Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

アンモナイトの目覚め

2021-10-28 | 映画(あ行)


◼️「アンモナイトの目覚め/Ammonite」(2020年・イギリス)

監督=フランシス・リー
主演=ケイト・ウィンスレット シアーシャ・ローナン フィアナ・ショウ ジェマ・ジョーンズ

19世紀のイギリス。古生物学者のメアリーは、海辺の町ライムで観光客用に化石を販売する店を営み、老いた母と二人で暮らしていた。裕福な化石収集家から妻シャーロットを静養させたいので数週間預かって欲しいと頼まれる。ただでさえ人嫌いのメアリーだが、高額な報酬にしぶしぶシャーロットを受け入れる。最初は突き放す態度をとるメアリーだが、高熱を出したシャーロットを介抱してから距離が縮まっていく。

ケイト・ウィンスレットとシアーシャ・ローナンの共演で注目される作品。同時期に似たテーマとストーリーであるフランス映画「燃ゆる女の肖像」があるがために、どうしても比較されてしまう。しかし登場人物を絞り込んで映画への没入感を突き詰めた「燃ゆる…」とは違って、メアリーとシャーロットの周りには多くの人がいる。それが二人を見る他者の視点を感じさせたり、上流階級の会話にすぐに馴染むシャーロットを描くことでメアリーの心情を際立たせたり、「燃ゆる…」とは違ったスリルがそこにある。視線を交わさないラストと、真正面から視線を交わすラスト。「燃ゆる…」は切なさで胸がいっぱいになるけれど、決定的なお互いのすれ違いを見せつけるだけに「アンモナイト…」は辛い映画。

ケイト・ウィンスレットは映画スター然としない役柄がほんとに上手い。「愛を読むひと」でも「女と男の観覧車」でも、絞り込んでない体型や身体がすごく役柄に"らしさ"を与えているし、逆に「タイタニック」のローズ役は上流階級だったから、かなり身体を絞って演じたんだろう。この作品でもさらに役柄を広げたと感じる。一方、シアーシャ・ローナンの笑顔が見たくて主演作をセレクトするファンには、前半の陰鬱とした感じはちょっと痛々しい。その分、二人が大きな化石発見をする場面以降の生き生きとした表情が素敵だ。


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DUNE/デューン 砂の惑星

2021-10-27 | 映画(た行)


◼️「DUNE/デューン 砂の惑星/Dune」(2020年・アメリカ=イギリス=カナダ=ハンガリー)

監督=ドゥニ・ヴィルヌーヴ
主演=ティモシー・シャラメ レベッカ・ファーガソン オスカー・アイザック

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督による「砂の惑星」の映画化は、スターキャストを集め、連作となる注目作。これまでデビッド・リーンで企画されて流れ、ホドロフスキー監督での企画は頓挫、1984年のデビッド・リンチ監督による映画化は商業的に惨敗となり、壮大な物語故に映画化の難しさが幾度も語られてきた。「ブレードランナー2049」は大好きなのだが、「複製された男」が理解不能で苦手意識しかないヴィルヌーヴ監督の手による「砂の惑星」。デビッド・リンチ版の不気味な映像の記憶が重なって、正直観るまで不安だった。

多くのレビューでも触れられている通り映像は美しい。ただ惑星アラキスの気候のせいだとは思うが、全体に薄暗い場面が多いのが気になる。そこがヴィルヌーヴSF映画の空気感。建物やメカのデザインが意外と古い感じで、僕にはそっちが魅力的に見えた。特に羽ばたき機(オーニソプター)が、ちょっとノスタルジックなSFテイストで好き。ワクワクしてしまう。

ちょっとだけ比較してみる。バージニア・マドセンのナレーションや各勢力の政治的な関係を図示するなど、説明が多い割りに分かりにくい印象だったデビッド・リンチ版。ヴィルヌーヴ版は尺が長い分だけそうした工夫はなく独特な固有名詞を理解するしかないのだが、スパイス貿易のギルド勢力が絡まないからなのか、意外とスッキリとした導入。教母様がシャラメ君を試す場面では、箱に突っ込んだ手をポールがどう感じているのかを、焼けただれた手のイメージで見せたくどいリンチ版とは違って、二人の演技だけで押し通すヴィルヌーヴの潔さ。特撮に金を使うのはここではない、ということか。

改めてリンチ版を観ると、確かに工夫してるけど、それが蛇足に感じられる場面が随所にある。ホドロフスキー監督が言う「ハリウッドのシステムに毒された」部分なのかも。されどあまり凝視したくないものをじっくり見せたがるのがデビッド・リンチ。男爵の吹出物治療なんて見たくない。それからすると、ヴィルヌーヴ版の男爵は、全身泥パックでお肌すべすべww。「地獄の黙示録」みたいに泥まみれで登場する場面、怖っ。

小出しに見せる未来がどうつながっていくのか。リンチ版を観てるから筋はわかっているのだけれど、あれはストーリー的にはダイジェストみたいなものだから、ヴィルヌーヴ版の続編がどれだけスペクタクル場面を見せつけることになるのかが楽しみだ。

蛇足ながら。予告編でピンクフロイドのEclipseのカバーバージョンが使われたことに大感激。ホドロフスキー版の音楽はピンクフロイドが担当するはずだった。これはハンス・ジマーとヴィルヌーヴによる、ホドロフスキーへの敬意なんだろう。




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ホドロフスキーのDUNE

2021-10-24 | 映画(は行)


◼️「ホドロフスキーのDUNE/Jodorowsky's Dune」(2013年・アメリカ)

監督=フランク・パヴィッチ
出演=アレハンドロ・ホドロフスキー ミシェル・セイドゥー H・R・ギーガー クリス・フォス

なんだろう、このおっさんの情熱は。「砂の惑星」の映画化に挑んで製作にたどり着けなかった一部始終を、カメラの前で語り倒すドキュメンタリー。企画を進めていた70年代に、視覚効果のダン・オバノン、音楽はピンクフロイド、オーソン・ウェルズ、ミック・ジャガー、なんとサルバトール・ダリにまで声をかけていたという。「戦士を集めるんだ!」その言葉、なんともカッコいい。後に「エイリアン」を手がけるデザインのH・R・ギーガーは、ELPのレコードジャケットなどで活躍してしていた時代。実現していたらどんな作品になっていたのだろう。

製作されれば傑作となったはず…とホドロフスキーは言う。結局残ったのはストーリーと絵コンテとデザインのアートワーク。しかしこれらに後々製作される様々な映画が影響されたというから驚く。いや、あくまで本人が一方的に言ってるだけかもしれない…。「あいつがオレのアイディアを盗んだ」なんて話は昔からよくある話だし、それが元で悲惨な事件が起こったりもしてるわけだから。

でもホドロフスキー監督はカメラに向かってとても朗らかなのだ。完成できなかったけれども、それが多くの映画にアイディアが受け継がれたこと、この企画で集められたメンバーが組んで活躍する機会となったことが嬉しいと言う。自分の失敗話をこんなに楽しそうに話せるってすごい。

この企画は、ディーノ・デ・ラウレンティスによってデビッド・リンチに引き継がれる屈辱的な展開に。それでもリンチ監督版を観た感想をホドロフスキー監督は実に嬉しそうに話す。「映画がどんどん酷くなるんだ!」その生き生きとした表情。これは自分にしか撮れないのだ、と言わんばかりの気迫。恐れ入りました。

ホドロフスキーもすごいけど、この人をこんなにのめり込ませる「DUNE」という原作の魅力。ヴィルヌーヴ監督にはどのように響いているのだろう。



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ロード・エルメロイⅡ世の事件簿 -魔眼蒐集列車 Grace note-

2021-10-22 | Weblog



「Fate/Zero」で征服王イスカンダルをサーヴァントに聖杯戦争を戦い、生き残ったマスター、ウェイバー・ベルベット。成長した彼は、魔術師の総本山時計塔の君主の一人、ロード・エルメロイ2世となっていた。とは言え、それはエルメロイ家の次期当主であるライネスが成人するまでロードとして雇われたような義兄妹関係に基づくもの。彼が頼れる愛弟子グレイ、個性的な教え子たちと共に、魔術がらみの難事件に挑むミステリードラマである。

Fateシリーズのスピンオフ作品ながら、他にはない世界観と謎めいたストーリーに毎回魅了された。グレイが普段は隠している戦闘能力を発揮する場面のカッコよさ。一人称が"拙"と控えめで古風な言葉遣いもいい。師匠への信頼の中に時折り女の感情がにじむ。口元の描画と声優のちょっとした息づかいで、さりげなく表現されてるのが好感。誰を信用していいのかわからなくなる複雑な人間関係と独特な設定になんとかついていきながら、BS初回放送の録画で全13話を完走。深く理解できずとも、僕はこの雰囲気は十分に楽しめた。サブキャラたちもそれぞれとても魅力的でミステリアス。そして最終回。かつてのサーヴァントであり、彼が追いかけ続けた憧れの男の言葉に思わず涙した。これって、原作読めってことよね。

何より気に入ったのは、オープニング曲がインストロメンタルであること。基本は「ヒッチコック劇場」や「刑事コロンボ」「名探偵ポワロ」と同じミステリー番組なんだもの、その決断大正解。舞台である古風な英国をイメージさせるストリングスとフルートの音色が奏でるメロディ。オープニングの89秒の中で起伏のあるドラマティックなアレンジをやってのける梶浦由記のいい仕事。




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インディ・ジョーンズ/最後の聖戦

2021-10-13 | 映画(あ行)


◼️「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦/Indiana Jones And The Last Crusade」(1989年・アメリカ)

監督=スティーブン・スピルバーグ
主演=ハリソン・フォード ショーン・コネリー デンホルム・エリオット アリソン・ドゥーディ

シリーズ第3作となる「最後の聖戦」が公開されたのは、社会人1年目のサマーシーズンだった。悩める新入社員が抱えていた日頃の憂さを吹っ飛ばしてくれる快作。期待通りのエンターテインメントで、今回は父と息子のやりとりが緊迫感の中で笑いを誘う場面が多く、映画館は小さな悲鳴と笑い声が交互に聞こえていた。

スピルバーグは「007」映画の監督をしたかったというのはよく聞く話。この第3作は、「007」シリーズを意識していると感じられる。特にベニスでのボートチェイスの場面は「ロシアより愛をこめて」を思わせるし、ヘンリー・ジョーンズ博士役のショーン・コネリーを筆頭に「007」ゆかりの役者が出演している。ジュリアン・グローヴァーは「ユア・アイズ・オンリー」の悪役、アリソン・ドゥーディは「美しき獲物たち」がデビュー作、協力者のジョン・リス・デイビスも「リビング・デイライツ」に出演している。

この映画で特筆すべきは、インディの少年時代が描かれたオープニング。演ずるのがリバー・フェニックスというのが同時代的には嬉しかった。遺跡の盗掘者からお宝を奪ってサーカス列車を逃げるコミカルな場面は、次々にピンチに陥いる様子が楽しく、後のインディのスタイルにつながっていく小ネタが楽しい。

そして何よりも魅力的なのは、インディの父を演じたショーン・コネリー。「こんなのは考古学者のすることじゃない」と息子を罵るけれど、危機を乗り越えていく度に、息子を少しずつ認めていく様子にアクションを楽しんでいるはずが、ハートウォーミングな感動に導かれる。

この映画のポスターなどでも見られるハリソン・フォードとショーン・コネリーが並ぶ笑顔の写真がとても好きだ。


余談だが、うちの親父殿はひいき目にみてショーン・コネリー似で、僕は大目に見てもらってハリソン・フォード似(実際はテニスのフェデラー選手か田島貴男という意見が多い…😅)。もし自分がボケたら、この映画のポスターを部屋に貼って、「これはオレと親父の写真だ」と自慢げに言うような老人になりたい。

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インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説

2021-10-11 | 映画(あ行)


◼️「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説/Indiana Jones And The Temple Of Doom」(1984年・アメリカ)

監督=スティーブン・スピルバーグ
主演=ハリソン・フォード ケイト・キャプショー キー・ホイ・クァン ロイ・チャオ

1985年から88年までの4年間は、わが映画生活の中で最もハリウッド離れしていた時代。名だたるヒット作は映画館で観ることを敬遠していた。なので同時代的に映画館で観ていそうなのに観ていないものは多数ある。スピルバーグ監督作にもそれはいくつかあって、その筆頭とも言えるのがこの「魔宮の伝説」。テレビでしか観たことがない。

この第2作は、ジェットコースタームービーと評されることが多い。ゴムボートで落下するわ、暴走するトロッコに乗って絶叫するわ、そしてクライマックスは崖にぶら下がる文字通りのクリフハンガー(崖に主人公がぶら下がる危機を迎えたら次回へ続く…と終わるような連続活劇のことをクリフハンガーと呼ぶ)。高所恐怖症の僕は正直なところ、映画館で観なくてよかったかも…と当時思った。吊り橋のロープが切れる場面なんて、多分映画館の椅子にしがみついていただろう。映画冒頭、中国のナイトクラブを舞台にした、解毒剤に手が届きそうで届かないハラハラさせる場面で、ガッチリ観客の注意を引きつける。ほんっとスピルバーグは見せ方が巧みだ。

またB級ホラーのようなテイストが随所に出てくるのも注目すべき点。グロテスクな晩餐シーンは、子供が見たらトラウマになるレベル。うちの子が小学生の頃、「今晩この映画放送されるから観て」と先生が言った。なんちゅう宿題を、しかもこの映画かよ。スープから目玉が浮かび上がるシーンでうちの子凍りつきました💧

スピルバーグのフィルモグラフィーの中でも、かなりグロテスクな趣味が出ている作品。でもスピルバーグ自身も「スーパーエイト」の少年たちみたいにB級娯楽作観て育ったんだろう。また、そういう映画体験があるからこそ、「ジョーズ」が撮れたんだし、「プライベートライアン」のノルマンディー上陸作戦の悲惨さを表現できたとも思うのだ。

確かに飽きさせない娯楽作。ワクワクするし、ハラハラする。でもドラマ部分がすっごく薄味。そもそも第1作の前日譚で、ナチスが絡まない話だったせいかも。




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レイダース/失われたアーク(聖櫃)

2021-10-06 | 映画(ら行)





◼️「レイダース/失われたアーク(聖櫃)/Raiders Of The Lost Ark」(1981年・アメリカ)

監督=スティーブン・スピルバーグ
主演=ハリソン・フォード カレン・アレン ポール・フリーマン ロナルド・レイシー

お正月映画で記憶に残っているものも数々あるけれど、このシーズンだからこそ狙って公開される大作やシリーズもの映画ってたくさんあった。学校で映画の割引券配ることもあったし、「男はつらいよ」の新作ポスター見て師走を感じていたりもしたっけ。映画ファンを公言した中学3年のお正月映画は、忘れもしない「レイダース/失われたアーク」だった。ハリソン・フォードとカレン・アレンの立ち姿が印象的なポスターを眺めながら、スピルバーグとルーカスのタッグだぞ、面白くないはずがない!と期待しかなかった。地元の映画館にドルビーステレオの音響機器が設置されて、初めて封切られるのが「レイダース」だったこともあり、期待はさらに高まったもんだ。

現在までのシリーズ4作品の中で、最も繰り返し観ているのは圧勝で第1作。ツカミの冒頭から突き抜けた面白さ、ナチスドイツを敵にした分かりやすい善悪の構図、たたみかける危機また危機、アクション、超常現象を描写する特撮。シリーズ第1作は登場人物のキャラクターを紹介するのに時間を割かれがちだけど、マリオンとの関係もインディのヘビ嫌いもストーリーに間をもたせることもなく、無駄がない。スピルバーグの見せ方のうまさが随所に光る。

オープニングで映る山の形がパラマウント映画のトレードマークに似ているとか、壁画に「スターウォーズ」のドロイドが描かれているとか、製作側の小さな悪戯が豊富に盛り込まれているそうで、当時今はなき「ロードショー」誌の紹介記事を隅々まで読んでいたのを思い出す。楽しむのが勝ちの大活劇だけど、大人になって見直すと、考古学の名の下で黄金のお宝を持ち去っていく欧米人に、現地の人はどう思っているのだろう…と心配になる場面もちらほら。

高校時代、自宅で繰り返し観た映画の一つで親父殿に勧めたが、予想外の反応が返ってきた。
「最後の亡霊みたいなのに悪人だけがやられる意味がわからん」
えーと…😓理屈がないとわかんない人だからな。あるがままに受け止めてよぉー、と思ったものである。まあ、「スターウォーズEP4」は、タトウィーン星を出るまでに飽きて投げ出した人なので、最後までよく観た方ではあるのだが。

野球部の応援でレイダースマーチ演奏してたから、同時代的に思い入れがある一作なのである。





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007/ノー・タイム・トゥ・ダイ

2021-10-02 | 映画(た行)

◼️「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ/No Time To Die」(2019年・イギリス=アメリカ)

監督=キャリー・ジョージ・フクナガ
主演=ダニエル・クレイグ ラミ・マレック レア・セドゥ アナ・デ・アルマス

ダニエル・クレイグがボンドを演ずる最後の作品。コロナ禍で公開延期に延期を重ね、やっと2021年10月公開。ファーストデーが公開初日、予告編はもう見飽きた。コロナの影響で消化しきれていない休日が残っていて、緊急事態宣言解除となった。これがじっとしていられるかよっ。

ダニエル=ボンドは嫌いではない。ただ僕は基本オールドファンなので、ボンド像とボンド映画には自分の思う型がある。前作「スペクター」は、国際的な犯罪組織とスパイの物語に私怨が過剰にからむ展開に正直冷めたクチだ。だからその続きに期待と不安が半々だった。「ノー・タイム・トゥ・ダイ」でいちばん嬉しかったのは、シリーズ全体への敬意をこれまで以上に保ちつつ、ダニエル=ボンドの最終作らしくこれまでの型をぶっ壊したことだ。それは期待と不安が的中したことでもあるが、長尺を感じさせない極上のエンターテイメントに仕上がっている。

まずはオールドファンのハートに触れる部分から。随所に過去作へのオマージュととれる部分がある。「ドクター・ノオ」の舞台で原作者フレミングも暮らしたジャマイカ、盟友であるCIAのフェリックス・レイター、色とりどりの円が点滅するオープニングや防護服のデザインが「ドクターノオ」ぽいし、あちこちに見られる和のテイストは「007は二度死ぬ」を思わせる。前作から復活したスパイ映画らしいギミック感は今回もボンドカーに満載。そしてマドレーヌとボンドの愛の物語を盛り上げるのは、「女王陛下の007」でトレイシーとの日々を彩ったあの名曲。サッチモの歌声が流れた瞬間は泣くかと思った。シリーズのファンでよかったと感激。

そして007映画の従来の型は今回もぶっ壊される。ダニエル=ボンドのシリーズは登場人物の過去やトラウマを掘り下げる。今回はマドレーヌの過去が事件に関係してくるし、そこに関係する今回の悪役も親を殺された私怨から世界を揺るがす事件を起こすに至る。(見方によっては都合の良い)狭い世間の因縁の絡みは前作同様。そしてクライマックス。スクリーンに向かって叫びそうになる。
まさか、まさか…えーっ!😫
そこには驚きしかない。スパイ映画の結末じゃない。映画館を出ながら満足した一方でちょっとモヤモヤした気持ちが晴れなかった。

でも忘れちゃいけない。確かに型はぶっ壊したけれど、それは偉大なる旧作たちの否定ではないのだ。

悪役サフィンの野望が見えにくい。ボンドと対峙する場面が少ないせいもあるだろう。フクナガ監督は、文学作品「ジェーン・エア」の映画化で、時系列を並べ替えてミステリアスな味付けをやった人。今回はマドレーヌの過去、ボンドが去ってから起こった出来事を少しずつ明らかにして、すれ違いの人間ドラマとして映画を味わい深くすることに成功している。その分悪役の動機は掘り下げきれなかったのかもしれない。

とは言え、エンターテイメントとしての満足度はやっぱり高い。そこはやっぱり007映画だ。「ブレードランナー2049」以来お気に入りのアナ・デ・アルマスが素晴らしい。アクションしづらいセクシーなドレスで二丁拳銃、華麗な蹴り。出番が少ないのがもったいないよ。




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