東の空が明るみはじめると
田舎の集落は賑やかになる
コケコッコー ウウウー
雄鶏が首を伸ばして声を振り絞る
オンドリャー早く鳴かんかい
ボスが若いオスをひと睨みすると
どの家の鳥小屋からも騒がしい足踏みが始まり
時告げ鳥の声で夜の幕を巻き揚げられる
つられて若い女房たちが夜具を抜け出し
竈に松葉を突っ込んでマッチで火をつける
細く割った薪をくべ火 . . . 本文を読む
〇 「ロシアがベラルーシに戦術核を供与したな」「戦況が行き詰ると核をちらつかせる、プーチンの常套手段でしょ?」
〇 「心配しなくていいのか?」「ご隠居、ものごとはどこでどう変化するかわかりませんからね」
〇 「英国がウクライナに劣化ウラン弾を供与したのも問題だろ?」「ロシアに口実を与えましたからね。 . . . 本文を読む
絶望の海に青い月が昇る
海霧が後退し混沌の海が明らかになる
人間は何万年もかけて蠢いてきたが
遂にまた絶望の海を目前にしている
もっと賢く進化すると夢見て来たのに
手にしたのは究極の鉄器だった
火と石斧に歓喜の涙を浮かべ
踊り狂った記憶はまだ能皮質にあるのに
月は嵐の予感に震えている
海霧は跡形もなく消え去ったというのに
ますます濃くなる原始の海 . . . 本文を読む
〇 「WBCは世界一を勝ち取って国中大フィーバーだけど、その後いく日焼き直し画像を見させるんだ?」「そういうご隠居も朝から晩まで見ていたじゃないですか」
〇 「翠富士は連日がんばっているけど2連敗しちゃったな」「大相撲ですか、ドングリを並べたようなものですから誰が転がっても不思議はありませんよ」
〇 『この次はサッカーで盛り上がるか」「そうですね。ウルグァイ戦に . . . 本文を読む
え~、この度はコンコン亭しん庄の口演によくぞおいでくださいました。
ざっと見まわしますと、チケットの半券を握りしめたお客様がちらほらと今か今かと待ちわびておられる大盛況で、コンコン亭も精いっぱい努めさせていただきますのでどうぞよろしくお願い申し上げます。
さて、秋田県の海沿いの村に炭焼き善治という男が居りまして、本日はこの男の噺を披露させていただきたいと存じます。
善治は子供のころから神童と . . . 本文を読む
〇 「おい、シリコンバレー銀行が破綻したぞ」「へっ? シリコンで作ったバレーボールがどうかしたんですか」
〇 「おまえ、何も知らないのか。影響でクレディ・スイス銀行も危機に陥ったらしい」「ご隠居、知ってますよ。万が一救済できなかったらリーマンショック以上の混乱が起こるんでしょう?」
〇 「いよいよ、タカ&トシの出番か」「欧米か、ですものね。特にヨーロッパの弱体化 . . . 本文を読む
水戸の城下町を少し離れたところに、鐘鳴山と呼ばれる海抜六百数十メートルの山がある。
この山の頂上近くに小さな沼があって、そのほとりに古風な社がひっそりと祀られている。
地元では「鐘鳴大明神」と呼ばれ、あたりには古木が鬱蒼と生い茂り、昼も暗く陰森の気を漂わせている。
沼は碧く、深くしずかに死の色をたたえて、大蛇でも棲んでいるのではないかと思わせるほどだ。
沼の縁の一方には、軒が傾き . . . 本文を読む
ハクモクレン
画像は(季節の花300)より
バス停の近くに白木蓮の花が咲いている
バスはなかなか来ない
時刻表を確かめるともう10分遅れている
振り返って見上げる白い花が眩しい
バス停に着く寸前にバスが行った後だから
もう30分ほど次を待っている
ハクモクレンの花を何度見上げたか
太陽にまみれて焦げそうなほど眩しい
  . . . 本文を読む
宮城県の栗原から福島県の勿来へ嫁いだ佐藤ふみ子は、このところ夜中に胸騒ぎのようなものを感じて目を覚ますことが多かった。
正確にいうと、胸騒ぎというより右胸のあたりに得体の知れないものが這い上がってきて、ざわざわと蠢いているような感覚なのだ。
(まさか、ムカデじゃあんめいな?)
ふみ子自身はムカデなど見たこともないのだが、船乗りである夫が寄港地の東南アジアで出合ったという大ムカデの話が . . . 本文を読む
〇 「ワールド・ベースボール予選は3戦とも大差だな」「ご隠居、第一戦以外は先制点を取られましたけどネ」
〇 「韓国戦はもっと接戦になると思ったぞ」「ダルビッシュが打たれたけどあっという間に逆転しましたから」
〇 「それよりチェコには驚いたな、先制されるし球団(アマチュアらしい)があるとは知らなかったぞ」「そりゃ、ご隠居だけじゃないでしょう。逆転するまでは栗山監督 . . . 本文を読む
狭い階段を襟首から吊るされるような形で引き上げられた。
コットン生地のブルゾンが、まるで拘束衣のように体の自由を奪っていた。
偶然そうなったのか、それとも喧嘩慣れした彼らの技の一つなのか、二本の腕が後ろにまわされて固定されたような束縛感だった。
隆也に恐怖心がないわけではない。
しかし、ブルゾンに自由を奪われている感覚が、間抜けと言おうか冷笑に値する出来事に思われた。
現役時 . . . 本文を読む
隆也は向かいの10円麻雀と書いてある看板をぼんやり見ていた。
彼の年齢は六十二歳、いわゆる団塊の世代と呼ばれる年代に属していた。
長年勤めた国家公務員を定年退職し、その後ニ年間の外郭団体勤務も先月末で満了となったところだった。
(新宿へ行ってみよう)
何かと厳格さを問われる身分から解放されて、心が軽くなるのを感じていた。
緊張が緩んだこともあり、漠然とした期待に引き寄せられる . . . 本文を読む
チューリップ
画像は(季節の花300)より
咲いた 咲いた チュー―リップの花が
あたまの中で唱歌が鳴りひびく
そうか 埋めたままの球根が花開くころだ
億劫がらずに庭へ出てみようか
おう 咲いた 咲いた 見事なもんだ
季節にうながされて みな一斉に
だけど不思議だなあ まだまどろんでるよ
咲いては見たものの まだ眠い眠い、と
. . . 本文を読む
私鉄駅から徒歩数分の場所にある老朽アパートのオーナーがとうとう亡くなった。
太平洋戦争では予科練に憧れていたが、15歳に達していなかったのでやむなく断念したという愛国少年だった。
二年遅れて海軍に入隊し、南方戦線で補給任務にあたっていたものの、アメリカ軍の爆撃を受けバシー海峡に六昼夜漂ったという戦歴を刻んでいる。
九死に一生を得て帰還してからは、親の残した土地に木造のアパート . . . 本文を読む
〇 「柿の種 埋没したり ピーナッツ」「ご隠居、いきなりどうしたんですか。木の芽どきにはチト早いですよ」
〇 「切りつけ事件が多発だな」「なるほど逼塞した社会に埋没したピーナツがいきなり浮上した・・・・」
〇 「近くの風呂屋も廃業したぞ」「ゆでだこの浪曲ももう聞けませんね」 . . . 本文を読む