★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

ショッカーたちのイメ-ジの不在

2023-04-10 23:49:13 | 思想
君子和而不同。小人同而不和。

君子泰而不驕。小人驕而不泰。

これらなんかも、きわめて実践的な点が特徴である。上は、教養人たちが適切に集団の中で振る舞っているかを反省をさせるためのものであろう。しかし、和することと同ずることは現実的に観察しようと思えばきわめて微妙な問題で、もし、同ずるように見えてはだめだと思うようになった場合に、和することも避けるようになりかねず、何もなってないうちにはこんなことを気にしていてもしょうがないし、集団の性格にも、自分の立場によってもコミットメントのあり方は違う筈である。しかし、そんな中でも、上のような理念がないと我々はストッパーがなく自らが集団と相渉る性格を見誤るから、孔子は上のようなことを言ったのではなかろうか。真の教養人は堂々として驕らず、小人こそ威張ってるもんだ、という下の箴言もそういうところがある。こういう論理に支配されれば、結局、イメージとしてはそこそこ中庸をめざすか、という判断に流れることになるかもしれない。のみならず、そもそも君子と小人の対立など相対的な気もしてくるかもしれない。

我々のフィクションが、油断すると、君子と小人を対比させながら、その性格を分析しているうちにわけが分からなくなりがちなのは、上のようなタイプの箴言に支配されているせいかもしれない。横溝正史は終戦直後のエッセイで、

書き出しの絢爛たる華々しさと、雄大なる結構で、讀者を熱狂させ昂奮させながら、回が進むにしたがつて、漸く混亂し、支離滅裂となり、果ては拾収がつかなくなつて、最後にはあつけない結末で讀者を茫然とさせる。さういふ讀物が江戸時代の讀本から最近の大衆小説にいたるまで、あまりにも数多く氾濫してをりはしなかったか


と言って、敗戦にいたる過程がこういう小説に似てると言っている。彼の主張は、もっと理詰めでなきゃみたいなもので、それ自体当時としては意外なものではなく、むしろ当時の文化主義みたいなものに支えられてしまってもいる。が、上のだめな話の典型として「大菩薩峠」があげられてて、これはちょっと意外な感じもした。いまなら「エ★ァン★リオン」がそのやり玉に挙がりそうである。この作品も、対立項をつくっておいて、その関係性を描き出していったら、こんがらがってきてしまって、面倒だから全部亡ぼそうとしてみたが、それもかえって面倒だから、――結局、人それぞれだよね、みたいなところに着地した(――と思うことが病だ、という地点に着地した)。横溝的に言えばある種の敗戦である。



今日は、「シン・仮面ライダー」をみてきた。やっぱり、「シン・ゴジラ」と「シン・ウルトラマン」の何が不満て、案外人(主役級)が死なないことであったが、今回は大概シンだからすっきりしたなあ。ワシもライダー(原付)だから、明日から世界の平和を守ります。

「エヴ★ンゲ■オン」や「攻殻機動隊」の頃は、死に別れたママや彼に会いたいので人類を別次元で一体にして会いに行こうみたいな話は、アホか現実に帰れコラッ、でよかった。が、最近は本当に死んだ人に会えるみたいなメタバースみたいな何かでそれが実現してしまいそうなので、今回の仮面ライダーは妙にリアルだったな。あと、妙な技術の説明とか技術的な解決が政府筋のオタク的なテクノクラートだかによってはかられてなくて、とにかく殴り合いなのがよかったな。あと主役の泣き声がよかった。庵野監督は、たぶん、オタク的作為による合理的解決とやらにほとんど興味を失っているのである。「仮面ライダー」はテレビシリーズをほとんど見たことがないからわからないが、一番数が多いのは怪人とショッカーの方々でどんどんでてくるわけでしょう。つまり世の中にザコたちはたくさんいますというのがこの作品の主題であるなら、ザコがほとんどいなかった今回の映画は完全なる別物ということになる。庵野監督の作品はいつもそうだけど、そこらの普通の人たちが「普通の人たち」としてしか出てこない。対して、――さっき、第1號の第1話だけ見てみたけど、ショッカーの科学者のおじさんたちの演技がなかなかのもんだった。緑川教授もどこかまぬけで貧相。仮面ライダー以外はとにかくみんなどこかしらただの庶民個人としての肉感(イメージ)を持っていたのである。よき庶民としての市民と全体主義のショッカーがいただけであるが、それが本当に個々の個性をもって大量にいるのである。かえって、今度の映画においては彼らは一人もおらず、ライダーたちを含んだ少人数の怪人たちは、みんな大卒みたいな立派なこと言うんだけど、メンタルだけ豆腐みたいなかんじで、――時代なのであろうか、作家性なのであろうか。。。


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