Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

スウィング・キッズ

2020-02-29 | 映画(さ行)


◾️「スウィング・キッズ/Swing Kids」(2018年・韓国)


監督=カン・ヒョンチョル

主演=ド・ギョンス ジャレット・グライムス パク・ヘス オ・ジョンセ キム・ミンホ 


朝鮮戦争中、巨済島に設けられた捕虜収容所。自由主義国の文化に触れて南に残ろうとする捕虜と、共産主義を貫いて北に戻ろうとする捕虜がおり、戦場と同じく収容所内で激しく対立する状況にあった。新たに赴任してきた所長は、そんな収容所のイメージアップを図ろうと捕虜のダンスチームを作ろうと思い立つ。集められたのは、国も政治的な立場も異なるメンバー4人と、元ブロードウェイのダンサーである黒人下士官。彼らが巻き込まれる過酷な現実とダンスによって繋がれる強い絆の物語。


ヒット作「サニー 永遠の仲間たち」でも音楽の使い方が光ったカン・ヨンチョル監督。今回はタップダンスに挑むメンバーの物語で、往年のスウィングジャズからロックまで幅広くセレクト。クライマックスのクリスマスのステージ場面、ベニー・グッドマンで踊るダンスチームとバンド演奏の掛け合いは最大の見どころだろう。


ダンスを通じてお互いを理解し、認め合っていく人間ドラマが何より素晴らしい。しかしそんな彼らを翻弄するのは、イデオロギーという魔物。朝鮮人民軍のロ・ギス(まばたきしない真っ直ぐな視線がすごい)は、タップダンスと出会った事で才能を開花させるが、困難な立場に追い込まれることになる。メンバーそれぞれの事情が丁寧に描かれて、その過酷さが、ますます彼らをダンスに夢中させていく。とにかく政治的な対立が生む悲劇と虚しさに胸が締めつけられる。音楽が楽しいだけの映画ではない。コメディぽい描写もある前半から、後半は一転してシリアス。ダンス前に下士官ジャクソンが言う「Fuckin' ideology !」のひと言が心に残る。そしてそのステージパフォーマンスはまさに政治的な対立を忘れさせる。なのに。


「最近頭の中に流れる音楽があるの」と言って紅一点ヤン・パンネが踊る場面に、デビッド・ボウイのModern Loveが使われている。時代も合わない80年代のロックを何故ヨンチョル監督は選んだのだろう。考えるに、この曲の「現代的な愛」とは、生きていく上での基盤となる信条とか、寄り添いたくなる気持ちや考えめいたものなのかと。ボウイは「もうそれに入れ込んだりはしない」と歌う。この映画においては、登場人物たちをいやこの国を困難な状況にしているイデオロギーのことなんだろう。そしてエンドクレジットで、ビートルズのFree As A Birdが流れる。これは心に刺さります。マジで。




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ジュディ 虹の彼方に

2020-02-23 | 映画(さ行)

◾️「ジュディ 虹の彼方に/Judy」(2019年・イギリス)


監督=ルパート・グールド

主演=レニー・ゼルウィガー ルーファス・シーウェル アンディ・ナイマン マイケル・ガンボン


オンライン試写会にて鑑賞。


47歳で亡くなったジュディ・ガーランドの晩年を描いた作品。イギリス映画は、ロック/ポップス界のレジェンドを描いた映画が当たったので、次にジュディを選んだのだろうか。しかし、先行する映画とは違って、ジュディ・ガーランドがどんな活躍を経てこの年齢を迎えたのかがほぼ語られない。晩年にストーリーが絞られて、彼女の多忙で過酷だったスタジオ暮らしの少女時代がインサートされているだけで、それが現在のジュディに影響を及ぼしたという語り口となっている。


レニー・ゼルウィガーの熱演もあって、引き込まれる映画に仕上がっているのだが、ジュディ・ガーランドの伝記映画という面ではやや残念な印象を受けた。「オズの魔法使い」とドロシー役がいかに多くの人々に愛されたのか、「スタア誕生」でグレース・ケリーとオスカーを争って負け、その後精神的に不安定になったこと、そしてシンガーとして復活し、グラミー賞を獲得したこと。それらは語られることなしに、身も心も傷ついた歌手の最後の日々を描いた映画。劇中に出てくるけれど、「イギリス人はジュディ・ガーランドがお好き」なだけに予備知識は当然ということなのだろか。


R&Bの名曲 Come Rain Or Come Shine や For Once In My Lifeなど名曲が歌われるステージ場面は素晴らしいし、Over The Rainbow(虹の彼方に)が歌われるクライマックスは感動的。だけど、Over The Rainbow や「オズの魔法使い」のドロシー役がいかにみんなに愛されていたのかが語られずにその場面を迎えるのがなんとも惜しい。同じ伝説的な歌手を描いた映画である「エディット・ピアフ 愛の讃歌」「ストックホルムでワルツを」は、半生の栄枯盛衰をおさえていて、サントラ盤やその歌手への興味をそそられる秀作だった。同じように音楽に若い世代が興味を感じてくれたらいいな。


最後に。同性愛の男性カップルとのエピソードが描かれたのも印象的だった。ジュディはまだ世間が性の多様性に寛容でなかった時代に理解を示してきた人でもある。その人柄がストレートに伝わるいい場面だった。LGBT活動の象徴として使われるレインボーフラッグは、2019年の紅白でM ISIAが掲げたことも記憶に新しい。あの旗はジュディ・ガーランドの Over The Rainbow が由来とされていることも、この機会に是非知られて欲しい。



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西鶴一代女

2020-02-10 | 映画(さ行)



◾️「西鶴一代女/The Story Of Oharu」(1952年・日本)


監督=溝口健二

主演=田中絹代 山根寿子 三船敏郎 宇野重吉


溝口健二監督作は、「雨月物語」しか観たことがなかった。そこで国際的にも評価されている本作に挑んでみた。井原西鶴の原作は1686年作。ついていけるか不安だったのだが、波乱万丈の物語に引き込まれずにはいられなかった。よい物語は語り継がれるものなのだ。


なにより映像が雄弁。オープニングから歩く女性をカメラは追うのだが、その様子と通り過ぎる人々の様子だけで、説明がなくとも状況を把握させる。昔の日本映画では、スムーズな移動撮影は今程多くないから、なおさらだ。さらにクローズアップが少ないのだ。この映画はヒロインが次々と過酷な運命に翻弄される物語。なのにヒロインの口惜しい感情や途方に暮れる様子を表情をアップで撮ることで表現しない。


例えば、大名の妾として世継ぎを生んだ後、突然に暇を出される残酷な仕打ちの場面。実家に戻ったヒロインを遠くから捉えるだけで、両親の狼狽ぶりだけで全てを語り尽くしている。田中絹代の表情を正面から撮っているのは、散々な目にあった後のクライマックスくらい。成長した息子が生みの母を呼び寄せると聞いて屋敷に上がったにもかかわらず、浴びせかけられるのは冷たく心ない言葉の数々。それを黙って受け流すかのような冷めた表情は、実に切ない。


ヒロインをとりまく男たちの身勝手、理不尽、江戸時代の女性の扱われ方に憤りと悲しい気持ちが湧き上がる。次にどうなる、お春は幸せになれるのか、と先が気になって仕方ない。黒澤明のアクション時代劇でもないのに、140分超の日本映画クラシックに引き込まれるとは思っていなかった。いや、不勉強な僕がまだまだそんな日本映画の良作に巡り会っていないだけなんだろう。


あと、偽成金が金をばらまく場面で、「千と千尋の神隠し」を思い出した。


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姿三四郎

2020-02-04 | 映画(さ行)



◾️「姿三四郎」(1943年・日本)

監督=黒澤明
主演=藤田進 大河内傳次郎 轟夕起子 月形龍之介 志村喬

「姿三四郎」は今回初めて観た。レンタルしたDVDに収録されていたのは、戦時中に焼失した部分を字幕で繋いだ79分のヴァージョン(1952年再上映版)。こんなに面白い映画だったのか。柔術流派の争いは、僕ら世代が慣れ親しんでいるカンフー映画みたいだし、老練の名人との対決、そしてクライマックスの荒野の決闘と見せ場が続く。初公開は戦時中だけに、表現に制約も多かっただろうが、主人公の成長と活躍は今観ても引き込まれる。

師匠宅の池で、月の光の下で美しく咲く蓮の花を見て、強くあることの意味を悟る場面の美しさが印象的。ジョージ・ルーカスが黒澤明ファンだったため、「スターウォーズ」は影響を受けているのは有名な話。ルークの衣装が柔道着ぽいのは「姿三四郎」へのオマージュかもしれない。また、師匠の住まいの前に池や沼があるのも、ヨーダと会う惑星ダゴバとの共通点。これは深読みしすぎかw

黒澤明監督作でアクションが多い傾向のものを嫌う人もいる。人それぞれに好みがあるのだから、言わせとけばいいこと。黒澤作品のアクション場面の見せ方の巧さや工夫は、他のシリアスな作品でも活きてると思う。それに世間でちゃんと評価されて、映画界には多くのフォロアーがいるんだから。暗ーい「どん底」よりはサスペンスの「天国と地獄」が好きだし、徹底した娯楽作の「隠し砦の三悪人」なんてめちゃくちゃ好きだ。それでいいじゃないか。



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ジョジョ・ラビット

2020-02-01 | 映画(さ行)



◾️「ジョジョ・ラビット/Jojo Rabit」(2019年・アメリカ=ドイツ)

監督=タイカ・ワイティティ
主演=ローマン・グリフィン・デイビス タイカ・ワイティティ スカーレット・ヨハンソン トーマサイン・マッケンジー サム・ロックウェル

おっさんの戯言だと思って読んでくだされ。世間は高評価だけれど敢えて言わせていただければ、どんなにファンタジックな描写をしても戦争はあくまでも戦争なんだ。過酷な現実をほんわかしたもので包んで受け入れやすくしたところで、どうしても違和感が残るのだ。こんなんじゃない。

クライマックスの市街戦の場面、サム・ロックウェルの演技も、友人ヨーキー君との再会も泣かせどころで素敵な場面だ。しかし、「ヒトラー 最期の12日間」で描かれた同じ市街戦の悲惨さ、おびただしい死体と瓦礫、握手を求めたら血塗れの手が差し出される場面が強烈に僕の心に残っている。こんなんじゃない。
「外は危険なの?」「とてもね」
前との対比があっていい会話だ。でもドアの外は英米軍が来たからって、こんな落ち着きを取り戻してるのか。今年観たばかりの「モーガン夫人の秘密」じゃ、とてつもなく悲惨だったじゃないか。こんなんじゃないよ。

ユダヤ人を匿っているのか疑われる場面も引き込まれる。すごいよ。ワイティティ監督が上手いの認めるよ。でも、「さよなら子供たち」で描かれたユダヤ人だとバレるかどうかの緊張、その想像を超える切なさと怖さを知った今となっては、この映画のミュージカルのような楽しいラストを気持ちよく受け入れきれない自分がいる。戦争を扱っている映画観てるのに、僕はデビッド・ボウイで足を踏み鳴らしてていいのかな。こんなふうに考えてしまう僕には、ずっと敬遠している「ライフ・イズ・ビューティフル」もきっと向かないのでは。

「ジョジョ・ラビット」は、10歳の少年の成長物語だ。だから彼をとりまく戦時下の過酷さを過剰に描く必要はないとは思う。ここだけに注視すれば、「ジョジョ・ラビット」は、この上なく素敵な映画だ。ヒトラーユーゲントの合宿で心身共に傷ついた主人公。ナチスの流布する思想を疑うことなく信じる彼。彼を見守る母親スカーレット・ヨハンソンの強さとカッコよさが心に残る。愛の力を説き、恋する気持ちを「お腹の中に蝶がいる」と表現する。でも子供と政治の話はしたくない。「ディナーは中立。黙って食べなさい」って、素敵な台詞だ。そしてエルサとの関わりで次第に現実に気づいていく主人公の変化。

友人ヨーキー君の言葉ひとつひとつが重みがある。合宿で「ユダヤ人も僕らと同じ」と言い、映画のラストにはヒトラーの真実をジョジョに伝え、「彼女がユダヤ人だって大した問題じゃない」と言い放つ。こいつ、カッコいいやん。そんな彼が戦争が終わって街が解放されて口にするひと言に泣きそうになった。
「ハグされたい」
これこそ過酷な戦争に駆り出された少年の本音だ。こんなんじゃないと繰り返し述べてきたけど、この少年のひと言こそが戦争の過酷さを見事に言い表している。
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