『朝顔の侵犯』
近くの家の塀から、ごらんのとおり朝顔が顔をのぞかせ花を咲かせた。
借りている駐車場に行くためときどき通る通路なので、最初ツルを伸ばしてきた段階から知っていた。
ブロック塀の穴から植物が越境して来るさまはそう珍しいことでもなく、掴まるところのないツルがもがいているわいと気にもとめなかった。
それから数日忘れていたところ、なんと上の画像のよ . . . 本文を読む
ヒガンバナ
(城跡ほっつき歩記)より
未亡人のように 緋色をまとわせ
秋は何をたくらんでいるのか
弔いのたびに 華やぐ彼岸花
悲しみと喜びは素顔の裏おもてときには 血の色と紛う
記憶の中の日めくり
みどりの茎は ひと筋の憐れみか
それとも平らかな野の意志か透過する 太陽のベクトルが
過ぎ去りし時を悼む
追憶よ 残像 . . . 本文を読む
(ウィスパーボイス) サスペンス小説の作家として売れっ子だった有村優斗は、近ごろ雑誌社からの注文が減っていることを気にかけていた。 担当の編集者にそれとなく訊いてみると、読者アンケートの分析から有村の小説が目新しさに欠けるとの評価が下されたらしい。 某誌の人気作家ランキングでも、ベストスリーに入れず低迷していると聞かされた。 ピーク時には寝る間もないほど依頼が殺到し、いずれ自身が小説に殺さ . . . 本文を読む
ツユクサ
(城跡ほっつき歩記)より
あの青色はどこから手に入れたのかはるばると旅をして トルコで見つけてきたのか若い娘の指から盗んできたのか土耳古石なら満更でもないがあの透き通る青には 空の匂いがするあるいは 女神の湖から掬いとってきたのだろうか日陰でもめげない露草よ疲れた老人にエキスを与えよたくわえた滴で 衰えた眼を潤せこの世には人声 . . . 本文を読む