この組み合わせ、この劇場は何だろう。
生い茂った樹木より丈高い擬人化されたビルボケは超人的な大きさである。
バックの鈴は、声/声明を暗示していると思うけれど、擬人化された二体より更に高い位置に伸びている。
刻まれた紙状のもの(『喜劇の精神』『嵐の装い』)は、少々左に傾いでいるが立地点が定かでないので、単に少しの不安を掻き立てるだけである。
立地点が定かでないのは岩石以外の全ての対象物に共通な要素であって、樹木などは岩石のある岩盤よりずっと下方に根を持つように思われる。
岩石だらけの岩盤(地面)、つまりは不毛地帯であり、荒地である。
空は青く緑は色濃く繁っているが、不穏な雲に背後は覆われている。
このアンバランスな条件を満たす題名を『告知』と名付けている。
二人を想起させるビルボケ二体、加えて刻まれた紙状のものも不思議な描かれ方をしている。一見すると、(背の低い方)が(背の高い方)の背後にいるように感じるが、並んでいる、もしくは手前に出てさえいると思われるトリック的な手法である。ゆえに、三体は同格に並んでいると思われる。
ちなみに刻まれた紙状のものは、人智・情報・観念などで刻まれた現世を引きずる霊魂の媒体を暗示しているように思う。
この画面に並んだ対象物はすべて同じ地平にあるように感じるが、岩盤(岩石)以外は立地点は不明である。
下方から上方へせり上がり天まで届くかの勢いがあり、緑の樹木(自然)や岩石(荒地)を遥かに見下ろす尊大さがある。
しかし、樹木と岩石は自然の存在物であるけれど、そそり立つほかの対象物は人の手により加工を加えられた人工物(英知の産物)である。
これは告知(神のお告げ)、受胎告知(二体は男女にも見え、複合的な意味を持たせている)を含めた声明、威信をもって世界を眺め下している図ではないか。三体は、父・子・聖霊のようにも思えてくるが、マグリットは事の是非を問うことなく、ただ、風景(光景)として収めている。
あくまで、想像の範疇である。
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)