ロバート・ウェストール/作 徳間書店
※「作家別」カテゴリー内「ロバート・ウェストール」に追加します
久々のウェストール
読む前から面白いって分かっていてもその数十倍
小説でこれほど笑わせてくれる人は珍しい
もう1冊出ているのも読みたい
表紙はもろ宮さんワールドで個性が強いゆえに
小説の表紙としては、先日読んだ『エジプト十字架の秘密』の横尾忠則さん同様
中身の雰囲気を想像させる余地を奪ってしまう可能性が高い
宮さんは自他ともに認める戦闘機マニアで
ウェストールの小説には戦争にまつわるメカニックな話が時々出てくるから
好きなのかなと思ったり
ホールデンみたいな口調で日常を描いて
ホラー小説だとは思わずに読んでいると
どこか空恐ろしい気配が忍び寄ってきてドキドキするのがフシギ
【内容抜粋メモ】
■浜辺にて
サウスウォルドは疲れた人が冬を越して
英気を養うどころか、いろんな計画を立てて
元気な人が疲労困憊して帰っていく(w
アラン一家は、たくさんの荷物をボルボに積む
テニスラケット、ラジコンヨット、教会巡りのガイドブック・・・
どれも2週間も過ぎれば飽きて来る
毎朝、熱波が襲い、浜辺に行くしかない
どうしてこんな所まで来て寝ているんだろう
「現実感」を求めてぶらぶらするアラン
ゲーセンに行くと、暗く惨めになり、汚れてしまった気分になる
女の子たちの脳みそは、ただの乾ききった大きな砂漠だ
アランの現実感の源は海だった
肉体を波とひとつにして、水に浮かんだまま寝入ってしまう
浜に戻ると家族は寝ている
父さんの寝相はスティーヴン・キングのホラー小説の表紙にぴったりだ(爆
家族全員が寝ていると、仲間外れにされたような切ない気持ちになる
世界を動かすにはエネルギーが必要なのに
熱波が吸い取ってしまった
こちらに向かって歩いてきたビニキの少女から声をかけられる
「あなた、アランでしょ? そんな目で見てもムダ 私は死んでるんだから」
「なら、オレはバットマンだ」
女の子を笑わせるのは楽しい
自分に力があるように感じるから
「私は幽霊 沖で泳いで溺れたの」
手首をつかむと間違いなくそこにある でも恐ろしく冷たい
顔がわずかに霞んで見えた
「濡れた足で歩いてきたのに、砂はひと粒もついていないわ」
「俺の足にも全然ついてないぞ」
母のバッグを掴もうとして、まるでホログラムのように触れない
「あなたも死んでるからよ
浮かんでいる間に潮に流されて、モーターボートに轢かれてしまった」
アランは小さな街を走り回った
ちょうど海から自分の死体を引き上げている
「元気出しなさい 慣れちゃえば、そんなに悪くないわ」
妹を叱る両親
全部、怖い夢だったんだと思った
地方新聞の派手な見出しにあの少女の写真を見つけるまでは・・・
(怖いというより、逆に死ってこれくらいのものなんだって安心する
■吹雪の夜
16歳で無神論者のサイモンは、まさにホールデン調に喋る
校長は朝の礼拝で「憐み深い人々は幸いである」という聖書の一節を読んだ後
にこやかに生徒を呼び出して鞭で半殺しの目に遭わせる
カンタベリー大主教も、スペインの異端審問、魔女狩りも
神さまや教会は史上最悪の虐待好きだと分かる
(それは神さまじゃなく、ヒトの仕業だからだな
クリスマスを家で過ごすために帰り、スクルージの気分だった
ところがクリスマスの魔法にかかった
女の子の名前はアンジェラ・ホブスン
父は赴任したての牧師で、小さい町では
ミック・ジャガー、ビートルズが来たくらいの衝撃だった
痩せていて、女性らしい丸みはない
ショートヘアを七三に分けている
ものすごく信心深い考え方をした
アンジェラ:きれいなお野菜を見ると満たされた気持ちになるわ
サイモン:甘いな 品評会は血も涙もない戦いなんだ
児童心理学者のサイモンの母:なんにでも幻滅して裏を読む年ごろなんです
サイモン:
人が犯す罪は君のお父さんの飯の種だけど
本当は人格の崩壊が原因なんだ
必要なのは牧師じゃなく、精神科医だ
教会では小さな子どもたちが暴れて
親は♪ダビデの村の厩の内に を歌いながら
思わず口汚い言葉を漏らす(ww
その礼拝ですっかり美しくなったアンジェラに目が離せなくなり
キスしたいとかの裏切り者がぞろぞろ出てきた
教会の裏に引っ張り、キスをしたら鼻をぶつけて
キスの仕方を教えられて、初めて嫉妬を覚える
牧師館でハンドベルの練習があるから見に来てもいいと誘われる
誰かが遅かったり早かったりでケンカが始まり、ののしり合う
母さんは僕をからかいたくて仕方ないが父さんが許さなかった
普段から「男の子に恥をかかせたら、一生の敵を作る」と言っていた
アンジェラとともにクリスマスの慰問品を持って行くのを手伝うと話すと
母:去年なら、道端で飢え死にしても指1本動かさなかったでしょうに
当時は、牧師の妻になるのは、夫の教会区に嫁ぐことを意味した
娘も教会の子だから、うんざりするような「善行」の数々に参加するしかなかった
アンジェラは僕が聖職者になるのを期待しているのだろうか?
将来は科学者になると予防線を張った
サイモン:科学者は神が存在しないことを証明したんだ
ニューカムさんのところに慰問に行くと
ミンスパイをふるまい、面白い話を聞いて久しぶりに笑う
アンジェラ:
ミンスパイやワインは私たちのためだけに準備したのよ
たぶん、今週、あの家に来る人は他にいないわ
人はその価値を認めていない組織に加われるものだろうか?
教会学校のキリスト降誕劇のリハーサルもあんなに楽しいとは思わなかった
子どもたちは僕をまるで教師みたいに「先生」と呼んでくれた
アンジェラの父ホブスン牧師は
上司の主教のことを「くそ主教」とか言うことさえある(w
アンジェラが告解に一人で行くと言い張る
そこの若い男性から
「自分を生かしきっていない
人の美しさは自分のためのものじゃなく
周りの人たちのためにある」と言われて変身したと話す
アンジェラ:あなたのことはもう話したわ
サイモン:全部そいつに喋るつもりなんだな
アンジェラ:私はあなたの持ち物じゃないんだから
サイモン:明日、リーズに近づいたら、僕らの仲は終わりだ
これでもかという汚い言葉を吐いて去り
部屋のベッドで泣いて寝てしまった
父:入ってもいいか?
何年か前、2人で時間をかけて作ったスピットファイアをいじる父
いつもこの模型を休戦の白旗代わりに利用する
僕ら2人の幸せな思い出がたくさんつまっている
父:
牧師さんから電話があった
アンジェラがリーズから帰って、部屋に入ったままだそうだ
さて、どうしようか
「どうにかならないのか」や「こうすればうまくいくんじゃないか」じゃなく
一緒に考えてくれるのが父さんを好きな理由のひとつだ
アンジェラが告解に行った話をすると
父:どこの修道会だろう?
父さんらしい
絞首刑にされそうになっても
このロープはどんな材料で出来ているかと尋ねるだろう(w
途端に、堰を切ったように言葉が溢れた
父さんは最後まで黙って聞いてくれた
サイモン:
これじゃ、アンジェラは操り人形じゃないか!
本当はそんな奴いないんだ
どう生きるべきか指図するなんてペテンだろ
父:
誰か年上の人に相談したかっただけかも
こうして父さんと話してるみたいに
父さんの困ったところは、自分がとてもいい人間だから
世の中がみんないい人間ばかりと思っていることだ
父:
父さんはアンジェラが好きだ
牧師さんに話してもいいかな?
ケンカの理由は宗教的なものだって
アンジェラが家に来て謝るという妄想はムダに終わった
愛する一方で憎んでもいる感じ
日曜に牧師夫人のロバが来て
父さんの育てている多年草の葉を食べていたため
仕方なく牧師館まで連れていく途中
「ベツレヘムへ行くなら次の交差点を右折しろ」などと冗談を言われるww
父:気分転換になにかスカっとすることをしたら?
父とは何度か山に登ったことがある
天気予報ではあちこちに雪や強風、暴風のマークもある
外には神さまのためなら死んでもいいと思っているアンジェラが歩いていた
アンジェラ:私を心配する権利なんてないのよ
登山の装備を慌てて身に着けてアンジェラの後を追う
臨月のエリーとジャックの慰問に行くと言い
ヘアトン・エンドは村から一番遠い
雲の種類だけでも5、6種類あった
最初の突風で寒さが体温と命を奪おうとした
アンジェラの唇から血の気が失せ、頬に妙な斑点が浮き出たため
セーターを無理やりかぶせる
イングランドの谷間は北極に変わることがある
吹雪が真っ直ぐ向かってきた
辺りは夜のように暗い
サイモン:このままでは凍死する 歩くぞ バックパックにつかまれ
視界は閉ざされ2m先も見えない
コンパスの針、自分の脚、アンジェラの手の重みだけが
この世に残された慰めのすべてだった
栄養補給のためにミントケーキを食べる
普段ならとても食えたものじゃないが
山で疲労困憊している時はいくつでも食べられる
アンジェラ:お腹は空いてない 少し眠らせて
本で読んだことはあるが、目にするのは初めて 低体温症だ
放っておけばそのまま二度と目覚めない
思いつく限りの酷い言葉で
アンジェラの父、神を罵り目を覚まさせようとした
僕の脚が痙攣しはじめた 凍死の前触れだ
命を救ったのは、エリーの家の煙のにおいだった
家に入ると、風と雪が締め出された
低体温症の危険がなくなると激しい頭痛が始まることがある
エリー:
ジャックがトムと2人で外に出て、4時間になるのにまだ帰らないの
破水したわ
体を温めるため外から石炭や薪を運びこむ
2階の寝室は冷蔵庫のようで、暖炉の前に臭いマットレスを置く
サイモン:助けを呼んでくる
逃げ出そうとしているとは言えなかった
吹雪なら理解できる 筋肉などの男の問題だ
だが、エリーのうめき声は、謎めいた女性の世界だ
しばらく進むと眠気に襲われ、サーチライトに照らされた
村の獣医ジョー・ティザードに救われる
口がきけるようになるとエリーとアンジェラのことを伝えた
父:そのうち電話も通じなくなる
警察は頼りにならず、ヘリコプターも朝にならないと飛ばせない
道路はどこも通行止め
バスキン医師は往診に出ていて、奥さんが無線で連絡してくれて
ランドローバーで来てくれた
明かりはロウソクだけ
エリーの陣痛はどれくらいか、道の状態、雪の積もり具合などを正確に話して
ウィリー・スメイルスのショベル付きのトラクターを貸してもらう
サッカーくじを当てた成金で、村で一番嫌いな男だった
サイモンも行くと言い張り、みんなでエリーの家に向かう
牽引用のロープも役に立たず、燃料は凍りかけ
トラクターも倒れてしまう
歩いてエリーの家にたどり着くと
しわくちゃの赤ん坊が生まれていた
エリーの母がお産婆さんで、アンジェラは少し手伝っただけと言う
エリー:あとはジャックが帰ってくれれば・・・
バスキン:雪洞を掘って入っているといいが
ウィリーはエリーが好きで、傲慢さがなくなるといい人間だと分かる
男は臆病だからこそ命を危険にさらすことができる
男は希望があればどんな危険もおかす
でも、慰めしか与えられない時は女性の出番なのだろう
ウィリーは外で薪に軽油をかけて燃やしてみるが爆発してケガをする
ウィリー:眉毛なんてしばらくなくても構わない
みんな朝まで寝入ってしまい
サイモンが目を覚ますと、外はすっかり晴れていた
何もかも忘れるほど美しい朝だ
家の前に動物たちが集まっていた
牧師夫人のロバもいる
そうか・・・不覚にも涙があふれた
こいつらはみなキリスト降誕のように赤ん坊を見に来たんだ
今日はクリスマスの朝だ
バスキン先生、ティザード先生、父さん、ウィリーは
東方の博士というところだ
残念なのは、羊飼いのジャックがいないこと
そこにジャックとトムが帰ってくる
アンジェラ:
動物たちは寒さから身を守ろうとしていただけよ
でも、あなたは勇敢だった
まず熱いシャワーを浴びようと思っていると
アンジェラ:礼拝で感謝の祈りを捧げないの? と言われて教会に行った
教会は吹雪の後なのに人でいっぱいで温かく
2人とも眠ってしまった
牧師さんが「次は♪星降る夜に です」と言い、内心笑った
僕らが過ごした夜はほど遠かったからだ
(スカパラの曲名と同じだ/驚
僕らが結婚して20年以上になる
今でも神さまについて言い争っていると言ったら信じるだろうか?
■ビルが「見た」もの
目の見えないビルは、晴れた日はいつも庭のテラスの椅子に座り周りの音を聞く
最初の客はいつもの猫
お尻にトゲをつけていることからハッチン老人を訪ねたことが分かる
魚のにおいからフィッシュ&チップスの店にも寄った
郵便配達員のパーシーが来ると猫は去る
どの人も足音で分かる
ラジオを聴いていると、世界中の人が排他的になり
真の平和が遠のいていると不安に思うことがある
最悪なのは雨で1日が早く終わること
だがまだ雨は降らない
ビルは風や湿気で天気予報より正確に天気を当てた
息子のトムに電話をかける時刻だ
前社長のビルは機械の音ですべての進行状況が分かる
トムは相談事をあらかじめ用意している
どれも解決済み できた息子だ
だが2つの目を返してくれるなら
そのすべてを捨てても構わなかった
無一文からやり直してもいい
今あるものに感謝しよう あとはくそ食らえだ
カップルの声がする
少女はかぼそい声で、男は荒っぽい信用できない愚か者だ
治安判事をしていた時、この手の声をよく聞いた
強盗、殺人未遂、婦女暴行・・・
トレブと呼ばれた男は、ビルのリンゴを盗んで枝を折った
とっちめてやろうとして目が見えないことを思い出した
1990年は昔と違う
目の見えない人間を殴り倒すだろう
警察に電話しても、そいつがリンゴを盗む所を“見た”わけではないから証拠にならない
誰がビルの話を信じるだろう
目の不自由な人は、特別敏感な聴力を与えられると言われる
妻モニカが運転する車の音がした
彼女を心から愛しているが、モニカはこの世でもっとも騒々しい人間だ
耳に全神経を向けると、少女の悲鳴がたしかに聞こえた
コードレス電話で999を押した
警部が来て、若い女性を保護し、一命はとりとめた
男も捕まり、通報した特徴がぴったりだった
動揺して自白している
警部:なぜ分かったんです?
ビル:
スニーカーは敷石を踏む音で
ジーンズははいた脚がこすれる音
リンゴをとろうとして届かないのは小さいから
警部:参りました
■墓守の夜
やもめの墓地管理人セム
今日は埋葬が7件もあり忙しかった
夜中、いつものようにロッキングチェアがきしむ
16歳で交通事故で死んだメラニー:私を見ないで ひどい顔だから
セム:
霊魂の傷は時間が経てば治る
家に行ってご両親の様子を見てくるといい
いいにおいを残してあげれば、2人とも元気が出るはずだ
ここではなんでも好きなことが出来る
フロントガラスの傷が顔から薄れ始めてきた
老人クラブのマドンナだったウィニー:
あの男また来たのよ
ハリーがいたらけんかを始めるわ
セム:
まだ先へ行く気にはならないかね?
その男はあなたがここにいることが分かるから墓に来るんだ
ハリーはどうする?
ウィニー:待たせた分だけ有難みが増すわ
若いオートバイ乗りの男::オレは悪くない
この世に戻りたい激しい思いが部屋を満たす
セム:先月、ある男の葬式でオートバイが117台集まった
男:テリーだろ?
セム:テリーの話では、仲間の半分が先へ行ったらしい
男:
俺はてっきり、みんな雲に座って竪琴でも弾いてるんだと思った
じゃあ、行くわ ありがとよ!
ジャック:
なんでオレなんだ?
タバコも酒も飲まない 不摂生な奴は他にいるじゃないか
向こうへ行ったらここへは下りて来れないんだろ?
それじゃ会社と同じだ
はい神さまかしこまりました
今度は言い返せない 辞表も出せない
そんなの民主的じゃない 独裁だ(w
妻のドリスはまだ若い
葬式の食べ残しのサンドイッチを披露宴に回すぞ
医者のミルリックは太っていたため棺桶を墓におさめるのに一苦労した
彼にはいろいろ噂があった
女性が服を脱ぐ時の目つきが嫌だとか
子どもの失踪事件が毎年起きたが証拠はなかった
ズボンについた土を払うと敷物に落ちる音がした
ミルリック:
すべては“意志”の問題だ
超人的な意志があれば死なずに済む
死者はあなたを傷つけることができないと思ってるね
だが、私は死んでいない
私を夜が明ける前に掘り出してもらいたい
中は空だ その後、墓穴を埋め戻して
棺を家に運べは報酬ははずむ
私は甥を名乗って、財産を継ぎ生きていくのさ
断ったら、あなたは私のように不死の体になる
あの世に行くことは決してない
そこにバイク乗りの男が来た
男:
よく夜中にお前んちの窓ガラスを割りに行ったな、ブタ野郎
あんたの正体は分かってた
そのうちみんなもあんたを疑うようになるぜ
怒ったミルリックの手は男の体を通り抜けた
ウィニー:
あんたは一度も女性と付き合ったことがないでしょ
子どもにイタズラするしか能がないんだわ
「私たちの町から出て行け」という合唱が起きる
ミルリックが足を踏み出して姿を消した
朝の光が射し込んでいる
男:
昔の映画みたいにやるんだ 杭はどの木でもいい
今やらないと、二度は助けてやれない と言って消える
悪い夢を見たと思ったが、敷物の上に土を見つけて
セムは薪小屋に向かって歩き出した
■屋根裏の音
ドイツ軍の爆撃機がイギリス侵攻に備えて写真を撮っている
マギーの父も海の向こうで戦っている
男の子たちは「ダンケルクごっこ」に夢中だ
校長先生まで機関銃で撃ち、手りゅう弾を投げるマネをする
ダンケルクは遊びじゃない お父さんたちがいるんだから
マギーの母は「何もかも最後はうまくいく」と言って
笑いながら泣いていたため
頭がおかしくなったのではないかと心配した
家に帰ると母は仕事に行った後だった
明かりが見えないための厚手のカーテンと
窓ガラスに星型に貼ったテープの部屋にいると
天井がきしむ音がした
スパイか破壊工作員か
いびきが聞こえ、警察に行く前に確かめようと
はねあげ戸を開けると父がいた
父:
父さんたちは置き去りにされたんだ
将校たちは逃げてしまった
オレたちは爆撃を受け、機銃掃射にもあった
あんな所へは戻りたくない
イギリス軍はおしまいだ
お父さんも脱走兵なんだ
ここにいるつもりはない
あんなに好きだったのに、今はお父さんが大嫌いだ
マギー:誰がイギリスを守るの?
父:死んだほうがよかったというのか?
マギー:そうよ! と言って家の外に出た
父は軍に戻ったが、終戦まで武器補給基地に勤務した
戦後もあの出来事について誰も何も言わなかった
マギーは夢だったのかもしれないと思うようになった
■最後の遠乗り
ジェロニモの本当の名前はウェストン
カーペットはマット
マニアックはワルぶってヘルズ・エンジェルズの格好をマネしている
リーダーのジェロニモの合図で集まった
電器屋のショーウィンドウを覗く中年
一体何の罰なんだ? つける薬はないのか?
カーペット:オレは50になったら自殺する
「お前の走りじゃ20歳にもなれねえさ」
誰も行く場所を思いつかず、修道女の幽霊が出る修道院の話をすると
そこに向かうことになる
敷地で騒いでいると「出て行け! ゴロツキども!」と叫ぶ男に
指を2本立てて見せる
男はデカい犬をけしかけ、ジェロニモを襲おうとしたため
ガタイのいいカーペットが革手袋を口に入れ、3発殴り、腹を蹴った
男:動物愛護協会に訴えてやる!
(どんなに神に仕えても罵詈雑言を吐くところがヒトらしいw
子どもはそんな大人の矛盾に嫌気を感じるんだ
カーペット:その『バスカヴィル家の犬』(!)を連れて行けよ
反対側に別の出入り口があると教えて行くと
ヒルマン・インプが停まっている
4つのヘッドライトを一斉に当てると、裸の太った男が睨みつけ
車内で女と言い争いになった
ジェロニモの合図で静かにエンジンをかける
さすが日本製
マニアックのバイクはイギリス製のため
何度もキックペダルを押さなきゃならない
インプは猛烈な勢いであとを追ってきた
バイクは400cc以上だから10秒で置き去りにできるが
わざと時速100キロで流した
インプは遅れたマニアックを生垣に突っ込ませて殺す気だ
ジェロニモが気づいて車の前に出て、挑発した
乗馬学校に入り、インプはドラム缶などを吹き飛ばしたため
近所の家に明かりが灯り、パトカーが来た
バイクには傷ひとつなく、インプのバンパーは傷だらけ
運転している男は裸で、金髪の女がセーターを後ろ前に着ようとしている
カーペットの家に帰ると、いつも母親がたっぷりの朝飯を作ってくれる
息子が生きて帰ってくれて嬉しくて仕方ないんだろう
月曜の晩、親父からジェロニモが死んだと聞いた
職場から帰る途中、安全運転していたところに
泥酔した運転手がさえないモーリス・マリーナで轢いたらしい
オレたちはバイク乗りらしい葬式をした
霊柩車のあとを170台のバイクが2列で時速20キロで走った
(さっきの幽霊の話と同一人物かと思ったけど違うんだな
クラブの事務長フレッドは40代半ばで
成人した息子もクラブのメンバーだ
裁判の傍聴に行くと、轢いた男は免許取り消しで
6か月の禁固刑 執行猶予2年
なぜだ? 男が裁判官と同じゴルフクラブの会員だからか?
マニアックは町を出て、船員になった
オレは先週、結婚の約束をした
ジェーンはバイクを売って車を買う条件をつけた
だからオレはこれが最後だと思い
修道院跡を飛ばしている
オレは電器屋のショーウィンドウを覗き込む中年男に近づいていく
本当にそれでいいんだろうか?
■真夜中の電話
「サマリタン協会」は、自殺願望や悩み相談に電話で応じるボランティア団体
語源は、聖書に登場するサマリア人で、道端で倒れていた知らない人を助けたことによる
私はボランティアを切らさないよう手配する係で
もっとも厄介なのはクリスマスイヴの夜勤
最低2人がルールで、1人での夜勤は禁じられているが
リーダー的存在のハリーがずっと1人でやっていた
ハリーは74歳になり、体を壊して医者に止められ
ようやくジェフとメグの新婚夫婦を見つけることが出来た
ちょうど0時になると、相談用の電話が鳴り
厳しく教えられた通りの口調で出る
「サマリタン協会です どうしましたか?」
相手の名前を尋ねてはいけない
最初、偽名を名乗る相談者も多い
女性の声:
あの人は私を殺す気よ
私を川に突き落とすのよ 事故に見えるでしょうね
周りに人家はないし、私は脚が悪くて
この辺では、睡眠薬より川や放水路への身投げが多い
ジェフはスタッフ長のトムに電話すると
今はもう閘門を通る船はないからイタズラだと言って寝てしまう
また電話が鳴り、夫は村の女とできていて自分は邪魔になった
夫が戻るまでの間、話し相手になってほしいと言われる
この出来事以来、夫婦でシフトに入れるのは絶対しないことになったが
メグに言われて、独断で行動するという規則を破って
ジェフは閘門を見に行く
8つあるうち、人気がないのは2つ
ヤクストンブリッジの閘門に着き
ひと目でここではないと分かる
氷も霧もない
事務所に戻ると、メグはとり憑かれた顔をしている
メグ:モーズビー・アビーの閘門よ
トイレに行くと言って、車で現場に向かうメグ
トムを呼び、近道を行くと、メグは川に入ろうとしていて
先に歩く女性の背中が見えた
メグを捕まえると、夢から覚めたように
女性の名前はアグネス・トッドだと言う
トム:
21年前、レッジという男が閘門の管理人をしていて
妻のアグネスが行方不明になったと届け出た
メグの死体が見つかったのは1か月後
レッジは村の若い女と付き合っていたが
他殺か自殺かは分からず釈放されて町を出た
この出来事の1年後、ハリーは亡くなった
トムは間際にアグネスのことを聞くと
20年間、毎年、イヴになるとアグネスから電話があったと分かる
局に発信元を調べてもらうと、今は廃墟で電話線も切れた
モーズビーの閘門の番号だった
今年のイヴは事務所に5人いたが電話はなかった
トム:
たぶんハリーが連れて行ってくれたんだ
彼こそは「よきサマリア人」だった
■羊飼いの部屋
(読んでいて、とても腹の立つ短編
山に登る時は、余程パートナーを選ばなきゃ命に関わる
ペニン山脈にある必「羊飼いの部屋」と呼ばれる納屋に向かう僕とアラン
僕は幼い頃、この部屋で過ごし
羊飼いの仕事に憧れていた
監督生のアランは、小柄で、バスを降りるとすぐに愚痴たらたらになる
農場主は、宿泊代をタダにする代わりに
子羊と母羊の面倒をみてくれと頼む
アランは「薪がない」「便所はどこだ」と文句を言うばかりで体を動かさない
僕は小川の水でお茶を淹れるよう教え、コンビーフやスパムの缶詰を開ける
羊の様子がおかしい
空がブキミな紫色に染まり、酷い吹雪になると分かる
(前の作品に似ている とにかく猛吹雪の状況が過酷/汗
雹に打ち付けられ、60cmもある壁の
あらゆる隙間から凍るような風が吹き込む
アランは涙目で何の役にも立たないばかりか文句ばかり
持ってきた服や靴下、目出し帽をすべて身に着け
紅茶に砂糖、コンデンスミルクをたくさん入れる
自然を前に自分が虫けらのような存在になった気がした
暖炉の前に敷いた寝袋にもぐると
アランはトイレに行きたいと言って漏らしてしまう
僕は腹の底から憎しみがわいた
アラン:もう薪がない!
風雪が少しやんだ隙に薪を運んでいて突然足が滑り
3mも落ちて、下が雪でなければ死んでいた
アランが水漏れしてるバケツを置きっぱなしにしたせいだ
部屋の前に来るとドアを閉めて鎖をかけていた
また吹雪になり凍死しかけた頃にドアが開く
アランが濡れた薪を入れたために暖炉の火が消えていた
トラクター用の揮発性燃料をぶちまけて炎が立ち上る
アラン:どうかしてるぞ
僕:朝飯を作ったらどうだ
アラン:手がかじかんで缶切りが使えない
腹にものを入れると気が晴れた
動物はそういう風にできている
羊が心配になり様子を見に行くと
5匹の子羊が産まれ、1匹はぼろきれのように死んでいた
僕が死なせてしまったんだ
本物の羊飼いなら寝ずに面倒をみただろう
これ以上死なせないぞと誓った
干し草を運んでいると、アランはドアを閉めてしまう
奴は笑って楽しんでいる
農場から誰か助けに来た芝居をするとドアが開き
僕は奴を吹き溜まりに突き飛ばし、ドアを閉めた
このまま放っておけば始末できる
吹雪による殺人は完全犯罪だ
だが、一生頭から離れず
裁判での奴の両親の顔に耐えられないだろう
互いに憎み合ったまま寝袋に入った
また子羊の様子を見るため、アランを前に歩かせる
刑務所の看守の気持ちが少し分かった気がした
また血まみれの子羊が死にかけている
命が次第に消えるのを目の当たりにして悲しくてたまらない
突然、子羊は立ち上がり、指につけたコンデンスミルクを舐めた
もう大丈夫と思った時、急に暖炉めがけて走り出し
アランは止めようとせず、僕は飛びついて助ける
アラン:子羊の丸焼きも悪くなかったけどな
吹雪はその後、3度も遅い、食料も全部食べてしまった
浅い眠りから覚めるとようやく晴れて
納屋の周りにお腹を空かせた馬、牛などが集まる
干し草を投げてやると美味しそうに食べた
僕はこの世のものをすべて愛している
ただ1つの例外を除いて
僕:キャンプが嫌いならどうして来ようと思ったんだ?
アラン:君に憧れていたからさ
吹雪はもう来ないと分かると、昨夜の恐ろしさを忘れかけていた
人の心には素晴らしい自浄作用がある
アランは1人で山を下り
農場主ジャックがトラクターでやって来た
ジャック:
湖水地方では3人死んだらしい
連れは4時のバスを待つと言ってた
ここに残って、羊の面倒をみてくれんか?
僕:いや、やめときます
アランと同じバスで帰るハメになり
後ろと前で離れて座った
新学期が始まり、奴とは二度と口をきかず
廊下ですれ違う時も互いにじっと見るだけだった
■女たちの時間
私は小さい頃、可愛らしい男の子で
小さな漁村の人たちからやたらキス攻めにあっていた
カイゼル髭の祖父のキスを嫌がり
トロール船の機械油臭い父のキスを嫌がった
9歳の時、戦争が始まり
兵士たちが休暇から帰る金曜の夜の駅や
あちこちの野原で恋愛表現のキスが頻繁に見られた
寝室の外でキスすることは売春婦かなにかのように
近所の母親たちはのけ者にした
魚網には危険な磁気機雷がかかり
ドイツ軍のユンカース爆撃機の機銃掃射に遭う男たち
母親たちはもっと酷く疲れていた
子どもに食べさせるために自分は食欲がないと言い
Dデーの日も死んだ兵士の母を思って泣いた
隣りのマージーはまだ18歳で新婚だったが
空軍兵の主人が戦死し、親兄弟がいないため
近所で代わる代わる食事を持っていった
14歳の私は彼女に少し気があった
週に3度ほど通って他愛のない話をして元気づけた
春になると、アメリカ軍がジャップ(日本軍)を叩いたとか
「祝戦会」の声が聞こえだした
チャーチルが勝利宣言をする随分前から終戦を感じていた
男の半分は戦地にいて、残りは子どもか老人だけ
ダンスの伴奏のために即席のバンドが結成された
盛大な焚火のために、防空壕の二段ベッドなどを燃やした
女たちはみんな歩くというより踊っていた
イギリス国歌や♪ドーヴァーの白い崖 が1日中流れた
バンド演奏が始まると父らは皆漁に出てしまい
15歳の私が引っ張りだこになる
女たちの笑顔は、まるで喜びは永遠に尽きず
世界は生まれ変わったといわんばかりだった
闇と死の世界は終わった
女たちが男たちの後についていく世界は終わりを告げたのだ
マージーが新しいワンピースを着て現れ、私を抱き寄せた
踊りながら外に出ると、女たちの顔はいいんだよとうなづいていた
その夜、何をしたか墓の中まで持っていく秘密だ
そのことで私になにか言う者は誰もいない
マージーは引っ越して、羽振りのいい船長と結婚した
けれど私はしばしば思い出す
女たちの好きにしていいと言われたら
世界をすっかり作り変えてしまうのではないだろうか
時をさかのぼれば、そんな女たちの時間があったのではないかとさえ思う
もしそうなら、今とは随分違っていただろう
(『女が世界を変える』みたいなタイトルの映画があったね
【訳者あとがき 内容抜粋メモ】
翻訳されたのはほとんど長編で
80を超える短編は一部しかなかったが
徳間書店の児童書創刊20周年にあたり2冊出ることになった
長年ウェストール作品を編集し
生前、親交もあった徳間書店の上村令さんら3人で18編にしぼって訳した
それぞれに訳者の個性が表れていると思う
作品には作家の生い立ち、経験が色濃く反映している
ウェストールは第二次世界大戦中、9~15歳の多感な時期を過ごした
大学で美術を専攻し、彫刻を学び、美術教師となる
『機関銃要塞の少年たち』は、自分の12歳頃の戦時下の体験を
12歳になる一人息子クリストファーに語るために書かれ
いきなりカーネギー賞を受賞 46歳の時
専業作家になったのは55歳
1993年、63歳で死去
(こうしてヒトの一生を書くと、まったく短いものだと分かる
自分のやりたいことをしないと、あっという間だ
<作品ごとの補足>
『浜辺にて』
この海水浴場は実在する
『吹雪の夜』
ハッピーエンドはウェストールには珍しい
『ビルが「見た」もの』
“Blind Bill”は“Billy Blind”というイングランドの伝承歌謡に登場する
善良な妖精の名からとったものだろう
『墓守の夜』
ウェストールの生まれた町ノース・シールズにある墓地と思われる
『屋根裏の音』
戦争中に子どもだった人たちの体験談を募った
『空爆下の子どもたち 戦時下の子ども時代の記憶』という記録集も編集している
イギリスはドイツ軍の空襲は受けても侵略はされなかった
戦争が人の心に負わせる傷にはいろいろあると考えさせられる
『最後の遠乗り』
18歳になった息子クリストファーはオートバイ事故で亡くなり
妻ジーンは心身を病み、1990年に自死
今作は死後間もなく書かれたと思われる
無軌道に見える若者の工場労働者としての一面や
無条件の友情、歳をとることへの不安や嫌悪を描き
ヤングアダルト作品として素晴らしい
『真夜中の電話』
ウェストールも地域のサマリタン協会責任者を務めていた
『羊飼いの部屋』
ピーターラビットで有名な湖水地方と
ペニン山脈に挟まれたエデン谷の村
イギリスでは、私的な場所での喫煙を年齢で制限する法律はなく
今は18歳、その前は16歳でタバコを買えた
アルコール購入可能なのは18歳以上、成人同伴なら16歳
私的な場所では5歳から飲める(驚
『女たちの時間』
ウェストールの男性観、女性観がうかがえる
この20年でウェストールの評価が日本でも高まった
どの国、いつの時代の人間にも共通する心理が描かれているためだろう
だが、やはり若い読者にこそ読んでもらいたい
※「作家別」カテゴリー内「ロバート・ウェストール」に追加します
久々のウェストール
読む前から面白いって分かっていてもその数十倍
小説でこれほど笑わせてくれる人は珍しい
もう1冊出ているのも読みたい
表紙はもろ宮さんワールドで個性が強いゆえに
小説の表紙としては、先日読んだ『エジプト十字架の秘密』の横尾忠則さん同様
中身の雰囲気を想像させる余地を奪ってしまう可能性が高い
宮さんは自他ともに認める戦闘機マニアで
ウェストールの小説には戦争にまつわるメカニックな話が時々出てくるから
好きなのかなと思ったり
ホールデンみたいな口調で日常を描いて
ホラー小説だとは思わずに読んでいると
どこか空恐ろしい気配が忍び寄ってきてドキドキするのがフシギ
【内容抜粋メモ】
■浜辺にて
サウスウォルドは疲れた人が冬を越して
英気を養うどころか、いろんな計画を立てて
元気な人が疲労困憊して帰っていく(w
アラン一家は、たくさんの荷物をボルボに積む
テニスラケット、ラジコンヨット、教会巡りのガイドブック・・・
どれも2週間も過ぎれば飽きて来る
毎朝、熱波が襲い、浜辺に行くしかない
どうしてこんな所まで来て寝ているんだろう
「現実感」を求めてぶらぶらするアラン
ゲーセンに行くと、暗く惨めになり、汚れてしまった気分になる
女の子たちの脳みそは、ただの乾ききった大きな砂漠だ
アランの現実感の源は海だった
肉体を波とひとつにして、水に浮かんだまま寝入ってしまう
浜に戻ると家族は寝ている
父さんの寝相はスティーヴン・キングのホラー小説の表紙にぴったりだ(爆
家族全員が寝ていると、仲間外れにされたような切ない気持ちになる
世界を動かすにはエネルギーが必要なのに
熱波が吸い取ってしまった
こちらに向かって歩いてきたビニキの少女から声をかけられる
「あなた、アランでしょ? そんな目で見てもムダ 私は死んでるんだから」
「なら、オレはバットマンだ」
女の子を笑わせるのは楽しい
自分に力があるように感じるから
「私は幽霊 沖で泳いで溺れたの」
手首をつかむと間違いなくそこにある でも恐ろしく冷たい
顔がわずかに霞んで見えた
「濡れた足で歩いてきたのに、砂はひと粒もついていないわ」
「俺の足にも全然ついてないぞ」
母のバッグを掴もうとして、まるでホログラムのように触れない
「あなたも死んでるからよ
浮かんでいる間に潮に流されて、モーターボートに轢かれてしまった」
アランは小さな街を走り回った
ちょうど海から自分の死体を引き上げている
「元気出しなさい 慣れちゃえば、そんなに悪くないわ」
妹を叱る両親
全部、怖い夢だったんだと思った
地方新聞の派手な見出しにあの少女の写真を見つけるまでは・・・
(怖いというより、逆に死ってこれくらいのものなんだって安心する
■吹雪の夜
16歳で無神論者のサイモンは、まさにホールデン調に喋る
校長は朝の礼拝で「憐み深い人々は幸いである」という聖書の一節を読んだ後
にこやかに生徒を呼び出して鞭で半殺しの目に遭わせる
カンタベリー大主教も、スペインの異端審問、魔女狩りも
神さまや教会は史上最悪の虐待好きだと分かる
(それは神さまじゃなく、ヒトの仕業だからだな
クリスマスを家で過ごすために帰り、スクルージの気分だった
ところがクリスマスの魔法にかかった
女の子の名前はアンジェラ・ホブスン
父は赴任したての牧師で、小さい町では
ミック・ジャガー、ビートルズが来たくらいの衝撃だった
痩せていて、女性らしい丸みはない
ショートヘアを七三に分けている
ものすごく信心深い考え方をした
アンジェラ:きれいなお野菜を見ると満たされた気持ちになるわ
サイモン:甘いな 品評会は血も涙もない戦いなんだ
児童心理学者のサイモンの母:なんにでも幻滅して裏を読む年ごろなんです
サイモン:
人が犯す罪は君のお父さんの飯の種だけど
本当は人格の崩壊が原因なんだ
必要なのは牧師じゃなく、精神科医だ
教会では小さな子どもたちが暴れて
親は♪ダビデの村の厩の内に を歌いながら
思わず口汚い言葉を漏らす(ww
その礼拝ですっかり美しくなったアンジェラに目が離せなくなり
キスしたいとかの裏切り者がぞろぞろ出てきた
教会の裏に引っ張り、キスをしたら鼻をぶつけて
キスの仕方を教えられて、初めて嫉妬を覚える
牧師館でハンドベルの練習があるから見に来てもいいと誘われる
誰かが遅かったり早かったりでケンカが始まり、ののしり合う
母さんは僕をからかいたくて仕方ないが父さんが許さなかった
普段から「男の子に恥をかかせたら、一生の敵を作る」と言っていた
アンジェラとともにクリスマスの慰問品を持って行くのを手伝うと話すと
母:去年なら、道端で飢え死にしても指1本動かさなかったでしょうに
当時は、牧師の妻になるのは、夫の教会区に嫁ぐことを意味した
娘も教会の子だから、うんざりするような「善行」の数々に参加するしかなかった
アンジェラは僕が聖職者になるのを期待しているのだろうか?
将来は科学者になると予防線を張った
サイモン:科学者は神が存在しないことを証明したんだ
ニューカムさんのところに慰問に行くと
ミンスパイをふるまい、面白い話を聞いて久しぶりに笑う
アンジェラ:
ミンスパイやワインは私たちのためだけに準備したのよ
たぶん、今週、あの家に来る人は他にいないわ
人はその価値を認めていない組織に加われるものだろうか?
教会学校のキリスト降誕劇のリハーサルもあんなに楽しいとは思わなかった
子どもたちは僕をまるで教師みたいに「先生」と呼んでくれた
アンジェラの父ホブスン牧師は
上司の主教のことを「くそ主教」とか言うことさえある(w
アンジェラが告解に一人で行くと言い張る
そこの若い男性から
「自分を生かしきっていない
人の美しさは自分のためのものじゃなく
周りの人たちのためにある」と言われて変身したと話す
アンジェラ:あなたのことはもう話したわ
サイモン:全部そいつに喋るつもりなんだな
アンジェラ:私はあなたの持ち物じゃないんだから
サイモン:明日、リーズに近づいたら、僕らの仲は終わりだ
これでもかという汚い言葉を吐いて去り
部屋のベッドで泣いて寝てしまった
父:入ってもいいか?
何年か前、2人で時間をかけて作ったスピットファイアをいじる父
いつもこの模型を休戦の白旗代わりに利用する
僕ら2人の幸せな思い出がたくさんつまっている
父:
牧師さんから電話があった
アンジェラがリーズから帰って、部屋に入ったままだそうだ
さて、どうしようか
「どうにかならないのか」や「こうすればうまくいくんじゃないか」じゃなく
一緒に考えてくれるのが父さんを好きな理由のひとつだ
アンジェラが告解に行った話をすると
父:どこの修道会だろう?
父さんらしい
絞首刑にされそうになっても
このロープはどんな材料で出来ているかと尋ねるだろう(w
途端に、堰を切ったように言葉が溢れた
父さんは最後まで黙って聞いてくれた
サイモン:
これじゃ、アンジェラは操り人形じゃないか!
本当はそんな奴いないんだ
どう生きるべきか指図するなんてペテンだろ
父:
誰か年上の人に相談したかっただけかも
こうして父さんと話してるみたいに
父さんの困ったところは、自分がとてもいい人間だから
世の中がみんないい人間ばかりと思っていることだ
父:
父さんはアンジェラが好きだ
牧師さんに話してもいいかな?
ケンカの理由は宗教的なものだって
アンジェラが家に来て謝るという妄想はムダに終わった
愛する一方で憎んでもいる感じ
日曜に牧師夫人のロバが来て
父さんの育てている多年草の葉を食べていたため
仕方なく牧師館まで連れていく途中
「ベツレヘムへ行くなら次の交差点を右折しろ」などと冗談を言われるww
父:気分転換になにかスカっとすることをしたら?
父とは何度か山に登ったことがある
天気予報ではあちこちに雪や強風、暴風のマークもある
外には神さまのためなら死んでもいいと思っているアンジェラが歩いていた
アンジェラ:私を心配する権利なんてないのよ
登山の装備を慌てて身に着けてアンジェラの後を追う
臨月のエリーとジャックの慰問に行くと言い
ヘアトン・エンドは村から一番遠い
雲の種類だけでも5、6種類あった
最初の突風で寒さが体温と命を奪おうとした
アンジェラの唇から血の気が失せ、頬に妙な斑点が浮き出たため
セーターを無理やりかぶせる
イングランドの谷間は北極に変わることがある
吹雪が真っ直ぐ向かってきた
辺りは夜のように暗い
サイモン:このままでは凍死する 歩くぞ バックパックにつかまれ
視界は閉ざされ2m先も見えない
コンパスの針、自分の脚、アンジェラの手の重みだけが
この世に残された慰めのすべてだった
栄養補給のためにミントケーキを食べる
普段ならとても食えたものじゃないが
山で疲労困憊している時はいくつでも食べられる
アンジェラ:お腹は空いてない 少し眠らせて
本で読んだことはあるが、目にするのは初めて 低体温症だ
放っておけばそのまま二度と目覚めない
思いつく限りの酷い言葉で
アンジェラの父、神を罵り目を覚まさせようとした
僕の脚が痙攣しはじめた 凍死の前触れだ
命を救ったのは、エリーの家の煙のにおいだった
家に入ると、風と雪が締め出された
低体温症の危険がなくなると激しい頭痛が始まることがある
エリー:
ジャックがトムと2人で外に出て、4時間になるのにまだ帰らないの
破水したわ
体を温めるため外から石炭や薪を運びこむ
2階の寝室は冷蔵庫のようで、暖炉の前に臭いマットレスを置く
サイモン:助けを呼んでくる
逃げ出そうとしているとは言えなかった
吹雪なら理解できる 筋肉などの男の問題だ
だが、エリーのうめき声は、謎めいた女性の世界だ
しばらく進むと眠気に襲われ、サーチライトに照らされた
村の獣医ジョー・ティザードに救われる
口がきけるようになるとエリーとアンジェラのことを伝えた
父:そのうち電話も通じなくなる
警察は頼りにならず、ヘリコプターも朝にならないと飛ばせない
道路はどこも通行止め
バスキン医師は往診に出ていて、奥さんが無線で連絡してくれて
ランドローバーで来てくれた
明かりはロウソクだけ
エリーの陣痛はどれくらいか、道の状態、雪の積もり具合などを正確に話して
ウィリー・スメイルスのショベル付きのトラクターを貸してもらう
サッカーくじを当てた成金で、村で一番嫌いな男だった
サイモンも行くと言い張り、みんなでエリーの家に向かう
牽引用のロープも役に立たず、燃料は凍りかけ
トラクターも倒れてしまう
歩いてエリーの家にたどり着くと
しわくちゃの赤ん坊が生まれていた
エリーの母がお産婆さんで、アンジェラは少し手伝っただけと言う
エリー:あとはジャックが帰ってくれれば・・・
バスキン:雪洞を掘って入っているといいが
ウィリーはエリーが好きで、傲慢さがなくなるといい人間だと分かる
男は臆病だからこそ命を危険にさらすことができる
男は希望があればどんな危険もおかす
でも、慰めしか与えられない時は女性の出番なのだろう
ウィリーは外で薪に軽油をかけて燃やしてみるが爆発してケガをする
ウィリー:眉毛なんてしばらくなくても構わない
みんな朝まで寝入ってしまい
サイモンが目を覚ますと、外はすっかり晴れていた
何もかも忘れるほど美しい朝だ
家の前に動物たちが集まっていた
牧師夫人のロバもいる
そうか・・・不覚にも涙があふれた
こいつらはみなキリスト降誕のように赤ん坊を見に来たんだ
今日はクリスマスの朝だ
バスキン先生、ティザード先生、父さん、ウィリーは
東方の博士というところだ
残念なのは、羊飼いのジャックがいないこと
そこにジャックとトムが帰ってくる
アンジェラ:
動物たちは寒さから身を守ろうとしていただけよ
でも、あなたは勇敢だった
まず熱いシャワーを浴びようと思っていると
アンジェラ:礼拝で感謝の祈りを捧げないの? と言われて教会に行った
教会は吹雪の後なのに人でいっぱいで温かく
2人とも眠ってしまった
牧師さんが「次は♪星降る夜に です」と言い、内心笑った
僕らが過ごした夜はほど遠かったからだ
(スカパラの曲名と同じだ/驚
僕らが結婚して20年以上になる
今でも神さまについて言い争っていると言ったら信じるだろうか?
■ビルが「見た」もの
目の見えないビルは、晴れた日はいつも庭のテラスの椅子に座り周りの音を聞く
最初の客はいつもの猫
お尻にトゲをつけていることからハッチン老人を訪ねたことが分かる
魚のにおいからフィッシュ&チップスの店にも寄った
郵便配達員のパーシーが来ると猫は去る
どの人も足音で分かる
ラジオを聴いていると、世界中の人が排他的になり
真の平和が遠のいていると不安に思うことがある
最悪なのは雨で1日が早く終わること
だがまだ雨は降らない
ビルは風や湿気で天気予報より正確に天気を当てた
息子のトムに電話をかける時刻だ
前社長のビルは機械の音ですべての進行状況が分かる
トムは相談事をあらかじめ用意している
どれも解決済み できた息子だ
だが2つの目を返してくれるなら
そのすべてを捨てても構わなかった
無一文からやり直してもいい
今あるものに感謝しよう あとはくそ食らえだ
カップルの声がする
少女はかぼそい声で、男は荒っぽい信用できない愚か者だ
治安判事をしていた時、この手の声をよく聞いた
強盗、殺人未遂、婦女暴行・・・
トレブと呼ばれた男は、ビルのリンゴを盗んで枝を折った
とっちめてやろうとして目が見えないことを思い出した
1990年は昔と違う
目の見えない人間を殴り倒すだろう
警察に電話しても、そいつがリンゴを盗む所を“見た”わけではないから証拠にならない
誰がビルの話を信じるだろう
目の不自由な人は、特別敏感な聴力を与えられると言われる
妻モニカが運転する車の音がした
彼女を心から愛しているが、モニカはこの世でもっとも騒々しい人間だ
耳に全神経を向けると、少女の悲鳴がたしかに聞こえた
コードレス電話で999を押した
警部が来て、若い女性を保護し、一命はとりとめた
男も捕まり、通報した特徴がぴったりだった
動揺して自白している
警部:なぜ分かったんです?
ビル:
スニーカーは敷石を踏む音で
ジーンズははいた脚がこすれる音
リンゴをとろうとして届かないのは小さいから
警部:参りました
■墓守の夜
やもめの墓地管理人セム
今日は埋葬が7件もあり忙しかった
夜中、いつものようにロッキングチェアがきしむ
16歳で交通事故で死んだメラニー:私を見ないで ひどい顔だから
セム:
霊魂の傷は時間が経てば治る
家に行ってご両親の様子を見てくるといい
いいにおいを残してあげれば、2人とも元気が出るはずだ
ここではなんでも好きなことが出来る
フロントガラスの傷が顔から薄れ始めてきた
老人クラブのマドンナだったウィニー:
あの男また来たのよ
ハリーがいたらけんかを始めるわ
セム:
まだ先へ行く気にはならないかね?
その男はあなたがここにいることが分かるから墓に来るんだ
ハリーはどうする?
ウィニー:待たせた分だけ有難みが増すわ
若いオートバイ乗りの男::オレは悪くない
この世に戻りたい激しい思いが部屋を満たす
セム:先月、ある男の葬式でオートバイが117台集まった
男:テリーだろ?
セム:テリーの話では、仲間の半分が先へ行ったらしい
男:
俺はてっきり、みんな雲に座って竪琴でも弾いてるんだと思った
じゃあ、行くわ ありがとよ!
ジャック:
なんでオレなんだ?
タバコも酒も飲まない 不摂生な奴は他にいるじゃないか
向こうへ行ったらここへは下りて来れないんだろ?
それじゃ会社と同じだ
はい神さまかしこまりました
今度は言い返せない 辞表も出せない
そんなの民主的じゃない 独裁だ(w
妻のドリスはまだ若い
葬式の食べ残しのサンドイッチを披露宴に回すぞ
医者のミルリックは太っていたため棺桶を墓におさめるのに一苦労した
彼にはいろいろ噂があった
女性が服を脱ぐ時の目つきが嫌だとか
子どもの失踪事件が毎年起きたが証拠はなかった
ズボンについた土を払うと敷物に落ちる音がした
ミルリック:
すべては“意志”の問題だ
超人的な意志があれば死なずに済む
死者はあなたを傷つけることができないと思ってるね
だが、私は死んでいない
私を夜が明ける前に掘り出してもらいたい
中は空だ その後、墓穴を埋め戻して
棺を家に運べは報酬ははずむ
私は甥を名乗って、財産を継ぎ生きていくのさ
断ったら、あなたは私のように不死の体になる
あの世に行くことは決してない
そこにバイク乗りの男が来た
男:
よく夜中にお前んちの窓ガラスを割りに行ったな、ブタ野郎
あんたの正体は分かってた
そのうちみんなもあんたを疑うようになるぜ
怒ったミルリックの手は男の体を通り抜けた
ウィニー:
あんたは一度も女性と付き合ったことがないでしょ
子どもにイタズラするしか能がないんだわ
「私たちの町から出て行け」という合唱が起きる
ミルリックが足を踏み出して姿を消した
朝の光が射し込んでいる
男:
昔の映画みたいにやるんだ 杭はどの木でもいい
今やらないと、二度は助けてやれない と言って消える
悪い夢を見たと思ったが、敷物の上に土を見つけて
セムは薪小屋に向かって歩き出した
■屋根裏の音
ドイツ軍の爆撃機がイギリス侵攻に備えて写真を撮っている
マギーの父も海の向こうで戦っている
男の子たちは「ダンケルクごっこ」に夢中だ
校長先生まで機関銃で撃ち、手りゅう弾を投げるマネをする
ダンケルクは遊びじゃない お父さんたちがいるんだから
マギーの母は「何もかも最後はうまくいく」と言って
笑いながら泣いていたため
頭がおかしくなったのではないかと心配した
家に帰ると母は仕事に行った後だった
明かりが見えないための厚手のカーテンと
窓ガラスに星型に貼ったテープの部屋にいると
天井がきしむ音がした
スパイか破壊工作員か
いびきが聞こえ、警察に行く前に確かめようと
はねあげ戸を開けると父がいた
父:
父さんたちは置き去りにされたんだ
将校たちは逃げてしまった
オレたちは爆撃を受け、機銃掃射にもあった
あんな所へは戻りたくない
イギリス軍はおしまいだ
お父さんも脱走兵なんだ
ここにいるつもりはない
あんなに好きだったのに、今はお父さんが大嫌いだ
マギー:誰がイギリスを守るの?
父:死んだほうがよかったというのか?
マギー:そうよ! と言って家の外に出た
父は軍に戻ったが、終戦まで武器補給基地に勤務した
戦後もあの出来事について誰も何も言わなかった
マギーは夢だったのかもしれないと思うようになった
■最後の遠乗り
ジェロニモの本当の名前はウェストン
カーペットはマット
マニアックはワルぶってヘルズ・エンジェルズの格好をマネしている
リーダーのジェロニモの合図で集まった
電器屋のショーウィンドウを覗く中年
一体何の罰なんだ? つける薬はないのか?
カーペット:オレは50になったら自殺する
「お前の走りじゃ20歳にもなれねえさ」
誰も行く場所を思いつかず、修道女の幽霊が出る修道院の話をすると
そこに向かうことになる
敷地で騒いでいると「出て行け! ゴロツキども!」と叫ぶ男に
指を2本立てて見せる
男はデカい犬をけしかけ、ジェロニモを襲おうとしたため
ガタイのいいカーペットが革手袋を口に入れ、3発殴り、腹を蹴った
男:動物愛護協会に訴えてやる!
(どんなに神に仕えても罵詈雑言を吐くところがヒトらしいw
子どもはそんな大人の矛盾に嫌気を感じるんだ
カーペット:その『バスカヴィル家の犬』(!)を連れて行けよ
反対側に別の出入り口があると教えて行くと
ヒルマン・インプが停まっている
4つのヘッドライトを一斉に当てると、裸の太った男が睨みつけ
車内で女と言い争いになった
ジェロニモの合図で静かにエンジンをかける
さすが日本製
マニアックのバイクはイギリス製のため
何度もキックペダルを押さなきゃならない
インプは猛烈な勢いであとを追ってきた
バイクは400cc以上だから10秒で置き去りにできるが
わざと時速100キロで流した
インプは遅れたマニアックを生垣に突っ込ませて殺す気だ
ジェロニモが気づいて車の前に出て、挑発した
乗馬学校に入り、インプはドラム缶などを吹き飛ばしたため
近所の家に明かりが灯り、パトカーが来た
バイクには傷ひとつなく、インプのバンパーは傷だらけ
運転している男は裸で、金髪の女がセーターを後ろ前に着ようとしている
カーペットの家に帰ると、いつも母親がたっぷりの朝飯を作ってくれる
息子が生きて帰ってくれて嬉しくて仕方ないんだろう
月曜の晩、親父からジェロニモが死んだと聞いた
職場から帰る途中、安全運転していたところに
泥酔した運転手がさえないモーリス・マリーナで轢いたらしい
オレたちはバイク乗りらしい葬式をした
霊柩車のあとを170台のバイクが2列で時速20キロで走った
(さっきの幽霊の話と同一人物かと思ったけど違うんだな
クラブの事務長フレッドは40代半ばで
成人した息子もクラブのメンバーだ
裁判の傍聴に行くと、轢いた男は免許取り消しで
6か月の禁固刑 執行猶予2年
なぜだ? 男が裁判官と同じゴルフクラブの会員だからか?
マニアックは町を出て、船員になった
オレは先週、結婚の約束をした
ジェーンはバイクを売って車を買う条件をつけた
だからオレはこれが最後だと思い
修道院跡を飛ばしている
オレは電器屋のショーウィンドウを覗き込む中年男に近づいていく
本当にそれでいいんだろうか?
■真夜中の電話
「サマリタン協会」は、自殺願望や悩み相談に電話で応じるボランティア団体
語源は、聖書に登場するサマリア人で、道端で倒れていた知らない人を助けたことによる
私はボランティアを切らさないよう手配する係で
もっとも厄介なのはクリスマスイヴの夜勤
最低2人がルールで、1人での夜勤は禁じられているが
リーダー的存在のハリーがずっと1人でやっていた
ハリーは74歳になり、体を壊して医者に止められ
ようやくジェフとメグの新婚夫婦を見つけることが出来た
ちょうど0時になると、相談用の電話が鳴り
厳しく教えられた通りの口調で出る
「サマリタン協会です どうしましたか?」
相手の名前を尋ねてはいけない
最初、偽名を名乗る相談者も多い
女性の声:
あの人は私を殺す気よ
私を川に突き落とすのよ 事故に見えるでしょうね
周りに人家はないし、私は脚が悪くて
この辺では、睡眠薬より川や放水路への身投げが多い
ジェフはスタッフ長のトムに電話すると
今はもう閘門を通る船はないからイタズラだと言って寝てしまう
また電話が鳴り、夫は村の女とできていて自分は邪魔になった
夫が戻るまでの間、話し相手になってほしいと言われる
この出来事以来、夫婦でシフトに入れるのは絶対しないことになったが
メグに言われて、独断で行動するという規則を破って
ジェフは閘門を見に行く
8つあるうち、人気がないのは2つ
ヤクストンブリッジの閘門に着き
ひと目でここではないと分かる
氷も霧もない
事務所に戻ると、メグはとり憑かれた顔をしている
メグ:モーズビー・アビーの閘門よ
トイレに行くと言って、車で現場に向かうメグ
トムを呼び、近道を行くと、メグは川に入ろうとしていて
先に歩く女性の背中が見えた
メグを捕まえると、夢から覚めたように
女性の名前はアグネス・トッドだと言う
トム:
21年前、レッジという男が閘門の管理人をしていて
妻のアグネスが行方不明になったと届け出た
メグの死体が見つかったのは1か月後
レッジは村の若い女と付き合っていたが
他殺か自殺かは分からず釈放されて町を出た
この出来事の1年後、ハリーは亡くなった
トムは間際にアグネスのことを聞くと
20年間、毎年、イヴになるとアグネスから電話があったと分かる
局に発信元を調べてもらうと、今は廃墟で電話線も切れた
モーズビーの閘門の番号だった
今年のイヴは事務所に5人いたが電話はなかった
トム:
たぶんハリーが連れて行ってくれたんだ
彼こそは「よきサマリア人」だった
■羊飼いの部屋
(読んでいて、とても腹の立つ短編
山に登る時は、余程パートナーを選ばなきゃ命に関わる
ペニン山脈にある必「羊飼いの部屋」と呼ばれる納屋に向かう僕とアラン
僕は幼い頃、この部屋で過ごし
羊飼いの仕事に憧れていた
監督生のアランは、小柄で、バスを降りるとすぐに愚痴たらたらになる
農場主は、宿泊代をタダにする代わりに
子羊と母羊の面倒をみてくれと頼む
アランは「薪がない」「便所はどこだ」と文句を言うばかりで体を動かさない
僕は小川の水でお茶を淹れるよう教え、コンビーフやスパムの缶詰を開ける
羊の様子がおかしい
空がブキミな紫色に染まり、酷い吹雪になると分かる
(前の作品に似ている とにかく猛吹雪の状況が過酷/汗
雹に打ち付けられ、60cmもある壁の
あらゆる隙間から凍るような風が吹き込む
アランは涙目で何の役にも立たないばかりか文句ばかり
持ってきた服や靴下、目出し帽をすべて身に着け
紅茶に砂糖、コンデンスミルクをたくさん入れる
自然を前に自分が虫けらのような存在になった気がした
暖炉の前に敷いた寝袋にもぐると
アランはトイレに行きたいと言って漏らしてしまう
僕は腹の底から憎しみがわいた
アラン:もう薪がない!
風雪が少しやんだ隙に薪を運んでいて突然足が滑り
3mも落ちて、下が雪でなければ死んでいた
アランが水漏れしてるバケツを置きっぱなしにしたせいだ
部屋の前に来るとドアを閉めて鎖をかけていた
また吹雪になり凍死しかけた頃にドアが開く
アランが濡れた薪を入れたために暖炉の火が消えていた
トラクター用の揮発性燃料をぶちまけて炎が立ち上る
アラン:どうかしてるぞ
僕:朝飯を作ったらどうだ
アラン:手がかじかんで缶切りが使えない
腹にものを入れると気が晴れた
動物はそういう風にできている
羊が心配になり様子を見に行くと
5匹の子羊が産まれ、1匹はぼろきれのように死んでいた
僕が死なせてしまったんだ
本物の羊飼いなら寝ずに面倒をみただろう
これ以上死なせないぞと誓った
干し草を運んでいると、アランはドアを閉めてしまう
奴は笑って楽しんでいる
農場から誰か助けに来た芝居をするとドアが開き
僕は奴を吹き溜まりに突き飛ばし、ドアを閉めた
このまま放っておけば始末できる
吹雪による殺人は完全犯罪だ
だが、一生頭から離れず
裁判での奴の両親の顔に耐えられないだろう
互いに憎み合ったまま寝袋に入った
また子羊の様子を見るため、アランを前に歩かせる
刑務所の看守の気持ちが少し分かった気がした
また血まみれの子羊が死にかけている
命が次第に消えるのを目の当たりにして悲しくてたまらない
突然、子羊は立ち上がり、指につけたコンデンスミルクを舐めた
もう大丈夫と思った時、急に暖炉めがけて走り出し
アランは止めようとせず、僕は飛びついて助ける
アラン:子羊の丸焼きも悪くなかったけどな
吹雪はその後、3度も遅い、食料も全部食べてしまった
浅い眠りから覚めるとようやく晴れて
納屋の周りにお腹を空かせた馬、牛などが集まる
干し草を投げてやると美味しそうに食べた
僕はこの世のものをすべて愛している
ただ1つの例外を除いて
僕:キャンプが嫌いならどうして来ようと思ったんだ?
アラン:君に憧れていたからさ
吹雪はもう来ないと分かると、昨夜の恐ろしさを忘れかけていた
人の心には素晴らしい自浄作用がある
アランは1人で山を下り
農場主ジャックがトラクターでやって来た
ジャック:
湖水地方では3人死んだらしい
連れは4時のバスを待つと言ってた
ここに残って、羊の面倒をみてくれんか?
僕:いや、やめときます
アランと同じバスで帰るハメになり
後ろと前で離れて座った
新学期が始まり、奴とは二度と口をきかず
廊下ですれ違う時も互いにじっと見るだけだった
■女たちの時間
私は小さい頃、可愛らしい男の子で
小さな漁村の人たちからやたらキス攻めにあっていた
カイゼル髭の祖父のキスを嫌がり
トロール船の機械油臭い父のキスを嫌がった
9歳の時、戦争が始まり
兵士たちが休暇から帰る金曜の夜の駅や
あちこちの野原で恋愛表現のキスが頻繁に見られた
寝室の外でキスすることは売春婦かなにかのように
近所の母親たちはのけ者にした
魚網には危険な磁気機雷がかかり
ドイツ軍のユンカース爆撃機の機銃掃射に遭う男たち
母親たちはもっと酷く疲れていた
子どもに食べさせるために自分は食欲がないと言い
Dデーの日も死んだ兵士の母を思って泣いた
隣りのマージーはまだ18歳で新婚だったが
空軍兵の主人が戦死し、親兄弟がいないため
近所で代わる代わる食事を持っていった
14歳の私は彼女に少し気があった
週に3度ほど通って他愛のない話をして元気づけた
春になると、アメリカ軍がジャップ(日本軍)を叩いたとか
「祝戦会」の声が聞こえだした
チャーチルが勝利宣言をする随分前から終戦を感じていた
男の半分は戦地にいて、残りは子どもか老人だけ
ダンスの伴奏のために即席のバンドが結成された
盛大な焚火のために、防空壕の二段ベッドなどを燃やした
女たちはみんな歩くというより踊っていた
イギリス国歌や♪ドーヴァーの白い崖 が1日中流れた
バンド演奏が始まると父らは皆漁に出てしまい
15歳の私が引っ張りだこになる
女たちの笑顔は、まるで喜びは永遠に尽きず
世界は生まれ変わったといわんばかりだった
闇と死の世界は終わった
女たちが男たちの後についていく世界は終わりを告げたのだ
マージーが新しいワンピースを着て現れ、私を抱き寄せた
踊りながら外に出ると、女たちの顔はいいんだよとうなづいていた
その夜、何をしたか墓の中まで持っていく秘密だ
そのことで私になにか言う者は誰もいない
マージーは引っ越して、羽振りのいい船長と結婚した
けれど私はしばしば思い出す
女たちの好きにしていいと言われたら
世界をすっかり作り変えてしまうのではないだろうか
時をさかのぼれば、そんな女たちの時間があったのではないかとさえ思う
もしそうなら、今とは随分違っていただろう
(『女が世界を変える』みたいなタイトルの映画があったね
【訳者あとがき 内容抜粋メモ】
翻訳されたのはほとんど長編で
80を超える短編は一部しかなかったが
徳間書店の児童書創刊20周年にあたり2冊出ることになった
長年ウェストール作品を編集し
生前、親交もあった徳間書店の上村令さんら3人で18編にしぼって訳した
それぞれに訳者の個性が表れていると思う
作品には作家の生い立ち、経験が色濃く反映している
ウェストールは第二次世界大戦中、9~15歳の多感な時期を過ごした
大学で美術を専攻し、彫刻を学び、美術教師となる
『機関銃要塞の少年たち』は、自分の12歳頃の戦時下の体験を
12歳になる一人息子クリストファーに語るために書かれ
いきなりカーネギー賞を受賞 46歳の時
専業作家になったのは55歳
1993年、63歳で死去
(こうしてヒトの一生を書くと、まったく短いものだと分かる
自分のやりたいことをしないと、あっという間だ
<作品ごとの補足>
『浜辺にて』
この海水浴場は実在する
『吹雪の夜』
ハッピーエンドはウェストールには珍しい
『ビルが「見た」もの』
“Blind Bill”は“Billy Blind”というイングランドの伝承歌謡に登場する
善良な妖精の名からとったものだろう
『墓守の夜』
ウェストールの生まれた町ノース・シールズにある墓地と思われる
『屋根裏の音』
戦争中に子どもだった人たちの体験談を募った
『空爆下の子どもたち 戦時下の子ども時代の記憶』という記録集も編集している
イギリスはドイツ軍の空襲は受けても侵略はされなかった
戦争が人の心に負わせる傷にはいろいろあると考えさせられる
『最後の遠乗り』
18歳になった息子クリストファーはオートバイ事故で亡くなり
妻ジーンは心身を病み、1990年に自死
今作は死後間もなく書かれたと思われる
無軌道に見える若者の工場労働者としての一面や
無条件の友情、歳をとることへの不安や嫌悪を描き
ヤングアダルト作品として素晴らしい
『真夜中の電話』
ウェストールも地域のサマリタン協会責任者を務めていた
『羊飼いの部屋』
ピーターラビットで有名な湖水地方と
ペニン山脈に挟まれたエデン谷の村
イギリスでは、私的な場所での喫煙を年齢で制限する法律はなく
今は18歳、その前は16歳でタバコを買えた
アルコール購入可能なのは18歳以上、成人同伴なら16歳
私的な場所では5歳から飲める(驚
『女たちの時間』
ウェストールの男性観、女性観がうかがえる
この20年でウェストールの評価が日本でも高まった
どの国、いつの時代の人間にも共通する心理が描かれているためだろう
だが、やはり若い読者にこそ読んでもらいたい