Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

記憶探偵と鍵のかかった少女

2014-10-19 | 映画(か行)

■「記憶探偵と鍵のかかった少女/Mindscape」(2013年・アメリカ)

監督=ホルヘ・ドラド
主演=マーク・ストロング タイッサ・ファーミガ サスキア・リーヴス ブライアン・コックス

※ネタバレあります
 人の記憶に入り込める能力を持った探偵ジョンに、自分の殻に閉じこもった少女アナを救って欲しいと依頼があった。簡単な事件だという上司の言葉とは裏腹に、少女の記憶で知る出来事と周囲の人々の証言は異なることばかり。真相に迫ろうとするジョンは次第に記憶という迷宮に入り込んでいく・・・。意味深なタイトルとゴシックミステリーぽいお話のやや地味な映画と聞いて、予備知識をあまり入れずに観た。うーん。確かに派手な印象はないし、「イノセントガーデン」程のゾクゾクする怖さはない。

 記憶に入り込んだ探偵は、記憶の出来事の中に出てくるのだが、関わることはできない。記憶の主と記憶の中で会話することはできない。記憶に入り込んだ探偵は、他の人物たちと同じくそこにいるように映像に出てくるのだが、決して話しかけない。探偵だけを特撮で違った色彩で見せるような工夫はせず、同じように撮るけど別な次元の人。なるほど、この演出はシンプルだけど面白い。しかも探偵は途中から黒ずくめの男に尾行されているような気になってくる。ラストで明かされるその正体も納得がいく。アイディアだなぁ、と関心。

 記憶は記録される事実とは違う。記憶の主である本人にとって都合のいいように改変されてしまうもの。しかしだ。映画の中で記憶をめぐる物語を観てきた僕らは疑うことを忘れている。例えば「エターナル・サンシャイン」は消されようとする記憶をめぐるラブストーリーだったが、僕らはあの映画で見せられた主人公の記憶は経験した出来事の事実として受け止めていた。「マルコビッチの穴」に出てきたマルコビッチ氏の幼い頃の記憶にしても同じ。日常においても"そう覚えてるんだけどな"ということを僕らはなんとなく信じている。結局のところ、少女アナはジョンよりも一枚上手で、自分に都合のいいように記憶を改変していた。それは記憶探偵を欺く為なのか、彼女の"思いこみ"によるものなのかはわからないまでも、いずれにしても事実とは異なるものだった。そして記憶をコントロールして、探偵とのセッションの要領をつかんだアナは、探偵を利用することをやりとげてしまうのだ。タイッサ・ファーミガ嬢の感情を露わにしないクールな微笑みにジョンも僕らも惑わされてしまう。

 しかしながら、そのストーリーとその見せ方の巧みなのは認めるまでも、観ていてゾクゾクするようなサスペンスはもう一歩踏み込んで欲しいところか。アクの強い少女映画と比べてはなんだが、「イノセントガーデン」のミア・ワシコウスカみたいな怖さ、キャラクターの印象深さでは物足りない。それでも舞台となる建物の醸し出す雰囲気といい、光と影の演出といい観るべきところは多い。

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危険なプロット

2014-10-05 | 映画(か行)

■「危険なプロット/Dans La Maison」(2012年・フランス)

監督=フランソワ・オゾン
主演=ファブリス・ルキーニ クリスティン・スコット・トーマス エルンスト・ウンハウアー エマニュエル・セニエ

 かつて小説家志望だったが今は高校で国語を教えている主人公ジェルマンは、作文もまともに書けない学生たちを相手に退屈な日々を過ごしていた。そんな中、目に止まったのが担任クラスのクロードが書いた作文。それは同級生と家族をどこか見下しているような内容だったが、観察眼と文才にジェルマンは心動かされた。ジェルマンは個人指導をするようになり、「つづく」と記される作文にますますのめり込んでいく。中産階級の家庭を皮肉るようなクロードの作文は、同級生の母親への憧れ、家族への殺意と過激さを増し、ついにはジェルマンに様々な要求をするようになっていく・・・。

 フランソワ・オゾン監督は人間観察が鋭い人だと思っている。例えば、登場人物が多い映画ではキャラクターを見事に描きわけ(「8人の女たち」)、世代の違う二人の女優を対比させる演出をし(「スイミングプール」)、主人公の心理を映像表現で深く読み解き(「まぼろし」)、コメディでは主人公の行動や性格がデフォルメされたかのようで印象に強く残るのだ(「しあわせの雨傘」 「エンジェル」)。「危険なプロット」でのジェルマンとクロードは、重要な場面では常に画面の左右に配置される。相対する構図に置き、時に行動を止めようとし、時に相手を煽る二人の関係を示している。クロードの作文を映像で表現する場面では、現実には友達の家にいないジェルマンが登場し、クロードと家族とのやりとりに意見を述べたりする。クロードが同級生の家庭をのぞき見る作文を、のぞき見る教師。だが僕ら観客もまた、それを興味深くのぞき観ている第三の視線だ。僕らが連続ドラマやアニメシリーズのエンディングで目にする「つづく」の文字は、好奇心と欲望をかき立てる。早く次のDVDを借りなくちゃ、来週が待ち遠しい、そんな気持ち。ジェルマンも僕らもクロードが綴る「つづく」に踊らされていく。実際に文学に造詣が深いファブリス・ルキーニ、眼光の鋭さが印象的な新人エルンスト・ウンハウアーの起用は実に見事だ。

 登場する人物はみな個性的。ジェルマンを批判しながらも、作文に同じように惹かれていく妻ジャンヌを演ずるのは、クリスティン・スコット・トーマス。夫への共感を示しながらも、時に文学や夫の行動を辛辣に批判する。
「ジョン・レノンを殺したマーク・チャップマンだって、「ライ麦畑でつかまえて」を持ってた。文学は何も教えないのよ。」
と小説家志望だった国語教師にあっけらかんと言い放つ。ネクタイにベスト、細身のパンツというマニッシュなファッションも彼女の個性を感じさせてとても印象に残った。同級生の母親役は、ロマン・ポランスキー作品などで活躍するエマニュエル・セニエ。インテリアの仕事をしたいという願望を抱えながらも、夫の仕事の愚痴と家事に追われる満たされない日々。そんな専業主婦を生々しく演じている。

 この映画に登場する人物はみんな満たされていない人だ。クロードが求めていたのは自分を理解してくれる存在。ジェルマンが求めていたのは自分の夢を託せる期待に応えられる存在。それは子供がいなかった故でもある。同級生の父親は仕事で認められたい。数学ができない同級生は親友が欲しい。そして二人の妻も自分自身を夫や世間に認められたい。この映画が巧いのは、それらが単に心情として語られるのではなく、形として示されているディティールへのこだわりだ。売れなかったジェルマンの恋愛小説、ジャンヌのギャラリーに並んだ奇抜で万人受けしそうにないアート作品、インテリア雑誌に挟まれた間取りのメモ書き・・・。そんな満たされない欲求が、クロードを介して複雑に絡み合い、悲劇的な結末へと走り出す。ジェルマンとクロードが並んでベンチに座るラストシーン。すべてを失う悲しい結末なのに、同じ視線を共有している二人の会話からは、理解者を得た幸福感が漂ってくる。とても不思議な余韻が残る映画だ。オゾン監督作品は、ジャンル分けするとヴァラエティに富んでいるように見えるが、どの作品にも僕らをスクリーンから目をそらさせない魅力的なキャラクターがいる。それは監督の人を見る眼あってこそ。

 多くのヨーロッパ映画、特にフランス映画を観るとき、僕は必ず登場人物を介して人間関係を考えさせられているような気持ちになる。でもそれは決して理想的な人物が出てきて"こうあるべき"を説く説教臭い映画ではない。ダメ男もダメ女も、個性が強く考えが偏っていたり、変な性癖を持った人すら出てくる。僕はそれを観て安心しているのかもしれないが(笑)。でも彼ら彼女らがどう考え、どう生きるのかを、映画を通じて考える経験は、実社会で人を観る視点にも少なからず影響を与えるし、きっと人生を深くする。だから映画を観るのは止められないんだ。



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地球防衛未亡人

2014-10-04 | 映画(た行)

■「地球防衛未亡人」(2013年・日本)

監督=河崎実
主演=壇蜜 大野未来 福田佑亮 森次晃嗣

 宇宙怪獣ベムラスによって婚約者を殺された主人公ダンは、彼の仇を討つべく、芸者から防衛軍の隊員へと転身。エースパイロットとして活躍している。そこへ再び怪獣ベムラスが出現。現れたのが中国との国境問題を抱えた島だったことや、使用済み核燃料を食べることから、中国やアメリカの執拗な干渉を受けることになっていく。実際に立ち向かう防衛軍は政治的な思惑から右往左往。ベムラスを攻撃した時に不思議なエクスタシーを感じてしまったダン隊員は、撃墜の失敗と医師からの「変態」宣告に悩んでいたが再びベムラスに挑む。そんな中でダン隊員のその出生の秘密に隠された特殊な能力が明らかになっていく。地球の運命やいかに・・・ってなお話。

 くだらない!でも面白い!。河崎実監督は「ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発」でも政治をおちょくっただけに、今回もベムラスをめぐって揺れ動く政治家たちに痛烈な風刺を込めてやりたい放題。バカバカしいのだけれど、妙に"あるかも"と思わされるところが見事だ。壇蜜を主演に迎えたのは、エロスや話題性はもちろんだけど、地球防衛軍の"ダン隊員"と呼びたいだけのネタのひとつにすぎない?(しかも元祖ダン隊員が隊長役・笑)と思える程に、現代ニッポンを笑い飛ばすテーマがてんこ盛り。壇蜜ファンには、ウェディングドレスから喪服、セーラー服と七変化して様々な表情を見せてくれるのがなんとも楽しい。

 映画のクライマックスにベムラスは使用済み核燃料を食べるが、排泄をしていない・・・と指摘される。それは筒井康隆のショートショートの名作「腸はどこへいった」に出てくる四次元空間とつながる腸捻転(中学時代に"クラインの壺"をこの小説で初めて知ったっけ・懐)が原因。映画のラスト、その排泄されるべきだったものが再び出現するのは・・・あとは観て確かめて。今年公開されたハリウッド版「GODZILLA ゴジラ」にも、核を喰らう怪獣ムートーが登場し、ネバダの使用済み核燃料貯蔵庫で生きていた。なんたる酷似(笑)!しかも排泄物にまで言及しているだけ、「地球防衛未亡人」の方が、怪獣出現のシュミレーションとしては悪ノリだけど現実的?(爆)。なにはともあれ、この映画を気に入るかどうかは、映画の"ノリ"にどこまで自分もノレるかだ。おバカ映画だからこそ、こういうピリリと風刺が利いた表現で時代を切り取っておくことができている訳でもある。作り手同様に観る僕らも楽しむが勝ちさ。

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