穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

失われし時を求めて 9 

2022-07-01 07:03:14 | 小説みたいなもの

 アメリカの連邦最高裁が妊娠中絶が重大犯罪であるとの判決を出した。ところが日本のマスコミは超パカだから痒いところにまで孫の手が届くような適切な報道が皆無である。

 どうして「失われし時をもとめて」のテーマと関係あるのだ、とのご疑念ごもっともなれど、これが大ありなんだね。

 妊娠中絶に対してどういう量刑が課されるのか報道がない。ま、実際には各州の最高裁か州議会が法律で定めるのだろうが、30年前だっけ、何州かでは犯罪だったのだから参考事例はあるだろう。何の報道もないから調べてみたら(私がするのだからきわめて荒っぽい調査だが)、ある州では懲役10年、罰金10万ドルになるらしい。

 これは妊婦に対する刑罰なのか、中絶手術をする医師やもぐり医師に対するものかはっきりとしない。適用される刑法は殺人罪なのかもはっきりとしない。殺人罪なら懲役10年というのは軽すぎるようだ。双子だったらどうするのかな。死刑になるのか。

 それと、連邦最高裁によると「妊娠十五か月以上の妊娠中絶は犯罪」というのだが、この解説がマスコミにはない。なんで十五か月なんだ。胎児も受胎後十五か月で人間になるというのか、人格があるというのか、きわめて重要なポイントで根拠を報道するのが小学生マスコミの義務だろう。

 胎児は受胎後早い時期に記憶をつかさどる脳の海馬が出来てくるという。感覚も発達するらしい。腹の中じゃ目が見えないから視覚は必要がないからともかく、聴覚は発達するらしい。羊水を通して外界の音を聞いているそうだ。

 触覚はもちろんできてくる。母親の喜怒哀楽、ストレス、幸福感、嫌悪感は母親のホルモン分泌を変化させるだろう。胎児はそれをもろに感知し記憶する。また、母親が嬉しかったり安心すれば胎児を包む筋肉は弛緩する。嫌悪恐怖に襲われれば筋肉は収縮して胎児を圧迫する。それらは発達してきた胎児の海馬に蓄積される。分娩後も当然脳内に記憶として残る。もっとも記憶の先入れ後出し原則でよほどのことがない限り意識の表面に浮上してこないだろう。

 というわけで、十五か月問題というのは重要なのがお分かりいただけただろうか。

 もっとも、これはベルクソン同様すべての記憶は完璧に記憶されて消滅することはないという理解に基づいている。ベルクソンはたしか『イマージュ』の堆積といったかな。