2022年7月に安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件と23年4月に岸田文雄前首相に爆発物が投げつけられた事件は、いずれも選挙期間中に起きた。今回の衆院選は、警察が両事件を教訓に警護の対策をとって以降、初めての大規模な国政選挙となる。19日には東京・永田町の自民党本部と首相官邸が襲撃される事件が起き、各地の警察は警戒を強めている。

■「高所」「後方」警戒 手荷物検査や防弾マット活用

 10月16日夕、JR御徒町駅前(東京都台東区)の広場で開かれた候補者の街頭演説に岸田前首相が駆けつけた。

 立ち止まって演説を聞くことができるエリアは柵で囲われ、出入り口は2カ所に限定された。出入り口付近には陣営スタッフと警察官が待機し、エリアに入ろうとする一人ひとりのリュックサックなどの手荷物の中身を調べ、全身に金属探知機をあてていた。

 候補者は岸田前首相の隣で4階建てのビルを背景に選挙カー上から演説。背後や側面には銃撃から守るための黒い防弾マットが立てられていた。聴衆との間には約20メートルの「緩衝地帯」があり、聴衆から候補者の顔がはっきり見えないほどの距離がとられた。

 候補者と聴衆の間は黒スーツ姿に左胸に「SP」バッジを着けた約20人が警戒。制服警官は、聴衆エリアを取り囲むように配置され、通行人が立ち止まらないよう、「ご協力をお願いします」などと声をかけていた。広場周辺のビルの屋上などには、高所や聴衆エリアに不審人物がいないか警戒する計約10人の警察官の姿もあった。

 衆院選で初の週末を迎えた19日夜、千葉市。石破茂首相が駆けつけた街頭演説会場周辺は制服警官の姿が目立ち、厳戒態勢が敷かれていた。この日の早朝に自民党本部に火炎瓶のようなものが投げ込まれるなどした事件が発生したことを受け、警察庁が各都道府県警に警護の徹底などを改めて指示していた。千葉市での演説後には、石破首相が選挙カーから降り、SPに囲まれながら聴衆と握手して回る場面もあった。

 一方、警察は最新機器も導入。飛行中のドローンに妨害電波を発して操縦不能にする「ジャミング装置」や、AI(人工知能)カメラで聴衆のなかで不審な動きをする人物を素早く覚知する「異常行動検知システム」、街頭演説の現場の状況を3D画像で再現する機材などで、必要に応じて活用するという。(比嘉展玖)