能楽師、片山九郎衛門、日本画家森田りえ子対談風景
江嵜企画代表・Ken
「いのちの賛歌 森田りえ子展」での対談が6月12日、午後2時から相国寺、聖天閣美
術館で開かれ、楽しみにして出かけた。この日森田りえ子さんが迎えたゲストは、能
楽師、片山九郎衛門さん。大阪日本橋で日本画教室があり、猪熊佳子先生にお断りし
て教室を11時半に早退した。
しかし見通しが甘かった。あと3人のところで立ち見となった。会場の様子をスケッ
チした。救いの神あり。森田りえ子さんの姉上のご主人がカメラを回しておられ、三
脚のそばの椅子をそっと用意していただいた。お陰で2時間強の対談を堪能できあり
がたかった。
対談前半の1時間は片山九郎右衛門さん、後半1時間は森田りえ子さん。「森田さんと
はお酒の席ではお目にかかっておりますがこのような場所では初めてでございます」
という言葉で対談がはじまった。和やかな雰囲気が会場をさっと広がった。「おしゃ
べりが大の苦手でございます。能舞台の方がはるかに楽です」と片山さん。
プロジェクターの画面に能衣装が映し出される。ひとつひとつ紹介された。画面は能
面に変わる。翁面、男面、女面、鬼面などと続いた。女面では小面(こおもて)が特
に印象に残った。能では能面のことをオモテという。オモテの微妙な傾。でその時々
の人の気持ちや境遇が表されます。同じ小面でも口元に違いがあります。割けた口元
では、鬼面、夜叉の特徴です。鬼気迫るものがありますと片山さん。
能面ひとつで人の性質やその時々の気持ちを表す。能面は「かぶる」と言わない。能
面は「かける」という説明は新鮮だった。面をかぶると思い込んでいたからだ。西欧
の「仮面」は顔をすっぽり覆います。能面と仮面の違いがそこにありますと片山さ
ん。能面をかけて能楽師は人格をひきだすのです。能面は思いもよらない人格をひき
だしますと片山さん。能面談義に会場はのめり込んでいった。
突然照明が消された。正面に仮設舞台が用意された。片山さんが激しく舞った。地響
き立ててという形容も過大ではない。「迫力がありました。片山さん、息があがって
おられません。驚きました。」と森田さん。「お喋りでは汗をかきます。舞は楽で
す。」と片山さんは応じた。
照明が入り、森田りえ子さんの話が始まった。プロジェクターで森田りえ子展の作品
が映し出された。一点一点、丁寧に解説した。10年前、金閣方丈が330年ぶりの解体
修理の時を迎えた。有馬頼底管長さんから「森田はん、杉戸絵を描いてくれへんか」
と電話。お断りする道理はありません。やがて樹齢700年の秋田杉が手元に届いた。
700年生きてきた杉が私に命を差し出してくれた。人の命は短い。絵は200年、300年
生き続けます。四季の絵を描いた。年を経て木は黒くなる。300年経ったとき花菖蒲
や菊が中で浮かんでいるイメージで杉戸絵を描きましたと森田さん。
「糸菊の絵では川端龍子大賞をいただいた。そのとき糸菊をフリーハンドで描いた。
それが縁で「糸菊の森田」と呼ばれています」と森田さん。香港の夜景の絵が写され
た。香港には何度も足を運んだ。夜景ですがお昼スケッチしました。イルミネーショ
ンを映す海面は金の砂子を使いましたと手の内を明かした。
最後に13点のKWAII-GITAIが登場した。GITAI、それはなりたくてもなれなかった、な
りすましの姿ですと森田さん。鳳凰の絵では「若冲先生の鳳凰を重ね合わせました。
鳳凰のかんむりは美空ひばりさんが不死鳥コンサートの際使われた冠ですと紹介し
た。
「絵の中をお散歩する感じで見ていただければありがたい。」と森田りえ子さんは談
を終えた。片山九郎衛門さんは「1,500円で能を楽しんでもらえる企画を数年前から
始めています。広く能に親しんでいただければありがたい」と話しを終えられた。
「いのちの賛歌~森田りえ子展」は6月19日が最終日となる。6月15日、今一度と思
い。相国寺へ出かけた。大勢の森田りえ子ファンが会場を訪れていた。(了)