Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

ヤマトよ永遠にREBEL3199第二章赤日の出撃

2024-12-03 | 映画(や行)


◼️「ヤマトよ永遠にREBEL3199第二章赤日の出撃」(2024年・日本)

監督=ヤマトナオミチ
声の出演=小野大輔 桑島法子 大塚芳忠 古川慎

「ヤマトよ永遠に」リメイク第二章。第一章が歯切れの悪い終わり方だったので、今度こそ新生ヤマトが出撃する勇姿が観られる!と期待して劇場へ。デザリアム艦との戦闘シーンは、期待を超えたスピードと迫力で満足した。劇場で観られたことに感謝。

一方、第二章の要はデザリアムが地球に来訪する表向きの理由と真の狙いを明らかにすること。それだけに説明が多い章になっている。ヤマト艦内で話されている内容と、アルフォン少尉が雪に語る内容、さらにデザリアムのスカルダートが地球人に語りかける内容。それぞれの言い分があるので、今後の展開を考えると重要な章だとも言える。「新たなる旅立ち」後編のラストに出てきたアンドロメダ艦の残害の謎も説明される。かなり盛りだくさんなので、説明が多いことを鑑賞の負担に感じてしまう方もあろうかと思う。

オールドファンにとって胸アツなのは、サーシャの登場。しかもボイスキャストがオリジナルの潘恵子から娘潘めぐみに引き継がれること。本作でのサーシャはまだ幼いが、第三章でいよいよ成長した姿で現れる。どんな「おじさまっ♪」が聴けるのだろうw

雪と離ればなれになってしまった古代進が心ここに在らずで、山南司令にヤマトを降りるように言い渡される始末。土門君からも厳しい言葉を浴びせられ、島の声かけにも力ない返事しか返せない。それだけに幽閉状態にされた雪が気丈にアルフォンに立ち向かっている姿が際立っている。うー、この先のドロドロ展開がオリジナル通りならつらいよなぁ。古代!しっかりしろーっ!😖

オリジナルにはない新設定があれこれ詰め込まれているので、4月公開の第三章が楽しみ。地球に残った面々がどう抵抗していくのか。ヤマトに立ちはだかる新たな苦難は。予告編に出てきたあの赤い艦は…🤩

アナライザーのグッズが出ないかとずーっと思っていたので、今回キーホルダーが登場して嬉しい!箱開けたら白でした。どうせなら赤がよかったなぁー😗





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良いおっぱい悪いおっぱい

2024-10-14 | 映画(や行)


◼️「良いおっぱい悪いおっぱい」(1990年・日本)

監督=本田昌弘
主演=嗟山ゆり 中村ゆうじ

初めての出産を控えた夫婦を対象にした保健所の催しに参加したことがある。父親母親教室めいたものだ。
👩🏻‍🦱「妊婦がいかに重たいものを身につけているのか体験してみましょう!はい、じゃあいちばん前のあなた!」
😳「僕ですか?」
👩🏻‍🦱「はい、これをつけてみてくださいね」
有無を言わさず保健所の方は、僕の身体に砂鉄入りのサポーターみたいなものを巻きつけ始めた。
😓何これ、肉じゅばん着た相撲コントみたいじゃん。おっ、重っ…重っ…おっもーっっっ!!!
👩🏻‍🦱「一度しゃがんでみてください」
ただでさえ音がしやすい僕の脚の関節が思いっきり音を立てた。
バキッ🦴
後ろにいた夫婦の男性が声をあげた。
🙀「そ、そんなにっ!」
場を盛り上げてしまった私😓

その経験あってか、僕はそれなりに育児するお父ちゃんでした。はい。

本題。映画「良いおっぱい悪いおっぱい」は、詩人伊藤比呂美さんの子育て日記が原作。ジャーナリストの妻と大学講師の夫が初めての妊娠、出産、育児で経験を積んでいくストーリー。思い悩んだり、喜んだりする日常をほのぼのと描いたハートウォームな作品である。

母となった妻が授乳するのを見ながら、大切なものを失ったような微妙な表情をする夫が笑える。でも同じ気持ちだったのかもw。

妻が仕事に復帰して、育児が夫の仕事に偏っていく後半からが、中村ゆうじのコミカルな持ち味が発揮されて好感。四苦八苦しながら歪んでいた表情が、子供が泣き止んでニタッとほころぶ。下手な台詞がなくても、その表情がすべてを物語る。それは自信につながっているのだ。そして苦労は子供の笑顔で上書きされる。




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欲望

2024-08-19 | 映画(や行)


◼️「欲望」(2005年・日本)

監督=篠原哲雄
主演=板谷由夏 村上淳 高岡早紀 利重剛

かつて同級生だった3人の男女。一人は裕福な夫とのセックスレスに悩み、一人は不倫とされる男女関係にどっぷりの女。そして一人は少年時代の事故が原因で女性と交わることができなくなった男。男の欲望を受け止めてあげたい女の切なさと、抱え込んでいる欲望を吐き出せない男の苦しみが、この映画のクライマックス。

地上波の深夜枠で放送されたもので観たせいか、全体的に暗い映像が残念。ところどころ絵になる場面が心に残るだけになおさら。ラスト近くで、並んで海を見つめる裸の二人を背中から撮る場面が印象深い。

濡れ場は確かにたくさん出てくるのだが、官能的と言うよりも、生々しくて、時に痛々しい。不倫相手の大森南朋が板谷由夏に迫る場面のギラギラした剥き出しの欲望。悩む村上淳に「欲望があるなら私を使って」と抱きしめる板谷由夏。そしてもの言わぬ突然の辛い結末が、物語をいっそう切なくさせる。エロを目的で観ても、この映画には甘美な味わいは皆無。むしろやり場のない気持ちが残るのかも。



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ヤマトよ永遠にREBEL3199 第1章黒の侵略

2024-08-02 | 映画(や行)


◾️「ヤマトよ永遠にREBEL3199 第1章黒の侵略」(2024年・日本)

監督=ヤマトタケシ
声の出演=小野大輔 桑島法子 大塚芳忠 鈴村健一

「ヤマトよ永遠に」のオリジナルが公開された頃、僕は初期のヤマトに思い入れが深い中学生だった。「永遠に」での人物設定に納得できず、続編を連発する製作陣をよく思っていなかったのだ。当時は完全にスルーしていたのだが、大人になってようやく「永遠に」を観た。メロドラマのような愛憎劇とクライマックスの艦隊戦に感動😭。特にサーシャ(潘恵子)の「おじさまっ♪」にキュンキュンきてしまった🥹。大人になったからこそわかることもあるw

さて。リメイク「ヤマト」も遂に「永遠に」までたどり着いた。全7章で公開されるとのことだが、オリジナルにどんなアレンジが加えられているのか楽しみ。「3199」が意味するのは最初の「2199」から1000年後?前作のラストに登場した朽ち果てたアンドロメダ艦は何?そして古代と雪の運命は?そしてサーシャのCVはいったい誰が担当?どんな「おじさまの心には雪さんがいるのね(泣)」が聞けるのか?w

ヤマトシリーズを愛してやまない友達と今回も公開最初の週末に参戦。冒頭からいきなり不穏な空気が漂っている。地球に迫る新たな危機。しかし軍上層部や政府関係者は襲来するのを知っていたかのような態度を示す。地球現れた巨大な黒い物体、ウェルズの「宇宙戦争」を思わせる脚長の巨大メカ。街が破壊される中、政府からは「敵ではありません」というメッセージが流され続ける。一体彼らは何者なのか?そんな中でヤマトの元乗組員たちに集結を促す知らせが届く。

雪が地球に取り残される場面は、オリジナル同様に悲壮感でいっぱい。二人はどうなる!?

それにしても、今回の第1章は冒頭20分くらいが森雪を語り部とした過去作のダイジェストになっている。雪の目線でヤマトのこれまでの航海、そして古代とのこれまでを語ること、さらに本篇最初にプロポーズの練習をする古代を示すことで二人が結ばれることを強く望むように、映画は僕ら観客をリードしていく。

しかし、振り返りまで含む70分の上映時間では、ほんとにプロローグでしかない。せめてヤマトが新たな敵に向けて発進するところまでは…と思わずにはいられなかった。だが「永遠に」は基本メロドラマだと思えば、愛する二人が引き裂かれるところまでで観客を焦らすのは効果的ではあるのかも。

次は11月か…長いなぁ。アルフォン少尉はどんなキャラクターになっているのだろう。ともかく第2章を待つ。





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友情ある説得

2024-06-14 | 映画(や行)


◾️「友情ある説得/Friendly Persuasion」(1956年・アメリカ)

監督=ウィリアム・ワイラー
主演=ゲイリー・クーパー ドロシー・マクガイア アンソニー・パーキンス マージョリー・メイン

本作は、この年のアカデミー賞にノミネートされながら受賞は逃している。他のノミネート作は、「八十日間世界一周」や「十戒」「王様と私」などいかにもスクリーン映えしそうで、非アメリカを舞台とする派手めの作品が目立つ。そんな中で宗教的信条と戦争を描いたクエーカー教徒の人間ドラマは、地味に感じられたのかもしれない。一方で、本作はこの年のカンヌ映画祭パルムドールを受賞している。アメリカ史を振り返り、信条と現実に葛藤するドラマがヨーロッパの好みに合ったのかも。

平和主義で争いを許さず、禁欲的なクエーカー教徒。特にアーミッシュと呼ばれる少数民族で信仰されている宗派である。僕ら世代の映画ファンなら、ハリソン・フォード主演の「刑事ジョン・ブック 目撃者」でアーミッシュを初めて知った方も多いと思う。本作ではクエーカーの教えが他のキリスト教とどう違うのかが丁寧に描かれる。教会での集まりが対比される編集で、オルガンで讃美歌を歌う様子と、静まり返ったクエーカーの集まり。

厳格に教えを守り牧師でもある妻エリザと負けず嫌いで進歩的な夫ジェスも、信じる根本は同じながらも対比される。村の祭りに出かけることや、音楽への興味関心など意見の相違は明らかだ。特に教会に行く道中で馬車の競争をけしかけられる場面は、微笑ましくも、ジェスのキャラクターがにじんでくる名場面。妻には競い合わない馬と交換すると言っておきながら、抜かれるのが嫌いな足の速い馬と交換するエピソードが好き。ゲイリー・クーパーがしてやったり!とニンマリするのが楽しい。「真昼の決闘」「誰が為に鐘は鳴る」の険しい表情が印象深いだけに、このジェス役は人情味があってとても魅力的だ。この数年後にウィリアム・ワイラー監督は、戦車競争シーンで有名な「ベン・ハー」を撮ることを思うと、妙なつながりを感じてしまう。

そんな平和な日々も南北戦争の戦火が迫り、変わっていく。村では銃をとらないクエーカー教徒への反感が高まっていき、長男は従軍したいと言い始める。息子を救いに向かったジェスも、南軍の兵士を前にして葛藤が襲う。「汝殺すなかれ」を戦場で貫く厳しさは、メル・ギブソン監督の「ハクソー・リッジ」ではさらに深刻なビジュアルで描かれているが、本作のゲイリー・クーパーが演ずる心の揺らぎも忘れがたいものになるだろう。

全般的には、牧歌的な冒頭が宗教的な信条をめぐる辛いドラマに変化していく映画。しかし随所に散りばめられたジェスと家族のエピソードは心温まるもの。また、アメリカの歴史をクエーカー教徒の一面から見つめ、少数民族への理解にもつながる作品だ。同じ年の映画が非アメリカに視線が向いていたのとは対照的。今回初めて観て、黄金期のハリウッドだから撮ることができた秀作であることがよくわかった。




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ヨコハマBJブルース

2023-10-09 | 映画(や行)

◼️「ヨコハマBJブルース」(1981年・日本)

監督=工藤栄一
主演=松田優作 辺見マリ 蟹江敬三 田中浩二 内田裕也

大学時代、軽音楽系のサークルに所属して、キーボードを担当していた。鍵盤弾き男子が少なかった時代だったからか、僕は先輩方のセッションに呼ばれることが多く、いろんな経験させてもらった。
😼「柳ジョージ好きだったよな」
🙄「あ、はい。」
😼「「時の流れに」演るから手伝え。カセット渡しとくから」
😀「あの曲いいっすよね。コピーしときまーす。緊張するな。」
😼「2曲目に入ってるやつも演るから。準備しとけな。」
2曲目は松田優作。YOKOHAMA HONKY TONK BLUESだった。

今思うと、どちらも大学生にはなかなか背伸びした選曲だと思う。けれど、あの頃3つ4つ歳上の先輩は、すっごく大人に見えたから、自分が中坊だった頃の大人の音楽を演奏するというだけでも妙にカッコよく見えたものだ。そこにまだ10代だった自分も加わるなんてさ。生意気だ。

YOKOHAMA HONKY TONK BLUESを劇中、松田優作が歌う映画があると後に知った。そりゃカッコいいに決まってるだろ。あれからウン十年。やっと観ることができた。

ブルースシンガーのBJは歌手だけじゃ食べていけないから、探偵の真似事めいた仕事をしている。行方不明の息子を探す依頼を受け、闇社会の"ファミリー"のボスに男娼として囲われていると知る。親友の刑事と会っている最中に刑事は狙撃される。刑事の妻はBJの元カノ。彼とコンビを組んでいた刑事から殺人の疑いをかけられたBJは、暴行混じりの取調べを受ける。やがて事態は麻薬がらみの事件に発展。BJは窮地に立たされる。

けっこう入り組んだ話なのだが、説明になりそうな台詞もない。無言の映像で結末を示す。しかしそれが不親切とは全く思えない。それは絵になるショットの連続と、全編に漂う気怠いムードが実に魅力的だから。クリエイションが演奏する音楽にかすれた優作のボーカル。友人刑事は内田裕也、店のカウンターで渋い顔してる宇崎竜童、ボスの用心棒安岡力也、殺し屋の蟹江敬三、紙を切らしたトイレで絶叫するボス財津一郎、眼鏡屋の殿山泰司まで印象的なキャラクターたち。男娼少年とBJの心の交流も心に残る。

あの曲が流れる場面。

C/E7/Am/C7
F/F♯dim/C/A/D7/G

指がコード進行覚えてた。
これを演ってた若造って、やっぱり生意気だよなぁ😅




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奴らを高く吊るせ!

2023-08-23 | 映画(や行)


◾️「奴らを高く吊るせ!/Hang'em High」(1968年・アメリカ)


監督=テッド・ポスト

主演=クリント・イーストウッド インガー・スティーブンス エド・ベグリー ジェームズ・マッカーサー


マカロニウエスタンで有名になったイーストウッドが、アメリカに戻って撮ったウエスタン。ハリウッド西部劇というと勧善懲悪が基本の娯楽作のイメージが強い。そんな中で注目すべきは、「奴らを高く吊るせ!」が正義というものの脆さを描いている点。それは西部劇の世界で元来最も揺らいではいけないもの。


1880年代のアメリカ、オクラホマ。牛泥棒の濡れ衣を着せられて、縛り首の私刑(リンチ)に遭ったジェド。助けられた彼は判事フェントンに保安官として手伝わないかと提案される。広大な州の犯罪を裁くのに、たったひとつの裁判所とひとりの判事しかいない。合法的な復讐になるとジェドは保安官バッヂを手にする。彼を枝から吊るしたグループを一人一人捕らえていく。しかし犯人の改心など受け付けず、事実だけを理由に法で裁くことに、人情派のジェドは疑問を感じずにはいられなかった。一方、ジェドを吊るした仲間たちは彼を襲撃することを企てる。

死刑判決を受けた犯人たちが町の広場で公開処刑される場面。まるで芝居でも見物するかのように群がる人々。その傍らでは酒が売られ、人の死が見世物になっている。見ていて辛い場面だ。事情や懺悔の言葉も聞かずに吊すだけなら、法の掲げる正義って一体何なのか。そして映画のラストに、判事とジェドはお互いの考えと思いをぶつけ合う。


派手な銃撃戦でスカッとさせる映画ではない。音楽や映像のつくりは、イーストウッドの出世作であるマカロニウエスタンを思わせるが、訴えるものは全く違う。法による秩序の下で、復讐という自力救済が禁じられる世の中になっていく時代を描きながら、正義を貫くことの難しさ、人それぞれの正義について考えさせられる作品。当時の評価は低かったかもしれないが、後のイーストウッド監督作品にも通ずるテーマだけに、今観るとその片鱗を感じることができる。イーストウッドが設立したマルパソプロダクションの第1回作品。






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夜明け告げるルーのうた

2023-06-11 | 映画(や行)

◾️「夜明け告げるルーのうた」(2017年・日本)

監督=湯浅政明
声の出演=谷花音 下田翔大 篠原信一 柄本明

人魚と人間の心の交流の物語とくれば「崖の上のポニョ」がどうしても浮かぶだけに、冒頭からしばらくは「スキ!」の響きがどうしてもチラつく。しかしそれは束の間。すぐに世代を超えた行き違いが理解へと結びつく物語だと気づくことだろう。音楽で人魚のルーと通じ合った主人公カイとその友人遊歩と国夫を発端に、人魚に大事な人を喰われたと主張する老人たち、主人公カイと父親の関係、町をを出て行ったけど戻ってきた人たちの思い、様々なミスマッチが描かれていく。さらなる誤解と人間のエゴがルーや人魚たちを窮地に追い込んでいくクライマックス。物語の上だけでなく、こっち側の僕らの身につまされるようなテーマが幾重にも重なっていく。優しいキャラクターの造形、幻想的な場面では縁どりをなくして絵本のようになる演出に、ほんわかとした気持ちにされるが、物語から滲み出るのは結構深くて重いテーマでもある。しかし爽やかな印象で終わりを迎えられるのは、主人公や周囲の人々の成長物語だからだ。

湯浅政明監督作は水の描写に特徴がある、とよく言われる。本作で人魚のルーが水を自在に操る描写は素晴らしく、四角い水の柱となった海水が宙に浮かびハイスピードで動き、主人公や僕らの視点を非日常へと導く。アニメだからできる表現。ジェームズ・キャメロンの「アビス」の水の描写でも、こんなにワクワクさせてくれただろうか。何度も書いているけれど、大量の水が動く時にドラマも動くのは、日本アニメの王道。「ルパン三世 カリオストロの城」「千と千尋の神隠し」「パンダコパンダ雨降りサーカス」「思い出のマーニー」「つり球」、最近なら湯浅監督の「きみと、波にのれたら」もそうだ。でも「夜明け告げるルーのうた」がすごいのは、その物語の大きな動きだけでなく、舞台となる町までもが大きく変わるところだ。水が町に押し寄せる描写のあと、日無町(ひなしちょう)という寂れた港町に日が差すラストへと、大きな舞台装置の変化まで起きる。それがビターだけど爽やかな感動へと導いてくれる。この作品に根強い人気があるとは聞いていたけど、なるほど納得。

世代をつなぐ要素として、親が聴いていた斉藤和義の「歌うたいのバラッド」がカイに歌いつがれる流れが素敵だ。あのコード進行を耳コピーで弾きこなすのか、国夫やるじゃん♪

「ポニョ」が母性で主人公の気持ちを包み込む話なのに対して、「ルー」は背中を押してくれる父性が描かれているのも対照的で面白い。また、音楽を聴くと尾びれが変化して足になるというシンプルな設定もうまい。ポニョは、シン・ゴジラやバルキリーみたいに三段階だったもんな。




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揺れる大地

2023-05-11 | 映画(や行)

◼️「揺れる大地/La terra trema: episodio del mare」(1948年・イタリア)

監督=ルキノ・ビスコンティ
主演=アントニオ・アルチディアコノ ジュゼッペ・アルチディアコノ アントニオ・ミカーレ

40年代から50年代のイタリア映画には、現実主義的な作風のネオリアリズモと呼ばれる作品群がある。「無防備都市」や「自転車泥棒」と並んで代表作の一つとされるのが本作「揺れる大地」である。ロベルト・ロッセリーニも俳優の演技に頼らず、現地の住民を起用することで知られているが、本作のルキノ・ビスコンティも同様の手法で撮った。

貧しい漁民一家が仲買人に搾取される状況から自立への希望を抱く。市場に自ら競りに行くが騒動を起こして逮捕されてしまう。釈放された主人公は、借金をして加工業を始める。しかし…。

ネオリアリズモ作品がハッピーエンドになるはずもない、という予備知識があって観た。それでも、どうしてここまで彼らを追い詰めるのか、と悲しくて仕方なくなる。貧しい生活をドキュメンタリータッチで撮っていて、モノクロの映像生々しい。元々貴族階級のビスコンティ監督だから、ほんとうにその痛みを理解して撮ってるのだろうかと勘繰ってしまった。でも、とことん気持ちが落ち込む話を見せられて、エンドマークを迎える「自転車泥棒」とは違って、ちょっとだけ希望が見えるラストシーン。それでも海に向かっていく姿が心に残った。

日本では1990年初公開。助監督はフランコ・ゼフィレッリとフランチェスコ・ロージ。




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野性の夜に

2022-11-18 | 映画(や行)

◼️「野性の夜に/Les Nuits Fauves」(1992年・フランス)

監督=シリル・コラール
主演=シリル・コラール ロマーヌ・ボーランジェ カルロス・ロペス コリーヌ・ブルー

1990年代、エイズで亡くなった人々の訃報を何度も聞いた。中でも日本に紹介されて間もないタイミングで亡くなってしまったシリル・コラールは印象に残っている。フランスの歌手で、小説や脚本と多彩な才能を発揮し始めたところだった。モーリス・ピアラ監督作品では助監督を務め、本作は監督、主演、脚本を担当し主題歌も歌う。

遺作「野性の夜に」で彼が演じるのはエイズキャリアの青年ジャン。自分自身を投影した主人公が、エイズ感染から迫る死という現実を受け入れて、少しずつ行動を変えていく物語。自分が感染者だと告げずにローラと関係を持ってしまうジャンに、苛立ちを感じずにはいられない。さらに映画後半には男性の恋人も現れて、ローラは精神が不安定になってしまう。申し訳ないが、主人公に身勝手な男という印象が強く残って仕方ない。それでも一人旅立つラストは爽やかな印象。日々に流されて生きているスクリーンのこっち側の僕らも、一日一日を大事にしないといけないという気持ちにさせられる。

映画自体は唐突な印象を受ける編集やコラール自作曲が、ワンマン映画だけにちょっとナルシスティックに感じられる。それも彼の映画に対する真面目な向き合い方や思い入れの強さだと理解できる。

ただ、避妊具も使わずにローラと関係をもつ場面や、愛してるから病気までも受け止めたいと言わんばかりのヒロインの過剰な言動は、決して褒められるものではない。南野陽子主演作「私を抱いて、そしてキスして」みたいに多少説教くさい映画になる恐れはあるが、正しい知識が伝わるような描写は入れるべきだったんじゃないのか。コラール自身が実際にエイズキャリアだったのに。そう思えるのは、コロナ禍の今だからなのかな。

ロマーヌ・ボーランジェが演ずるローラがとにかく痛々しくって。でも僕はどうもフレンチロリータに弱いもので、この作品後の主演作でお気に入りの一人になるのでした。




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