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お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

落下の解剖学

2024-03-07 | 映画(ら行)


◾️「落下の解剖学/Anatomie d'une chute」(2023年・フランス)

監督=ジュスティーヌ・トリエ
主演=ザンドラ・ヒュラー スワン・アルロー ミロ・マサド・グラネール

カンヌ映画祭でパルムドールを獲得し、米国アカデミー賞にもノミネートされたフランス映画。あらすじと不穏な空気しか感じられない予告編で、ただのサスペンス/ミステリーではあるまいと期待して劇場へ。

予告編から思い描いていたものが次々と打ち砕かれた。視力を失った息子が唯一の証人?元恋人弁護士との焼け木杭(ぼっくい)に火がつく話?とか思っていたけれど、これは真正面から厳しく人間関係に迫った緊迫感のあるドラマだ。

本編の半分くらいが法廷内のシーンで構成されており、最初から最後までとにかく会話劇。スクリーンの中の光景がなかなか変わらないからかなり集中力がいる。気力があるときに観るべきという感想も見かけていたがそれも納得。裁判シーンが始まるまでは僕も睡魔に襲われそうになった。しかしそこから物語は二重三重の仕掛けで、主人公サンドラとその家族の現実を浮き彫りにしていく。

夫の傷の負い方で妻が殺したのではと疑われたことから、夫婦をめぐる様々な出来事が法廷で明かされる。度々言い争っていたこと。売れっ子である妻と成功に恵まれない夫。家事の負担と創作活動のバランス。息子をめぐるお互いの気持ち。

映画が進むにつれて、夫殺しが疑われる妻には不都合な出来事が次々と示される。
「私は殺してない」
「大事なのはそこじゃない。君がどう思われるかだ」
そのやりとりが示すように裁く側がどう捉えるかによって、裁判の結論は変わってしまう。フランスは裁判官と市民から選ばれた参審員によって有罪無罪と量刑を決める制度だ。妻にとって不利な事実が疑念をさらに深めることになりかねない。さらによそ者であるサンドラには言語という壁もある。訳され方で印象も変わってしまう。

日本ではメガネの少年探偵が「真実はいつもひとつ」とよく言う。真実は一つでも、受け取り方で結論はどうにでも転がってしまう。「解剖学」とのタイトルが示すのは、物事には様々な見方がある、ということ。しかも人は都合のよいことしか目に入らない。この映画は、法廷ものとして、人を裁くことの難しさを描く一面を持つ映画だ。

だが映画が映し出すのはそれだけではない。息子ダニエルが知る、それまで知らなかった家族の姿、受け入れたくない事実、父と母の間にある溝。クライマックスでいちばんスリリングなのは母と息子の関係の行方。信じることの難しさ。ダニエルがピアノで弾くショパンの有名なメロディは、ところどころ半音階で不安にさせるけれど、哀しげで美しい。人と人のつながりのように。








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2 コメント

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Unknown (60yearstarts)
2024-03-10 18:56:25
日本でも裁判は真実追究の場所じゃない!

裁判などは
功利主義の固まりで嫌になってしまったです。

弁護士さんが仕事を受けるかが、功利主義によっている。
実際問題、裁判など係わると自分の貴重な時間が失われてしまう!

人生で1番大切なものが時間だと気づいたです。
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Unknown (tak)
2024-03-17 12:01:05
@60yearstarts 日本では…のくだりは「名探偵コナン」をチラつかせただけです。多くのエンタメ作品中は犯人探しでスッキリしがちですもんね。

しかし、その先の裁判では裁く側の心証やらいろんなことで歪められてしまいます。この映画もそうした人を裁く難しさが描かれてます。
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