『彼岸過ぎ迄』、ようよう150ページまで読んだ。この本で注目すべきは漱石のまえがきだ。これは岩波文庫にも新潮文庫にもついている。『彼岸過ぎ迄について』という四ページほどの短文。このシリーズの何回目かでふれたが漱石の特徴は新聞小説作家であり、朝日の長期契約社員であったということだ。それと漱石の律儀な性格から作品の特徴が生まれる。
このまえがきで朝日の契約社員として自己の心構えを読者に述べている。是非読むべき文章である。
150ページまで読んだところでは、これは全くの娯楽小説として読者のご機嫌をうかがったらしい。素人探偵ではないが、人に頼まれてある人物の張り込み尾行をする描写が150ページまで続く。いやまだ終わっていない。今後どう持っていくかわからないが、イギリスで当時はやりの探偵小説を試みたのかな。
当時の新聞小説というのは、毎回どのくらいの分量だったのだろうか。今はどの新聞も大体長さが決まっているようだ。それと毎日欠かさず掲載したのだろうか。もし当時現代風の体裁だったとすると、毎回短い文章である程度のまとまりを持たせ、かつ小さな山場を毎回作らねばならないから、どうしても単調平板になる。
まれに作者が調子がいい時は別としてわりと退屈平板なものになる運命にあるような気がするが。そうして半分以上とはいわないが、漱石のかなりの小説がわりと淡々としているのはその辺に原因があるのではないか。