アゲハ蝶
(昆虫エクスプローラ)より
あれはいつのことだったろう蝶道ということばを知ったのは・・・・
たしかに夏だったのだが暑さの記憶は残っていない
皮膚が覚えているのはそのことばの痛みだけ消そうとしても消えない悲しみだけ
雲場池へ行ってみよう友だちの兄さんが捕虫網を手にとった
半ズボンから長い脚を出して先頭 . . . 本文を読む
(鴉の話) 八百屋の店先で、店主と客のばあさんが大声で話している。「いやあ、まったく油断のならない野郎だ」 七十過ぎの親爺が、たったいま起こった出来事を手ぶりを交えて説明している。「ほんと、素早いんだから・・・・」 ばあさんも負けじと声を張り上げる。「追っかけたけど追いつくわけもない。ほれ、向こうの屋根の上でバカにしたようにこっち見てるだろ?」 店主が商売を忘れて遥か先の瓦屋根を指さす。 . . . 本文を読む
『気象』
梅雨の季節になると、空もようとともに気持ちまで湿ってくる。
そんな気分になる人も、けっこういるんじゃないかな。
他方、雨を予報し自分の出番だと喜んでいる植物がある。
触れちゃいけない「あめふり朝顔」。
気象予報士がお揃いで雨の歌を合唱している。
おれも仲間入りとばかりに、曇り空からツーッと降りてきたのは青虫さん。
雨を . . . 本文を読む
(猫) 素封家の新座右衛門には、なかなか跡取り息子ができなかった。 二十歳の時に嫁に来た最初の妻は、五年間生活を共にしたが子ができずに離縁した。 二度目の嫁も、妊娠はするのだが五か月目を待たずに流産し、二度三度と失敗して自ら実家に出戻った。 新座右衛門に子種があることは明らかだから、すべては女の側の問題として片付けられた。 三度目の嫁にも子ができないと分かった時、三十五歳を超えて焦りの見 . . . 本文を読む