◾️「スウィング・キッズ/Swing Kids」(2018年・韓国)
監督=カン・ヒョンチョル
主演=ド・ギョンス ジャレット・グライムス パク・ヘス オ・ジョンセ キム・ミンホ
朝鮮戦争中、巨済島に設けられた捕虜収容所。自由主義国の文化に触れて南に残ろうとする捕虜と、共産主義を貫いて北に戻ろうとする捕虜がおり、戦場と同じく収容所内で激しく対立する状況にあった。新たに赴任してきた所長は、そんな収容所のイメージアップを図ろうと捕虜のダンスチームを作ろうと思い立つ。集められたのは、国も政治的な立場も異なるメンバー4人と、元ブロードウェイのダンサーである黒人下士官。彼らが巻き込まれる過酷な現実とダンスによって繋がれる強い絆の物語。
ヒット作「サニー 永遠の仲間たち」でも音楽の使い方が光ったカン・ヨンチョル監督。今回はタップダンスに挑むメンバーの物語で、往年のスウィングジャズからロックまで幅広くセレクト。クライマックスのクリスマスのステージ場面、ベニー・グッドマンで踊るダンスチームとバンド演奏の掛け合いは最大の見どころだろう。
ダンスを通じてお互いを理解し、認め合っていく人間ドラマが何より素晴らしい。しかしそんな彼らを翻弄するのは、イデオロギーという魔物。朝鮮人民軍のロ・ギス(まばたきしない真っ直ぐな視線がすごい)は、タップダンスと出会った事で才能を開花させるが、困難な立場に追い込まれることになる。メンバーそれぞれの事情が丁寧に描かれて、その過酷さが、ますます彼らをダンスに夢中させていく。とにかく政治的な対立が生む悲劇と虚しさに胸が締めつけられる。音楽が楽しいだけの映画ではない。コメディぽい描写もある前半から、後半は一転してシリアス。ダンス前に下士官ジャクソンが言う「Fuckin' ideology !」のひと言が心に残る。そしてそのステージパフォーマンスはまさに政治的な対立を忘れさせる。なのに。
「最近頭の中に流れる音楽があるの」と言って紅一点ヤン・パンネが踊る場面に、デビッド・ボウイのModern Loveが使われている。時代も合わない80年代のロックを何故ヨンチョル監督は選んだのだろう。考えるに、この曲の「現代的な愛」とは、生きていく上での基盤となる信条とか、寄り添いたくなる気持ちや考えめいたものなのかと。ボウイは「もうそれに入れ込んだりはしない」と歌う。この映画においては、登場人物たちをいやこの国を困難な状況にしているイデオロギーのことなんだろう。そしてエンドクレジットで、ビートルズのFree As A Birdが流れる。これは心に刺さります。マジで。