メランコリア

メランコリアの国にようこそ。
ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

鬼子母神 自選作品集 文春文庫 山岸凉子/著 文藝春秋

2023-05-14 13:34:34 | マンガ&アニメ
2022年初版

「マンガ感想メモリスト1」カテゴリー内に追加します

図書館に何冊か並んでいて気になったので
図書館にあるだけ借りてみた

説明文に“母子関係の闇を鮮烈に描き出して・・・”など
どれも自分の課題で引き寄せたのかも

『日出処の天子』もかなり複雑な話だけれども
その他の作品もなんともいえない闇の部分が描かれていてコワイ

私の好きな角田光代さんが解説文を書いていて
とても的確に世界観を説明している


【内容抜粋メモ】

夜叉御前
山深い一軒家に越してきて、すぐ、嫌な予感がする長女・紀子
寝室に仮面を着けた鬼女のような姿を見たが家族には話さずにいる

母と父方の祖母は寝たきり、弟妹はまだ幼く、父は仕事で不在なため
家の中で悲鳴を上げても誰も助けてくれないことが分かる

毎晩、黒いものがおおいかぶさり(ここで家族の異変に気づいた
母が父を斧で殺し、紀子も殺されそうになり逃げる







15歳で子どもを産み、頭に角が生えて見えるため祟りだと思う




紀子は母と同じ病院に入れられることになるが
そこにこそ鬼がいる気がする



鏡よ鏡・・・
美しい女優の母と比べて、娘の雪は肥満や肌荒れを気にしている




母には7人の恋人がいて、いつも周りの世話をしてくれている

ある日、母が全裸で鏡の中の自分を眺めまわしていて
白雪姫の美しさを憎む魔女に見える







業界の大物が家に来て雪を見て
母も同じ年ごろは大食いでニキビ顔だったと話す
「君もそのうちママのようなすごい美人になるよ」






その男性からのプレゼントを見ると母は激怒する
母の恋人との仲を引き裂き、雪が生まれると捨てられた

母が自分の若さに嫉妬していると気づくと
憑き物が落ちて、羨望から憎しみに変わる

雪は母同様、凄絶なダイエットをして変身し、アイドルとしてデビューする






コスモス
ぜんそく持ちの一人息子・裕太

母がたびたび「ママ、心配だわ」と言うたびに
忘れていた病気を思い出して発作を起こす裕太
(“心配してる”て呪いの言葉だよね








そのたびに会社にいる夫をわざわざ呼び出して病院に連れて行く母








父はほかに好きな女性がいるようで
家族から同情されているが
「私、負けないから」と突っぱねる

(それはもう愛情じゃなく執着だな



ブルー・ロージス
『ガラスの動物園』の引用が入る
ローラのお気に入りのガラスのユニコーンを落として
角が取れてしまい謝るジム

ローラ:
身体を手術したお蔭で、変わり者のひけ目を感じずに済む
これで角のない馬と気楽にお付き合いができるでしょう

植物的な男性を描くイラストレーターの川田は
新たに社に入った中嶋に惹かれるが

小さい頃から母に妹・明子と比較され、なにもちゃんと出来ない
このままじゃお嫁に行けないと言われて育ったことで自信がない







担当がケガをしたことで、代わりに中嶋がつき
飲みに行った勢いで一夜を過ごしてしまう

他人の目など気にせずに、そのままで魅力的だと言われて自信がつく
湯呑を落としちゃいけないと意識しすぎて落として割ったのも自己暗示

法事で帰省し、酒癖の悪いおじさんにお酌を強要されて珍しく断る

おじさん:
そんなんじゃ男に愛されませんよ
誰に口きいてるんだ女のくせに







これまでは、そういうものだとガマンして流してきてことが
不快だと自覚できている自分に驚く

川田:結婚するかも
明子:姉さんのことだから、すぐ離婚するかもしれないわねw

“これは私を縛る呪文だ 父母から受け継いだ呪文を妹が私にかける”

約束もなく中嶋のアパートを訪ねると、妊娠した恋人と一緒
彼女との関係が壊れていた時に
川田と出会ったといいわけをして謝る中嶋







1年ほど仕事を休み、再び描きはじめた絵は
男性像が変わったと評価される

編集者:以前の絵は、男性から言わせれば、現実にはいない絵だった


川田:
読者は嘘と分かっていてもお金を出して買い求める それが夢だから
けれど送り手は嘘を真実と信じているから筆を走らせることができる

明子の自信が子どもの頃に与えられたように
私は得そこなった自信を中嶋から与えてもらったんだ








自信は愛情だった
人は自分の器いっぱいに愛を満たされて
はじめて自分を愛することができる

私はまたきっと愛する人を見つけられる




鬼子母神
(今まで“きしぼじん”て読んでいたけど“きしもじん”なのか/驚

二卵性双生児の兄と妹・瑞季
兄は王子さま、妹は悪魔のように育てられる






菩薩のような母、表札のように存在感のない父






母の裏に鬼のような顔が見える妹





同じ100点をとっても、褒めるのは兄の顔を見ながら





客にお茶を出すのに失敗して「不器用」と言われて凹む
兄:それはお前の役目だろ 僕は勉強に忙しいの






悪い点をとると“父のように苦労する”とディスられる

妹は学校では冗談ばかり言う陽キャラ
兄:女子にウケても、男子にはモテないぞ






兄は塾を増やして、なんとかT大に受かり
祝賀パーティーで自慢する父に

母:いいところだけつまみ食いして
父母はとっくに家庭内離婚状態だとようやく気づく

大学で成績がふるわないため、登校拒否になる兄
「クヨクヨするな」と父が上から目線でアドバイスして
バットで襲いかかる







子育てや家事は母親の役目だと言って
妻に母親代わりをさせている大人になれない父に幻滅する

瑞季:
夫に失望した母には、それに代わるものが必要だった
それが兄だったのだ






兄は酒浸りになってもまだ王子さまを止められない
兄に尽くす母 母から離れられない兄

女優を目指して、兄と正反対のタイプの男性と同棲する瑞季

500人の子を持つハーリテイー
他人の子を食べるので鬼子母と呼ばれていた
一番愛していた末の子がいなくなり泣いていると

ブッダは、500人のうち1人をなくしても悲しいのに
少ない子を食べられる親はもっと哀しいだろうと説き
子を食べるのを止めて、子どもを守る鬼子母神になったという逸話

瑞季:
愛という名で飲み込まれた子どもは
自分の真の姿にいつ気がつくのだろうか






解説 奪われてはならないものについて 角田光代

「子を支配する母親・父不在の父権家庭・男性優位社会」
母親の顔色をうかがい、期待に応えようとするのは多くの子どもの特性
それをコントロールできる母親という存在の異様な力を見せつけられる
同時に、そこまで支配的になれる母親の女性としての無力さも

家を継ぐ男の子は優遇され、女の子はその犠牲となる

これらの作品が発表された80年代~90年代に
まだ「毒親」という言葉も概念もなかった

親は絶対的で、母性は正しく
それを否定するのは反社会的な言動

母親のかざす「女のしあわせ」論に違和感を感じ、罪悪感が伴った

私の親は家でマンガを読むのを禁じていたため
家を出て、一人暮らしをする20歳頃まで、きちんと読んだことがなかった

無自覚にせよ、親が禁止することで阻止していたのは何なのかと考えてしまう


「家父長制と父親不在の混同」
矛盾した家族形態が描かれる
親もそのまた親も、かれらの問題は連綿と継承され続け
個人を超えて、社会に浸透した文化といえる

女性は男性にお酌し、人前に出る時は化粧する

男らしさ、女らしさ、外見重視の風潮
少数者への偏見や差別を説明する時
ジェンダーバイアス、ルッキズム、マイノリティなどの横文字にならざるを得ず
据わりのいい日本語が見当たらないのは
いまだ変容、成長を嫌う社会の現状がある

人は人をたやすく支配でき
人は無自覚によろこんで支配される

そのほうが時として生きるのがラクだが
そこに自由、幸福はない

山岸さんの作品を読み終えた時、新しい地平に立ち
真の自由、幸福の新たな面を見せ続けてくれる



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