読む
コメント

短期連載『ルリ色の石を探して〈4〉

2024-02-10 03:16:00 | 連載小説
タム・ソーヤたちは多摩川の堤防に寝そべって明け方まで天の川や夏の星座を見続けた。 背後が北で多摩川の方向が南なので月明りが残っているうちから天の川がはっきりと見えた。 「ミルキー・ウェイか、多摩川の上は街の明かりが届かないからきれいに見えたよね」 ビルがうっとりとした表情で言った。 「まさか、こんなことになるとは思いもしなかったよ」 タム・ソーヤが自慢げに応じた。 「ぼく、一度も見たこ . . . 本文を読む
コメント (3)

短期連載『ルリ色の石を探して』〈3〉

2024-02-08 02:01:00 | 連載小説
タム・ソーヤに誘導されながらもハックがぶつぶつ呟いている。 「ムロって冬場に樹木や野菜をかこうものだろう? 真夏にムロなんてあるわけないだろう」 実はタム・ソーヤも自分の間違いに気づき始めていた。しかし、言い出した手前引っ込みがつかない。 「ほら、夏でもちゃんとムロがあるじゃないか」 たしかに4人の前方に屋根のついた小屋があった。 だが、よく見ると戸が閉まっていて小屋全体に鎖ロープが巻か . . . 本文を読む
コメント (4)

短期連載『ルリ色の石を探して』(2)

2024-02-06 02:30:30 | 連載小説
多摩川の堤に這い上がったもののタム・ソーヤにも次の行動予定があるわけではない。 もたもたしているうちに大学生が近づいてきて「君たちぼくのお手伝いをしてくれないかな」と笑いかけた。 「お礼はできないけど、個人的に多摩川に生息している魚や甲殻類を調査する仕事もしているんだ。世界の学会に発表するかもしれないんです」 「はあ・・」タム・ソーヤがつられたように返事をした。 世界という言葉に弱い田村一 . . . 本文を読む
コメント

短期連載『ルリ色の石を探して』〈1〉

2024-02-04 00:01:00 | 連載小説
昭和〇〇年の夏休みに、田村一郎の提案で遊び友達総勢4人がルリ色の石を探すことになった。 ガキ大将の田村一郎は関西出身の大柄な中学一年生で、何かにつけ「そうや」と返事をするのでタム・ソーヤのあだ名をつけられていた。 そうなると当然、ほかの三人も八田はハック、蛭田はビル、おとなしい舟木はジミーと愛称で呼ばれることになった。 「俺たちは今夜家を抜けだしルリ色の石を見つけるまで帰らない。家族が心配す . . . 本文を読む
コメント (2)

思い出の連載小説『吉村くんの出来事』(21) 最終回

2024-01-31 00:17:00 | 連載小説
    それぞれの退場 休暇が終われば出勤してくる人間に、課長はなぜ電話をかけてきたのだろう。吉村は、熊本から帰ってきたばかりの疲れた頭で考えていた。(契約のことで、また不備でも探し出したのか) それとも、辞めさせることができなかったので他局へ放り出す算段でもしているのか。 蒲団にくるまっても真意が分からないために苛立ちを感じていた。 となりの部屋では、久美と乳児が休んでいる。何時間置きかに授乳さ . . . 本文を読む
コメント (4)

思い出の連載小説『吉村くんの出来事』(20) 次が最終回

2024-01-29 00:03:30 | 連載小説
     密息 その日仕事から戻ると、課長から局長室へ出頭するよう申し渡された。「すぐにですか」と問い返すと、事務処理を済ませてからでいいと歯切れの悪い言葉が付け加えられた。 何事だろう。頭が高速回転をしている。集金カードの集計が覚束なくなるほど気になった。(こんなときこそ密息だ・・・・) いつか雑誌で読んだ気功の記事が頭に浮かんだ。 もともとは高僧が修行のなかで会得した呼吸法らしいのだが、武術や . . . 本文を読む
コメント

思い出の連載小説『吉村くんの出来事』(19〉

2024-01-25 00:00:00 | 連載小説
     流砂のごとく 急いで事務室に戻ると、内務の総務主任が慌てたように立ち上がった。返還しておいた集金カードをめぐって何かの動きがあったらしい。「吉村さん、遅いですよ」「おお、こっちだって気になってるさ。だけど課長が放してくれないんで仕方がないんスよ」 言いながら壁の掛時計に目をやると、二時五十五分を指していた。吉村は思わずヒェ―ッと奇声を上げた。いままさに客の要請してきたタイムリミットを目前 . . . 本文を読む
コメント (2)

思い出の連載小説『吉村くんの出来事』(17〉

2024-01-21 00:05:05 | 連載小説
     新世界より 腰を痛めて集配課から貯金課に移った間宮が、久しぶりに演奏会のチケットを送ってきた。 今回のプログラムには、ドボルザークの『新世界より』が入っていた。他の楽曲も含めて三つのパートで構成されていた。 アマチュア・バイオリニストの彼は、休日や勤務終了後の時間を使って練習に励んでいるらしく、郵便局の同僚とはあまり交流する時間がないようであった。 酒は嫌いではないので、仕事帰りに気の合 . . . 本文を読む
コメント (4)

思い出の連載小説『吉村くんの出来事』(16)

2024-01-19 01:01:00 | 連載小説
    天草薫風 吉村と久美の新家庭がスタートして半年、こんどは八代の兄が嫁取りを考え出したとの連絡が母からの手紙に記されていた。 相手は地元のスナックで働く二十八歳の女性とのことだった。 兄が米屋の会合の流れで立ち寄った際、カウンターの奥でママを手伝う控え目な女の様子に心を引かれたらしい。「本人がいうには天草生まれの家庭的なオナゴで、浮いた話など何もないんじゃと。ばってん、よかオナゴがこれまで嫁 . . . 本文を読む
コメント (2)

思い出の連載小説『吉村くんの出来事』(15)

2024-01-17 00:23:23 | 連載小説
     カウベルの響く町 唐崎の後について会社訪問を繰り返す中で、中堅の旅行代理店との商談が有望になりつつあった。 そうした進行の途中、経理畑の役員との懇談の際、近ごろの若者の旅行事情が話題になったことがあった。「まあ、短期のレジャーではハワイ、グアム、韓国、台湾といった近場が主流ですが、このごろは新婚旅行も含めてタヒチ、モルディブ、バリ島あたりが人気になってますねえ」「いやいや、豪勢ですなあ」 . . . 本文を読む
コメント (4)

思い出の連載小説『吉村くんの出来事』(14)

2024-01-14 01:08:00 | 連載小説
    かわたれどき 十二月半ばに転勤の辞令が出た。 翌日から皇居をはさんで反対側の郵便局へ出勤することになった。通勤時間は以前より短くなった。 職種が変わった際の規定に従い、二週間ほど局内での職場研修が行なわれることになった。課長が講師になって、保険業務の基礎的な知識を教えられた。 その間に、送別会と歓迎会が相次いで催された。 片や居酒屋チェーン店、他方も寿司屋の二階と似たり寄ったりの会場だった . . . 本文を読む
コメント (4)

思い出の連載小説『吉村くんの出来事』(13)

2024-01-12 02:51:00 | 連載小説
     瓢箪から駒 秋の将棋大会で保険課の蜂谷を破ったことが、吉村の予想もしない評判を呼んでいた。 同じ屋根の下に居ながら、自分の所属する課以外の職員に妙な対抗意識を持っている者が少なくないことを、つくづく感じさせられる顛末でもあった。「あいつ今年も優勝できると思ってそっくり返っていたけど、おまえに負けてへこんでたぞ」 吉村を讃えるというより、蜂谷をくさすことに熱中しているのだ。 蜂谷が背を反ら . . . 本文を読む
コメント (4)

思い出の連載小説『吉村くんの出来事』(12)

2024-01-10 00:35:00 | 連載小説
    指運 郵便局の公社化を睨んで、集配課への締め付けも更に厳しくなってきていた。民間企業を見学した足での業務研修や、デパート地下売り場での体験実習など、組織の活性化とサービス向上を念頭においてのスケジュールが頻繁に組まれるようになってきた。 流行の自己啓発セミナーにも中堅の職員を参加させ、さらには郵政局のホールに講師を招いて主任クラスの意識改革を図ったりした。 局内では班の編成を再構築する試み . . . 本文を読む
コメント (4)