「紀州のドン・ファン」なんてジイサンが死にました(殺されたの?)。ドン・ファンなんていうからにはもてたのだろう、と思いきや、ワイドショーによりますと「月に100万やるから結婚しろ。月の半分は自由にどこかに行っててもいいから」と「契約」を迫ったそうです。若い女性は、「それならおいしい話だな、と思い結婚しました」と言っていました。
それはね、もてるんじゃなくて、ただ娼婦を買ってるんでしょっ。ドン・ファンは色男で女性を口説き、彼に惚れた女性のほうは、すべてを捨ててまでドン・ファンと結婚したい、と思ったんです。紀州の方は「自称ドン・ファン」だそうですが、そのネーミングはやめてほしい。
さて東京下町を根城にし、生涯孤高の文人として生きたということだけで、私が親近感と尊敬の念を持たずにはいられない作家が、永井荷風である。上記のドン・ファンの話を聞くと、荷風のことを思わないではいられない。やつはもてたのか?
彼の中学時代は髪を伸ばし、洋服などもしゃれていた。明治時代であるから、「ハイカラ」なのである。それが気に食わないと乱暴な連中が、荷風を殴って髪を切ってしまった。あとで荷風はその連中の家を一軒一軒回り、その親に「いつかひとりひとりのときに仕返ししてやるから、そのときに文句を言うな」と言ったらしい。その子供たちは親にこっぴどく怒られたとか。私は乱暴な連中と同じように、変わり者の生意気な長髪を見れば丸刈りにしてやりたい気もするし、一方で荷風の気持ちになってひとりひとりに仕返しをしてやるというのにも誘惑を感じてしまいますなぁ(そんな度胸はナイ気もするが)。
大金持ちの家に生まれたぼんぼん育ちで、勉強もあまりしなかったので、親は仕方なくアメリカへ留学させ、横浜正金銀行の海外支店に就職させてやる(情けない)。しかし荷風は勝手に辞めてしまい、そのあとすぐに帰国せず、パリに遊んでいる。
いいねえ(^益^)いいねえ。
親戚づきあいなどのしきたりが嫌いで、親に決められた結婚生活は半年ともたなかった。もともと芸者の八重次という女とつきあっており、すぐにこれと再婚するが、それも一年ともたなかった。子供も絶対に持つ気はないという、根っからの自由人(自分勝手な人)なわけだ。
戦争中に政府が市民から金(ゴールド)をかき集めた。それを荷風は気に入らず、国にまき上げられるよりはと、わずかというのにキセルの口や金具などの金製品を、隅田川に投げ捨てた。だいたい権威・権力、「お上」といったものが大嫌いな性分だったのである(俺なら捨てないで隠すかな)。