ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ビリー・ホリデイ/アラバマに星落ちて

2024-06-20 20:53:25 | ジャズ(ヴォーカル)

本日はビリー・ホリデイをご紹介したいと思います。言わずと知れた伝説的ジャズシンガーで女性ヴォーカル御三家の一人ですが、一方で全体像を評価するのがなかなか難しい存在でもあります。同じ御三家でもエラ・フィッツジェラルドやサラ・ヴォーンは全盛期が50年代以降でアルバムもたくさん残っており、それらを聴けば良いのですが、ビリー・ホリデイについては絶頂期が1930年代ということで当時のレコードはあまり残っていませんし、あったとしてもすごく録音状態が悪いです。彼女の代名詞としてあまりにも有名な”Strange Fruit(奇妙な果実)"も黒人差別を訴えた歌として歴史的価値は高いのかもしれませんが、なにせ1939年の歌なので日常的に聴くようなものではないと個人的には思います。

そんなわけで現在私が所有しているビリーのアルバムは本作1枚のみです。しかも購入した理由はサイドメンが豪華だからと言う理由なので、真のビリー・ホリデイ好きの人からしたらけしからん!と怒られるかもしれません。1957年1月にヴァーヴに吹き込まれた本作はコロンビア盤「レディ・イン・サテン」と並んで彼女の晩年の代表作に挙げられていますが、個人的にはストリングス入りの「レディ・イン・サテン」よりスモールコンボの本作の方が好きです。メンバーはハリー・"スイーツ"・エディソン(トランペット)、ベン・ウェブスター(テナー)、バーニー・ケッセル(ギター)、ジミー・ロウルズ(ピアノ)、レッド・ミッチェル(ベース)、アルヴィン・ストーラー(ドラム)から成るセクステット編成です。

曲は全6曲。全て有名なスタンダード曲ですが、ビリーの他の誰とも違う唯一無二のヴォーカルによって独特の世界が広がります。この頃の彼女の声は長年の麻薬とアルコールによって蝕まれており、しゃがれ声で声量もそこまで出ていないように思えますが、切々と語りかけるような歌い方は不思議な魅力があります。おススメは1曲目の"Day In, Day Out"と続く”A Foggy Day"、5曲目”Just One Of Those Things"の3曲。いずれもミディアムテンポの曲で悠然と自分の間合いで歌うビリーに続き、サイドマン達がたっぷりとソロを取ります。ひたすらミュート押しのスイーツ・エディソンは若干くどいですが、スインギーなバーニー・ケッセルのギター&ジミー・ロウルズのピアノ、何よりビリーとは30年代からの付き合いである御大ベン・ウェブスターの雄大なテナーが素晴らしいです。残りの曲はバラードで、中でも”One For My Baby"ではスイーツの枯れたミュート、すすり泣くようなベンのテナーをバックにビリーが切々と歌い上げます。結局、この2年後にビリーは44歳の若さで病死しますが、酒とクスリ、そして混乱した私生活のせいで心身ともにボロボロの状態だったようです。正直、このアルバムを聴いただけではビリー・ホリデイの紆余曲折に満ちたキャリアの一端を知ったに過ぎませんが、彼女の入門編としてはちょうど良い作品ではないかと思います。

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フォー・フレッシュメン&ファイヴ・トロンボーンズ

2024-06-19 21:07:40 | ジャズ(ヴォーカル)

本日は男性コーラスグループのフォー・フレッシュメンをご紹介したいと思います。昨日のジャッキー&ロイ同様に硬派ジャズファンからはケッ!と唾棄されてスルーされそうですが、私は好きなのです。高音担当のテノール2名、低音担当のバリトン1名、バス1名から成るハーモニーを売りにしたグループで、後のビーチ・ボーイズ等にも多大な影響を与えています。結成は1948年で何と2024年現在も(!)活動する長命グループですが、当然のことながらメンバーは入れ替わっています。

全盛期の1950年代のグループはドン(テノール)&ロス(バリトン)のバーバー兄弟に、高音テノールのボブ・フラニガンの3人が基本メンバー。バスはちょくちょく入れ替わりますが本作「ファイヴ・トロンボーンズ」の時点(1955年)ではケン・エレアが努めています。タイトル通り5人のトロンボーン奏者が伴奏しており、フランク・ロソリーノ、ハリー・ベッツ、ミルト・バーンハート、トミー・ペーダーソン、ジョージ・ロバーツと言った顔ぶれです。リズムセクションも実は豪華で、バーニー・ケッセル(ギター)、クロード・ウィリアムソン(ピアノ)、ジョー・モンドラゴン(ベース)、シェリー・マン(ドラム)が名を連ねていますが、コーラスとトロンボーンの陰に隠れてあまり存在感はありません。編曲を務めるのはスタン・ケントン楽団等で活躍したピート・ルゴロです。

全12曲。全て歌モノスタンダードでほとんどがお馴染みの曲ばかりなのですが、4人の卓越したコーラスワークと迫力あるトロンボーンアンサンブルのお陰で聴き応えのある1枚となっています。中でもおススメはトロンボーンとコーラスの掛け合いが見事な”Love Is Just Around The Corner"、ボブ・フラニガンのハイトーンが胸に沁みる美しいバラード”Mam'selle"、ジョージ・ロバーツのバストロンボーンとケン・エレアの低音ヴォイスが印象的な”Speak Low"です。各楽器がソロを取る場面はほぼありませんが"Love”でフランク・ロソリーノ、”Somebody Loves Me”でクロード・ウィリアムソン、”You Made Me Love You”でバーニー・ケッセルが短いながらもソロを聴かせてくれます。なお、日本ではなぜかこの「ファイヴ・トロンボーンズ」のみがたびたびCD発売されていますが、他にも似たような企画として「ファイヴ・サクシーズ」「ファイヴ・トランペッツ」「ファイヴ・ギターズ」等があります。youtubeで聴くとどれも素敵なアルバムなので、いつかCD発売してくれないかなあと思っているのですが多分されないでしょうね・・・

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ジャッキー&ロイ(ストーリーヴィル322)

2024-06-18 18:48:17 | ジャズ(ヴォーカル)

ジャズ・ヴォーカル・シリーズの第4弾はジャズ界きってのおしどりデュオ、ジャッキー&ロイを取り上げます。ジャッキー・ケイン(妻)&ロイ・クラール(夫)から成るこのコンビ、私は大好きで何枚もアルバムを所有しているのですが、一般的な知名度や評価はそこまで高くないような気がします。昔から日本のジャズファンの間ではインストゥルメンタルに比べてヴォーカル自体が低く見られがちですし、そのヴォーカリストの中でも本格的にじっくり聴かせるタイプの方がより評価される傾向にあります。ジャッキー&ロイの真骨頂であるソフトなスイング感やスタイリッシュなヴォーカルは一聴しただけではお洒落なポップスに聞こえなくもなく、硬派ジャズファンからは見向きもされてこなかったのが実情でしょう。

ただ、ジャズ通でも知られる作家の村上春樹氏は「ポートレイト・イン・ジャズ」の中でジャッキー&ロイのことを絶賛していました。細かい表現は忘れましたが、技術的に高度な音楽をさも簡単であるかのようにやってのける、みたいな感じでしたが、私も大いに同意します。カフェのBGMにぴったりな小洒落たポップス風でありながら、歌は抜群に上手いですし、スキャットも絶妙、ロイ自身が弾くピアノを含めて各楽器もきちんとスイングしています。本作はボストンのレコード会社であるストーリーヴィルに1955年に吹き込まれた作品で、2人がおでこを突き合わせるジャケットも最高にクールな1枚。メンバーはジャッキー・ケイン(ヴォーカル)、ロイ・クラール(ヴォーカル&ピアノ)、バリー・ガルブレイス(ギター)、ビル・クロウ(ベース)、ジョー・モレロ(ドラム)の5人。渋いながらも一流のメンツが顔を揃えています。

全8曲、歌モノ6曲、オリジナル2曲という構成です。歌モノスタンダードのうち"Yesterdays"や”I Didn't Know What Time It Was”はロイはピアノ伴奏に回り、ジャッキーがしっとりバラードを歌い上げます。ジャッキー普通に歌上手いやん!というのがよくわかりますが、彼らの真骨頂はやはり2人のヴォーカルの掛け合い。ロジャース&ハートの隠れた名曲”Mountain Greenery"や”Season In The Sun""Cheerful Little Earful"でスキャットを交えて夫婦ならではの息ぴったりのハーモニーを聴かせてくれます。オリジナル曲の”Hook, Line And Snare””Slowly”も素晴らしい。歌詞はなく、全編スキャットと各楽器のソロだけで構成されています。ロイはもともとチャーリー・ヴェンチュラのバンドでピアニストを務めていましたので、普通にスインギーなピアノを聴かせてくれますし、歌伴の名手ガルブレイスのギターソロもさすが。”Hook, Line And Snare”ではさらにジョー・モレロのドラムソロ、ビル・クロウのベースソロも楽しめます。何よりも2人のユニゾンによる♪ドゥビドゥバドゥッドゥ~と言うスキャットが最高で、まさに声を楽器代わりにしたスリリングなアドリブが繰り広げられます。

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クリス・コーナー/ジス・イズ・クリス

2024-06-17 18:16:14 | ジャズ(ヴォーカル)

先日サラ・ヴォーンのところで3大女性ヴォーカル(ビリー・ホリデイ、エラ・フィッツジェラルド、サラ)について書きましたが、彼女らは皆黒人。実は白人にも御三家というのがありまして、それがアニタ・オデイ、ジューン・クリスティ、そして今日取り上げるクリス・コナーの3人です。この3人には共通点があり、1つは全員スタン・ケントン楽団出身であるということ。3人に加えて後にケントン夫人となるアン・リチャーズを加えて”ケントン・ガールズ”と総称したりもします。もう1つは全員もれなくハスキーヴォイスであると言うこと。これもケントンの好みでしょうが、彼女達に限らずこの頃の白人女性ヴォーカルはヘレン・メリルやペギー・リーも含め総じてハスキー系が多いですね。中でもこのクリス・コナーはドスの効いた低音を持ち味にしています。

今日ご紹介する「ジス・イズ・クリス」はベツレヘム時代の1955年4月に吹き込まれたもので、「バードランドの子守唄」と並んで彼女の代表作です。バックで演奏するのはハービー・マン(フルート)、ジョー・ピューマ(ギター)、ラルフ・シャロン(ピアノ)、ミルト・ヒントン(ベース)、オシー・ジョンソン(ドラム)から成るクインテット。そこに4曲でJ・J・ジョンソン&カイ・ウィンディングのトロンボーン・チームが加わります。

全10曲。全体的にはクリスの低音ヴォーカルを活かしたやや暗いトーンの曲が多いですね。"Blame It On My Youth""The Thrill Is Gone"”Trouble Is A Man"等がそうで、歌詞も恋の苦さや男への恨みつらみを歌っています。でも、そんな曲ばっかりだとさすがにキツい。個人的にはミディアム〜アップテンポの曲の方が良いですね。中でも”I Concentrate On You"と”From This Moment On"はジェイ&カイのツイン・トロンボーンを大きくフィーチャーしており、演奏にダイナミズムを加えています。それ以外だと他ではあまり聴いたことのない”All Dressed Up With A Broken Heart”もなかなかの佳曲ですし、ラルフ・シャロンの軽快なピアノソロをフィーチャーした"Ridin' High"もおススメです。

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メル・トーメ・スウィングス・シューバート・アレイ

2024-06-14 18:50:34 | ジャズ(ヴォーカル)

本日もヴォーカルものでメル・トーメを取り上げたいと思います。フランク・シナトラやトニー・ベネットとともに白人男性ヴォーカリストの代表的存在ですが、声質は中性的なハイテナーで一聴したところではドスを効かせた女性歌手に聞こえなくもないです。若い頃は俳優として映画にも結構出ていたようですが、シナトラと違って映画スターにはなれず、60年代以降は歌手に専念しています。本ブログでもベツレヘム盤を中心に何度か取り上げましたが、今日取り上げる作品は1960年にヴァーヴ・レコードに吹き込まれたものです。タイトルにあるシューバート・アレイとはニューヨークのブロードウェイにある通りの名前で、ミュージカルシアターが軒を連ねているところとのこと。そのことから想起されるように、全12曲ミュージカルナンバーで構成されています。

西海岸録音で伴奏を務めるのはマーティ・ぺイチ率いるウェストコーストのオールスターメンバーです。トーメは50年代後半のベツレヘム時代からマーティ・ペイチとたびたび共演しており(「ウィズ・ザ・マーティ・ペイチ・デクテット」「アット・ザ・クレッシェンド」)、本作でも質の高い演奏を聴かせてくれます。メンバーは合計11人おり、アート・ペッパー(アルト)、ビル・パーキンス(テナー)、ステュ・ウィリアムソン(トランペット)、フランク・ロソリーノ(トロンボーン)らソロプレイヤーとしても活躍する面々が加わっています。彼らは随所で短いながらもソロを取り、演奏に彩りを加えています。

全12曲、全てを紹介するのは大変なのでおススメの曲だけ解説します。まずはオープニングの"Too Close For Comfort"。スタン・ゲッツやアート・ペッパーも演奏した名曲ですが、ヴォーカルではトーメのバージョンが決定的と言って良いでしょう。冒頭のヴァースに続く歌い出しの低音部の声の伸びが思わずゾクッと来ますね。後半で聴けるアート・ペッパーのソロも素晴らしい。ソロと言っても20秒ぐらいしかないのですが、その短い間に輝かしいフレーズを散りばめています。3曲目"A Sleepin' Bee"はクインシー・ジョーンズやビル・エヴァンスも取り上げた曲で、ビル・パーキンスのソロを挟んでしっとり歌い上げます。4曲目"On The Street Where You Live"は「マイ・フェア・レディ」からの1曲。ペッパーやステュ・ウィリアムソンの短いソロを挟んで、最後にトーメが見事なスキャットを披露します。7曲目"Hello, Young Lovers"はJ・J・ジョンソン、8曲目は"The Surrey With The Fringe On Top"はマイルス・デイヴィスのバージョンがそれぞれ有名なので、それらと聴き比べるのも楽しいです。10曲目"Whatever Lola Wants"と11曲目"Too Darn Hot"はアート・ペッパーに加え、西海岸No.1のトロンボーン奏者フランク・ロソリーノのパワフルなソロも聴けます。ラストはレナード・バーンスタインのバラード"Lonely Town"をじっくり歌い上げて締めくくります。ここに挙げた曲以外も全て水準以上の出来で、まさに歌良し・伴奏良しの理想的なヴォーカル名盤です。

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