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最後のあたりだけ見たが――、蚊帳の中の夫婦に猫の声が聞こえてきて、漱石が「小説家になりたい」と言ったのがわざとらしくてよかった。夫婦の絆的なあれはいいから、はやく、下の場面を見たい。
「貴夫が私のものでなくっても、この子は私の物よ」
彼女の態度からこうした精神が明らかに読まれた。
その赤ん坊はまだ眼鼻立さえ判明していなかった。頭には何時まで待っても殆んど毛らしい毛が生えて来なかった。公平な眼から見ると、どうしても一個の怪物であった。
「変な子が出来たものだなあ」
「どこの子だって生れたては皆なこの通りです」
「まさかそうでもなかろう。もう少しは整ったのも生れるはずだ」
「今に御覧なさい」
――「道草」