再び見るべからざるものを 2022-04-27 23:20:59 | 文学 巴里は再度兵乱に遭ったが依然として恙なく存在している。春ともなればリラの花も薫るであろう。しかしわが東京、わが生れた孤島の都市は全く滅びて灰となった。郷愁は在るものを思慕する情をいうのである。再び見るべからざるものを見ようとする心は、これを名づけてそも何と言うべき歟。 ――永井荷風「草紅葉」