メランコリア

メランコリアの国にようこそ。
ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

世界少女名作全集 21 春の調べ エミール・シュトラウス/著 岩崎書店

2024-02-17 14:06:48 | 
1973年初版 1986年 第11刷 中山知子/訳 山中冬児/装幀・口絵 武部本一郎/挿絵

「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します


しばらく恋愛や家族もので、ハッピーエンドな道徳的物語が続いた中
突然の青少年の悩みと自死の結末に落ち込んだ

心理学などで取り上げられることも多いのでは?

ドイツと日本はしつけ、教育、生真面目さなどの面で似ていると言われるのを耳にする
『車輪の下』を書いたヘルマン・ヘッセもドイツ人で
本書と似た青少年の成長と苦難を描いていた

私は青少年の立場で読んでいたから
「あなたのために言ってるんだから」という言葉の押しつけがましさを感じたが

親として子育てした経験があれば、また全然違うかも
「自分の経験を元にしないで何を基準にすればいいんだ」という気持ちも分かる



【内容抜粋メモ】

登場人物
父 リンドナー氏

ハイナー
ステファニー 妹

ヘレーネ・マーラー


●あこがれ
音のするものは、みんなハイナーの友だち
心が優しく、大きな音がすると逃げる
両親もハイナーがひどく音に敏感なことには気づいていた

父はたいてい、自分の息子を自分より出世させたいと考えるもの
リンドナー氏もハイナーを“検事さん”と呼び、将来を楽しみにしていた

母:
夫が聞かせる仕事の話は人と人との醜い争いごとばかり
私はこの子がこの子らしい新しい世界を広げていくのを見守るほうが楽しみ








●バイオリン
父の寝室のベッドの下にケースに入ったバイオリンがあるが
箱にはカギがかかっている








客間には母のピアノがあり、父が留守の時に母が弾いてくれる曲はどれも古風
ロッシーニ、ケルビーニ、ドニゼッティ、ペリーニなど

どれも娘時代に個人教授を受けて習ったもの
夫が音楽に通じていて、演奏会のあとに辛辣な批評をすることがあるため
夫の前では弾かなくなった

夫も、女は結婚すれば弾かなくなるものだと思っていた

ハイナーがピアノを教えてくれとせがむと

父:
ジプシーにでも売り飛ばすか?
どんどん外に出て、大きく、強くなって、1オクターブを叩ける指にならなきゃだめだ



●ヘレーネ
隣りに引っ越してきた少女はとてもお転婆
ヘレーネ:ろくでなしの、どろてき!(どういう意味だろう?









2人は仲良くなり、ヘレーネは赤い指輪をあげようとするがハイナーは断る

ハイナー:
“もらいものはヒトにくれるな 拾いものは人に返せ”てよく言うじゃないか
君が僕にくれて、僕が君に貸したことにすればいいだろう?

ハイナーが別の子や妹と遊ぶと嫉妬してイジワルをするヘレーネだったが
リンドナー夫人に優しくされて大好きになり
期待に応えようといろいろ手伝うようになる

ヘレーネの家では、理由もなく怒られて、押し入れに閉じこめたり
スリッパで顔を叩かれたりする


●バイオリン
クラスの子がピアノを習い始めたため、父にもう一度頼むと
勉強を怠けないことを約束する代わりに
子ども用の二分の一サイズのバイオリンをプレゼントする

バイオリンのほうがピアノよりずっと難しく、退屈なため
すぐに諦めるだろうと思っていたが、ハイナーは夢中で練習して、めきめき上達していく








●転任
ヘレーネの父が転任となり、引っ越さねばならなくなったヘレーネ
手紙を書くことと、たまに遊びに来ると約束して別れるが
汽車に乗る前に逃げだして、リンドナー家に来る

父のマーラー氏が迎えに来て
リンドナー夫人は、汽車が出るまで寝かせてあげてと頼む







引っ越した先から手紙が来る

ヘレーネ:私はやっぱりしょっちゅうぶたれて隅っこでゴハンを食べさせられます

その手紙も途絶えがちになる



●中学校
中学から科目が増えて、ラテン語、ギリシャ語、フランス語はいい点を取れても
数学はどうにも頭に入らないハイナー

ハイナー:学校ってずいぶん窮屈な所なんだなあ

大人と同じサイズのバイオリンを使えるようになり
父はついに寝室のバイオリンについての話をしてくれる

宿屋の主人から12グルデンで買ったが、いわくつきだった
3年前、音楽家がふらりとやって来て、真夜中にバイオリンを弾きだした
みんなは気が狂ったように踊った

翌日もバイオリンを弾いていて、ばったり倒れ、そのまま死んだ
それから、誰かがそのバイオリンを弾くと決まってケンカ騒ぎが起きる
とうとうある晩、ケンカの際に壊れてしまった








祖父はバイオリニストで、父もその血を受け継いだ
将来、法律家になるのに怠けてしまい、3年の2学期になって
切羽詰まって、ドリスおばさんにバイオリンを預かってもらい
なんとか試験に受かった
その後、バイオリンをベッドに押し込み、財布にカギを入れて弾くのを止めた

ハイナー:ああ、僕のこと、とても愛してくれているのね、お父さん!



●夏休み
ハイナーは、中学卒業を機に就職した同級生をうらやましく思う

ヘレーネは年に一度、ハイナーに会いに来て、すっかり美しく成長する
金色のロケットの中には、幼い頃の思い出の赤い指輪が入っているが
ハイナーには内緒にしている










●2つの道
ハイナーは、音楽か大学かの道で悩む

“人が学ぶのは学校のためではなく、生活のためである”

数学が得意だった父は、数学ができないのは、バカか怠け者だと思っている

町で偶然、数学の教師に会った際に息子について相談すると

教師:
ハイナーくんなら、やってやれないわけはない
勉強が足らんのですな
ハイナーくんは音楽に気が散るんじゃないですかね







この教師も数学を教えるために生まれたような人間で
数学ができない子の気持ちは分かるはずがなかった

父はやはり音楽のせいだと思い、ハイナーにアドバイスする

父:
そもそも人間は、努力するために生まれてきたんだ
来学年は二度目だから、ぐっとラクになるよ

ハイナー:
僕はどんなに頑張っても、これ以上出来ない
ムダだ! ひとりぼっちだ!
助けてくれる者は1人もいない
父でさえ、中退するのを“みっともない”と思ってるじゃないか
僕はとんまだ 大バカだ もうダメだ!

急にヘレーネを思い出し、停車場に着くのを待ってみるが来ない



●作品第一番
音楽のことを考えると気分が晴れて、思いついたメロディーをノートに書き留める
そして、毎日1時間は数学の勉強をすると言うと、父は喜ぶ

楽譜を製本屋で製本してもらい、「作品第一番」とタイトルをつけて
引き出しに大切にしまい、それを見るといつも励まされる








次の夏は無事に進級できたが、学生生活を楽しむ友だちを見るたび
自分だけ運が悪く、損をしている気がする

ヘレーネはすっかりあか抜けて、社交仲間や舞踏会などの話をするがついていけない
ハイナー:僕と君と住む世界が違ってしまったのさ



●カール・ノートワング
転校生で来たカールは、前の学校を退学になった
大柄で、要領がよく、みんなの人気者となる

ハイナーの隣りの席になると、世話を焼き始める









カール:
僕は学校ってのがどうにも嫌いなんだ
できるだけ図々しいお手本をキミに見せてやりたかった
学校だって俗っぽい社会なんだ そうそう正直一途で通るものか
ボクは詩が大好きだ
あの素晴らしいホーマーやゲーテも、学校の先生にかかると台無しになってしまう
君にはどうしても僕と一緒に卒業してほしいんだ

かしこき子らよ
知恵まずしき人々をば
知恵まずしきままにおくべし


ハイナー:
先生たちだって全力をあげて義務を尽くしてるんだ
学校に行っている以上は、やっぱり先生に従わなくちゃならない
だから僕は父の考えと経験を信じないわけにいかない
5年もたってから、言う通りにしてよかったと思うかもしれないもの
自分の感情と良心を偽るなんてできない

カール:君が心配なんだ さあ、兄弟の誓いをしよう!

2人は自分の右腕に傷をつけて、血をすすり合う







それからカールは夜昼構わず外から口笛を吹いて部屋に来て
2人は親友となる

ハイナー:カールの友情に応えたいのに、ボクには全然ゆとりがない!

クリスマスにもらった通知表を父に見せて、とうとう怒鳴られる

父:
お前が一人前になるまでは手綱を引き締めるのが親の義務だ
苦労なしで暮らそうなんて間違いだ
これからは学校のある日にピアノやバイオリンを触るのは禁止だ!

ハイナー:音楽は僕の空気だ 空気がなくては生きられないじゃないか!

父:
お父さんはただ、お前のためを思うのだよ
(困った奴だ あの頃の私とそっくりだ)


(ヒトが不快になる要因の1つに、自分の鏡を見ていることがあげられるよね









(私にも勉強嫌いの兄がいたけど、後になって「ムリに勉強させてくれたお陰だ」と感謝していた
でも、この子は普通と違うのではないかしら)



●屋根裏部屋の楽譜
2年最後の学期がはじまり、なんとかやる気を奮い起こそうとするが
気を抜くと音楽で頭がいっぱいになっていることに気づく









ハイナー:
生まれついたことはどうにならないじゃないか
でも父さんに訴えたところで「私も若い頃そんなことがあったが、自分で切り抜けた」と言われるだけだ

祖父の楽譜室が隣りにあることを思い出して、入ると
古い楽譜から新しいメロディーが次々湧いてくる
それからこの部屋に入りびたるようになる









ハイナー:
僕はまた落第だ あと3年も残って苦しまなきゃならない
ああ自由になりたい

数学教師の家を訪ねて、相談する

ハイナー:
僕は大学に行くつもりはありません
音楽家になりたいのに、3年も棒にふってもいいものでしょうか
僕の10分の1も勉強しないのに、可をもらっている生徒もいるじゃないですか
1人の生徒の運命を数字1つで決めるからには
生徒の悩みについてもっと親切に考えていただきたい


教師:君は私に説教するつもりか うぬぼれの思いあがりめ/激怒







ハイナー
(身ほどかわいいものはないんだ
結局、先生だってつまらないお人よしだから誤解もする
そんな先生に助けを求めるなんてバカだった

カールに打ち明けると

カール:
みすみす教授会を敵に回すようなものだ
いっそ、こてんぱんにやっつけちゃえばよかったんだ



●卒業式
ハイナー:要りもしない卒業証書のために、3年は長すぎます

父:
芸術家だって人間ができてなくて、立派な芸術ができるものか
学校を離れたら一体どこで人間を鍛えてもらえるんだ

ハイナー:
卒業して1か月も経てば数学もきれいサッパリ忘れてしまう
これがムダでなくて何でしょう

父:もう言うな お前は私を騙したんだ 苦労させるなあ、ハインリッヒ

ハイナーは犯しもしない罪を白状させられた囚人のようにすすり泣く
聖書に10歳のイエスが“されど両親はその語るをさとらず”という一節を思い出す

客間のピアノを弾いていると、父は激怒
父:お父さんたちの期待や心配なんか、なんとも思っちゃいないと言うんだろう!

ハイナー:お父さんを苦しめてまで生きていようなんて思ったことは一度もありません!

卒業式を途中で抜けたことを教師に注意されて怒られ
落第した通知表を投げつけたため、拾いもせず教室を出る








●森
ハイナー(森へ行ってなにもかも忘れてしまおう)

道すがら、馬車に乗ってリンドナー家に向かうヘレーネを見る
手に持ったバラの花びらを無意識にむしっているのも何か暗示的







ハイナー(魔法は消えてしまった さようなら、愛しいヘレーネ!)

森で疲れて眠りこんだハイナーは、夢を見る
ヘレーネ:なぜ私を好きだと言ってくれなかったの?

ヘレーネに似た神の娘:あなたはとても青いわ あなたも心を食べられたのね








3人の貧しい子どもが、父がケガをして働けないからイチゴ摘みをしている
ハイナー:僕が買ってあげよう さあ、一緒に食べよう!お礼になにか歌ってくれない?

(この辺は、サリンジャーの「バナナフィッシュに最良の日」みたいだ







ハイナー(これは夢なのかしら 体を離れた魂には、夢がほんとで、ほんとが夢だもの)

カールがよく来る樹に本があり、詩が書いてあり、感動する
ハイナー:地上ってこんなに美しいものだったのか!







その詩にメモをのこす
“さようなら、愛する友よ すこやかに生きてくれたまえ”



●1本のロウソク
カールもヘレーネも家族とともにハイナーが帰るのを待っている

カール:
ハイナーは帰ってきません
ハイナーならどこの楽団にもすぐ入れるし、楽々と食っていける
神さまから血といっしょに職業を授けられているんです
神さまにお任せするのが本当の道じゃありませんか

父:
“二十歳過ぎればただの人”
学生の頃にあいつはきっと偉大になると評判された人たちが
今は音沙汰なしというのが大多数だ
しつけてやれば、世の中に出て、たいていの苦労は乗りきれる
自分の子を育てるのに、自分の経験や知恵、考え方を基にしないでどうしろというのです?

カール:
あなたはハイナーの天職より、学校、自分の名誉が大事なんだ
それに、どうして彼にしつけが要るんです?
あんなに純粋で、うその言えない人間なのに










ハイナーは森で眠りからさめ、ウェーバーの♪いとしいひとは旅のそら をオカリナで吹く
ハイナー:あれは物売り女たちだ ちょうどいい時に通ってくれる

拳銃でいきなり心臓を撃ち抜いて倒れる









物売り女:
リンドナー家の坊ちゃんだ
警察なんか呼んだらダメだよ
お母さんの身になってごらんよ

物売り女はハイナーを車に乗せ、丁寧に前掛けで覆い、家まで運ぶ
父:黙っていてくれるね? ありがとう、みなさん
(こんな時ですら、世間の目を気にしている様子が出てる

息子を抱いて、ベッドに寝かせ、そのままつっぷしてしまう

カール:
笑っています でも、僕たちはいつになったら
また笑う気持ちになれるのでしょう

カールは足早に去る











解説

エミール・シュトラウス
1866年 ドイツ生まれ
家系をさかのぼると、ヨハン・シュトラウスの一家につながる
27歳で開拓民として南米のブラジルに渡り、苦しい労働生活をする

1902年 35歳で発表した本作が出世作となった
短編小説『うすぎぬ』は、ドイツ古今の短編の中でも指折りの名作として知られる


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