ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

サラ・ヴォーン&カウント・ベイシー

2024-06-13 21:36:15 | ジャズ(ヴォーカル)

本日はひさびさにヴォーカルもので、サラ・ヴォーンを取り上げたいと思います。サラについては以前にマーキュリー盤「アット・ミスター・ケリーズ」をご紹介しましたが、ビリー・ホリデイ、エラ・フィッツジェラルドと並ぶ3大女性ヴォーカルの一人です。本作は1961年1月にサラが所属していたルーレット・レコードに吹き込んだもので、同じく当時ルーレット専属だったカウント・ベイシー・オーケストラとの共演盤です。ベイシー楽団のルーレット作品についても本ブログではたびたびご紹介していますね。基本的に同じ年に吹き込まれた「カンザスシティ組曲」と同じメンバーですが、ピアノを弾いているのはベイシーではなくサラの伴奏ピアニストだったカーク・スチュアートです。自分自身は録音には参加していないにも変わらずジャケットにデカデカと名前も顔も使われているあたりが大御所ベイシーの存在感でしょうか?

メンバーは総勢16人いるので全員列挙はしませんが、サド・ジョーンズ、ジョー・ニューマン、フランク・フォスター、ビリー・ミッチェル、フランク・ウェスらのスタープレイヤーが勢揃いしたホーンセクションに、フレディ・グリーン(リズム・ギター)、エディ・ジョーンズ(ベース)、ソニー・ペイン(ドラム)から成るリズムセクションです。さすがは黄金期のベイシー楽団と言いたくなる布陣ですが、基本的にはサラのヴォーカルの伴奏に徹しており、わずかにビリー・ミッチェルが”I Cried For You”でテナーソロを、ジョー・ニューマンが”Mean To Me"でカップミュートでソロを取るくらいです。

全11曲。基本は歌モノスタンダードが中心ですが、ビッグバンドの定番曲もいくつか取り上げています。オープニングトラックはエリントン楽団の”Perdido"。のっけから爆発するホーンセクションをバックにスキャットを交えてノリノリで歌うサラが最高ですね。9曲目”Until I Met You"はフレディ・グリーンが作曲したベイシー楽団の名曲”Corner Pocket"に歌詞を付けたものです。それ以外では情感たっぷりのバラード”There Are Such Things"、ロジャース&ハマースタイン作曲ながら歌われる機会の少ない”The Gentleman Is A Dope"もおススメです。サラの歌の上手さ、ベイシー楽団の伴奏のすごさについては今さらコメントするまでもありませんが、欲を言うならばもう少し各楽器のソロがあった方がより楽しめたかもしれません。なお、サラとベイシー楽団はずっと時代が下って1981年にも「センド・イン・ザ・クラウンズ」で共演しています。こちらもなかなかの名盤ですので、また機会があれば取り上げたいと思います。

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リー・モーガン・インディード!

2024-06-12 18:43:26 | ジャズ(ハードバップ)

本日はリー・モーガンのデビュー盤をご紹介します。モーガンについては以前にサヴォイ盤「イントロデューシング・リー・モーガン」を取り上げましたが、その録音が1956年11月5日。本作「リー・モーガン・インディード!」はその前日の11月4日にブルーノートに吹き込まれたものです。おそらくですが、フィラデルフィアからやって来た天才トランぺッターのことは当時のニューヨークのジャズシーンでは話題になっていたのでしょうね。その中でいの一番にレコーディングの機会を用意したのが、若い才能の発掘に定評のあったブルーノート社長アルフレッド・ライオンでした。ブルーノートの本気度はこのセッションのために用意したサイドメンからも伺えます。リズムセクションはホレス・シルヴァー(ピアノ)、ウィルバー・ウェア(ベース)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラム)の3人。ジャズ・メッセンジャーズで成功を収め自身のコンボを率い始めたばかりのシルヴァーにマイルス・デイヴィス・クインテットの伝説のマラソン・セッションを前月に終えたフィリー・ジョーが18歳になったばかりのモーガンを囲むという構図です。もう1人クラレンス・シャープという謎のアルト奏者が加わっていますが、モーガンとはフィラデルフィア時代の盟友のようです。

全6曲、スタンダードは1曲もなく全てジャズ・オリジナルです。1曲目”Roccus"はホレス・シルヴァーの自作曲。ややエキゾチックなイントロからシルヴァーらしい歌心あるテーマに移ります。モーガンのソロは実に堂々としたもので、大物揃いのリズムセクションをバックに緩急自在のプレイを見せつけます。3曲目”Little T"はドナルド・バードの曲で、バード自身もケニー・ドリュー「ジス・イズ・ニュー」で演奏していますが、録音自体は本作の方が先です。どういう経緯でモーガンが先に録音したのか謎ですが、ライバル的存在でもあったバードの曲をカバーするあたりモーガンの貪欲な姿勢が伺えます。演奏自体は痛快そのもののハードバップです。

それ以外はモーガンと同じフィラデルフィア出身のジャズマンの曲がそれぞれ2曲ずつ。1人はテナー奏者兼作編曲家として有名なベニー・ゴルソンで2曲目”Reggie Of Chester"とラストの”Stand By"を提供しています。ゴルソンの数ある名曲の中では有名ではありませんが、どちらも切れ味鋭いハードバップ。とりわけ”Stand By"はアルバムのラストを飾るにふさわしい名曲・名演と思います。シルヴァー→シャープと軽快なソロをリレーした後、満を持して華々しいソロを繰り広げるモーガンが圧巻です。もう1人のオーウェン・マーシャルはゴルソンと比べるとマイナーな存在ですが、モーガンとは仲が良かったのか次作「リー・モーガン・セクステット」にも”D's Fink"等2曲を提供しています。本作では3曲目のバラード”The Lady"が素晴らしいですね。まるでスタンダード曲かと思うような美しいメロディで、モーガンが18歳とは思えない匂い立つような色気たっぷりのバラードプレイを聴かせてくれます。5曲目”Gaza Strip"は今何かと国際紛争で話題になっているパレスチナのガザ地区のこと。マーシャルがどういう意図でこのタイトルを付けたのか不明ですが、本作収録時の1956年の時点でパレスチナ難民の集まる場所として国際問題になっていたようです。曲自体はマイナーキーのバップです。この後、生涯を通じてブルーノートに26枚ものリーダー作を吹き込むモーガンですが、本作はその第一弾にふさわしい完成度の高い名盤だと思います。

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ジャッキー・マクリーン/カプチン・スウィング

2024-06-11 21:20:43 | ジャズ(ハードバップ)

ジャッキー・マクリーンはジャズファンの間でよく”B級”と評されたりします。確かに同時代のアルト奏者と比べても、アート・ペッパーやフィル・ウッズのような天才的な閃きに満ちたアドリブを繰り出すわけではなし、キャノンボール・アダレイやルー・ドナルドソンのような黒人らしいソウルフルなプレイが持ち味というわけでもありません。ちょっと半音外れたような独特のフレージングと”泣きのアルト”と称される哀愁漂う節回しが彼の個性と言えます。ただ、一風変わったその"マクリーン節"が昔から多くのジャズファンを虜にしてきました。特に50年代中盤から60年代初頭にかけてのプレスティッジ、ブルーノートの作品群は人気盤揃いです。

本作「カプチン・スウィング」は1960年4月17日録音のブルーノート盤。サイドメンにはブルー・ミッチェル(トランペット)、ウォルター・ビショップ・ジュニア(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、アート・テイラー(ドラム)と言った面々が名を連ねています。共演者の人選も丁度良いですね。これがリー・モーガンやウィントン・ケリーだと彼らのプレイが目立ってしまい、マクリーンの世界観を壊してしまいます。その点、ミッチェルやビショップの演奏はマクリーンのB級感と絶妙にマッチしています(←※注:誉め言葉です)。ちなみにタイトルのカプチンとはオマキザルのことで、ジャケット写真にもマクリーンが飼っていたというおサルさんが写っています。

全6曲、うちスタンダードは3曲目”Don't Blame Me”の1曲のみ、しかもマクリーン抜きのビショップによるトリオ演奏なので中盤の箸休め的な感じでしょうか?あとは全てマクリーンとビショップのオリジナルです。1曲目マクリーン作”Francisco"は基本はハードバップですが、メロディやアドリブにややエキセントリックなところが見られます。マクリーンはこの後しばらくしてフリージャズ路線に転向しますのでその前兆でしょうか?2曲目”Just For Now"はビショップが作曲したマイナーキーの名曲。切ないメロディがマクリーンの世界観に見事に合致してます。4曲目”Condition Blue"はミッチェルのトランペットで始まるファンキーチューンですが、マクリーンの少しキーを外したようなソロは相変わらずです。5曲目のタイトル曲”Capuchin Swing"は本作のハイライトと言って良いナンバー。スタンダードの”Star Eyes"を下敷きにした曲ですが、原曲の美しいメロディにいかにもマクリーン特有の哀愁っぽさを加え、胸を焦がすような名曲に仕上がっています。ラストの"On The Lion"はブルーノート社長アルフレッド・ライオンに捧げたハードバップで締めくくります。以上、全編に漂うB級感覚が逆に得がたい魅力を発散しており、この時期のブルーノート、この時期のマクリーンにしか作り出せないワン&オンリーの音世界を生み出しています。

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ウィナーズ・サークル

2024-06-10 20:54:01 | ジャズ(その他)

本日はベツレヘム・レコードの企画盤「ウィナーズ・サークル」を取り上げたいと思います。権威あるジャズ専門誌ダウン・ビートの1957年度読者投票の各楽器の若手部門・ベテラン部門の受賞者(=ウィナー)達を集めたセッションで、合計13名ものジャズマンが顔を揃えています。セッションは1957年9月と10月の2回に分けて行われており、9月のセッションがアート・ファーマー(トランペット)、ロルフ・キューン(クラリネット)、エディ・コスタ(ピアノ&ヴァイブ)、ケニー・バレル(ギター)、オスカー・ペティフォード(ベース)、エド・シグペン(ドラム)の6人。10月のセッションがドナルド・バード(トランペット)、ジョン・コルトレーン(テナー)、ジーン・クイル(アルト)、アル・コーン(バリトン)、フランク・リハック(トロンボーン)、フレディ・グリーン(ギター)、コスタ(ピアノ)、ペティフォード(ベース)、シグペンまたはフィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラム)から成るノネット(9人編成)です。全曲に参加しているのはエディ・コスタとオスカー・ペティフォードの2人で、おそらくビバップ期から活躍するベテランのペティフォードが実質的なリーダーではないかと推察します。

ジャズファン的にはコルトレーンやドナルド・バード、アート・ファーマーらハードバップの俊英達がどんなプレイを繰り広げるか期待に胸が膨らみますが、あくまで大勢いるメンバーの一員でソロを取るにしても短時間です。一部のCDでは帯などで本作をコルトレーン作品のように紹介しているものもありますが、実際は半分の曲しか登場しないので要注意です。サウンド的にもハードバップと言うよりやや室内楽的な要素の入った小型ビッグバンドと言った感じで、ハリー・タブスと言う人がアレンジャーを務めています。他では聞かない名前ですがいったい何者なんでしょうか?

全8曲。奇数曲が9月のセッション、偶数曲が10月のセッションです。比較すると9月のセッションがより室内楽的な雰囲気が強く、ロルフ・キューンのクラリネットとエディ・コスタのMJQを思わせるヴァイブが独特の雰囲気を醸し出しています。アート・ファーマーやケニー・バレルも普段の熱きハードバッパーぶりを封印して、室内楽的な演奏に徹していますね。オープニングの幻想的なスローバラード"Lazy Afternoon"、曲名通り涼やかな雰囲気の3曲目”Seabreeze"、愛らしいスイングジャズ風の5曲目"She Didn't Say Yes"、ほのぼのしたブルースの7曲目"At Home With The Blues"とそれぞれ質の高い演奏揃いです。

10月のセッションはコルトレーンやドナルド・バードも加わった分厚い5管編成で、いくぶんダイナミズムが増しているような気がします。バードが高らかに奏でるテーマが印象的な2曲目"Not So Sleepy"、コルトレーンの飛翔するソロを皮切りにホーン陣が軽快にソロをリレーする4曲目"Love And The Weather"、リラックスした雰囲気のラストトラック"Turtle Walk"とどれも水準以上の出来ですが、私のイチ押しは6曲目"If I'm Lucky I'll Be The One"。カーメン・マクレエの1955年のベツレヘム盤に収録されていたバラード曲で、フランク・リハックの美しいトロンボーンソロで始まり、バードのテーマ演奏→クイルのアルト→コスタのピアノソロを経て、コルトレーンがため息の出るような美しいソロを聴かせてくれます。後を受けるバードの輝かしいトランペット、コーンのバリトンも素晴らしく、まさに珠玉の名演です。先ほど本作をコルトレーン目当てで買うのは要注意と言いましたが、限られた出番ながらコルトレーンのプレイはやはり際立っており、彼のソロをビッグバンド的アレンジの中で楽しめる貴重な作品となっています。それ以外のメンバーの演奏も一級品ですし、洗練された編曲と相まって文句なしの傑作に仕上がっています。

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スタン・リーヴィ/グランド・スタン

2024-06-08 21:46:20 | ジャズ(ウェストコースト)

本日は白人ドラマー、スタン・リーヴィをご紹介したいと思います。シェリー・マン、メル・ルイスと並ぶ西海岸3大ドラマーの1人で、50年代のウエストコーストジャズ全盛期を縁の下の力持ちとして支えました。ただ、もともとは東部フィラデルフィアの出身で、40年代にはディジー・ガレスピーやチャーリー・パーカーのバンドでもプレイしていたようです。50年代半ば以降は西海岸に定住し、ドラマーとして数々のセッションで活躍するとともに、ベツレヘムやモードにリーダー作をいくつか残しています。本作「グランド・スタン」はベツレヘムに残された彼の代表作の一つ。メンバーはコンテ・カンドリ(トランペット)、リッチー・カミューカ(テナー)、フランク・ロソリーノ(トロンボーン)、ソニー・クラーク(ピアノ)、リロイ・ヴィネガー(ベース)、そしてスタンからなるセクステットです。フロントの3人はいずれもウェストコースト随一の名手ですが、ジャズファン的には西海岸時代のソニー・クラークの参加も目を引くところです。

全8曲、スタンダード3曲、オリジナル5曲と言う構成です。ユニークなのは1曲目から3曲目まではそれぞれ1人のプレイヤーにスポットライトが当たることで、冒頭のスタンダード"Yesterdays"はフランク・ロソリーノのパワフルなトロンボーン、続く"Angel Cakes"はソニー・クラーク作曲ながらリッチー・カミューカのクールなテナープレイが全面的にフィーチャーされます。一方、クラークは次のスタンダード"Why Do I Love You?"で3管をバックに2分半に及ぶ圧巻のピアノソロを披露します。4曲目”Grand Stan”と5曲目”Hit That Thing”は3管+クラークがソロをリレーしていく展開で、どちらも典型的なウェストコーストサウンド。後者にはリーダーのスタンによる2分間のドラムソロも付いています。6曲目”Blues At Sunrise”はソニー・クラーク作のブルースでクラークは後に名盤「ソニー・クラーク・トリオ(タイム盤)」でも"Blues Blue"のタイトルで再演しています。ただ、本作ではクラークはソロを取らず、コンテ・カンドリがマイルス・デイヴィスばりのミュートプレイを聴かせてくれます。7曲目”A Gal In Calico”はマイルスの「ザ・ミュージングス・オヴ・マイルス」のバージョンが有名ですが、3管+クラークの洗練されたソロが聴ける本作の演奏も最高です。ラストの”Tiny’s Tune"はクラークがバピッシュなソロで先陣を切り、3管の小気味良いソロリレーで締めくくります。以上、基本はウェストコーストジャズなのですが、ソニー・クラークを中心にハードバップの香りもどことなく感じられるなかなかの良作です。

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