メランコリア

メランコリアの国にようこそ。
ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

ヴェルヌ全集 9 『月世界旅行』 ジュール・ヴェルヌ/著 集英社

2021-04-11 12:13:02 | 
ヴェルヌ全集 9 『月世界旅行』 ジュール・ヴェルヌ/著 集英社
鈴木力衛/訳
藤好鶴之助/装幀
滝瀬弘/挿絵・カット

「作家別」カテゴリー内「ジュール・ヴェルヌ」に追加します


これもレアな装幀シリーズから選んで、図書館で探してもらった
大田区図書館所蔵の1968年初版 定価が250円て!



“『月世界旅行』として便宜上まとめて解説するのは、
 ヴェルヌが19世紀後半に発表した長編小説の2部作:
1865年のDe la Terre à la Lune(直訳は『地球から月へ』
1870年のAutour de la lune(直訳は『月を周って』。以下『月世界へ行く』と称する)である。”


本書のタイトルから月探検物語が読めると思っていたら
月に行くまでの話で、その後の探検はまた別冊だった!
気になる!!










ヴェルヌは福音館書店のハードカバーと挿絵が大好きだが
そのシリーズには本作はなかった

<カーリル検索結果>

東村山市8件
海底二万海里 下 (福音館文庫)
J.ベルヌ福音館書店2005/05

海底二万海里 上 (福音館文庫)
J.ベルヌ福音館書店2005/05

二年間の休暇 下 (福音館文庫)
J.ベルヌ福音館書店2002/06

二年間の休暇 上 (福音館文庫)
J.ベルヌ福音館書店2002/06

神秘の島 下 (福音館古典童話シリーズ)
J・ベルヌ福音館書店1979

二年間の休暇 (福音館古典童話シリーズ)
J・ベルヌ福音館書店1978

海底二万海里 (福音館古典童話シリーズ)
J・ベルヌ福音館書店1973/10

神秘の島 上 (福音館古典童話シリーズ)
J・ベルヌ福音館書店1979



ソフトカバーだったのはガッカリだけれども
挿絵、表紙絵、カラー絵はステキ

とても柔らかい薄い紙でめくるのが何気にストレス/汗
本書も上下段に分かれていて、字が小さい

ヴェルヌのぐいぐい引き込まれる冒険ものを期待していたら
南北戦争後の大砲マニアが月に大砲を撃ち込んで
世界をビックリさせようって、、、

夢のある冒険とはなんだか違い
フランス人から見たヤンキーへの皮肉たっぷりな感じ

登場人物はみんな退役軍人で大砲に携わっていたため
手足がなかったり、頭蓋骨が補強されていたり
鉤の手先になりながらも大砲を使いたいためだけに
「戦争がしたい!」と嘆いてるって、正気?!

月に大砲を撃ち込むと発表してからの
人々の異様な騒ぎや、利権も絡んで
ものすごいスピードで進行する様は
眉村卓さんの描いた『EXPO'87』 眉村卓/著(角川文庫)のような狂気


月、地球、宇宙、大砲の話が長々と続いて専門的なため
ある程度の知識はあってもついていくのがやっと

彼らが大砲と言っているのは、今のロケットのことだよね?

ヴェルヌの博識さに脱帽し、未来を予測する想像力は
タイムマシンに乗った人間のようだといつも思う

その大砲に乗ると言い出すミッシェルは著者の投影ではないか







大好きな読書履歴カードのポケット付き








【内容抜粋メモ】(ネタバレ注意
















ガン・クラブ
南北戦争の際は、名もない商人もすぐ大尉、大佐になる時代だった

アメリカ人がヨーロッパ人を追い越したのは大砲の発射術

イタリア人が音楽家、ドイツ人が形而上学者であるように
アメリカ人は生まれながらの技師なのだ


アメリカ人はなにか思いつくと、協力するもう1人のアメリカ人を探す

ボルチモアに出来た「ガン・クラブ」もその1つ
大砲の発明者、最初に鋳造した人、最初に砲口を開けた人で結成された

戦争道具は巨大になった

「よき時代」には、36kgの砲弾が90mの距離で36頭の馬を殺した
ロドマン砲は、11km、500kgの砲弾で150頭の馬、300人を倒して
この世より住みよいあの世に追いやった

ガン・クラブ会員による犠牲者を計算すると
会員1人平均2375人殺したことになる

この世の最良の息子、皆殺しの天使の集まりだったのだ

帰還兵は松葉づえ、義足、義手、ゴム製のアゴ、銀製の頭蓋を
勇敢さのしるしにしていた



ある日、講和が調印され、畑に綿が育ち
クラブには人が来なくなった

トム・ハンターは、木製の義足が暖炉で炭になるのも気づかずに「退屈だ!」と叫ぶ

両腕のないビルスビーは「あの時代はよかった」と戦争を甘い恋愛のように回顧する

手が吹き飛んだブロンスベリー大佐も戦争が終わったことを嘆く

鉄の鉤手のJ.T.マストンは提案する

「ヨーロッパに大砲を持っていけば、何もしないよりマシでは?
 もはやタバコ栽培と鯨油の蒸留しかないのか!」

「国政を女にゆだねたのが屈辱だ」とか

「世界には戦争の原因がたくさんある
 イギリスがアメリカのものになってなぜいけない?」とか

ついに解散の危機となる



バービケイン会長の発表
クラブの大広間は正会員と通信会員でごった返す
その他は入れず、外に溢れる

建物は大砲博物館状態
あらゆるデザインが鉄砲やピストル、大砲で出来ているって狂ってる!
でも、今の全米ライフル協会(NRA)も似たようなものだ

『ボウリング・フォー・コロンバイン』(2002)


インペイ・バービケインは40歳(イラストではおじいさんに見える!
時計のように正確、不屈の精神、真面目、冒険好き

かの議会党員の末裔、材木業で莫大な財産を築いた
南北戦争で砲兵司令官でありながら、奇跡的に五体健全

バービケイン:
“実りなき平和”がすでに久しい
いかなる戦いでも、再び武器を取らせる戦争よ、きたれ!

我々の専門で、19世紀にふさわしい大実験がないか考えた
私は諸君とともに月を征服しようと企てる

今では多くの研究がされ、月面図もあるのに
“直接的交通”がまったくない

(月に関する説明が長々と続く

月を書いたエドガー・ポー
ピタゴラスの原理、月世界の人間との交流も可能!

砲弾を月に送る話を聞いて、割れるような拍手喝采が起きる
その後、胴上げされて、街中が祭り騒ぎとなる






■バービケイン発表の反響
月はアメリカの一部領土のような騒ぎ
これこそ国家的大事業だと話す

電信ですぐに全土に伝わり
『スミソニアン協会』などから援助の申し入れが殺到する


ケンブリッジ天文台の回答
様々な天体を発見した望遠鏡を持つケンブリッジ天文台に意見書を書き
その回答が来る

1.月に砲弾を送るのは可能か?
可能だが、秒速1万1000mの初速度が必要

2.地球との正確な距離は?
月は楕円を描いて周っているため
一番遠くなる時、近くなる時がある

3.月までの所要時間は?
13時間ほど
到着の約97時間前に垂直に発射すること

4.正確な月日
一番近く、天頂に来るのは来年の12月4日
これを逃せば、18年11か月後になる



月の物語
(さらに詳細な宇宙や月に関する知識と歴史のおさらい

引力の法則、星団、銀河、太陽、惑星、衛星の誕生

月の回転により12月を決めたこと(!

エジプトではイシス、ギリシア神話ではフェーベとして崇めた

月理学
太陽により光り、常に同じ面を見せていること

ガリレオは月に山があると発見
今ではその高さも正確に分かっている

空気がなく、したがって水もない
“月世界人”は地球人とは異なるであろうこと
(そこまで想像していたのか

一連の溝があり、昔の川なのか調べる必要があること



■合衆国において、無知でとおすわけにはいないことと、もはや、信じてはいけないこと
どんな市民も月に詳しくなり始め
騒ぎにのっかって一夜で大金持ちになる人までいて可笑しい

「もはや、もっとも視野の狭いオールドミスでも迷信を抱くことは許されなくなった」は差別的/汗

(さらに月の説明が続く

公転と自転
昼夜は月に1回 各354時間20分続く(!

秤動、食、真上に来る地域は28度線と赤道の間だけ

昔は彗星で、地球の引力に引かれたとか
月はいつか地球に落ちて来るなどの誤った説の訂正

ヤンキーたちは、宇宙の新大陸の一番高い頂きに
アメリカ合衆国の星条旗を立てること以外
なんの野心も持っていなかった
(苦笑



■砲弾讃歌
会長はクラブに実行委員会を設け
大砲、砲弾、火薬について4人で会議を始める
バービケイン会長、モーガン将軍、エルフィストン少佐、マストン


マストン:
これはわれら人類の大使なのです!
砲弾こそ、人類の力を示すデモンストレーション
創造者の神にもっとも近づくことができるのです!

光の速度、音の速度などは神がつくりたもうたもの
しかし、砲弾の速度は我々だ

大砲から発射される時は音速を超える(!


1日目は、秒速1万1000mの初速度について論議する
これまでの最高速度は、ロドマン砲の720m

砲弾の大きさや重さ、組成について話し合う

(と言っても、3人の話を聞いて
 結局は会長の意見が通る形

目的地に着くまで追跡する必要がある
ある種のテレスコープを使えば6000倍で見える

高い山にテレスコープを設置すれば
月を8kmの近さで見られる
(!

空洞砲弾なら堅牢で、アルミニウムなら軽い
球形なら自由に行動できると決まる

原価を抑えるにしても法外なお金がかかるのに
大丈夫だと言う会長



大砲の話
2日目は、発射装置について
空気抵抗、地球の引力、大砲の長さ、厚さを決める

地面に横倒しにして鋳型でつくる

大砲、曲射砲、臼砲を上手く組み合わせる
熱に溶けず、酸化しない素材を選ぶ


火薬の問題
火薬は14C、修道士シュヴァルツが発明し、命をもって贖った

1リットル燃やすと400リットルのガスが出る
硝酸木綿?を使うと決める


■2500万の味方にひとりの敵
準備が開始し、1年以上経つ(早いな

会長と昔、自尊心を争った永遠のライバル
大胆で、激しい性格のニコル大尉が反対してくる

南北戦争中、バービケインは砲弾鋳造者で
ニコルは装甲板鍛造者だった

バービケインが新しい弾丸を発明すると
ニコルは新しい装甲板を発明する

2人は友人のはからいで離れた場所に住むほどの仲の悪さ(w

戦争が終わった直後、ニコルは新しい装甲板を発明
25mから撃ってもいいとまで言ったがバービケインは拒絶

クラブの発表の際は、妬ましさと怒りは絶頂に達し
空気圏を脱することなど絶対に不可能
近隣に非常に危険な実験などと書簡を送り

資金が集まらなかったら1000ドル
数秒で落ちてきたら5000ドルなどと賭けを申し込み
バービケインは承知する


フロリダとテキサス
実験場所を選ぶには合衆国でなければならないと一致
28度線にあるのはフロリダとテキサス

この日から熾烈な場所争いが始まる
互いに自分の土地の優位点をあげ、敵の地の欠点を並べたてる

「テキサスには名物のマラリアがある」
「フロリダには慢性的な黒吐病がある」

「船の出入りに適した港がある」
「インディアンがまだ草原を走っている」

どちらが“本物の”アメリカか
フロリダはスペインやイギリスの領地だったのを500万ドルで合衆国に売りつけた
ルイジアナはナポレオンから1600万ドルで買ったものだ などなど

バービケインの家に膨大な量の脅迫状が来て
両者は殺し合いでもしかねない状況になる

バービケインは、テキサスには町が11あり、1つに絞るのにまた争いが起きる
フロリダに町は1つしかないという理由で「タンパタウン」に決めたことで
テキサスから恨まれることとなる(苦笑


■いたるところに
お金の問題では、全世界から寄付を集めることにする

国力で出せない国もあれば
見返りもないのに賛同して多額を寄付する国もあった

イギリスは特有の嫉妬から一銭も出さないってw
ロシアが巨額を出したのは意外

ロスチャイルド家など名だたる各国の金持ち、銀行から集まった
この名前を見れば、きっと、今も金持ちのままじゃないかなあ?

トルコは暦とラマダンの断食を月で決めているためそれなりに出した
メキシコは出来たばかりの国で1727フランがやっと

結果、クラブには544万ドル以上が入ったが
道具、労働者、彼らの住まい、工場など、いくらあっても足りない状態

南北戦争では大砲を1発撃つたび1000ドルかかった

(今でも戦争は最も大金が動く資金源になっているのは変わらない

鋳造はゴールドスプリング工場と契約
期限まで間に合わなかった場合、1日100ドル支払うという
延滞違約金条件が課せられたが
そんなことはあり得ないという自信


ストーンズヒル
人々の間でフロリダに関するあらゆる本が飛ぶように売れる(w

10月22日 タンピコ号はエスピーリト・サント湾に入る

バービケインは早速、馬に乗り、土地をくまなく調べる
セミノール族から守るため、50頭もの兵が来て驚く

あらゆる作物が実る豊かな平原が広がる
森林地帯には鮮やかな鳥たちがさえずる

バービケインは出来るだけ水脈を避けて
ダイナマイトで掘削する計画だけに集中している

(こうしてヒトはどの土地の自然、動物もなぎ倒して、原住民を追い出して
 リゾート地にしたり、工場から汚染物質をまき散らすことに
 まったく無頓着だったんだなあ・・・↓↓↓

そしてついにあらゆる条件に適った土地を見つける
「ストーンズヒル(石の丘)」と呼ばれる場所

バービケイン:われらの砲弾は、ここから太陽系へ飛び立つのだ!







■つるはしとこて
奴隷制度が廃止され、人々は自由になった(ちょっとだけね
高給を支払い、あらゆる職工のエリート労働者が集まり
町の人口は1日で2倍になる

あらゆる所から野次馬も集まり、町の人口は無限に膨れ上がる

バービケインはストーンズヒルとタンパタウンを結ぶ軽便鉄道を造る

彼自身、鉱夫であり、左官であり、技術者なため
あらゆる質問に明確に答えた

工事は8か月で完了するため、一糸乱れぬ秩序で始められた
6時間交代で日夜働く労働者








掘るにつれて変化する地層
穴の底には円形木枠を造る

重傷、何人かの死者も出した
(今の巨大建造物も人命の犠牲の上にあるものが多いだろうなあ

ついに期限の20日前に石工事は終わる


■鋳造祭
鋳鉄は1回の溶融では等質化しないため
2回目で精錬する

棒鉄を運ぶのに68隻の巨船が必要

6万トンの鋳鉄を同時に溶かすには
1200の反射炉でも多過ぎない

井戸の中央から垂直に鋳型を造る

きわめてデリケートな作業なため非公開にするというバービケイン
クラブの代表団だけが入るのを許される

金属の量だけ石炭を燃やす
大砲の合図で炉は一斉に溶鉄を流し込む

人工の雲は火山が噴火したように空を覆い
ハリケーンのような震動を起こした!



コロンビアード砲
冷却には数週間待たなければならず、イライラは頂点に達する

8月22日
バービケインらは鋳型にようやく近づいた

砲口内壁の研磨などの作業がただちに再開され
発表からわずか1年足らずで完全に垂直に立てられ大砲は完成した

ストーンズヒルは一般医公開され、人口は15万人を超え
人気のない砂浜には、街路、広場、学校、教会が建ち
生まれつきの商売人であるアメリカ人の本能が発揮された

新しい道路が町の周辺にのび、鉄道が諸州とつながった
町は「ムーンシティ」とあだ名がつく


砲弾の発射当日には、数百万人の見物人が予測された

それまで見物出来ずにいた人々は
バービケインを絶対主義者とののしったため

来る者は拒まないことにし、底に降りる料金を
1人5ドルとり、50万ドルを集めた

その前に、バービケイン含め10人の代表者が降り
豪勢な食事で祝った






■電報
砲弾発射日の2か月前
パリからバービケイン宛てに1通の電報が届いた

キョウジュウホウダンヲ、エントウガタロケットニカエヨ
ソレニノリテシュッパツセン
キセンアトランタニテトウチャクヨテイ

ミシェル・アルダン



■アトランタ号の船客
封書であれば無視できたが、電報だったため一気に知れ渡った
人々はあらゆる罵詈雑言を口走った
フランス人の言う「駄法螺(だぼら)」というやつだ

アルダンの名は全米に知れ渡り
バービケインは群衆に答えなければならなくなった

電報局に押しかけ、汽船アトランタ号に
同名のフランス人が確かに乗っていることが分かり
バービケインは砲弾鋳造の指令を一時見合わせた

アトランタ号が着いた日
500隻以上のボートが襲撃するかのように取り巻いた(w

「ここだ!」と声をあげた男は42歳、猫のような容貌(w
力強い筋肉質の体、闘争性はあっても所有欲のない人相

生まれながらの芸術家、向こう見ずな冒険家
不死身のどさ周り喜劇役者のようだった

金遣いの荒さは、もらうそばから使いきり、無欲そのもの

彼を引き留めようとすると
「森は、森のなかの木によってしか燃えない」という諺で笑う

つまり、バービケインとは正反対なのに
20年来の友人のように話しかける

アルダン:
月世界旅行ができるチャンスを見つけたから利用するだけのことですよ

僕は1度話したら絶対に撤回しない
だから何度も言わずに済むように同僚を集めてください

(1章を1人の人物の紹介に使うって
 ヴェルヌの形容する言葉の豊かさが存分に出ている/驚



公開討論会
30万人もが詰めかけ、最前列はクラブ会員
その後ろは話も聞こえず、姿も見えない状態

アルダンは仮に作られた檀上にあがり寛いで話し始める

(この章は彼の演説に充てられている
 ヴェルヌの真骨頂、未来から来たような演説っぷり

アルダン:
月旅行は遅かれ早かれ行われるべきだった
砲弾こそ未来の乗り物なのです

私は無知ですが、天文学上の数字には精通しています

人類は「ポピリウスの環」(?)に閉じ込められている

今回の速度で満足していいのか?
こんなものは、光か電流を媒介すればすぐ追い越される
すぐに惑星、恒星にも行けるでしょう

距離は相対的な言葉に過ぎない
私の旅行時間は97時間しかかからない!
すなわち、距離など存在しない!

20年もすれば、地球人の半数は月見物しているでしょう


(バービケインは宇宙に生物がいるか尋ねると

不要なものはこの世に存在しない
宇宙が住みうるなら、生物が住んでいるか
住んでいたか、住むことになるであろう

諸宇宙は居住可能だと思う

ある星は熱く、ある星は凍るように寒いに違いない
だが、地球の自然を見れば、どんな過酷な環境でも生きているものがいる
ほとんど全能だと言いうる

隕石を調べたら、炭素が見られた
炭素は有機体からしか生成されない

神の贖罪は全宇宙になされたと思われる


生物がいるかは知らない
だからこそ、私は見に行くのです!

地球があまり住み心地が良くないのは、軸が傾いているせい
地球は風邪、鼻カタル、肺炎の惑星だ

常に一定のよりよい環境に住んでいる木星人は
より優れた生物と考える

ああ、われわれの地球には一体何が欠けているのでしょう?
より傾きの少ない回転軸があれば十分なのです



■攻撃と反撃
計画の実際的な面について聞かせてくれ
と見知らぬ男が発言して注目を集める
「めくら蛇におじず」というやつだと巧妙に交わすアルダン

(この章は2人の科学的な激論で専門的すぎてついていけない

月には空気がないと断言する男
これまで観測されていない反対側に集まっていると予測するアルダン

男:発射時の反動で粉々になる
アルダン:落下速度は地球上の1/6になる

男:食料は? 水は?
アルダン:私は帰ってきません!

男:あなたの行動の責任をとる奴は他にいるんだ!

会長は彼が長年のライバル、ニコル大尉と分かり
聴衆の面前で恥をかいたことに対して決闘を申し込む

バービケイン:明日5時、シャースナウの森で ライフル銃をお忘れなく


■フランス人はどのように、ことをまとめるか
マストンはアルダンに2人の決闘、これまでの経緯を話し
2人で止めに森に入る

アメリカの決闘ほど恐ろしいものはない
藪ごしに相手を探し合い、茂みごしに撃ち合うのだ

村人に聞くと、1時間前にハンターが森に入って
銃声は聞いていないと答える

藪の中を2時間探しても見つからない
もう死んでしまったのでは?

鳥殺しの罠にかかった小鳥を懸命に逃がしているニコルを見つけて
感動したアルダンは「愛すべきお人だ!」と叫び、ある提案をしたいと言う

一方、バービケインは昨夜から寝ずに
発射時のショックをなくす公式を考えていて
3人に声をかけられてやっと気づく

バービケイン:ただの水を使えばいいんだ!

アルダンは2人を仲直りさせ、フランス流に飯を食いに行こうと誘う



●合衆国の新市民
ヤンキーが誰かに夢中になる時の熱狂さ加減は誰でも知っている
アルダンにはもはや休む暇がなくなった

「月ふうてん(ルナティック)」の使節は
生まれ故郷に帰りたいから一緒に連れて行ってくれとせがんだ
中には月語が喋れると言い張る者もいて、気違い呼ばわりするアルダン
(本当に話せたかもしれないよ

1693年の月食に大勢が死んだり
新月と満月に病弱な人たちの精神が昂ぶるなどの話もたくさんあり
神経系統の病気は月の影響を受けているという医師もいる(!

有名人には必ず、一旗あげるため見世物にしようと企む者がいる
アルダンの肖像画や写真などが世界中にゆきわたる


3人が乗り込むことになり、マストンも連れて行ってくれと頼むが断られる

アルダン:
とにかく、この大砲は誰にも危害を加えない
月の住人に戦争がどんなものかなんて教えたくないんだ

(マストンの手が戦傷により鉤のため


10月18日 予備試験は成功
爆弾を海に落として、ショックが軽減されると分かる
(その下にサンゴ礁や海洋生物がいるなんて頭にないんだな

まず1匹の猫(!)とマストンのペットのリスを入れて飛ばすと
猫は元気いっぱい飛び出してきたが、リスは猫に食われてしまっていた

ライカ犬を思い出す これを読んで真似したのだろうか?






政府はアルダンに合衆国市民の資格を与えた


●砲弾列車
アルダンは気球の中のように威厳ある姿勢を保ちたいと要望する
その上、芸術性を加えたほうがいいと提案する

バービケインは強力バネを使い、ショックをほぼゼロにすると話す
発射体上部の壁は皮革製の詰め物でカバーされ
月に着いたら、好きに出られるようにした

厚い円形ガラスを4つつけ、旅行中に観測できるようにした
3人分の水と食糧を入れても自由に動けるように高さは3mある

1人が約1時間に100Lの酸素を消費するため
3人と2匹の犬(!)分の酸素を再生する必要がある

空気は酸素+窒素でできている
呼吸すると酸素を消費し、窒素を吐き出し
等量の有害な炭酸ガスを含むが
塩素酸カリと腐食性カリがこれを解決する

これまでは下等動物ばかり実験されてきたが人間での試験はない
そこでマストンが名乗りをあげた

12日~20日まで密閉空間に閉じこもり
勝鬨をあげてマストンが現れる
入る前より少し太っていた(ww 彼の激しやすさは毎回笑える






ロッキー山脈のテレスコープ
観測は望遠鏡かテレスコープかで議論する
月を8kmの距離で見るには4万8000倍拡大する必要がある

この種のレンズ製作は非常に難しく、何年も要するため
止む無くテレスコープを使うことにする

どこに設置するか?
アメリカにはそれほど高い山はない
アパラチア山脈、ロッキー山脈
テレスコープもアメリカに設置するべきでロッキー山脈に決める

そこまで重い鉄材などを運ばなければならない

初めて反射鏡が月に向けられた時
観測者たちは好奇心と不安の妙な気持ちになる

テレスコープの視界に映るのは、人間か? 都市か?
見えたのは、すでに知られた火山などだった


●最後の綿密な準備
11月22日 出発の10日前
最も難関と思われる火薬の装填

南北戦争の時もアメリカ人は葉巻をくわえたまま大砲を装填した(苦笑
バービケインは労働者から一刻も目を離さなかった

点火は電池により行われる予定

11月28日 火薬は全部底部に安置された
ストーンズヒルに人が入るのを禁じても止められない

砲弾内には寒暖計、気圧計など必要最低限のモノを入れた

ライフル銃も忘れない
アルダン:用心にこしたことはない
(アメリカ人もフランス人も同じじゃん

北極の寒さから熱帯の暑さにいたる衣服も入れた
ニコルの優秀な猟犬2匹を連れて行くことにした

1年分の食糧、種、灌木、、、
水分は月にあると疑わなかった





アルダン:
月が天頂に来る1年に1度
コロンビアード砲に食糧を積んで打ち上げてくれ
地球の友人と通信する方法も考えだせないようじゃ
よほどのぶきっちょだ
 とも豪語する


巨大な砲弾はストーンズヒルに運ばれた
賭けに負けたニコルはバービケインに3000ドル支払った



発射!
12月1日 運命の日
500万もの見物人がフロリダに押し寄せ
あらゆる言語が飛び交いバベルの塔のような様相となる

そこには貧富の差も人種の差もなかった
ルイジアナ生まれのクレオール(植民地生まれの白人)と
インディアンの農夫が兄弟のように親しくなった

あらゆる屋台が出て、猿の蒸し焼き、ネズミの丸焼きなどが出た(!?


夜には声がほとんど聞こえなくなる

嫌な感じの無力感に胸が締めつけられ
「早く終わればいいな」と誰もが願った

月が出ると拍手喝采が起こり、3人が姿を現すと
自然と♪ヤンキー・ドゥードゥル が歌われる
アメリカ独立戦争前からの流行歌で国民歌とも言われる

アルダンは非の打ち所がない旅行者のいでたち
最後の瞬間まで具合の悪いことに根っからのパリっ子だったのだ
(どういう意味だろう?w


3人は砲弾に入り、ハッチが閉められた

息の音ひとつ聞こえない静寂の後
まばらな秒読みが起きた

「35秒 36秒(増えていくんだ)40 発射!」

前代未聞の恐るべき大爆発音が生じた






曇天
広大な地域の夜を昼に変え、本物の地震が発生した
見物人は立っていられず、最前にいたマストンは40mも吹き飛ばされた!

半径16kmの木々を根こそぎにし
船はぶつかり合って海底に沈んだ

群衆にもけが人が出たが万歳の叫びがあがる
みんなで望遠鏡などを覗くが砲弾は見えず
ケンブリッジ天文台の電報を待たねばならなかった

爆発により生じた膨大なガスで
気象が急変することは海戦でもしばし見られる現象だ


雲はロッキー山脈まで達して、観測不可能になった


12月4日になってもまだ曇り
海上に墜落したというニュースもない

ヨーロッパは快晴だが、望遠鏡の倍率が低く、結果が得られなかった

11日には下弦の月になってしまうため
1月3日まで待たねばならなくなる

しかし11日に熱帯地方特有の嵐が吹きまくり星空が見えた


新星

12月12日 ケンブリッジ天文台
ロングズピークの反射鏡により砲弾が認められた
月に到着せず、月引力により衛星となった

今後の2つの仮説
1.月の引力で到着する
2.永遠に月の周りをまわる

J.M.ベルファスト


3人の地球人に手をさしのべることは可能だろうか?

ただ1人、マストンだけが確信していた

彼はロングズピークの観測所を住居とし
一瞬も見失わないよう観測を続け
いつの日か彼らと再会できる望みを捨てなかった

マストン:
我々は彼らと連絡をとろう
彼らは天才なんだ
3人いれば、芸術、科学、産業のあらゆる手立てを宇宙に持ち込んだようなものだ
彼らがどう難関を切り抜けるか今に分かるさ!







<あとがき 鈴木力衛>

『地球から月へ』は「驚異の旅シリーズ」の1つ

今日では、もはや目前に迫った実現可能な月世界旅行も
つい最近までは夢物語でしかなかった

(これが書かれているのは昭和43年!

月への旅は神話、想像の世界でなされてきた
フランス文学ではシラノ・ド・ベルジュラック『月世界旅行記』(1657)

ヴェルヌは偉大な教師だとよく言われる
博学な知識を出し惜しみせず教えてくれる

若き日のヴェルヌはデュマ父子と出会い影響を受けた

文章の格調、形容の豊富さでは及ばない
登場人物も他の博士と同じタイプ

(これほど豊かな文章なのに?! デュマを読んで比較したい


現在、アメリカがロケット発射基地にしているケープ・ケネディ
コロンビアード砲を設置した場所から近い同じフロリダにある
(途中でそれに気づいて驚いた やっぱり真似した?




<ジュール・ヴェルヌについて>





詩人レーモン・ルーセル:
ヴェルヌを子どもに読ませるのは
ラ・フォンテーヌを読ませるのと同じように恐ろしい
その深い意味は大人でもごくわずかの人にしか分からない


戦争は科学の可能性を一挙に開花させる
100年前、ヴェルヌの世界に出て来た事象は
それぞれの役割を果たし始めている

人工衛星、ロケット、潜水艦、ラジオ、映画、
X線、自動車、飛行機、戦車、ヘリコプター、、、

(国のトップが常に最先端技術や発明をなにより先に軍事に利用しようとするからじゃん
 発明した当人はそんなことは想定していないはず


予言者とは未来を見る人のことです
「空想科学小説の父」と呼ばれるのも当然

少年の頃、従妹で初恋のカロリーヌに珊瑚の首飾りを贈ろうと
遠洋航海に出ようとして父に知られて失敗し
「これからは夢の中だけで旅行します」と誓った

大学資格試験にパスし、父の希望で法律の勉強をするが
この頃すでにソネットや芝居の台本を書いている

20歳で再びパリに出て
28歳、2人の子どもがある未亡人オノリーヌと結婚

1862年、友人の作家・写真家・漫画家・旅行家ナダールが
「巨人号」という大気球をつくる計画を発表したことが
ヴェルヌの生活を一変させる


釣り船サン・ミシェル号でセーヌ川を上り下りしながら
おびただしい作品を書き続ける

「私の生活は満ち足りている
 倦怠の入り込む隙はない
 ここには私の求めるほとんどすべてのものがある」


(言ってみたいセリフだねえ!


1902年、ヴェルヌは白内障になり、1905年、77歳で死去
生涯に書いた作品は小説80以上、戯曲15編

第二次世界大戦後10年間に世界で最も多く翻訳されたフランス作家は
デュマでもバルザックでもなくヴェルヌ

日本で翻訳されたのは明治11年の『新説八十日間世界一周』


この長い人気を支えたのは2種類の読者
未知なるものに飽くなき食欲を持つ少年たちと(少女も読むけど?
新鮮で豊富な話題を語る相手を見出す大人たち


ヴェルヌの墓の碑銘:不死と永遠の若さに

(それももうすぐ実現する日が来る
 ヒトが想像するものはすべて創造されるから




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