★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

イの勝利に就て

2012-11-24 21:37:29 | 文学


ドラマ「三国志」終了。最後の「危急存亡」のセクションは、劉備死後、孔明の北伐と死を駆け足で、司馬懿の魏でのクーデターと司馬氏の天下平定を駆け足(というか、司馬懿死後の事情はナレーターの説明だけ……)でみせた。三国の鼎立のために頑張ったみなさんが悲劇的に死んでいったあと、深く野心を秘めていた老・司馬懿がすべてをかっさらう様は、さまざまな権力闘争をながめ、その中で生きている中国の皆さんの感慨か何かであろうか……。映画「ゴッドファーザー」シリーズはちゃんとアル・パチーノの死で終わってた。しかし、このドラマは、曹操、関羽、張飛、劉備、孔明などなどの死は前座に過ぎず、司馬懿の大往生でドラマは締めくくられたのである。最後の数話など、呉のみなさんがいたかどうかも分からない状態。たしか司馬懿には呉の軍隊と戦った過去もあるというに、それは触れられなかった(途中で寝てしまったからわからんが……)し。最後の方で、いままでの戦乱の原因の一つであった何進の暗殺を振り返る場面があったが、愛妾の静姝(実は司馬懿へ送り込まれたスパイ)は何進の孫であって(ここらへん眠かったのでよく覚えてない)、どうも最後は司馬イ(←コピペ疲れた)の頭の中にしたがってドラマが進行しているようであった。最後にエピソードをはしょりすぎなのは、それが彼の記憶のありようだからではなかろうか……。静姝は司馬イの子の出産で死亡、ショックで卒倒の司馬イ……この様子をみて調子こいてしまった政敵・曹爽は、油断して仮病男司馬イのクーデターを許す。静姝の墓の前である宦官にスパイである彼女を毒殺したことを白状する司馬イ。果たして司馬イの愛していたのは野望なのか静姝なのか……と宦官は問いかける。(ここらで睡魔が襲い、よく覚えていない)司馬イはそんな「二者択一」では悩んだこともなかったであろう。権力掌握はそれが第一目的でなければならず、他の要素はその前では優先順位が下がる。しかしそれは優先順位の問題であって、はじめから排除されるのではない。イ(←疲れてきた)はそういうことを文武両道の曹操殿から学んだに違いない。どうも、劉備も孔明もその点、目標以外を排除する人間として描かれていたようだ。彼らは目標に挫折した場合、恐ろしいショックで突然死してしまうのである。死にかけのイが言っていたではないか「常に逃げ道を作っておかなくてはならぬ」と。

とはいえ、こういう見方は天下をとったイに対して他の連中を、あまりにも引き算的に矮小化するものでもあろう。陳腐な結論であるが、人それぞれのあまりに複雑な人生があるのである。それを描くことはできない。