ムラサキゴテン
(城跡ほっつき歩記)より
ムラサキ色の御殿が
堀に囲われた敷地に広がっている
幾重にも秘された大奥の
女中のように咲いたのだ
国盗りに明け暮れする男たちの
昂ぶりを鎮めるために
ムラサキ色の褥を敷いたのだろうか
妖艶に行きつく前のほのかな紅が初々しい
鷹狩りの武将に . . . 本文を読む
ソシンロウバイ
(城跡ほっつき歩記)より
ねえねえ先輩 今ダジャレを言おうとしたでしょう
とぼけたってダメですよ 顔に書いてあるんですから
それに図星をさされたっていうような慌てぶり
それこそ先輩流の洒落じゃないですか
狼狽だとか彷徨だとか 難しい字をよく話題にしましたね
一方 れっきとした出版社の文庫 . . . 本文を読む
宮城県の栗原から福島県の勿来へ嫁いだ佐藤ふみ子は、このところ夜中に胸騒ぎのようなものを感じて目を覚ますことが多かった。
正確にいうと、胸騒ぎというより右胸のあたりに得体の知れないものが這い上がってきて、ざわざわと蠢いているような感覚なのだ。
(まさか、ムカデじゃあんめいな?)
ふみ子自身はムカデなど見たこともないのだが、船乗りである夫が寄港地の東南アジアで . . . 本文を読む
ママコノシリヌグイ
(城跡ほっつき歩記)より
ママコノシリヌグイだなんて
ちょっと人前では口にできない名前ですね
ぼくは花の前で思わず腕組みする
見たところ開花する寸前の蕾なのかな
先割れの形と色が痛々しい
たしかに童子の尻に見えてくる
この尻は爛れているね
邪険に拭かれた . . . 本文を読む
カミナリ
地球が生まれた日の話をしようか
あたりにはまだ陸も海もなく
地表を水蒸気が覆っていた
地球からは太陽も見えず暗闇だった
「光あれ」 はじめの言葉が発せられた
創世記にはそう記されている
分厚い水蒸気の隙間から光が漏れ
神は光を昼 闇を夜と名付けた
混沌の地表を下の海が占 . . . 本文を読む
ヤグルマギク
子供の心をかたちにすると
あなたのようになるのですね
揺れうごく風のなかでも
好奇心に輝いているのですね
花弁のひとひらひとひらは瞳の中の星
それぞれが十字のキラメキを秘めている
光の苑では完璧な円陣を組み
古代ローマのフォルムを展開する
複雑でいてシンプル
あ . . . 本文を読む