共食いを三分の一ほど、道化師を二、三ページ読んだが正直書評する食指が動かない。
まず、共食い。
石原慎太郎氏ではないが、これを読みとおすのは苦行だね、仕事じゃなければとても出来ないんじゃないかな。
ところが書評を見て驚いた。非常にポジティブな評価ばかりだ。もっとも石原氏は、何も言わず、彼はむしろ長編に向いているのではないか、と意味深長なことを言っている。どういう意味だか分からないが。
ただ、前に本屋で二、三行立ち読みして、コンベンショナルな作品(従来型)という印象を書いたが、選考者も一様に従来型の作品と言っている。その点では当たった。数行とサンプルが少なかったので強調してもいいかな。
執拗に女子高生とのセックスが出てくるが、肉感がまったくない。コンクリートの猿がオナニーをしているような、やりきれない印象しか持てない。それを選考各氏は絶賛に近い。どうなっているのかな。
黒井氏は「歴代受賞作と比べても高い位置を占める小説」というが、芥川賞とはその程度の賞なのか。私はほとんど、まったくと言い換えてもいいが、芥川賞作家の本を読んでいないから、黒井氏に言われればへえ、そうですかだが。その程度のレベルなのかね。
高樹のぶ子氏、最後まで「緩むことなく緊張が続き、濃密な空気を持続させている」。へえ、そうですか、というしかない。
山田詠美氏、短いコメントだが、この前の西村賢太氏への評でも感じたが彼女はまともだ。
島田雅彦氏「方言と緊張度の高い地の文が交錯しており、叙事詩の格調さえも漂わす」。この人西村賢太評の時も変なことをいっていた。選考委員は無理なんじゃないかな。
宮本輝。「小説の構成力、筆力などは、候補作中随一であることは認める」。ということはほかの作品は箸にも棒にもかからないと言うことだろう。この人の評は比較的まともだから、この人がそういうなら他の作品はどうしようもない、ということだろう。
さて、道化師の蝶、これは旅の間に読む本にいいんじゃないかな。飛行機の中で一ページ、ホテルで二、三ページなんてね。最初の数ページでそういう感じだ。
いつか書いたが、いい本と言うのはランダム・リーディングに耐えられなければならない。五ページおきに数行読んで見るかな。そういう楽しみ方をする小説じゃないのかな。