穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

『限界状況』という訳語の不適切なこと

2017-01-09 08:24:33 | 哲学書評

ヤスパースの重要概念に『限界状況』というのがある。これが分からない。 

調べてみたら原語は「grenzsituation」である。grenzで切れる。接頭辞である。grenzeから来ている。situationは英語のシチュエイションと同じである。状況ね、この訳は良い。

さてgrenzeであるが、これは境界という意味である。複数で限界という意味も有るが、ヤスパースを読むと、これを実存開明の世界内存在というところで扱っているのであるが、個人個人、ヤスパース語でいうと個別の実存は世界の中のさらに極限られた敷地に閉じ込められている、というのだ。

ヤスパースの使い方からすると、個人個人の環境と言うか状況は狭い敷地(50ヘーベーとかね)に閉じ込められているというのだから「狭い境界のなかで」という印象なんだな。限界状況なんていったら何のことだが分からない。厳めしさは表現出来るのかも知れないが。

辞書に出ている接頭辞として使われている単語の例は;

grenzkonflikt 国境紛争

grenzland 国境地帯

grenzpfahl 境界の杭

など