Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

霧の旗

2024-11-24 | 映画(ま行)


▪️「霧の旗」(1965年・日本)

監督=山田洋次
主演=倍賞千恵子 滝沢修 露口茂 新珠三千代

清張の「霧の旗」は幾度も映像化されているが、山口百恵主演の77年版しか観たことがなかった。以前から興味があった山田洋次監督×橋本忍脚本による65年版。北九州市立中央図書館で催される松本清張映画会で上映されると聞いて、参加してきた。古い日本映画は台詞が聞き取れずに悩まされることが多いし、今回は図書館の多目的ホールが会場だから聞き取れる音響なのかを心配していた。だが参加者のマナーと集中力が優れているのか、上映中は物音ひとつせず。没頭して観ることができた。感謝。

無実の罪で死刑を宣告された兄を救おうと上京した妹霧子は、有名な大塚弁護士に助けを求める。しかし高額な弁護料を支払えないからと依頼を拒否されてしまう。兄は獄中で病死。その報を聞いた大塚弁護士は、個人的に事件を調べ始める。その頃、再び上京して夜の街で働き始める霧子。彼女の復讐が始まる。

理不尽な状況に追い詰められた人を描く橋本忍と、そうした状況におかれた人間のドロドロした感情や行動を表現し続ける松本清張。その相性の良さが発揮された映画だと確信。

兄に無実の罪を着せたのは警察の誤った捜査のせいで、大塚弁護士に罪があるわけではない。言ってしまえば見当違いの逆恨み。だが社会的な地位や富ある者と経済的社会的弱者の優劣がひっくり返される展開は、強烈な結末を突きつける。何もそこまで…と思ってしまうけれど、これは憤りが行動の原動力になった行末。そこに許す気持ちやあきらめが入り込む余地はなかった。

倍賞千恵子の熱演がとにかく光る。ラストシーンのなんとも言えない表情が心に残っている。成し遂げた復讐、彼女の心に何が残ったのか。そこに至る気持ちは海に投げ捨てたもののように、沈んでいってくれるのだろうか。

ストーリーの面白さはもちろんなのだが、演出も凝っている。大塚弁護士に断られた後、東京の街を歩くヒロインが映される場面では、絶え間なく行き交う車が映されるのに、画面から聞こえる音は霧子の足音だけ。台詞や役者の表情に頼らずに、ヒロインが置かれた孤独と 絶望感、願いが届かない寂しさが無言で示される。

そこで思い出したのは、先日観た橋本忍監督の「幻の湖」に出てきた、東京の街をヒロインが一人歩くシーン。愛犬を殺した仇である音楽家を尋ねて東京に出てきた主人公が、門前払いされて苛立つ姿が描かれる。「東京中がアイツの味方をしている」と彼女の心情を表すひと言が添えられる。橋本忍の頭に「霧の旗」のあのシーンが念頭にあったのかは知らないが、共通点のようで面白い。

人情映画のイメージがある山田洋次監督。本作は唯一のサスペンス映画でもある。ヒロイン霧子と兄がどれだけ仲良しでお互いを思っていた兄妹なのかを語る近所のおばちゃんが出てくるが、演じているのが「男はつらいよ」のおばちゃん三崎千恵子。こういうキャスティングに、勝手につながりを感じる映画ファンいるだろな。おかげでその場面から後、倍賞千恵子が「兄は…」と口にするたびに、違うお兄ちゃんの顔が一瞬浮かんだりしてw

ともかく、清張作品の面白さを堪能できる秀作。ほかの映像化作品と比べるのも楽しいかも。




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幻の湖

2024-10-22 | 映画(ま行)


◼️「幻の湖」(1982年・日本)

監督=橋本忍
主演=南條玲子 長谷川初範 隆大介 高橋恵子

春日太一氏が書いた橋本忍評伝「鬼の筆」を読んでいるのだが、橋本忍の失敗作として紹介されているのが噂に聞く「幻の湖」。高校時代に叔父からもらった湯布院映画祭のパンフにもデカデカと広告が載っていて、東宝創立50周年記念作との記載が。ところが上映が早々に打ち切られたとの黒歴史がある作品だ。

😸あぁ、琵琶湖を犬と走る女性の話ね。
😼時代劇とソープ嬢の話だね。
😻お市の方と淀君…むふふ♡
😺途中でスパイが出てくるよ。
😾女がわめく理由がわからなくて。
😹突然SFになって爆笑だよww
😿難解なんだよ(もう聞かないで)

いろんな人からこの映画の話を聞くたびに与えられる断片的なワードがまったくつながらなかった🤔。
動物がらみの感動作なの?でもエロくて時代劇でSFで難解?

…わからん😣どんな映画なんだ。

2024年9月に宅配レンタルDVDで初鑑賞。全貌を知ることになる。

…はぁー💧こんなんだったのか。
いい映画か?と問われたら笑うしかないんだけど、面白くないか?と問われたら面白い!🤣

これまで聞いていた断片的なワードが、上映時間が進むにつれて次々につながっていく。なんて変な映画だ。ジグソーパズルが出来上がっていくみたいにワクワク。これは変な快感。長尺が気にならなかった。しかしこれは予備知識ゼロで観たのではなくて、雑多な情報があったせい。これから本編を観る方々の楽しみを奪いたくないからその詳細は語らずにおくけれど、「お市でございます」と名乗る高級特殊浴場のシーンから、宇宙空間で迎えるラストまで次の展開が予想を超えてくる。

でも全編ワクワクしっぱなしだったかと言えばさにあらず。長尺の一因は延々とヒロインが走る場面が続くせいだ。一つは愛犬シロと琵琶湖を走る場面。四季折々の風景が美しく映し出される。これは「砂の器」の親子が各地を放浪するシーンを思わせる。長期ロケが可能でないと撮影できない映像だけに、並々ならぬ製作者の意気込みが感じられた。「砂の器」のあの場面がウケたから、またやっただけなんだろうけど。問題はシロを殺した仇を走って追い詰める場面だ。これが本編で二度登場し、おまけに長い。

僕はマラソン中継を見るのが苦手で、ただ走ってる姿を2時間見続けるのを楽しいとは思えなかった。だが映画「風が強く吹いている」を観て、走る映像に感情が乗るとこんなに面白いのか!と感激した。走者の気持ちを知って見るって大切だな、そのために増田明美の雑情報混じりの解説も必要なのかも…と妙な納得をしたw。されど。「幻の湖」の走る場面は、確かに感情が溢れんばかりに乗っているのだけど、ただ仇を追いかけているのではなくて、いつの間にか長距離走の勝負になっている"不思議"が加わる。スパートして追い詰めればあいつは疲れてチャンスが…と追う側。包丁持って追いかけられているんだから、誰かに助けを求めればいいのに、走って逃げ切ろうとする追われる側。何やこれ。そして橋の上で追いついた瞬間…

「勝ったわよ!シロ!」
…え、えぇ?😨

そして噂に聞いた場面。
ちゅどーん🚀
👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏
🤣🤣🤣🤣🤣🤣🤣🤣🤣🤣

すげぇ!😱
バラバラだったピースが全部つながった!

南條玲子さん、肝の座った役者だなと思ってたけどこれを観てますますそう思えてきた。さらに様々な助演陣が登場する。風俗嬢に身を窶した女性スパイ、人のいい銀行員、音楽業界の大物、保健所の動きまで知っている室田日出男支配人、淀君の源氏名のかたせ梨乃、湖畔で笛を吹く宇宙船乗組員。スピンオフ作れそうな濃厚キャラだらけw。

橋本忍氏のそもそもの発想は、
「愛犬を殺されたら復讐するよな?するよな?オレならするな…」
から始まっているとのこと。勉強になりました。あーお腹いっぱい。

もし挑まれるのならば、なにがあっても作品を受け止めるお覚悟を。

学生時代に「砂の器」と「愛の陽炎」の二本立てを観ている。恋人に復讐するために丑の刻参りで呪い殺そうとする後者が橋本忍脚本だと最近気づいた。すごい二本立てだったんだな💧





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もしも徳川家康が総理大臣になったら

2024-08-04 | 映画(ま行)


◾️「もしも徳川家康が総理大臣になったら」(2024年・日本)

監督=武内英樹
主演=浜辺美波 赤楚衛二 野村萬斎 竹中直人 Gackt

コロナ禍の真っ最中だった頃、いろいろ不安で仕方なかったよね。有名人が重症化してバタバタ亡くなるし、治った人も後遺症で苦しんでたり、ワクチン接種するのしないので意見分かれちゃったり。感染ったか、出勤するな。治ったら出てこい、でも近寄るんじゃないぞ。会いたい人にも会えない日々、小さな分断があっちにもこっちにも。政府でクラスター起きたらどうすんだとあの頃思っていたけれど、そこを題材にした突飛なお話が本作。武内英樹監督だし、パブリックイメージ通りの歴史上の人物たちでケラケラ笑わせてくれるんだろうと思っていた。

確かに前半はそうだった。相変わらずテレビ育ちのハートをくすぐる仕掛けが随所に。「大江戸捜査網」のテーマ曲流れた瞬間、思わず気持ちが⤴️アガった。
「死して屍拾う者なし」
と思わず映画館の暗闇で口にしてしまった💧。上映中のおしゃべりは❌ブッブーですわ。徳川吉宗は「勝手に暴れん坊にされている」と困っているのが笑える。北条政子の「政子の部屋」、紫式部の大河ドラマ制作会見。
「ちょくちょくやってるやつやーんw」
と小芝風花にCMでからかわれた竹中直人の豊臣秀吉再び🤣。
「心・配・御無用っ!」「ごもっとも!」
大河放送してる頃、真似してたわ、その台詞w。Gackt様の
「者ども出陣じゃー!」
も大河から埼玉解放戦線を経て、もはや鉄板w。信長役、イメージ通りで適任。

武内英樹監督作ってどれも突飛な話。変な状況を側から見ていたはずの人物が巻き込まれて、成長していくのがストーリーの軸になっているように思う。古代ローマ人と遭遇した上戸彩も、埼玉解放の大義を知る二階堂ふみも、銀幕のヒロインに出会う坂口健太郎も。本作のストーリーは荒唐無稽もいいとこ。でもその大騒ぎを通じて、自分の道を見つけ出す浜辺美波は爽やかな感動をくれる。

そして徳川家康総理を演ずる野村萬斎のラストの演説は、現代ニッポンにグサグサ刺さる言葉が散りばめられたお説教でもある。歴史上の偉人に「お前たちを信じる」と未来を託されたのは、僕ら国民。なかなか感動のツボを心得てて、バカやってるようで大真面目な映画です。

さぁ!選挙に行こうぜ、皆の衆。

坂本龍馬官房長官の会見シーン、好き。
「ぜよってなんですか」
「ぜよはぜよぜよ」
🤣🤣




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メグレと若い女の死

2024-07-26 | 映画(ま行)


◾️「メグレと若い女の死/Maigret」(2022年・フランス)

監督=パトリス・ルコント
主演=ジェラール・ドパルデュー ジャド・ラベスト メラニー・ベルニエ

ジョルジュ・シムノンの原作シリーズは読んだことがない。主人公のメグレ警部(本作では警視)がメガネ少年探偵に出てくる警部の元ネタという程度の知識しかなくて(恥)。ジャン・ギャバンがメグレを演じた映画は存在は知っているが観たことはない。そんな僕が「メグレと若い女の死」に挑んでみた。だって、監督がパトリス・ルコントなんだもの。

身元不明の女性の死体が発見される。所持品とは不釣り合いな高級ドレスは、ナイフでメッタ刺しで血に染まっていた。メグレはそのドレスを手がかりに被害者のパリでの生活に迫っていく。夢を追ってパリに出てきた女性たちの生活が浮かび上がってくる。

ジェラール・ドパルデューの演技は終始抑え気味で、彼の他の出演作で見られる暑苦しいまでの存在感も、真相を突きつけるポワロのようなミステリーの派手さは全くない。被害者女性の身辺を探るうちに、メグレ自身が重ねていく心情を、ボソボソした台詞と行動から味わう人間ドラマが映画の主軸になっている。ジャン・ギャバンが演ずるメグレも寡黙なキャラクターだと想像できるが、そのイメージも重なっているのかな。本作は人情話の刑事ものと理解したが、他の作品はどうなんだろ。ギャバン版を観てみたい。

全体を通して貫かれるのは暗くて淡い色彩の映像。もの寂しいムードは、パトリス・ルコントの主要作にも通じるところ。それなりに満足できたけれども、僕が物足りなさを感じているのは"男と女"の話じゃないからなのかも。



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マネー・ピット

2024-07-16 | 映画(ま行)


◾️「マネー・ピット/The Money Pit」(1986年・アメリカ)

監督=リチャード・ベンジャミン
主演=トム・ハンクス シェリー・ロング アレクサンダー・ゴドノフ

この映画が公開されたのは1986年12月。いわゆる正月映画として、「ハワード・ザ・ダック 暗黒魔王の陰謀」と二本立てで上映された。正直なところ、「ハワード・ザ・ダック」のリー・トンプソンがとにかく見たかったのだ。確かに「ハワード」は面白かったのだけど、予想以上に楽しんだのはむしろ「マネーピット」だった。

トム・ハンクス演ずる主人公は若手の弁護士でヴィオラ奏者の彼女がいる。二人は故あって住まいを探すことになり、見た目立派な格安物件を購入。幸せな生活が始まるのかと思ったら、それはとんでもない欠陥住宅だった。マネーピットとは金食い虫。

とにかく家が壊れ続ける。玄関ドアは枠から倒れ、壁に埋められた電線からは火花が走り、バスタブは派手に落下する。もう笑うしかない。

多くの方の感想にもあるけれど、僕ら世代には、子供の頃土曜8時に家族で見ていた「8時だよ!全員集合」のコントを思い出さずにはいられない。セットの家が崩れる派手な仕掛けで、そこで右往左往するコントは単純におかしくて。トム・ハンクスもこの頃はコメディアンだったんだしね。

しかしお話はそれだけではなくて、元カレの指揮者(「ダイ・ハード」のテロリスト一味だったアレクサンダー・ゴドノフ)がからむ三角関係、すれ違いから起こった二人の危機がストーリーに大きく絡んでくる。恋人の関係にヒビが入る中、家もあちこち壊れ始める。階段は崩れ落ち、まるで崖のように2階床にしがみつく。製作総指揮はスピルバーグだけに、「インディ・ジョーンズ魔宮の伝説」のクライマックスみたいないわゆるクリフハンガー描写。それが家の中で起こり、愛の行方がからむ二重のハラハラなのだ。

80年代のハリウッドコメディは、特撮も含めてビジュアルで笑わせようとする作品が多かった。チャップリン育ちのクラシック映画好きの僕は、そうした当時の娯楽作をなんか違うと嫌っていた。そんな中で観たこの「マネーピット」は、アナログな破壊ギャグの応酬と人間模様のおかしさ、さらに恋愛模様が同居する、当時流行りの路線とは違う作品。興行的には確かに振るわなかったと聞くが、当時の僕には心に残る映画だった。シンプルなドタバタが恋しかったんだろうな。






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緑色の髪の少年

2024-06-18 | 映画(ま行)


◾️「緑色の髪の少年/The Boy With Green Hair」(1948年・アメリカ)

監督=ジョセフ・ロージー
主演=ディーン・ストックウェル ロバート・ライアン パット・オブライエン

ミニシアター通いが大好きだった1988年、「RKO映画の全貌」と題した特集上映が催された。「市民ケーン」「キングコング」など有名作や初公開作が並ぶ中、さんざん迷った末「キャットピープル」と「遊星よりの物体X」のホラー二本立てをチョイス。どちらも80年代にリメイクされてたし、今後劇場で観る機会が最もなさそうな気がしたからだ。ラインナップの中で、興味をそそられた作品が「緑色の髪の少年」。

それからウン十年後。配信で観られるじゃーん、いい時代になったねぇ。上映時間短めだし、昨夜の歓送迎会でちょっと疲れたコミュ障気味の僕にはちょーどいい気分転換かもっ。と安易な気持ちで再生ボタン。

冒頭、スキンヘッド少年取り囲んで「名前言ってみ?」「学校どこ?」と問い詰める大人たち。そこに児童専門と名乗る医師が話を聞くぜ、とやって来る。待てよ、この医者ロバート・ライアンじゃん。この役者のニコリとした表情なんて見たことないぞ。そんな渋オジはハンバーガーを少年に与えて、「食ったんだから話さないのは失礼だぞ」とかなんとか脅しめいたことを言う。すると「長い話になるぜ」と、まるでハードボイルド映画みたいな切り口で、ピーター少年はこれまでのことを話し始めた。

88年の僕は、本作を「光る眼」みたいな侵略SF映画だと勝手に想像していた。その後違うとは聞いていたけど、映画前半はクラシック映画らしい善意に満ちたストーリーにほっこり。親戚を転々とした少年が優しいおじいちゃんと暮らし始めて、次第に心のトゲが取れていく様子が描かれる。給仕の仕事をやっているおじいちゃんは、歌って踊れる楽しい人物。時々ミュージカルぽくなる演出。あー、ハリウッドクラシックらしいよな。監督誰だっけ…え?「エヴァの匂い」のジョセフ・ロージーなの?あれ一筋縄でいかない映画だったやん…。

不安は的中。賑やかに歌いながら戦争孤児のために古着を集める活動をしたピーター少年は、唐突に自分も戦争による孤児だと知らされる。両親が戻らない理由が何かを薄々感じてはいたけれど、ショックを受けるピーター。そして一夜が明けると彼の髪は緑色になっていた。

そこから映画は、偏見や差別の眼がどれだけ厳しいのかを、これでもかと見せつける。林で出会った戦災孤児たちと話す場面。ピーターや孤児である僕らは他の子供とは違う。髪の色が違うのもそのせいだと言われる。戦争を憎むピーターはその考えを受け止めて、戦災孤児だと自ら言ってまわるようになる。一方、髪の色が原因で学校に行けなくなり、大人たちからも嫌がられ始める。これまで頼りにしていたおじいちゃんやお医者さんも、納得できることを言えない。ついに大人たちはピーターに髪を切るように迫ってくる。床屋を取り囲み、覗きこむ人の眼、眼、眼。ディスプレイ越しにこの物語を見守っている僕らが、床屋を取り囲む偏見の持ち主なのかを問われているかのようだ。

いろんな意味で怖っ…。第二次大戦後の1948年に戦災孤児の置かれた姿を描くことにも意義があるし、当時まだ珍しいカラー作品で緑色の髪を表現したことにも大きな意義を感じる。RKO映画って挑戦的な作品を生み出していたのだなと改めて思った。



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南太平洋

2024-04-27 | 映画(ま行)


◾️「南太平洋/South Pacific」(1958年・アメリカ)

監督=ジョシュア・ローガン
主演=ミッチー・ゲイナー ロッサノ・ブラッツィ ジョン・カー ファニタ・ホール

うちの親父殿世代には、きっと思い出深い映画なんだろう。8トラック(懐)のカーステレオで、このミュージカル映画の代表曲「魅惑の宵」を聴きながら、映画とロッサノ・ブラッツィについて話していた記憶がある。当時はメロドラマの色男役を多数演じていた人。あーそうだそうだ、僕も「旅情」は観たことある。ベネチアを旅行するアメリカ女性をしつこく口説くイタリア男だった。「南太平洋」では、ポリネシアで農園を営むフランス人の中年寡(やもめ)役。従軍看護士のアメリカ女性に恋をするのだが、どうも暗い過去があるらしい。

ブラッツィの歌は吹替えのようだが、彼をめぐるエピソードは、中年男とヤンキーガールのコテコテメロドラマなので、持ち前の魅力が発揮されているのだろう。彼女を丘の上から見送りながら、
この恋を逃してはならなーいー♪
と歌う野太い低音に、恋する男の執念を感じる。若い頃これを観てたら、多分暑苦しいヤツとしか思えなかっただろう。

映画ではもう一つの恋が描かれる。ポリネシア海域に展開する敵兵力偵察のためにやってきた若い中尉が、バリハイ島に住む現地の娘に恋をするエピソードだ。アメリカ兵たち相手に仕事をする現地の肝っ玉母ちゃんみたいな女性が、彼に向かって高らかに歌うのは、このミュージカルの代表曲「バリハイ」。
バリハイ島があんたを呼んでいるー♪
女性との関わりが欲しい部下の兵士たちと共に島に渡った中尉。美女たちとエキゾチックな祭りを部下が楽しんでいる間に、肝っ玉母ちゃんが中尉と美しい娘を引き合わせる。片言のフランス語でしかコミュニケーションがとれないけれど、二人は確実に恋におちた。イチャイチャする二人を見ながら肝っ玉母ちゃんは言う。
「いい婿になるよ!」
婿探しだったのかっ!🫢

その場面で流れる✋🫱手振りが楽しい楽曲がHappy Talk。あー、知ってる♪このミュージカルナンバーだったのか。

そんな楽曲は確かに素晴らしいのだけれど、ミュージカルシーンになると、画面の色彩が突然変わる。舞台照明を意識しての演出らしいが、テレビの色彩設定がおかしいのかと疑ってしまう。コピーガードが働いて色調が不安定になるVHSの映像を思い出してしまった。てか、そんな現象と一緒にしては、ジョシュア・ローガン監督に失礼ですよねー💧

女性を賛美する楽しい曲There Is Nothin' But A Dameが好き。第二次世界大戦下のポリネシアが舞台なので、字幕で"敵"と訳されているのは"Japanese"。クライマックスは歌唱シーンが控えめになって、危険な任務に就いた中尉とフランス男が話の中心となっていく。このパートに力を注ぐと冒険活劇ぽく仕上がりそうだし、人種偏見もテーマとして含まれるだけに、もっと描きようがあるだろうと古臭く感じる方もあると思う。だがそれも時代。バリハーイ♪のメロディがしばらく頭に残ること必至。





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マーガレットと素敵な何か

2024-02-03 | 映画(ま行)



◾️「マーガレットと素敵な何か/L'age De Raison」(2009年・フランス=ベルギー)

監督=ヤン・サミュエル
主演=ソフィー・マルソー マートン・ソーカス ミシェル・デュショーソワ ショナサン・ザッカイ

ソフィーの笑顔に会いたくなって、未見だった「マーガレットと素敵な何か」をセレクト。ん?監督はヤン・サミュエル。げっ!あの共感ポイントが見つけられなかった長ーいタイトルのおフランス映画の監督やん!大丈夫か?またどよーんとした気分になっちまうんじゃないよな。と思いつつ、再生ボタンを押した。ガーリーでポップなコラージュ満載のタイトルバック。

工業プラントを販売するビッグビジネスに携わっている主人公マーガレット。忙しい日々を送る彼女の元に元公証人の男がやって来る。7歳のマーガレットが40歳の自分に宛てて手紙を送るように依頼したというのだ。大事な商談の時期だが、彼女は過去の自分から届いた手紙に夢中になっていく。彼女は両親の離婚から始まる幸せとは言い難い生い立ちを断ち切るため、本名のマルグリットではなくよりデキる女をイメージできるとしてマーガレットと名乗っていた。誕生日に家具が差し押さえられ、その後父親が家を出て行く回想シーンの強烈な印象。あの長い邦題の映画同様、映像センスはなかなかだ。

7歳の自分に導かれて、様々な再会を果たす。引っ越し前に仲良しだった穴掘り名人の男の子、長年疎遠だった弟。元公証人から聞いたピカソの言葉「自分自身になれ」というひと言から、マーガレットはじわじわと今の自分にまとわりついた縛りをほどき、自分を取り戻していく。

この監督が不思議ちゃんだからなのか、ヒロインが過去の自分からの手紙で揺れ動く感じがどうも掴みにくい。商談がからむパーティに行く途中なのに突然元に公証人の乗る電車をずぶ濡れで追いかけたり、支店長の女性上司に「アンタの上にいってやる」などと言う一方で仕事そっちのけで昔住んだ村に走ったり。それらはみんな過去の自分からの手紙が原因なのに、彼女の葛藤が伝わらない。仕事のパートナーから素敵なプロポーズ(子供につけたい名前リストを見せて求婚ってナイス👍)を受けたのに、彼との関わりが希薄になる。彼がすんなりマーガレットの決断を受け入れてしまうのも納得いかず。筋には必要ないよ、ってことなのかな。

ましてやこんな大掛かりな依頼をやったのなら、本人も少しくらい覚えててもよさそうなものだが、依頼したことすらマーガレットはうろ覚えに見える。人は変わるものだし、それだけ過去を断ち切ったということなのだろうけど、それでもトイレに流そうとするほど手紙にうろたえるものなのかな。

マーガレットが生活の大事な場面に臨む時に、憧れる偉大な女性たちをイメージして自分を奮い立たせるところが好き。エヴァ・ガードナー、マネーネ・ディートリッヒ、サッチャー、マザー・テレサなどなど、先人への敬意を感じる素敵な場面。ソフィーがそんなヒロインを演じてるのが、ファンには嬉しい。「ラ・ブーム2」で「雨に唄えば」のキャラを真似てた少女が、そのまま大人になったみたいでさ。



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マンハッタン殺人ミステリー

2024-01-17 | 映画(ま行)


◾️「マンハッタン殺人ミステリー/Manhattan Murder Mystery」(1993年・アメリカ)

監督=ウディ・アレン
主演=ウディ・アレン ダイアン・キートン アラン・アルダ アンジェリカ・ヒューストン

いゃぁー、面白かったし、何よりも繰り返し観たくなる楽しさ。ちょうどアレン先生がすったもんだがあって、ミア・ファローと破局した頃の作品。ミアが降板したので、かつてのパートナーであるダイアン・キートンが出演。でもね、このキャスティングは成功。

マンションの隣人である女性が死んだ。これを殺人だと疑念をもった妻ダイアン・キートンは、夫ウディの反対を押し切り、友人アラン・アルダの協力で素人探偵を始める。まさにヒッチコックの「裏窓」を彷彿とさせるストーリー。アラン・アルダの横恋慕とウディのジェラシーを絡めながら、物語は事件の核心へと迫っていく。

もし妻役がミア・ファローだったら、同じマンションの住民に疑惑を抱く姿に「ローズマリーの赤ちゃん」を重ねてしまって(笑)、情緒不安定な妻の妄想めいた話になっていたかもしれない。頼りないウディ・アレンの女性版な役柄を数多く演じてきただけに、似たもの夫婦が事件にあたふたしているコメディになっただろう。でも、ファッションや女性の生き方に主張があるダイアン・キートンが妻役だったことで、妻の暴走振りとそれに巻き込まれる夫の役柄が見事に生きている。ダイアン・キートンのファッションも見どころの一つで、「ネクタイは男っぽくなるから…」と二人の代表作「アニー・ホール」を茶化すような台詞も出てくる。二人の会話も自然なかけ合いだし、相変わらずの皮肉満載の台詞がなんとも粋なのだ。死んだはずの女性の死体を再び発見する場面では、「よく死ぬ女だな」とひと言。シリアスな場面なのに大爆笑ww

そして何よりも嬉しいのが、とにかく頼りない夫ウディ・アレンが決死の大活躍をするラスト。この展開、初期の共演作「スリーパー」を思わせる。映画ファンの心をくすぐるディープな仕掛けもある。保険金殺人の話であるクラシック映画「深夜の告白」(大傑作)が挿入されるのは、ストーリー上もなんとも意味深。クライマックスの映画館に追い詰められる場面では、鏡を使ったトリッキーでカッコいい撮影が緊張感を増してくれる。しかも上映されてる映画が同じく鏡を多用した場面が印象的なオーソン・ウェルズの秀作「上海からきた女」ってところがナイス。

サスペンスコメディとしても、マニアックな楽しみ方も両立してる見事な見事な映画。



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マドンナのスーザンを探して

2023-12-07 | 映画(ま行)


◼️「マドンナのスーザンを探して/Desperately Seeking Suzan」(1985年・アメリカ)

監督=スーザン・シーデルマン
主演=ロザンナ・アークエット マドンナ エイダン・クイン マーク・ブラム 

高校3年の頃。「ベストヒットU.S.A.」でBorderlineのPVを見て、マドンナのファンになった。本作はちょうどLike A Virginで大ブレイクする直前の出演作。ダンスフロアの場面とエンドクレジットで流れる主題歌は、大好きだったInto The Groove。この映画を当時観る機会がなくて、今回が初鑑賞である。

夫とのすれ違いが続くロバータは、新聞に個人が出している広告(日本風に言う一行広告ってやつね)が気になっていた。恋する相手に宛てたものもある中で、"必死にスーザンを探している"に目を引かれた。恋の現場を目にできるかも!と広告に書かれた待ち合わせ場所に向かうと、派手なジャケットの女性スーザンがいた。彼女が気になって後を追い始めたロバータは、スーザンが古着屋に売ったジャケットを購入する。スーザンはエジプトの秘宝のイヤリング盗難事件の犯人に関係していて、そのお宝を狙って追っ手が彼女に迫っていた。スーザンのジャケットを着たせいで、人違いされたロバータ。彼女は転倒した時に頭を打ち、記憶を失ってしまう。

お気楽なサスペンスコメディと思っていたら、単純な追いかけっこではなく、話がかなり混みいっている。スーザンに間違われたロバータを、犯人、ロバータを探す夫、スーザンが追いかける。そして、スーザンの恋人の友人デズとのラブコメ展開で、事態はさらに複雑になる。ロザンナ・アークエットがずっとあたふたしてる前半は、どうなることかと冷めた目で見ていたのだが、マドンナ演ずるスーザンがことの次第に気づいてからは、すれ違いに次ぐすれ違いがなかなか面白い。

ピチピチしていた頃のマドンナが、黒い下着姿を見せつけてくれる。デズが住むアパートの壁に、カンフー映画のポスターがでっかく描かれているのが気になる。少林寺ものっぽいけど何の映画だろ?




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