直木賞作家、三浦しをんさん大いに語るatよみうり読書芦屋サロン
江嵜企画代表・Ken
第38回「よみうり読書」芦屋サロンが、直木賞作家、三浦しをんさんをゲストに30
日午後2時からルナ・ホールで開かれ、楽しみにして出かけた。650名が参加した。原
稿用紙9枚の掌編小説「滝と虹」(読売朝刊:9月11日掲載)の秘話を文字通りあけっ
ぴろげに紹介した。
あらかじめ会場で集めた質問を元に読売新聞社文化部、池田順子さんが進行役を
勤めた。「ここに質問が来ています。」と前置きして「坊さんが立しょんする話があ
ります。そのあたりについて伺いたい」といきなり三浦さんにぶつけた。
制作依頼があった2日ほど前に、三重県の尾鷲というところに行く用事があった。
尾鷲は「神去(かむさり)なあなあ日常」という映画WoodJob!の原作となった
小説が縁だった。そのときおっちゃんたちと飲み会があった。台風が近づいていた
が、釣り船を出してもらった。海から山を眺めた。
「滝と虹」の中にこういうくだりがある。「崖を正面から望める位置で,正(ただ
し)さんが船を止めてくれた。緑に囲まれた庵は崖のてっぺんにあり、太平洋から差
す朝日を浴びて静かな佇まいだ。」(中略)「滝より取材だ。俺は正さんに借りた双
眼鏡を構え、庵を凝視した。(中略)「正さんが不意に舵のまえを離れた。揺れにも
動じず船尾に立って、海に向かって放尿している。「ちょっと、操縦は!」「大丈
夫、大丈夫」ほんとかよと思いながら双眼鏡を構え直したら、なんと覚慮が崖の上か
ら、ダイナミックに立ちしょんべんしているところだった。」
「女性作家では、立しょんは珍しい」と司会者。三浦さんは「草むらの中で、私、
おしっこするの好きだったんです。だって、おしっこすることって、とても解放感あ
る。おしっこしてるとき、ほかのこと考えられないじゃないですか。」と三浦さん。
スケッチしながら、司会と三浦さんのやり取りのなか、その都度、会場がよじれるよ
うに揺れていて、見ていて面白かった。
「三浦さんは、エッセーの名手として知られています」と司会者は話題を変えた。
三浦さんは「エッセーには瞬発力が必要です」とズバリ。「スポーツで言えば短距
離小説はマラソンかな。エッセーはネタがあれば書ける。小説はそういうわけにはい
かない。小説は発酵食品。エッセーは刺身。小説はナット―。」と歯切れよかった。
エッセーと小説談義で盛り上がっているとき、いきなり三浦さんの口から「わた
し、お風呂入るの嫌いなんです。」『えっ!』と司会者は絶句。「面倒くさいの、嫌
いなんです。服の着脱が面倒くさい。ここ数日は旅ガラス、人に会いますからシャ
ワー浴びてます。今日はご安心を。実は、早く風呂に入らない生活に戻りたい!」と
いたずらっ子のようにウインクした。
講演は2時半ぴたり終わった。いつもながら紙一枚に書ききれない。三浦さんの作
品には男性が結構登場する。三浦さんは性別は余り関係ない、と。ただ、女性は自分
も女だからよく分かるが、ドロドロしている。重苦しい話は書きたくない。満たされ
ぬ日々ににも一筋の希望がある作品が好きだと三浦さんは話を結んだ。
2階席まで満席。折り畳みイスまで用意された。三浦しをんさんの人気のすごさを
改めて実感した。爽快な気持ちで帰路に付いた。(了)