眉村卓/著 カバー/木村光佑 (昭和59年初版)
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[カバー裏のあらすじ]
読めば愉快で洒落たショート・ショート。
が、それを書くのがいかに難事業か、読者の皆さんは考えてみたことがあるでしょうか。
アイディア、ストーリー、そしてどんでん返し……。
書く側はそのとき、悶絶寸前?の苦しみを味わっているのでアリマス。
さて本書は、まず前置きスピーチをくっつけて、そのへんの手の内を自ら暴露する。
そのあとでイキで不思議なショート・ショートがやってくる。
一冊で二冊楽しめる、ユニークな眉村卓の本。
***
今回は、編集者から毎回テーマを決められて
その前文+SFショート・ショートを書いてくれという注文の連載をまとめたもの
いろんな注文があるもんだ/驚
本人も毎回愚痴ったり、苦悶したりしつつも
見事に1冊の単行本になる量を書いてみせるのはやはりプロ
でも、なにせショート・ショートの原稿量が決まっているから
いつもより軽い感じで終わってしまって、もっと先が読みたいなあと思ったら
1つ条件がついて、前回の固有名詞を絡めること
これによって、なんとなくストーリーがつながって
結果的にその後どうなったか、つづきが読める回もある
そして、全体を通じて戦争のニオイを感じるのは
今とリンクしている気がしてならなかった
▼あらすじ(ネタバレ注意
1 キャッチボール
テーマ:新
本家の星新一さんがあんなに苦しんでいるのに、そううまくいってタマルカ(w
僕は題名をあとでつける習慣がある
*
“それ”は少しずつ意識を持ちはじめていた(いきなり楳図さんの『14』みたいな
“それ”は待ち始めた それが到来した
(あなたはかつて、生物だった 今はより高い存在になろうとしている
円の突起物を押せばいい)
艦長:
人類はこの十数年、ライセルスという種族と戦っている
彼らのミサイルは宇宙のあらゆる所に配置され生体型爆発する
あれを捕獲して究明しなければならない
これは戦争だ 敵を知り、我々もそれを採用する
人類の生存がかかっている
ミサイルの内部には、体にチューブなどがつながっている生きた人が入っていた
調べると100年前に死んで宇宙葬された死体を集めて利用していたと分かる
ボタンを押すと自爆する
(そのボタンを押して、すべてから解放されるのである・・・)
2 ガイド・ロボット
テーマ:派手な話
辺鄙な植民世界で生まれ育ったシュマンは、憧れの地球に来た
よく一緒に人類連邦発達史の映動を見た少女がいた
数年後、地球への観光船が出るようになり
人間そっくりのガイド・ロボットのライセルスとともに
フリープランの旅行をすることにして自由宿舎に泊まる
「外に出ないように」と言われたが、好奇心で出ると
森、ビル群、次々と追い越していく光
ドアから1組の異様な男女が出てきて、それぞれ1体ずつロボットを連れている
こちらに気づいて叫び出した
飛行物体が来て、恐ろしい力で乗せられた
ライセルス:
テラでは生活も多面化しています
ここではロボットを連れているのが礼儀
あなたはあなたの世界でいう真っ裸で歩いていたから保安局に捕まった
資力のない人は私みたいにロボットの資格を取り
仕事をしないと生活出来ないんです
3 遁走曲(とんそうきょく)
テーマ:少女小説風 時間
思い出すのは映画『アンリエットの巴里祭』
僕は少女小説にとんとヨワイ
かつてはSFを書くのに制限がつくのがふつうだった
専門誌ではない媒体だと、一般読者に分からないから留意してください
と念を押された後遺症で、一般的に書いていることが今でも時折ある
*
航時公社:
すべてのタイムマシンは市民の共有財産ですが
あなたが申し込みの近時点跳躍型は3級航時士の手には負えないんです
すでに100台以上のマシンが行方不明になった
アキ:だからガイド・ロボットつきで貸してほしいと言っているじゃないですか
航時公社:
あなたも自分の青春を修正しに行きたいんでしょ?
そんなことをすれば、別の現実に入ることになります
それでもムリヤリ乗り込むアキ
本来は最初のガイド・ロボットの特徴を覚えておかないと
別の分岐点に入り、ロボットの様子が食い違ってきたら
正しい方向に修正することが出来るが
アキは慌てていて忘れていた
憧れていた青年とデートの約束をして
しびれを切らして帰ったのを止めなければ・・・
でも、間に合わず、アキは勝手に数分過去にジャンプさせた
ロボット:別の時間の流れに入りました
アキは青年と出会い、手を取り合う様子を見て
アキ:こんなの不公平だわ! あなたたちは会わないのよ! と直接言いに行くと
数台のタイムマシンからさまざまな時空のアキが出てきて妨害した
アキはロボットにマシンに連れ戻されるが、見たこともない計器群だ
ロボット:
オマエラハ、ベンリナ、テシタ、ジャ!
ダカラ、タクサン ツクラレタ
アキの周りには自分が何百人もいる
ロボット:コレヨリ敵トノ決戦ニオモムク
4 戦闘員
テーマ:未来のレジャー
ぎりぎりにならないとアイデアが出てこない
こんなはずではなかった
旅行がしたい
ずっと昔の人間がレジャーに何をしたかと考えた
未来のレジャーを考えるなら
現代では「そんなアホラシイ」というものを書いたほうがそれらしくなる
*
テドは勤務明けの72時間の休暇に「神遊びをやろう」と言い出し、仲間がのった
おれたちは連邦最前線に出る戦闘員なのだ
敵は手足が2本しかなく、背中に羽根が生えているおかしなヤツらだった
植民惑星の原住民でおれたちに反抗心をもつヤツもみんな殺した
神が何かおれは知らない
アキは戦闘で、ヤツらの矢をうけて負傷してからどこか妙だ
矢にやられて生き残った唯一の例外だった
おれたちは必ず全身のネガを作り、死んだり、大怪我をするとすぐ復元できる
塔の上で撃ち合いをして、オレの4本の足の1つが落ちた
アキは何もしていない ガンさえ持っていない
アキの腰を焼き切ると、パラシュートも開かず落ちて行った
軍医:
新しい体で甦るには4時間もあればいいが、こっちはてんてこ舞いだったぜ
アキがいない
自分で反重力ベルトを焼いて即死し、復元したが
何度復元しても、自分で永久死を求め、処分を受けた
アキは、ほかの生物を殺すくらいなら、自分が死ぬほうがマシだと信じていたそうだ
そんな馬鹿馬鹿しい気持ちを抱く原因は、あの矢を受けてからだ
あれが何だったのか、おれにはさっぱり分からないのだ
5 勧誘
テーマ:スケールのでかいもの
手塚さんの『火の鳥』、小松さんの「果しなき流れの果に」など浮かび
すべて長編だと気づいてしまったと思った
(こないだバンバンラジオで黒川さんも『火の鳥』をSFと言ってたけど
私の感覚にそれは全くなかった/驚
高校時代に俳句をやっていて、言葉の無駄遣いはやめろと厳しく叩き込まれた
俳句は、書き手が読み手に対して一定以上の水準を求める世界だ
ラジオで聴衆者を招いた時
「今月のSFマガジンの眉村さんの作品、面白くないですねえ」と言われて頭に血がのぼった
自分としてはしぼりにしぼった文章だと信じていたから
それ以来、意識して、くどくても無駄な文章を書くよう心がけるようになり
これはこれで1つの世界なのだと悟りはじめた
つまり、指示は無視して好きなことを書く
*
この衰弱ではあまり長くないだろう
下級船員の僕たちには、この宇宙船が破壊されたのか分からなかった
同じ船員のテドはいなくなった 消失したらしい
どこからか、女の声がした
「私たちの仲間になるのよ あなたは今より1つ上位の次元に入る決心をしなさい」
今度はテレパシーで男の声がした
(上位次元になるには、当人の意思表示が必要だ)
3番目は子どもの声だ
どうせ死ぬならと、残った水を一度に飲んだおかげで助かった
あれらが幻覚だったのかは分からないが
テドはどれかの誘いに乗ったのだろう
6 本物の異星人
テーマ:ビッグスター
スター、ヒーロー、アイドルの違いを辞書で調べる
スターは実体がなくても、いったんなるとスターなのだ
*
カツナトキー:
あの連中は、ハダラ星系第二惑星人の芸術の本物を与えよというわけか
カツナトキーとメリメアの仕事は、かれらの立体映動を、地球人向けに作り直すことだ
かれらは素晴らしいドラマをたくさん作っているが
ワニのような体をそのまま見せれば、敵意を抱きかねないため
転形して放映している
愚民政策だという攻撃も多かったが
行政当局にとっては、一般大多数のほうが大切だった
まだ全面開放には早すぎる
作業場に大勢の暴徒が侵入し「本物をよこせ!」とわめいた
その後、本物はずいぶん奪い取られたが
人々は驚くべき早さで本物に馴れていった
異質性を許容し、己の足らないところを見つける能力は
行政当局や、我ら技術者より、一般人のほうが優れていたのだ
7 少年たち
テーマ:少年マンガがらみ
大阪では37℃を超えた
暑さと少年なら西東三鬼という俳人がいた
ぼくは子どもの頃にマンガを描いていた
その頃は、マンガを読むと「そんなつまらぬものを見るな!」と怒鳴られるのが普通だった
まして自分で描くのは相当の変わり者と思われた
漫画少年という雑誌で4コママンガを募集して
優等、秀逸、佳作、選外佳作があり、たまにランクインした
だが世の中には上がたくさんいると諦めた
*
少年たちの前には、悪魔に似た人形がある メリメアの敵、地球人だ
敗退が続き、優秀な訓練士は前線に飛翔し、死んでいった
少年たちを訓練しているのは負傷した戦士だ
少年たちはまだ翼が生えそろって飛ぶには早い
少年たちは思念を集めて「発射!」と人形にぶつけると吹き飛んだ
1人の少年トルニドラの前の人形には何も損傷がなかった
訓練士:
地球人は優しい面も持っているという記録を読んだせいで
集中をさまたげているのだ!
地球人は我々を絶滅しようとしている
我々が傷つけ合うのを嫌う種族なのが辛抱できないからだ
我々は、すべての優しさ、美点を放棄しないと皆殺しにされてしまう
その時、地球人の戦闘宇宙船が来て
訓練士も少年たちもレーザーで射抜かれて死んだ
士官:
いつまでこんなことをしなければいけないのか
軍の指示でも残酷だ
あの少年は一度も攻撃しなかった でも敵は敵だ
自動迎撃機構が自動的に殺したのだ
地球人は泣きながら、次の戦闘予定地区に向かった
8 われらのメリメア
テーマ:地図
地図というと立体地図を連想する
アーサー・C・クラークの「都市と星」
ありのままを見られる立体地図は作れないものか
*
計画局のスダー:ようこそメリメアへ! ここは新世界です
ここもまた人類が征服した世界だ
翼をもつ原住民もいたが絶滅せざるを得なかったと聞く
それは仕様のないことだと大抵の人が考えるし、私も同じだった
土地がひどく安く入手できるため、事業ができるなら買い取るつもりだ
スダーのすすめる土地を見に行くため、巡航機に乗った
何かにぶつかりそうになると、自動的に方向・速度を変えて飛びつづける
女性:この世界では地図が完備されているので、機はそれに従って飛ぶだけです
青年:入植者も増え、ちゃんとした自治世界にするのが仕事です
女性:原住民の基地があった所は公園で、観光名所になるかもしれません
機はだしぬけに上空にはねあがった
女性:不記載物と遭遇 すみやかに処置願います
すぐに政府の飛行体が来て、光線を発射すると
ぶつかった故障機は消えてしまった
女性:
人間がいようといまいと、地図に記載されていない静止物は
みな排除されなければなりません
我々はまず地図を作り、それに合わせて建設します
不記載物はすべて消すんです
地図は5年に一度、改訂されます
その時認可されたものを期間内に建てればいいのです
それくらいしても当然でしょう
原住民を絶滅させてやっと出来た新世界なんです
よそから来て投資しようとするあなたがただけが儲けるなんて
我々もやりたいようにやる権利があるはずだわ!
9 末期のメリメア
テーマ:おもちゃ
書けなくて行き詰ると何でもやりたくなる
僕は模型鉄道を持っているが、メルクリンのHOゲージなのだ
それで気分転換に利用しようとした魂胆がいけなかった
近頃は大人もおもちゃを楽しむ
生活に役立てたり、財を生むようではおもちゃとは呼べない
人間は生きるために文明を築いた
ほかの生物より優位に立とうとするうちに文明が出来た
文明自体が人類のおもちゃではないか?
*
僕は滅んだ世界を訪れ、歴史などを書くのが仕事だ
人間のいない滅び去った世界に1人でいるメリメア駐在官は言葉少ない
メリメアは古い歴史を持つ植民世界だった
だが、例に漏れず、人口増加で収拾がつかず反乱が起き
内戦を経て、別の植民世界に移っていった
駐在官と浮揚ベルトを腰に締めた
駐在官:
足元が崩れたらスイッチを押すと安全な場所に移動します
ここの住民はみな掘進機能ロボットを1体ずつ持っていたそうです
とてもキレイな公園でよく整備されている
どうして見捨てられたのか
建物に入ろうとするとごうと音がした
駐在官:スイッチを!
途端に足元が陥没した
駐在官:
おそらくここの行政府は理想主義のかたまりだったのでしょう
官僚機構が複雑になり、地上に新しい建物をつくれず
地下での建設を認めたため、乱開発がおきて
すぐに陥没が起きるようになった
生き埋めになった時、地上脱出のために携行するようになったのがあのロボットです
10 折衝の手段
テーマ:なし
自由となると途端に困る
“自由の価値と、使い方を知らぬ者に与えるのは
しばしば破滅を提供することになる”
案外厄介なのが、登場人物の命名
赤ちゃんの名前のつけかたの本を見たりする(爆
地球人でもない者の名となると
紙に文字をでたらめに書き、目をつむって鉛筆の先で突き
当たったものを並べてみる
ある人から、偶然にどこかの呪文と合致したらどうする?と言われて
怖くて今はやっていない
呪文といえば、伝達ゲームではじめから呪文まがいの文句を送ったらどうなるだろう
最後にはちゃんとした文章になるのではあるまいか?
伝達手段はいくつもある 顔の表情、声、言葉、文字
SFによく出るテレパシー
強調したい時は言葉を加える
テレパスにとって、言葉の伝達はひどく疲れるということになっている
*
宇宙省折衝局員:では、始めてくれ
30m四方の実験室には、15体あまりの奇妙なロボットがいる
我々がワラワラワ人をモデルに作り上げた模造品だ
人類がワラワラワを発見して、まだそれほど経っていない
ワラワラワ人はロボットなのだ
大昔は高等有機生命体がいて、ロボットを量産したものの滅びてしまい
ロボットは知的生命体として文明を保持してきたらしい
人間はかれらとコミュニケーションがとれず
電波による送受信を備えた人間側ロボットで交渉していたが
ワラワラワ人は、人間との直接対話を求めてきた
身ぶりによるコミュニケーションの体系を組み上げ
ヤマタカはそれをマスターした1人で、今日はその成果を試す日だ
彼は親愛を表す膝の屈伸をしたが
必要以上だと無条件の奉仕になる
訂正のため、左手を斜め上にあげるのも間違えて
「周りのみんな来い」の合図になり、他のロボットが集まってくる
後退すると「触れてはならぬ」
すべて合わせると、相手に対して「お前は騙されたのだ馬鹿」となり決闘になる
ヤマタカ:助けてくれえ!
局長:模造品だから良かった
ヤマタカ:ワラワラワ人が我々そっくりの有機ロボットを作ってくれないですかねえ
11 検閲
テーマ:新年
飛行機で宣伝飛行をやっている
テープだから何回でも繰り返せる
不用品回収もたいてい録音
「ご不用品をお買い上げいたしております」
お買い上げは客に対する言葉だ
丁寧にしているつもりで、自分に敬語を使っている
(日本語は難しいねえ
言葉はいろいろと厄介だと時々思う
学校の卒業式の来賓の話など、退屈だ
所詮、小説は詩ではないから手垢まみれの言葉を使わなければならない場合が多い
“はじめに言葉ありき”
*
上流のお歴々のいるパーティに取材をかねて来たコピーライター
ミツコ:
この広告、たしかあなたのプロダクションで作ったんでしょ?
“すららしい味”て誤植でしょ
ブラッタ:罰金ものだな
彼はある程度内情を知っているのだ
チーフと僕の2人だけで最終検討した
それはだいぶ前から始まっていた気がする
あれを書いてはいけない、これを論じてはいけないという制限
今ではまぎれもない「言論統制」がしかれている
商品広告を暗号として連絡し合う方法を発見し、うまくやってのけるのだ
チーフ:今度は広告検閲官が来ているかもしれない 暗号に気づき始めているらしい
検閲官:
今度新しい定めが出来た
広告文が暗号に使われるのを阻止するため
表現統制令による誤字脱字・誤植に対する過料は免除されるが
検閲官の指示だと洩らした場合、保安条例に違反する
チーフ:
検閲官の中にも我々の味方がいて
どの文字を変更するかで意思伝達をはかろうという計画が進んでいるらしい
12 レイサンで
テーマ:行事、儀式
国民学校のことを思い出す
長い校長先生の話の間、体を動かしたりすると担任に殴られた
1人の不行儀は、クラス全体の恥、担任の恥なのだ
行事、儀式がもっとも複雑だったのは平安時代の貴族ではないか
陰陽道が猛威をふるい、呪術的なものになり、貴族の生活はがんじがらめになった
その日に何をしたらよい、してはいけないかを知るため「具注暦」があった
その吉凶・禍福などが、今とは比較にならないほどややこしく、みんな本気で信じていた
物忌みでは、変な夢を見たり、犬の死体を見たりしただけで
謹慎したり、ある方角に行けなくなったり
制約もはじめは相応の理由があって作られたのだろうが
そのために形式が定まった
そうした生活を送りながら、平安貴族はそれが政治なのだと信じていた
形を守れば、目的は達せられるという真理は他人事ではない
*
レイサ人の役人が来た
2回ノックして正確に1分30秒待ってから入るのが定めだ
私たちは猛スピードで部屋を片付けた
レイサ人は、この星に恐るべき先例故実を持つ儀式文明を作り上げた
宇宙船が飛び立つにも吉凶などを勘案しなければならない
レイサ人:
おめでとうございます
あなたがたが7日後に出発できることをお知らせにあがりました
そのお別れの式典を行いますので、全員参列することを希望します
言語変換機の持ち込みは許されず、退屈な式典だった
だんだん眠気が強くなり、ついには眠り込んでしまった
コツミ:
仕方ないじゃないか!
おれたちが寝てしまったから、式典の効力が消えて
出発は延期になった レイサ人によると65日先だそうだ
13 パトロール候補生
テーマ:試験シーズンなのでテストがらみ
学校を出るってどういうことなのか
今、現役の人と一緒になれば、全然ついていけない人間が
卒業生だOBだと言っているのはおかしなものだ
現代日本は、試験地獄、受験本位社会と言われる
それでいて、“いい学校”を出たら得られるはずのものの評価もどんどん低下している
中国の科挙を想起する
恐るべき競争だったそうな
子どもの頃から字を教えられる
せっかくとった資格も3年に1度行われる試験の成績が悪いと剥奪されてしまう
挙人になると終生身分で地位も高くなるが、これからが本番
全国の挙人で会試が行われる そのトップを状元という
気が遠くなる道のりだ
状元から宰相になった例も多くない
テストだけでは政官界でうまく身を処していけないということか
*
ぼくはその電気自動車に乗り込んだ
ぼくが潜入する時代は電気自動車の全盛時代だ
人は生まれた時から機械類の勉強を始めて訓練される
僕はタイムパトロールの候補生で、今日はその時代に潜入しても
うまくやっていけるかのテストなのだ
その時代は機械類の扱いが身分を決定するので
わざわざややこしく作られている
教官:
気の毒だが・・・このテストは中止だ
時間旅行者の一団が入り、歴史をちょっと変えた影響で
電気自動車は開発されずに終わってしまう
君の学習は始めからやり直しだ
14 スナイル
テーマ:進級、進学、就職
今の日本に本当の意味の通過儀礼なんてあるのかな
なんとなくなし崩しに次の段階に移って、本質的には変わってやしない
昔の柱時計はボーンと鳴った
腕時計になると時間の切れ目を告げなくなった
デジタル時計は、瞬間表示となり、把握形式 時間のけじめも何もない
*
2つの太陽があがっている
この間からの鈍痛が強くなった
手首にはめた勧告リングが震動した 何かの約束をセットしたのだ
チョク:学習館に行くはずだったでしょ? 登録、取り消すの?
一度登録すると、正当な理由もない取り消しは
その後、長い間登録を受け付けてもらえなくなる
ムリをして学習館に行くと知らない者同士が集まっている
先生:
私たちは、進歩した科学技術を駆使した運営機関にすべてを委ねている結果
さまざまなことを忘却してしまった 第一は時間の観念です
専門家の暦もほとんど使われていません
運営機関があるし、大勢が時間が何のことか理解出来ないからです
スナイルの痛みは増し、口から大量の血がほとばしった
医療センターの専門家:
君の体はひどいことになっている
脳保存が可能だから、サイボーグ化を認められることもあり得る
これまでの一生を振り返り、記憶を味わいながら結果を待つしかないだろうね
だが、時間の観念のない彼には
自分がどれほど生きてきたかも分からず
思い出もバラバラで無意味なものにすぎなかった
15 能力
テーマ:子ども
子どもといえば枕草子の「うつくしきもの」
子どもが怖いというと、変な顔をするだろうねえ
子どもを虐待する親が絶えない(随分前からなんだなあ
僕も子どもの頃は、電車のレールに石や釘をよく置いて
何回も捕まりそうになった(!
昔、子どもが愛され、かつ軽く見られていた時代は、
子どもの思惑や体力では大人に太刀打ち出来なかった
今は誰でも動かせる機械がやたらにある
刀で人を斬り殺す時代と、機関銃を乱射する時代
そのうち小型ミサイルで一都市を全滅させるとか
便利になった現代社会で一番怖いのは人間だ
*
チョク・チョは養育官だ
卵からかえった幼児らは順調に発育していた
ニーダラ・ニーを除いて
チョク:
あなたは念力を役に立たない方向に使っていますよ
そんな風にものを動かすのは全くムダなの
我々ルイナスの念力は、空中移動するためにあるのです
いい成績をとれば、上級学校に行き、社会で高い地位につける
それにあなたは、思念集中の言葉も唱えていない
第1回の予備検査の日
教え子たちはみな上手に上昇・下降、横移動したが
ニーダラ・ニーは瞬間移動したと試験官たちに注意された
試験官:
失格だ 基本からやり直しだ!
今は空中移動が基準なんだから、それ以外の能力は評価されない
世の中がそういう構造になっているんだから
16 ドードル競技
テーマ:スポーツ
僕はスポーツは好きだが、子どもの頃から不器用なのだ
馬鹿にされて悔しくて、高校3年の頃
どうせならモーレツなのがいいだろうと柔道をはじめた
まずは町道場で教えてもらい、秋に柔道部に入った
それから柔道ばかりして、学業はかいもく駄目だった
ある日、団体戦に出場し、1回戦はきれいに相手を投げて1本取った
2回戦の相手は強豪で、内股でほうられた
遅れてきた友人は「お前、ほんまに黒帯か?」
いまだに一緒に飲むと、いつも周囲に僕が投げられた情景を喋りやがる
スポーツの特徴は、やはりルールの存在ではないかという気がする
ルールがあるから、競技に特定の筋肉が頻用され、不均衡な発達問題が出て来るのも事実だが
ルールの範囲内なら、あらゆる奇手妙手を考え
やがてそれが一般的になったりする
ポールがグラスファイバーになるとか
*
都市防衛長官:彼が公的行事に初めて姿を現した記録です
ルイナスの競技会の報告 トラブルが1件発生
出場者のニーダスというチームのプレーがルール違反かどうかで騒ぎになった
リーダーのニーダラ・ニーは、初等教育を最低の成績で卒業
その後、正規の教育を受けていないにも関わらず、審査官の試問にてきぱき答えた
試合ではおそるべき速さの空中移動が行われ
対戦相手のルイナッサンはルール違反だと抗議した
結論はニーダスの選手は瞬間移動と遠隔操作をしているということになり
ニーダラ・ニーは反論した ルールにそれを禁じる項目がない
ルイナス社会では蔑視され、そんな能力を持っているだけで疎外される
審判官らは長い協議をし、面目にかけて、やはり空中移動以外は認めない判断を下した
都市防衛長官:
彼らはミュータントだったんだ
我々は社会でちゃんとした地位を与えなかった
とにかく、我々は奴らと戦わなければならない
今は彼らが続々と増加し、この社会を根底からくつがえそうとする革命軍で
その総帥がニーダラ・ニーなのだ
17 枢要施設守備隊
テーマ:?
「ころもがえ」についてのいろいろな引用
(眉村さんは、1つ1つの言葉に対して、毎回辞書などを引いて確認しているんだな/驚
僕の意識の中では、「ころもがへ」「更衣」「更衣え」「衣がえ」の4種類が存在する
そのどれもが独自のイメージを持つ
一事が万事 似たような言葉がたくさんある
今の正解が、何年か先に間違いになったらどうする?
冷暖房が普及してからは様子が変わった
石油不足が引き金になり、冷暖房を抑えようということになった
クーラーなどじゃんじゃん買わせておいて、それはないでしょう
今度は省エネルギーの一貫でノー上着ノータイが推奨されている
(今と全然変わらない/驚 「クールビズ」も新しい政策でもなんでもないんだな
*
休養所では瞬間移動は禁じられている
みな受信室に集まった
受信機はチャンタ・ルテ州の誇りの1つだ
今日は重要放送があると通達されていた
科学長官の発表だ
科学長官:
我々は、無用の人員・資材・機械を廃棄し、有用なものに代える精神で
画期的な物質を作り上げるのに成功した
異端州は、念力でわが枢要施設を破壊してきた
小さな町1つもろとも大気圏外に投げ出されたこともある
それに対抗して守備隊を配置し、こちらの念力で押さえつけるための守備隊だ
だから我々は念力をさえぎる物質を開発した
チャイボス・チャー隊長:
それでは我々、守備隊が不要になってしまう!
そんなもの、許せんぞ! やっつけろ
隊員らはどっと瞬間移動し、施設は砕け散り、宙に上昇していった
18 地下室で
テーマ:?
昔は不定時法だった 12刻に分け、十二支を配した
夏と冬が違うからややこしい
これまでの経験で、論理的なことを考えるには午前中
討論するのは昼から夕方、感受性が敏感になるのは夜半
フルタイム・ライターになった時、一番嬉しかったのは
1日の時間をどう使ってもいいことだった
そのうちに昼夜の区別が朦朧としてくる
そして依然として自分のペースをつかめないでいる
*
ジョミーラ・ミーは震動と物音に目をさました
祖母:狩り屋だよ 私たちがここに住んでいるのを嗅ぎ付けたんだ
ミー:あいつらはまだ、ここにいると知らないんだ 諦めるまで待とう
祖母:
やっぱり、ここから出て行った仲間が、帰るのを待つしかないのかね
私たちみたいに何の力もないルイナスもいるんだ
念力がないだけでこんな目に遭うなんて
お前の父母も狩り屋に殺された
ミー:
僕たちはランなのさ
念力は使えないけど、他人の力を封じる力を与えられている
それが他の人には許せないんだ
かつて、念力の乱用による暴動、戦争が日常茶飯事になり
念力をさえぎる物質の試みがなされた結果だった
キャグ・レーが帰ってきた
レー:
我々は仲間の大集団を発見した もう怖くはない ラトヤ山に行くんだ
これからは念力は使えない世の中が始まる
大地に足をつけた世の中が当たり前になる
ルイナス・ランが超能力社会を潰す
19 絶叫隊
テーマ:人と人とのつながり、グループ
わが国のセミ類中最大は、熊蝉で「しゃあしゃあ」と鳴く
その声を録音して、ヘッドホンで聞いてみたら
空気が規則的に震動してバンバンバンと鳴る まるで太鼓だ
ヘッドホンでは、この蝉のおそるべき声量をコントロール出来ないのだ
*
今日は私にとって最初の行進だ
私たちの後にも「恵みの行進隊」は、次々とそれぞれのコースを歩いていく
役人:発声の才能で人々に恵みをもたらすのです あなたがたは聖者なのです
私たちは小さな集落に近づき、太い声で宣言する
「ワァ、ワァ、ワァ、ワァ、ワァ」
声のかぎりを尽くしての絶叫だ
人々は隊列をつくり、地面にひざまずき、伏し拝んでいる
この絶叫が、自分たちの命を急速に縮めるが
季節は順調に移り、嵐や大雨、ひでりを防ぐ
ただでさえ乏しい生活で死に物狂いで毎日を送る我々に
これ以上の不幸や天災が襲いかかったら、人々は死ぬほかない
私たちは、かなり大きな町に入った
「ワァ、ワァ、ワァ、ワァ、ワァ」
ラニーが倒れて死んだ
彼はこれが3度目の行進で、時間の問題だった
遺体をそのままに歩く
町の人の熱烈な拝礼を受けた後、食糧になる定めなのだ
仮休憩所で、私はなかなか眠れなかった
こうした行進隊員になったのも、自分の家族のためなのだ
隊員を出した家族は、一定期間、生活が保障される
私の家族は、しばらくは1日2食の生活を送れるだろう その後は・・・?
2日目も、朝から私たちは絶叫して行進する
20 さすらいびと
テーマ:忘れた
一般に秋というと秋晴れ、日本晴れを連想する
この2つはそうしっかり結びつかないかもしれない
けれども、この手の文章がやたらに多いのも事実だ
新聞、雑誌を見ると、慣用句の合成折衷語などが目について
これでいいのかという感じがする
発作的に出掛ける旅行もいい
日が暮れて、ポケットの金を調べて、泊まるか帰宅するか考えるのは楽しい
本当の旅は、もっと孤独で危険な感覚であるべきだ
今回のテーマを忘れた
旧軍隊で上官にどやされた時
「分かりません!」だと「この馬鹿者!」と殴られる
「知りません!」だと「俺が教えなかったというのか!」と殴られる
「忘れました!」だと殴られる数がいくらか少なくなるそうだ
*
母親と娘2人と息子の計4人の一行はララ市に到着した
至る所でルートは荒廃し、寸断されている
自動機械がいつ襲って来るか分からない
市の役所に「定住」を申請すると、労働担当の窓口に行き
翌日からそれぞれ仕事をあてがわれ、必死で働いた
市民の数には制限があるため、都市が有用だと認めた者しか市民にしない
放り出された者は「さすらいびと」となり、都市を旅しながら生きるしかない
「通過者」は2泊までしか許されない
「定住申請者」は30泊まで認められる
都市の粗末な工場群、農園は彼らで支えられている
第一娘:私の技術が買われて、定住者に認可された
母:おめでとう
都市は一時定住申請者は、二度と受け付けない
だから家族がまたララ市に来ても、通過者の2泊だけ
第一娘を見つけるのは不可能だが、娘の幸運を祈ってやりたいと思った
残る3人は夜明けにアイ市に向かい出発した
21 ラアIII
テーマ:オリンピックがらみ
先回はテーマを忘れて編集者にきついお叱りを受けた(w
10月10日は体育の日 東京オリンピックを記念して設けられた(そうなんだ
日本万国博は開幕14日、15日から一般公開 どういうこっちゃ?
カレンダーには3月15日が日本万国博開会記念日とある
先回、本当に台風がやって来た
台風と言えば、昭和36年の「第二室戸台風」のほうが恐ろしかった
女房は銀行勤めで、戻れない
社宅は古く、補修もせずに放っておいた
みしみしと揺れて、雨漏りがしてきた
あちこちに洗面器、ポリバケツを置いたが、屋根瓦がやられたのに違いない
突然、どすんと音がして、見に行こうとしても戸が開かない
塀が向こうへ倒れていて、もうどうにでもなれと思い
酔って寝てしまった
*
不定期航路の旅で、帰途の3ヶ月をコンピュータだけを相手に暮らさねばならない
惑星ラアⅢに来たのは初めてだ
ソイヤ:
私はガイドです
アンドロイドではなく、人間のガイドを依頼なさったというので
いい時に来られましたわ 昨日からロボットのオリンピックが始まっているんです
実際にご覧になることをおすすめします
競技はもう始まっていた
だが、これではまるでロボットの壊し合いだ
ソイヤ:
オリンピックに出るのは、古い型のロボットなんです
どんどんロボットの新型が出るので
古いロボットの予備部品がなく、直すと高くつくので
どうせ廃棄するなら見世物にしようというわけ
優勝したロボットは手作りの部品で修理され
自由ロボットとして余生を送れる
昔の奴隷解放みたいですわね
私もそのお蔭をこうむってますけど
時々、どこかおかしい気がして仕方がないんです
22 最後の最期
テーマ:最後
これが最終回
俳人の石田波郷氏が、看護に来た奥さんが俳句が出てこないとこぼすのを聞き
「寝たきりでは、窓からが全天地で、自分はそれで句を作っている
自由に外を歩きまわれるお前が、そんなことを言うのは贅沢というものだ」と怒ったという
局限された視野で情報を受け取る人間ほど
断定的で明快に見えるとは言えないだろうか
旅行に際して、僕はカメラを持って行かなくなった
パチリと撮って、それでOKと済ませてしまいがちだからだ
(先日の「#Overtourism」の話とリンクした
どうせならスケッチするべきだ
自分の内部を通じて対象をつかめるのだから
僕はよくスケッチに出掛けて、絵らしきものを描いた
何年かやめて再開したらまるで筆が動かない
ある美大の学生に言うと
「スケッチの力は、1日やめると、それだけ落ちるものです」
近頃、カセットテレコを持って行く
実況を喋って、後で書くにも便利だ
同じテレコを映画館に持って行って、館内の雑音を録ろうと敢行した
(昔は違法だなんだとうるさくなくていい時代だったなあ
再生してみたら「ワウ、ワウ」と異様な音が出た
モーターの回転ムラだった
最後と最期がある
マッキとマツゴとではショート・ショートの意図するところが微妙に変わるとある人に言われた
*
ライセリス:さようなら
スナイル博士:さよなら
メリメア:さようなら
ニーダラ・ニー:さよなら
人々は宇宙船白骨号に乗る
スピーカーの声:
船は自動操縦でヌ・ヴァイトンに行く
彼らが我々を餌食にして、長い年月が経った
彼らと協定を結び、復活不能な人間を定期的に提供することで
他の生命を奪わないようにしてもらう
昔の生け贄と同じだが、それしかなかった
我々はようやくヌ・ヴァイトンを死滅する技術を手に入れた
この白骨号は、今回はもう還ることはない
ヌ・ヴァイトンとともに爆発するのだ(特攻隊じゃん
僕は何度も若返り再生をしてきた
今度死ねばもう復活はないと分かっていたが
やはり無念だった 本当の死が怖かった
だが、秒読みがはじまっていた
※「作家別」カテゴリーに追加しました。
[カバー裏のあらすじ]
読めば愉快で洒落たショート・ショート。
が、それを書くのがいかに難事業か、読者の皆さんは考えてみたことがあるでしょうか。
アイディア、ストーリー、そしてどんでん返し……。
書く側はそのとき、悶絶寸前?の苦しみを味わっているのでアリマス。
さて本書は、まず前置きスピーチをくっつけて、そのへんの手の内を自ら暴露する。
そのあとでイキで不思議なショート・ショートがやってくる。
一冊で二冊楽しめる、ユニークな眉村卓の本。
***
今回は、編集者から毎回テーマを決められて
その前文+SFショート・ショートを書いてくれという注文の連載をまとめたもの
いろんな注文があるもんだ/驚
本人も毎回愚痴ったり、苦悶したりしつつも
見事に1冊の単行本になる量を書いてみせるのはやはりプロ
でも、なにせショート・ショートの原稿量が決まっているから
いつもより軽い感じで終わってしまって、もっと先が読みたいなあと思ったら
1つ条件がついて、前回の固有名詞を絡めること
これによって、なんとなくストーリーがつながって
結果的にその後どうなったか、つづきが読める回もある
そして、全体を通じて戦争のニオイを感じるのは
今とリンクしている気がしてならなかった
▼あらすじ(ネタバレ注意
1 キャッチボール
テーマ:新
本家の星新一さんがあんなに苦しんでいるのに、そううまくいってタマルカ(w
僕は題名をあとでつける習慣がある
*
“それ”は少しずつ意識を持ちはじめていた(いきなり楳図さんの『14』みたいな
“それ”は待ち始めた それが到来した
(あなたはかつて、生物だった 今はより高い存在になろうとしている
円の突起物を押せばいい)
艦長:
人類はこの十数年、ライセルスという種族と戦っている
彼らのミサイルは宇宙のあらゆる所に配置され生体型爆発する
あれを捕獲して究明しなければならない
これは戦争だ 敵を知り、我々もそれを採用する
人類の生存がかかっている
ミサイルの内部には、体にチューブなどがつながっている生きた人が入っていた
調べると100年前に死んで宇宙葬された死体を集めて利用していたと分かる
ボタンを押すと自爆する
(そのボタンを押して、すべてから解放されるのである・・・)
2 ガイド・ロボット
テーマ:派手な話
辺鄙な植民世界で生まれ育ったシュマンは、憧れの地球に来た
よく一緒に人類連邦発達史の映動を見た少女がいた
数年後、地球への観光船が出るようになり
人間そっくりのガイド・ロボットのライセルスとともに
フリープランの旅行をすることにして自由宿舎に泊まる
「外に出ないように」と言われたが、好奇心で出ると
森、ビル群、次々と追い越していく光
ドアから1組の異様な男女が出てきて、それぞれ1体ずつロボットを連れている
こちらに気づいて叫び出した
飛行物体が来て、恐ろしい力で乗せられた
ライセルス:
テラでは生活も多面化しています
ここではロボットを連れているのが礼儀
あなたはあなたの世界でいう真っ裸で歩いていたから保安局に捕まった
資力のない人は私みたいにロボットの資格を取り
仕事をしないと生活出来ないんです
3 遁走曲(とんそうきょく)
テーマ:少女小説風 時間
思い出すのは映画『アンリエットの巴里祭』
僕は少女小説にとんとヨワイ
かつてはSFを書くのに制限がつくのがふつうだった
専門誌ではない媒体だと、一般読者に分からないから留意してください
と念を押された後遺症で、一般的に書いていることが今でも時折ある
*
航時公社:
すべてのタイムマシンは市民の共有財産ですが
あなたが申し込みの近時点跳躍型は3級航時士の手には負えないんです
すでに100台以上のマシンが行方不明になった
アキ:だからガイド・ロボットつきで貸してほしいと言っているじゃないですか
航時公社:
あなたも自分の青春を修正しに行きたいんでしょ?
そんなことをすれば、別の現実に入ることになります
それでもムリヤリ乗り込むアキ
本来は最初のガイド・ロボットの特徴を覚えておかないと
別の分岐点に入り、ロボットの様子が食い違ってきたら
正しい方向に修正することが出来るが
アキは慌てていて忘れていた
憧れていた青年とデートの約束をして
しびれを切らして帰ったのを止めなければ・・・
でも、間に合わず、アキは勝手に数分過去にジャンプさせた
ロボット:別の時間の流れに入りました
アキは青年と出会い、手を取り合う様子を見て
アキ:こんなの不公平だわ! あなたたちは会わないのよ! と直接言いに行くと
数台のタイムマシンからさまざまな時空のアキが出てきて妨害した
アキはロボットにマシンに連れ戻されるが、見たこともない計器群だ
ロボット:
オマエラハ、ベンリナ、テシタ、ジャ!
ダカラ、タクサン ツクラレタ
アキの周りには自分が何百人もいる
ロボット:コレヨリ敵トノ決戦ニオモムク
4 戦闘員
テーマ:未来のレジャー
ぎりぎりにならないとアイデアが出てこない
こんなはずではなかった
旅行がしたい
ずっと昔の人間がレジャーに何をしたかと考えた
未来のレジャーを考えるなら
現代では「そんなアホラシイ」というものを書いたほうがそれらしくなる
*
テドは勤務明けの72時間の休暇に「神遊びをやろう」と言い出し、仲間がのった
おれたちは連邦最前線に出る戦闘員なのだ
敵は手足が2本しかなく、背中に羽根が生えているおかしなヤツらだった
植民惑星の原住民でおれたちに反抗心をもつヤツもみんな殺した
神が何かおれは知らない
アキは戦闘で、ヤツらの矢をうけて負傷してからどこか妙だ
矢にやられて生き残った唯一の例外だった
おれたちは必ず全身のネガを作り、死んだり、大怪我をするとすぐ復元できる
塔の上で撃ち合いをして、オレの4本の足の1つが落ちた
アキは何もしていない ガンさえ持っていない
アキの腰を焼き切ると、パラシュートも開かず落ちて行った
軍医:
新しい体で甦るには4時間もあればいいが、こっちはてんてこ舞いだったぜ
アキがいない
自分で反重力ベルトを焼いて即死し、復元したが
何度復元しても、自分で永久死を求め、処分を受けた
アキは、ほかの生物を殺すくらいなら、自分が死ぬほうがマシだと信じていたそうだ
そんな馬鹿馬鹿しい気持ちを抱く原因は、あの矢を受けてからだ
あれが何だったのか、おれにはさっぱり分からないのだ
5 勧誘
テーマ:スケールのでかいもの
手塚さんの『火の鳥』、小松さんの「果しなき流れの果に」など浮かび
すべて長編だと気づいてしまったと思った
(こないだバンバンラジオで黒川さんも『火の鳥』をSFと言ってたけど
私の感覚にそれは全くなかった/驚
高校時代に俳句をやっていて、言葉の無駄遣いはやめろと厳しく叩き込まれた
俳句は、書き手が読み手に対して一定以上の水準を求める世界だ
ラジオで聴衆者を招いた時
「今月のSFマガジンの眉村さんの作品、面白くないですねえ」と言われて頭に血がのぼった
自分としてはしぼりにしぼった文章だと信じていたから
それ以来、意識して、くどくても無駄な文章を書くよう心がけるようになり
これはこれで1つの世界なのだと悟りはじめた
つまり、指示は無視して好きなことを書く
*
この衰弱ではあまり長くないだろう
下級船員の僕たちには、この宇宙船が破壊されたのか分からなかった
同じ船員のテドはいなくなった 消失したらしい
どこからか、女の声がした
「私たちの仲間になるのよ あなたは今より1つ上位の次元に入る決心をしなさい」
今度はテレパシーで男の声がした
(上位次元になるには、当人の意思表示が必要だ)
3番目は子どもの声だ
どうせ死ぬならと、残った水を一度に飲んだおかげで助かった
あれらが幻覚だったのかは分からないが
テドはどれかの誘いに乗ったのだろう
6 本物の異星人
テーマ:ビッグスター
スター、ヒーロー、アイドルの違いを辞書で調べる
スターは実体がなくても、いったんなるとスターなのだ
*
カツナトキー:
あの連中は、ハダラ星系第二惑星人の芸術の本物を与えよというわけか
カツナトキーとメリメアの仕事は、かれらの立体映動を、地球人向けに作り直すことだ
かれらは素晴らしいドラマをたくさん作っているが
ワニのような体をそのまま見せれば、敵意を抱きかねないため
転形して放映している
愚民政策だという攻撃も多かったが
行政当局にとっては、一般大多数のほうが大切だった
まだ全面開放には早すぎる
作業場に大勢の暴徒が侵入し「本物をよこせ!」とわめいた
その後、本物はずいぶん奪い取られたが
人々は驚くべき早さで本物に馴れていった
異質性を許容し、己の足らないところを見つける能力は
行政当局や、我ら技術者より、一般人のほうが優れていたのだ
7 少年たち
テーマ:少年マンガがらみ
大阪では37℃を超えた
暑さと少年なら西東三鬼という俳人がいた
ぼくは子どもの頃にマンガを描いていた
その頃は、マンガを読むと「そんなつまらぬものを見るな!」と怒鳴られるのが普通だった
まして自分で描くのは相当の変わり者と思われた
漫画少年という雑誌で4コママンガを募集して
優等、秀逸、佳作、選外佳作があり、たまにランクインした
だが世の中には上がたくさんいると諦めた
*
少年たちの前には、悪魔に似た人形がある メリメアの敵、地球人だ
敗退が続き、優秀な訓練士は前線に飛翔し、死んでいった
少年たちを訓練しているのは負傷した戦士だ
少年たちはまだ翼が生えそろって飛ぶには早い
少年たちは思念を集めて「発射!」と人形にぶつけると吹き飛んだ
1人の少年トルニドラの前の人形には何も損傷がなかった
訓練士:
地球人は優しい面も持っているという記録を読んだせいで
集中をさまたげているのだ!
地球人は我々を絶滅しようとしている
我々が傷つけ合うのを嫌う種族なのが辛抱できないからだ
我々は、すべての優しさ、美点を放棄しないと皆殺しにされてしまう
その時、地球人の戦闘宇宙船が来て
訓練士も少年たちもレーザーで射抜かれて死んだ
士官:
いつまでこんなことをしなければいけないのか
軍の指示でも残酷だ
あの少年は一度も攻撃しなかった でも敵は敵だ
自動迎撃機構が自動的に殺したのだ
地球人は泣きながら、次の戦闘予定地区に向かった
8 われらのメリメア
テーマ:地図
地図というと立体地図を連想する
アーサー・C・クラークの「都市と星」
ありのままを見られる立体地図は作れないものか
*
計画局のスダー:ようこそメリメアへ! ここは新世界です
ここもまた人類が征服した世界だ
翼をもつ原住民もいたが絶滅せざるを得なかったと聞く
それは仕様のないことだと大抵の人が考えるし、私も同じだった
土地がひどく安く入手できるため、事業ができるなら買い取るつもりだ
スダーのすすめる土地を見に行くため、巡航機に乗った
何かにぶつかりそうになると、自動的に方向・速度を変えて飛びつづける
女性:この世界では地図が完備されているので、機はそれに従って飛ぶだけです
青年:入植者も増え、ちゃんとした自治世界にするのが仕事です
女性:原住民の基地があった所は公園で、観光名所になるかもしれません
機はだしぬけに上空にはねあがった
女性:不記載物と遭遇 すみやかに処置願います
すぐに政府の飛行体が来て、光線を発射すると
ぶつかった故障機は消えてしまった
女性:
人間がいようといまいと、地図に記載されていない静止物は
みな排除されなければなりません
我々はまず地図を作り、それに合わせて建設します
不記載物はすべて消すんです
地図は5年に一度、改訂されます
その時認可されたものを期間内に建てればいいのです
それくらいしても当然でしょう
原住民を絶滅させてやっと出来た新世界なんです
よそから来て投資しようとするあなたがただけが儲けるなんて
我々もやりたいようにやる権利があるはずだわ!
9 末期のメリメア
テーマ:おもちゃ
書けなくて行き詰ると何でもやりたくなる
僕は模型鉄道を持っているが、メルクリンのHOゲージなのだ
それで気分転換に利用しようとした魂胆がいけなかった
近頃は大人もおもちゃを楽しむ
生活に役立てたり、財を生むようではおもちゃとは呼べない
人間は生きるために文明を築いた
ほかの生物より優位に立とうとするうちに文明が出来た
文明自体が人類のおもちゃではないか?
*
僕は滅んだ世界を訪れ、歴史などを書くのが仕事だ
人間のいない滅び去った世界に1人でいるメリメア駐在官は言葉少ない
メリメアは古い歴史を持つ植民世界だった
だが、例に漏れず、人口増加で収拾がつかず反乱が起き
内戦を経て、別の植民世界に移っていった
駐在官と浮揚ベルトを腰に締めた
駐在官:
足元が崩れたらスイッチを押すと安全な場所に移動します
ここの住民はみな掘進機能ロボットを1体ずつ持っていたそうです
とてもキレイな公園でよく整備されている
どうして見捨てられたのか
建物に入ろうとするとごうと音がした
駐在官:スイッチを!
途端に足元が陥没した
駐在官:
おそらくここの行政府は理想主義のかたまりだったのでしょう
官僚機構が複雑になり、地上に新しい建物をつくれず
地下での建設を認めたため、乱開発がおきて
すぐに陥没が起きるようになった
生き埋めになった時、地上脱出のために携行するようになったのがあのロボットです
10 折衝の手段
テーマ:なし
自由となると途端に困る
“自由の価値と、使い方を知らぬ者に与えるのは
しばしば破滅を提供することになる”
案外厄介なのが、登場人物の命名
赤ちゃんの名前のつけかたの本を見たりする(爆
地球人でもない者の名となると
紙に文字をでたらめに書き、目をつむって鉛筆の先で突き
当たったものを並べてみる
ある人から、偶然にどこかの呪文と合致したらどうする?と言われて
怖くて今はやっていない
呪文といえば、伝達ゲームではじめから呪文まがいの文句を送ったらどうなるだろう
最後にはちゃんとした文章になるのではあるまいか?
伝達手段はいくつもある 顔の表情、声、言葉、文字
SFによく出るテレパシー
強調したい時は言葉を加える
テレパスにとって、言葉の伝達はひどく疲れるということになっている
*
宇宙省折衝局員:では、始めてくれ
30m四方の実験室には、15体あまりの奇妙なロボットがいる
我々がワラワラワ人をモデルに作り上げた模造品だ
人類がワラワラワを発見して、まだそれほど経っていない
ワラワラワ人はロボットなのだ
大昔は高等有機生命体がいて、ロボットを量産したものの滅びてしまい
ロボットは知的生命体として文明を保持してきたらしい
人間はかれらとコミュニケーションがとれず
電波による送受信を備えた人間側ロボットで交渉していたが
ワラワラワ人は、人間との直接対話を求めてきた
身ぶりによるコミュニケーションの体系を組み上げ
ヤマタカはそれをマスターした1人で、今日はその成果を試す日だ
彼は親愛を表す膝の屈伸をしたが
必要以上だと無条件の奉仕になる
訂正のため、左手を斜め上にあげるのも間違えて
「周りのみんな来い」の合図になり、他のロボットが集まってくる
後退すると「触れてはならぬ」
すべて合わせると、相手に対して「お前は騙されたのだ馬鹿」となり決闘になる
ヤマタカ:助けてくれえ!
局長:模造品だから良かった
ヤマタカ:ワラワラワ人が我々そっくりの有機ロボットを作ってくれないですかねえ
11 検閲
テーマ:新年
飛行機で宣伝飛行をやっている
テープだから何回でも繰り返せる
不用品回収もたいてい録音
「ご不用品をお買い上げいたしております」
お買い上げは客に対する言葉だ
丁寧にしているつもりで、自分に敬語を使っている
(日本語は難しいねえ
言葉はいろいろと厄介だと時々思う
学校の卒業式の来賓の話など、退屈だ
所詮、小説は詩ではないから手垢まみれの言葉を使わなければならない場合が多い
“はじめに言葉ありき”
*
上流のお歴々のいるパーティに取材をかねて来たコピーライター
ミツコ:
この広告、たしかあなたのプロダクションで作ったんでしょ?
“すららしい味”て誤植でしょ
ブラッタ:罰金ものだな
彼はある程度内情を知っているのだ
チーフと僕の2人だけで最終検討した
それはだいぶ前から始まっていた気がする
あれを書いてはいけない、これを論じてはいけないという制限
今ではまぎれもない「言論統制」がしかれている
商品広告を暗号として連絡し合う方法を発見し、うまくやってのけるのだ
チーフ:今度は広告検閲官が来ているかもしれない 暗号に気づき始めているらしい
検閲官:
今度新しい定めが出来た
広告文が暗号に使われるのを阻止するため
表現統制令による誤字脱字・誤植に対する過料は免除されるが
検閲官の指示だと洩らした場合、保安条例に違反する
チーフ:
検閲官の中にも我々の味方がいて
どの文字を変更するかで意思伝達をはかろうという計画が進んでいるらしい
12 レイサンで
テーマ:行事、儀式
国民学校のことを思い出す
長い校長先生の話の間、体を動かしたりすると担任に殴られた
1人の不行儀は、クラス全体の恥、担任の恥なのだ
行事、儀式がもっとも複雑だったのは平安時代の貴族ではないか
陰陽道が猛威をふるい、呪術的なものになり、貴族の生活はがんじがらめになった
その日に何をしたらよい、してはいけないかを知るため「具注暦」があった
その吉凶・禍福などが、今とは比較にならないほどややこしく、みんな本気で信じていた
物忌みでは、変な夢を見たり、犬の死体を見たりしただけで
謹慎したり、ある方角に行けなくなったり
制約もはじめは相応の理由があって作られたのだろうが
そのために形式が定まった
そうした生活を送りながら、平安貴族はそれが政治なのだと信じていた
形を守れば、目的は達せられるという真理は他人事ではない
*
レイサ人の役人が来た
2回ノックして正確に1分30秒待ってから入るのが定めだ
私たちは猛スピードで部屋を片付けた
レイサ人は、この星に恐るべき先例故実を持つ儀式文明を作り上げた
宇宙船が飛び立つにも吉凶などを勘案しなければならない
レイサ人:
おめでとうございます
あなたがたが7日後に出発できることをお知らせにあがりました
そのお別れの式典を行いますので、全員参列することを希望します
言語変換機の持ち込みは許されず、退屈な式典だった
だんだん眠気が強くなり、ついには眠り込んでしまった
コツミ:
仕方ないじゃないか!
おれたちが寝てしまったから、式典の効力が消えて
出発は延期になった レイサ人によると65日先だそうだ
13 パトロール候補生
テーマ:試験シーズンなのでテストがらみ
学校を出るってどういうことなのか
今、現役の人と一緒になれば、全然ついていけない人間が
卒業生だOBだと言っているのはおかしなものだ
現代日本は、試験地獄、受験本位社会と言われる
それでいて、“いい学校”を出たら得られるはずのものの評価もどんどん低下している
中国の科挙を想起する
恐るべき競争だったそうな
子どもの頃から字を教えられる
せっかくとった資格も3年に1度行われる試験の成績が悪いと剥奪されてしまう
挙人になると終生身分で地位も高くなるが、これからが本番
全国の挙人で会試が行われる そのトップを状元という
気が遠くなる道のりだ
状元から宰相になった例も多くない
テストだけでは政官界でうまく身を処していけないということか
*
ぼくはその電気自動車に乗り込んだ
ぼくが潜入する時代は電気自動車の全盛時代だ
人は生まれた時から機械類の勉強を始めて訓練される
僕はタイムパトロールの候補生で、今日はその時代に潜入しても
うまくやっていけるかのテストなのだ
その時代は機械類の扱いが身分を決定するので
わざわざややこしく作られている
教官:
気の毒だが・・・このテストは中止だ
時間旅行者の一団が入り、歴史をちょっと変えた影響で
電気自動車は開発されずに終わってしまう
君の学習は始めからやり直しだ
14 スナイル
テーマ:進級、進学、就職
今の日本に本当の意味の通過儀礼なんてあるのかな
なんとなくなし崩しに次の段階に移って、本質的には変わってやしない
昔の柱時計はボーンと鳴った
腕時計になると時間の切れ目を告げなくなった
デジタル時計は、瞬間表示となり、把握形式 時間のけじめも何もない
*
2つの太陽があがっている
この間からの鈍痛が強くなった
手首にはめた勧告リングが震動した 何かの約束をセットしたのだ
チョク:学習館に行くはずだったでしょ? 登録、取り消すの?
一度登録すると、正当な理由もない取り消しは
その後、長い間登録を受け付けてもらえなくなる
ムリをして学習館に行くと知らない者同士が集まっている
先生:
私たちは、進歩した科学技術を駆使した運営機関にすべてを委ねている結果
さまざまなことを忘却してしまった 第一は時間の観念です
専門家の暦もほとんど使われていません
運営機関があるし、大勢が時間が何のことか理解出来ないからです
スナイルの痛みは増し、口から大量の血がほとばしった
医療センターの専門家:
君の体はひどいことになっている
脳保存が可能だから、サイボーグ化を認められることもあり得る
これまでの一生を振り返り、記憶を味わいながら結果を待つしかないだろうね
だが、時間の観念のない彼には
自分がどれほど生きてきたかも分からず
思い出もバラバラで無意味なものにすぎなかった
15 能力
テーマ:子ども
子どもといえば枕草子の「うつくしきもの」
子どもが怖いというと、変な顔をするだろうねえ
子どもを虐待する親が絶えない(随分前からなんだなあ
僕も子どもの頃は、電車のレールに石や釘をよく置いて
何回も捕まりそうになった(!
昔、子どもが愛され、かつ軽く見られていた時代は、
子どもの思惑や体力では大人に太刀打ち出来なかった
今は誰でも動かせる機械がやたらにある
刀で人を斬り殺す時代と、機関銃を乱射する時代
そのうち小型ミサイルで一都市を全滅させるとか
便利になった現代社会で一番怖いのは人間だ
*
チョク・チョは養育官だ
卵からかえった幼児らは順調に発育していた
ニーダラ・ニーを除いて
チョク:
あなたは念力を役に立たない方向に使っていますよ
そんな風にものを動かすのは全くムダなの
我々ルイナスの念力は、空中移動するためにあるのです
いい成績をとれば、上級学校に行き、社会で高い地位につける
それにあなたは、思念集中の言葉も唱えていない
第1回の予備検査の日
教え子たちはみな上手に上昇・下降、横移動したが
ニーダラ・ニーは瞬間移動したと試験官たちに注意された
試験官:
失格だ 基本からやり直しだ!
今は空中移動が基準なんだから、それ以外の能力は評価されない
世の中がそういう構造になっているんだから
16 ドードル競技
テーマ:スポーツ
僕はスポーツは好きだが、子どもの頃から不器用なのだ
馬鹿にされて悔しくて、高校3年の頃
どうせならモーレツなのがいいだろうと柔道をはじめた
まずは町道場で教えてもらい、秋に柔道部に入った
それから柔道ばかりして、学業はかいもく駄目だった
ある日、団体戦に出場し、1回戦はきれいに相手を投げて1本取った
2回戦の相手は強豪で、内股でほうられた
遅れてきた友人は「お前、ほんまに黒帯か?」
いまだに一緒に飲むと、いつも周囲に僕が投げられた情景を喋りやがる
スポーツの特徴は、やはりルールの存在ではないかという気がする
ルールがあるから、競技に特定の筋肉が頻用され、不均衡な発達問題が出て来るのも事実だが
ルールの範囲内なら、あらゆる奇手妙手を考え
やがてそれが一般的になったりする
ポールがグラスファイバーになるとか
*
都市防衛長官:彼が公的行事に初めて姿を現した記録です
ルイナスの競技会の報告 トラブルが1件発生
出場者のニーダスというチームのプレーがルール違反かどうかで騒ぎになった
リーダーのニーダラ・ニーは、初等教育を最低の成績で卒業
その後、正規の教育を受けていないにも関わらず、審査官の試問にてきぱき答えた
試合ではおそるべき速さの空中移動が行われ
対戦相手のルイナッサンはルール違反だと抗議した
結論はニーダスの選手は瞬間移動と遠隔操作をしているということになり
ニーダラ・ニーは反論した ルールにそれを禁じる項目がない
ルイナス社会では蔑視され、そんな能力を持っているだけで疎外される
審判官らは長い協議をし、面目にかけて、やはり空中移動以外は認めない判断を下した
都市防衛長官:
彼らはミュータントだったんだ
我々は社会でちゃんとした地位を与えなかった
とにかく、我々は奴らと戦わなければならない
今は彼らが続々と増加し、この社会を根底からくつがえそうとする革命軍で
その総帥がニーダラ・ニーなのだ
17 枢要施設守備隊
テーマ:?
「ころもがえ」についてのいろいろな引用
(眉村さんは、1つ1つの言葉に対して、毎回辞書などを引いて確認しているんだな/驚
僕の意識の中では、「ころもがへ」「更衣」「更衣え」「衣がえ」の4種類が存在する
そのどれもが独自のイメージを持つ
一事が万事 似たような言葉がたくさんある
今の正解が、何年か先に間違いになったらどうする?
冷暖房が普及してからは様子が変わった
石油不足が引き金になり、冷暖房を抑えようということになった
クーラーなどじゃんじゃん買わせておいて、それはないでしょう
今度は省エネルギーの一貫でノー上着ノータイが推奨されている
(今と全然変わらない/驚 「クールビズ」も新しい政策でもなんでもないんだな
*
休養所では瞬間移動は禁じられている
みな受信室に集まった
受信機はチャンタ・ルテ州の誇りの1つだ
今日は重要放送があると通達されていた
科学長官の発表だ
科学長官:
我々は、無用の人員・資材・機械を廃棄し、有用なものに代える精神で
画期的な物質を作り上げるのに成功した
異端州は、念力でわが枢要施設を破壊してきた
小さな町1つもろとも大気圏外に投げ出されたこともある
それに対抗して守備隊を配置し、こちらの念力で押さえつけるための守備隊だ
だから我々は念力をさえぎる物質を開発した
チャイボス・チャー隊長:
それでは我々、守備隊が不要になってしまう!
そんなもの、許せんぞ! やっつけろ
隊員らはどっと瞬間移動し、施設は砕け散り、宙に上昇していった
18 地下室で
テーマ:?
昔は不定時法だった 12刻に分け、十二支を配した
夏と冬が違うからややこしい
これまでの経験で、論理的なことを考えるには午前中
討論するのは昼から夕方、感受性が敏感になるのは夜半
フルタイム・ライターになった時、一番嬉しかったのは
1日の時間をどう使ってもいいことだった
そのうちに昼夜の区別が朦朧としてくる
そして依然として自分のペースをつかめないでいる
*
ジョミーラ・ミーは震動と物音に目をさました
祖母:狩り屋だよ 私たちがここに住んでいるのを嗅ぎ付けたんだ
ミー:あいつらはまだ、ここにいると知らないんだ 諦めるまで待とう
祖母:
やっぱり、ここから出て行った仲間が、帰るのを待つしかないのかね
私たちみたいに何の力もないルイナスもいるんだ
念力がないだけでこんな目に遭うなんて
お前の父母も狩り屋に殺された
ミー:
僕たちはランなのさ
念力は使えないけど、他人の力を封じる力を与えられている
それが他の人には許せないんだ
かつて、念力の乱用による暴動、戦争が日常茶飯事になり
念力をさえぎる物質の試みがなされた結果だった
キャグ・レーが帰ってきた
レー:
我々は仲間の大集団を発見した もう怖くはない ラトヤ山に行くんだ
これからは念力は使えない世の中が始まる
大地に足をつけた世の中が当たり前になる
ルイナス・ランが超能力社会を潰す
19 絶叫隊
テーマ:人と人とのつながり、グループ
わが国のセミ類中最大は、熊蝉で「しゃあしゃあ」と鳴く
その声を録音して、ヘッドホンで聞いてみたら
空気が規則的に震動してバンバンバンと鳴る まるで太鼓だ
ヘッドホンでは、この蝉のおそるべき声量をコントロール出来ないのだ
*
今日は私にとって最初の行進だ
私たちの後にも「恵みの行進隊」は、次々とそれぞれのコースを歩いていく
役人:発声の才能で人々に恵みをもたらすのです あなたがたは聖者なのです
私たちは小さな集落に近づき、太い声で宣言する
「ワァ、ワァ、ワァ、ワァ、ワァ」
声のかぎりを尽くしての絶叫だ
人々は隊列をつくり、地面にひざまずき、伏し拝んでいる
この絶叫が、自分たちの命を急速に縮めるが
季節は順調に移り、嵐や大雨、ひでりを防ぐ
ただでさえ乏しい生活で死に物狂いで毎日を送る我々に
これ以上の不幸や天災が襲いかかったら、人々は死ぬほかない
私たちは、かなり大きな町に入った
「ワァ、ワァ、ワァ、ワァ、ワァ」
ラニーが倒れて死んだ
彼はこれが3度目の行進で、時間の問題だった
遺体をそのままに歩く
町の人の熱烈な拝礼を受けた後、食糧になる定めなのだ
仮休憩所で、私はなかなか眠れなかった
こうした行進隊員になったのも、自分の家族のためなのだ
隊員を出した家族は、一定期間、生活が保障される
私の家族は、しばらくは1日2食の生活を送れるだろう その後は・・・?
2日目も、朝から私たちは絶叫して行進する
20 さすらいびと
テーマ:忘れた
一般に秋というと秋晴れ、日本晴れを連想する
この2つはそうしっかり結びつかないかもしれない
けれども、この手の文章がやたらに多いのも事実だ
新聞、雑誌を見ると、慣用句の合成折衷語などが目について
これでいいのかという感じがする
発作的に出掛ける旅行もいい
日が暮れて、ポケットの金を調べて、泊まるか帰宅するか考えるのは楽しい
本当の旅は、もっと孤独で危険な感覚であるべきだ
今回のテーマを忘れた
旧軍隊で上官にどやされた時
「分かりません!」だと「この馬鹿者!」と殴られる
「知りません!」だと「俺が教えなかったというのか!」と殴られる
「忘れました!」だと殴られる数がいくらか少なくなるそうだ
*
母親と娘2人と息子の計4人の一行はララ市に到着した
至る所でルートは荒廃し、寸断されている
自動機械がいつ襲って来るか分からない
市の役所に「定住」を申請すると、労働担当の窓口に行き
翌日からそれぞれ仕事をあてがわれ、必死で働いた
市民の数には制限があるため、都市が有用だと認めた者しか市民にしない
放り出された者は「さすらいびと」となり、都市を旅しながら生きるしかない
「通過者」は2泊までしか許されない
「定住申請者」は30泊まで認められる
都市の粗末な工場群、農園は彼らで支えられている
第一娘:私の技術が買われて、定住者に認可された
母:おめでとう
都市は一時定住申請者は、二度と受け付けない
だから家族がまたララ市に来ても、通過者の2泊だけ
第一娘を見つけるのは不可能だが、娘の幸運を祈ってやりたいと思った
残る3人は夜明けにアイ市に向かい出発した
21 ラアIII
テーマ:オリンピックがらみ
先回はテーマを忘れて編集者にきついお叱りを受けた(w
10月10日は体育の日 東京オリンピックを記念して設けられた(そうなんだ
日本万国博は開幕14日、15日から一般公開 どういうこっちゃ?
カレンダーには3月15日が日本万国博開会記念日とある
先回、本当に台風がやって来た
台風と言えば、昭和36年の「第二室戸台風」のほうが恐ろしかった
女房は銀行勤めで、戻れない
社宅は古く、補修もせずに放っておいた
みしみしと揺れて、雨漏りがしてきた
あちこちに洗面器、ポリバケツを置いたが、屋根瓦がやられたのに違いない
突然、どすんと音がして、見に行こうとしても戸が開かない
塀が向こうへ倒れていて、もうどうにでもなれと思い
酔って寝てしまった
*
不定期航路の旅で、帰途の3ヶ月をコンピュータだけを相手に暮らさねばならない
惑星ラアⅢに来たのは初めてだ
ソイヤ:
私はガイドです
アンドロイドではなく、人間のガイドを依頼なさったというので
いい時に来られましたわ 昨日からロボットのオリンピックが始まっているんです
実際にご覧になることをおすすめします
競技はもう始まっていた
だが、これではまるでロボットの壊し合いだ
ソイヤ:
オリンピックに出るのは、古い型のロボットなんです
どんどんロボットの新型が出るので
古いロボットの予備部品がなく、直すと高くつくので
どうせ廃棄するなら見世物にしようというわけ
優勝したロボットは手作りの部品で修理され
自由ロボットとして余生を送れる
昔の奴隷解放みたいですわね
私もそのお蔭をこうむってますけど
時々、どこかおかしい気がして仕方がないんです
22 最後の最期
テーマ:最後
これが最終回
俳人の石田波郷氏が、看護に来た奥さんが俳句が出てこないとこぼすのを聞き
「寝たきりでは、窓からが全天地で、自分はそれで句を作っている
自由に外を歩きまわれるお前が、そんなことを言うのは贅沢というものだ」と怒ったという
局限された視野で情報を受け取る人間ほど
断定的で明快に見えるとは言えないだろうか
旅行に際して、僕はカメラを持って行かなくなった
パチリと撮って、それでOKと済ませてしまいがちだからだ
(先日の「#Overtourism」の話とリンクした
どうせならスケッチするべきだ
自分の内部を通じて対象をつかめるのだから
僕はよくスケッチに出掛けて、絵らしきものを描いた
何年かやめて再開したらまるで筆が動かない
ある美大の学生に言うと
「スケッチの力は、1日やめると、それだけ落ちるものです」
近頃、カセットテレコを持って行く
実況を喋って、後で書くにも便利だ
同じテレコを映画館に持って行って、館内の雑音を録ろうと敢行した
(昔は違法だなんだとうるさくなくていい時代だったなあ
再生してみたら「ワウ、ワウ」と異様な音が出た
モーターの回転ムラだった
最後と最期がある
マッキとマツゴとではショート・ショートの意図するところが微妙に変わるとある人に言われた
*
ライセリス:さようなら
スナイル博士:さよなら
メリメア:さようなら
ニーダラ・ニー:さよなら
人々は宇宙船白骨号に乗る
スピーカーの声:
船は自動操縦でヌ・ヴァイトンに行く
彼らが我々を餌食にして、長い年月が経った
彼らと協定を結び、復活不能な人間を定期的に提供することで
他の生命を奪わないようにしてもらう
昔の生け贄と同じだが、それしかなかった
我々はようやくヌ・ヴァイトンを死滅する技術を手に入れた
この白骨号は、今回はもう還ることはない
ヌ・ヴァイトンとともに爆発するのだ(特攻隊じゃん
僕は何度も若返り再生をしてきた
今度死ねばもう復活はないと分かっていたが
やはり無念だった 本当の死が怖かった
だが、秒読みがはじまっていた