更年期の「歯周病」を予防すべき理由とは?本当は怖い歯周病菌と対策を医師が解説
歯周病は感染症で日本人の約70%が罹患しています。特に女性は、閉経して骨密度の低下やドライマウスが進みやすく、年齢による免疫力低下も手伝って、歯周病のリスクが上がります。歯周病は口の中だけの問題ではなく、全身の多くの疾患に影響し、健康寿命に大きく影響することがわかっています。歯周病は何より予防が重要。口腔ケアについて、日本大学歯学部名誉教授 落合邦康先生に伺います。
お話を伺ったのは…
落合邦康先生(日本大学歯学部名誉教授)●日本大学農獣医学部獣医学科卒業。米国アラバマ大学メディカルセンター留学後、歯学博士号取得。日本大学歯学部教授、同総合歯学研究所教授を経て現職。アルツハイマー病と歯周病菌、口腔細菌と腸内細菌の研究で話題。『人は口から老いて口で逝く ~認知症も肺炎も口腔から』(日本プランニングセンター)
取材・文=増田美加(女性医療ジャーナリスト) イラスト=MAIKO SEMBOKUYA(CWC) 『婦人画報』2022年9月号
更年期からの歯周病が危険な理由は?
歯周病は40歳以降で男女ともに増加していますが、なかでもリスクが高いのは女性です。「女性は更年期に女性ホルモンの低下が起こります。それにより、口腔内が乾燥するドライマウスや骨粗鬆症になりやすく、歯周病の進行に影響するのです」と落合邦康先生。歯周病菌は口の中だけにとどまらず、血液を介して全身疾患の発症に密接に関連することがわかってきました。
「歯肉溝の中にびっしりと常在菌からなる歯垢(プラーク)がつきます。歯垢には善玉と悪玉があり、健康でも歯肉溝1~2ミリに絶えず常在菌が入り込んでいます。1~2日は善玉菌が守りますが、1週間たつと悪玉菌の割合が増加します。悪玉菌が増えると炎症が起こり、炎症物質がどんどん出て、血液に乗って全身を巡るのです」と落合先生。
そもそも歯周病とは?
歯周病は感染症です。細菌やウイルスが侵入するおもな入り口は“口”。「口腔内には約700種類もの細菌が生息、ウイルスも存在しています。口腔は、外界に直接接触しているため、ある意味、体の中で最も“不潔な場所”。単位面積当たりの細菌密度が高いのは、腸管より口腔内です。歯垢は糞便よりすごい細菌の塊。ですから、口腔にはさまざまな防御手段が備わっていて、粘膜下には細菌を排除するための免疫担当細胞などがたくさんいます。口は不衛生なので周囲には多くのリンパ節が配置され、免疫細胞を作り、口腔内を守っています」
しかしその免疫バランスは40代から崩れます。体が強ければ日常的に入ってくる菌も速やかに排除されます。ところが免疫が低下すれば、病原性の弱い菌によっても感染症となり、しばしば重篤な疾患となるのです。
歯周病のセルフケアは?
まず、朝起きたときの口の中のネバネバは細菌が多いので、口をゆすぎ、歯ブラシで歯や歯肉を清潔にします。唾液には口腔内の汚れを洗い流して細菌の増殖を抑える作用がありますが、寝ているときの唾液は、起きているときの3分の1。さらに更年期以降は唾液の分泌量が減って、その作用も低下します。
「食後、歯磨きをすることは重要ですが、外出先でできないときは、せめて口をゆすいでください。十分に時間をかけて歯磨きするのは、一日のうち夜だけでもいいです。歯ブラシ1本だけでなく、目的別に複数の道具を用意してください。
また生活習慣によっても歯周病のリスクは上がります。特に大きなリスクとなるのは喫煙。非喫煙者の3倍以上歯周病になりやすいことがわかっています。もうひとつは糖尿病です。糖尿病患者は重症の歯周病になりやすく、歯周病があると血糖コントロールがうまくいかない、双方向性の悪影響があります」
歯肉溝1~2ミリに溜まる歯垢をきれいに取り除くには、セルフケアだけでは十分ではありません。3~6カ月に1回は、歯科の専門的ケアが必要です。「歯周病は、かかってしまうと歯科医師だけでは治せません。正しいセルフケアとプロケアで、予防することが重要です」(落合先生)
歯周病が影響する全身疾患はこんなにある!
口腔内の悪玉菌である虫歯菌は、歯の表面に血液が通っていないため、全身に巡りません。しかし同じ口腔内でも歯周病菌は、歯肉から血液を介してアッという間に全身に届いているのです。全身を巡った歯周病菌は、誤嚥性肺炎や心臓疾患、脳梗塞の原因となったり、糖尿病や認知症、がんの浸潤・転移、インフルエンザほかのウイルス感染症、骨粗鬆症、早産ほかを誘発することが多くの研究からわかってきました。
Ohayon,M. et al. :SLEEP,27(7),1255-1273(2004)一部改変[ZZZ-0238]
※参考資料『人は口から老いて口で逝く ~認知症も肺炎も口腔から』落合邦康著