■「(500)日のサマー/(500)days of summer」(2009年・アメリカ)
監督=マーク・ウェブ
主演=ジョセフ・ゴードン・レヴィット ゾーイ・デシャネル ジェフリー・エアード
●2009年インディペンデント・スピリット賞 脚本賞
※注意・結末に触れています!
この映画の予告編を観たときに、何となくビビッときた。これが北九州にかかったら必ず観よう。そう思った。そして7月に我らが昭和館に「(500)日のサマー」がやってきた。待ってました!。これは期待を裏切らず、いやそれ以上の作品だった。それは単に恋の顛末が楽しく描かれたコメディだからという訳ではない。恋する男女の、特に男目線での恋の顛末が実に丁寧に描かれた映画だからだ。恋をしたことがある人なら誰しもが経験する高揚感やワクワク感がこの映画にはある。だがそれだけでない。これまでの価値観が崩壊するような大失恋をしたことがある人ならばなおさら、この映画で描かれる恋の末路にものすごい切なさと共感を感じるはずだ。これは恋する人の心を優しい目線で見つめた映画。おそらく洒落た映像表現と音楽でセンスよく仕上げた部分ばかりをいけ好かない人々もいるだろう。でもこの映画が観客の心に残したいのは、恋する気持ちの大切さ。人を好きになることって、切ないけど素晴らしい。
まず冒頭、「これはボーイ・ミーツ・ガールの映画だが、恋愛映画ではない」とナレーションが流れる。そしてこれから出逢う主人公二人のバックボーンが語られる。もうここからイカしてるのね。主人公トムは、映画「卒業」を拡大解釈して、ポップスの歌う愛を信じて大人になった。運命の恋が必ずあると信じている。彼が恋するサマーは、両親の離婚以降真実の愛、運命の恋など信じない女性。正反対の恋愛観を持つ二人。これがいかにして仲良くなっていくのか・・・とわくわくした。でもその一方で僕は映画館の暗闇でドキッとしたのね。だって、映画「卒業」をしばらく生涯ベストワンと豪語していて、ポップスが歌う愛に意味を見いだそうとする・・・ん?オレじゃん、これ(笑)!。そう思うと、恋愛まで自分の過去と重ねてしまう・・・。エレベーターでヘッドホンから漏れていたスミスをサマーが口ずさんだのが、恋の始まり。トムはサマーの気を引こうとiTunesでスミスを流したり・・・。あるある!こういう経験・・・と思う人たくさんいるだろうな。そう、この映画は随所に観客が主人公の恋愛に共感できる要素が散りばめられている。二人がカラオケ店で意気投合するところ、そこから先の手つなぎデートetc。トムの恋愛の高揚感は、映画を突然ミュージカル化してしまうし(You Make My Dreamsってところがナイス!)、仕事も絶好調。
ところが・・・そもそも正反対の恋愛観を持つ二人。次第にすれ違い始める。そしてトムは、それまで自分が信じていたことが崩れ去るような大失恋をすることになる。勤めているグリーティングカードの会社の会議で、「カードの言葉なんて綺麗事だ。これまで自分が信じてきた真実の愛や運命の恋なんて嘘っぱちだ。」と言い放つ。経験あるだろうか。それくらいに価値観を覆されるような失恋。結局サマーはトムが語っていた運命の恋を信じるようになり、他の男性と結婚を決めてしまう。サマーが結婚を決めるクライマックスからは、失恋の過程を克明に映画は描いていく。願望と現実をスプリットスクリーンで見せる演出は実にいいし、トムの絶望に僕らまで涙してしまう。好きな人に会う前に、これから起こることを頭の中でシュミレーションしたこと、きっとあると思うのだ。それをここまで克明にやや残酷に表現してしまう。観ているこっちまでもトムの目線にさせられてしまう。大失恋経験者ほどこの場面は泣けるはず。絶望したとき世界は色を失う、と表現することがあるが、この映画ではそれさえも視覚化してくれる。これでますます感情移入。
そしてラストの別れ・・・。トムはサマーに「君の幸せを祈ってるよ」としか言えない。その言葉は彼があれほど嫌がっていたグリーティングカードにあるような定番の言葉。僕はこの場面にマジで泣けた。「(500)日のサマー」は、恋愛観の異なる男女が出逢って別れるまでの500日間を丁寧に描いた秀作だ。楽しくて切なくて、ところどころにわかる人にしか笑えない笑いも散りばめられた素敵な映画。恋するすべての人に観て欲しい。こんな映画にマジで感動できる40代男子・・・まだまだイケてるよね?。
(500) Days of Summer (2009) Trailer #1 | Movieclips Classic Trailers