■「記憶探偵と鍵のかかった少女/Mindscape」(2013年・アメリカ)
監督=ホルヘ・ドラド
主演=マーク・ストロング タイッサ・ファーミガ サスキア・リーヴス ブライアン・コックス
※ネタバレあります
人の記憶に入り込める能力を持った探偵ジョンに、自分の殻に閉じこもった少女アナを救って欲しいと依頼があった。簡単な事件だという上司の言葉とは裏腹に、少女の記憶で知る出来事と周囲の人々の証言は異なることばかり。真相に迫ろうとするジョンは次第に記憶という迷宮に入り込んでいく・・・。意味深なタイトルとゴシックミステリーぽいお話のやや地味な映画と聞いて、予備知識をあまり入れずに観た。うーん。確かに派手な印象はないし、「イノセントガーデン」程のゾクゾクする怖さはない。
記憶に入り込んだ探偵は、記憶の出来事の中に出てくるのだが、関わることはできない。記憶の主と記憶の中で会話することはできない。記憶に入り込んだ探偵は、他の人物たちと同じくそこにいるように映像に出てくるのだが、決して話しかけない。探偵だけを特撮で違った色彩で見せるような工夫はせず、同じように撮るけど別な次元の人。なるほど、この演出はシンプルだけど面白い。しかも探偵は途中から黒ずくめの男に尾行されているような気になってくる。ラストで明かされるその正体も納得がいく。アイディアだなぁ、と関心。
記憶は記録される事実とは違う。記憶の主である本人にとって都合のいいように改変されてしまうもの。しかしだ。映画の中で記憶をめぐる物語を観てきた僕らは疑うことを忘れている。例えば「エターナル・サンシャイン」は消されようとする記憶をめぐるラブストーリーだったが、僕らはあの映画で見せられた主人公の記憶は経験した出来事の事実として受け止めていた。「マルコビッチの穴」に出てきたマルコビッチ氏の幼い頃の記憶にしても同じ。日常においても"そう覚えてるんだけどな"ということを僕らはなんとなく信じている。結局のところ、少女アナはジョンよりも一枚上手で、自分に都合のいいように記憶を改変していた。それは記憶探偵を欺く為なのか、彼女の"思いこみ"によるものなのかはわからないまでも、いずれにしても事実とは異なるものだった。そして記憶をコントロールして、探偵とのセッションの要領をつかんだアナは、探偵を利用することをやりとげてしまうのだ。タイッサ・ファーミガ嬢の感情を露わにしないクールな微笑みにジョンも僕らも惑わされてしまう。
しかしながら、そのストーリーとその見せ方の巧みなのは認めるまでも、観ていてゾクゾクするようなサスペンスはもう一歩踏み込んで欲しいところか。アクの強い少女映画と比べてはなんだが、「イノセントガーデン」のミア・ワシコウスカみたいな怖さ、キャラクターの印象深さでは物足りない。それでも舞台となる建物の醸し出す雰囲気といい、光と影の演出といい観るべきところは多い。